まどか最大のピンチでチャンスなのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。
青森に出張中だった椿直美先生も帰って来て、最強の布陣が復活した。
怪しげな復活の会という団体は、その目的がよくわからない。
銀行強盗の片棒を担いだり、学校を乗っ取ったり。
「彼らの目的は敵対する勢力の撲滅なの」
椿先生が言った。
今、私達は絶賛入浴中。
せこい作者が、受け狙いでいきなり考えた設定なのだ(嘘です 作者)。
椿先生の胸、瑠希弥さんよりは小さいけど、大きい。日本語としておかしいとか言わないでよ。
「まどかさん、今、瑠希弥ちゃんより貧相な胸だと思ったでしょ?」
湯船に浸かりながら、椿先生が私を睨む。とは言っても、そんなに強く睨まれた訳ではない。
「え? そんな事、思ってませんよ」
私も一緒に湯船に浸かりながら嫌な汗を掻く。お風呂なのに……。
「仕方ないわよね。まどかさんは、出羽の遠野泉進先生のお家で、西園寺蘭子さんや、八木麗華さんとも一緒にお風呂に入っているんでしょ? 私のは見劣りするわよね」
椿先生は苦笑いして言う。
「わあ、まどかったら、西園寺先生ともお風呂入ってるの? 羨ましいなあ」
身体を洗っていたさやかがザブンと湯船に飛び込んだ。
途端にお湯が湯船からザーッと溢れ出す。
「いえ、椿先生の胸も大きいですよ」
私は慌てて言った。でも、蘭子お姉さんの方が小さいですとは絶対に言えない。
言ったら、あの裏蘭子さんに呪い殺されそうだから。
「ありがとう、まどかさん」
椿先生はよほど嬉しいのか、ギュウッと抱きしめてくれた。
プニュウッと巨乳が顔に押し当てられる。
十分大きいですよ、先生。その半分でいいから、欲しい。
そうすれば、私の彼の江原耕司君も他の女子に目が行かなくなるはず……。
ああ、想像していて悲しくなってしまった。
お風呂を出て、脱衣所で例の巨乳マッサージを伝授してもらう。
「リンパの流れを良くすれば、必ず大きくなるわよ」
椿先生は熱心に教えてくれた。
先生は、本当に自分の胸が小さいと思っているようだ。
あれで小さかったら、私のは抉れている事になる……。ううう……。
でも、マッサージをしたら、何だか本当に大きくなるような気がして来た。
「それから、寝る時はブラを外してね。その方が効果があるから」
椿先生が言い添えた。しかし、普段から寝る時ブラを外している私はどうすれば……。
「私、形が崩れると思ってずっと着けたまま寝てるんですけど」
さやかがこれ見よがしに胸を持ち上げてみせる。私は目を背けた。
「ブラをしている時間が長いとリンパの流れはもちろん、気の流れも阻害するので、外した方がいいわ、さやかさん」
椿先生が言った。さやかはギクッとした顔になり、
「わかりました、今日から外して寝ます」
「そうね。その方が胸も霊能力もレベルアップするわよ」
椿先生はあの御徒町樹里さんに負けない笑顔で言った。
「そうなんですか」
すかさずお題目を唱えた。さやかの視線が冷たい。
そんな事があった翌日、私はたまたま所属していた委員会が延び延びになり、一人で下校する事になった。
「何かあったらすぐに連絡をちょうだいね」
椿先生はG県警刑事部霊感課(まだあったのかと思うくらい活動していない)の久しぶりの依頼で先に学校を出ていた。
「まどかりん、俺が行くまで行かないでね」
江原ッチからメールがあった。どうしたのよ、オジさん? 何で悶絶してるの?
私は江原ッチが待ちきれなくて、学校を出た。
「あれ?」
学校を出た途端、身体が重くなった。
そうか、学校全体を椿先生の結界が守っていたんだ。
すごいな、椿先生は。
そう思いながら、江原ッチが来る方向へと歩き出した。
「小娘、一人か?」
声がした。周囲を見渡すが、誰もいない。
「誰? 変態オジさん? それとも宮川さん?」
宮川さんとは、G県警鑑識課の最古参のロリコンオジさんだ。
「どちらでもない。お前にとっては、死神かな?」
フーッと空の上から、袈裟姿の長髪の男が降りて来た。
「誰よ、あんた?」
私は後退りしながら尋ねた。すると男はニヤリとして、
「我が名は神田原明徹。復活の会の教祖である」
「何ですって!?」
私は驚きのあまり、目を見開いた。明徹はフワッと地面に降り立ち、
「まずは手始めにお前を我が会の生け贄としよう」
と言うと、数珠を取り出し、
「ナウマクサラバタタギャーテイビヤクサラバボッケイビヤクサラバタタラタセンダマカロシャダケンギャキギャキサラバビギナンウンタラタカンマン !」
明徹は不動金縛りの術を唱えた。私はなす術なく硬直した。
「どうだ、これから殺される感想は? と言っても、何も話せぬか」
明徹はフッと笑って私に近づいて来る。
今更ながら、江原ッチを待ちきれなかった自分のバカさ加減に嫌気が差す。
涙も出せない。このまま殺されてしまうの? 巨乳にもなれないうちに?
いや、悔やむのはそこじゃないとは思うけど。
「しかしお前は本当に中学生か? 気の毒な」
明徹は私の貧相な胸を見て哀れむような目をした。
何かが私の中でブチッと切れた。もしかして、私にも蘭子お姉さんのように「いけない私」が封印されていたの?
「貧乳をバカにするな!」
途端に私は金縛りを解き、印を結んだ。
「インダラヤソワカ!」
雷撃が明徹に落ちる。
「おっと!」
「オンマカキャラヤソワカ!」
次に私は大黒天真言を唱えた。いつもより当社比五十パーセント増の真言が炸裂するのがわかった。
「ぬお!」
明徹は私が単独で大黒天真言を唱えるとは思っていなかったのか、仰天したようだ。
しかし明徹はそれをあっさりとかわしてしまった。
「インダラヤソワカ!」
そこへ不意打ちの帝釈天真言が炸裂した。
「ぐお!」
明徹はそれをまともに食らい、吹き飛んだ。
「まどかりん!」
江原ッチが駆けつけてくれた。
「江原ッチ!」
私は江原ッチに駆け寄り、抱きついた。
「やるな、小僧。まあ良い。今日はほんの挨拶代わりだ。そいつを丁重に葬ってくれ」
声のした方を見ると、明徹だと思っていた袈裟姿の男から、別の霊体が抜け出て来た。
「何?」
私と江原ッチは驚いて男から離れた。
「次に会う時は、お前らが死ぬ時だ」
霊体の男は姿がはっきりしないが、どうやら神田原明徹のようだ。
明徹の霊体はスウッと消えてしまった。
「またか」
江原ッチは悔しそうに言った。そして、
「あの、まどかりん、豊胸手術とかしてないよね?」
突然とても失礼な事を訊いて来た。
「する訳ないでしょ! したいけど」
後半は小さい声で言った。
「ごめん。でも、何だか急に胸が大きくなったな、と思ってさ」
江原ッチは赤くなって私の胸を指差した。
「え?」
私は改めて自分の胸を見た。あれ? あれれ? どうしたのかな?
いつもの二百パーセント増しで胸が盛り上がってるんですけど。
まさか、昨日のマッサージの成果? すごい即効性ね!
「ああ!」
感激していると、まるでゴム風船が萎むように私の胸は元の位置に戻ってしまった。
江原ッチも目が点になっている。私もだ。
どういう事なの? また作者のいたずら?(違います 作者)
ピンチをチャンスに変えたような気がしたけど、それも違ったと思う複雑な気持ちのまどかだった。