復活の会は怖いのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。
この前、G県と長野県の県境で発見された白骨死体の不可思議な謎。
私のクラスの副担任でもある椿直美先生も同行して、その白骨死体が一度葬儀をされ、埋葬もされていたと判定した。
我がエロ兄貴達警察サイドは、鑑識の鑑定でそれほど昔に死んだ人ではないとしていた。
「理由はわかりませんが、私の見立てに間違いないです。それにその白骨死体は、葬儀を経て、一度埋葬されています。理由までは本物を見ないとわかりませんが、複雑な事件みたいですよ」
椿先生はそれでも自分の主張を曲げなかった。
私と綾小路さやかも、同じ考えだった。
理由はわからないが、その死体は一度死んで、もう一度死んだのだ。
そして、次の土曜日。
椿先生、私、さやか、そして私の彼の江原耕司君が、G県警に呼ばれた。
そして、遺体安置所にある例の白骨死体を霊視する事になった。
「椿先生だけで良かったんじゃないの?」
彼氏の牧野徹君(私の元彼)とのデートをキャンセルさせられたさやかはご立腹のようだ。
「私はまたさやかに会えて嬉しいよ」
冗談めかして言ったら、
「や、やめてよ、もう……」
何故か顔を真っ赤にしてさやかは言った。
ええ? もしかして、そういう意味だと思われた?
ボクッ娘の柳原まりさんに感化されたのかな?
県警本部の地下室の奥にある死体安置所。
もしかして、霊感課と同じ階なの? 知らなかったわ。
私、霊は怖くないけど、死体は苦手なの。
え? 今更可愛い子ぶるな、ですって? うるさいわね!
「ひ」
遺体の腐敗を防ぐために中はひんやりとしている。
いくつもの担架のようなものが並べられていて、その上に厚手のシートがかけられている。
「江原ッチ」
思わず江原ッチにしがみつく。
「大丈夫だよ、まどかりん」
その時の江原ッチは、椿先生を見ていたのだが、私にはそれに気づく余裕がなかった。
「これです」
私とは違って、霊は怖いけど遺体は全然怖くない里見まゆ子さんがシートをどけた。
そこには白骨死体が寝かされていた。
小柄だ。確かに百年も前に亡くなった方のご遺体には見えない。
どういう事なのだろう?
「触ってもいいですか?」
椿先生が兄貴に尋ねた。
「どうぞ」
嬉しそうに返事をした兄貴の二の腕をまゆ子さんが抓った。
「いて!」
兄貴は思わず叫んだ。
椿先生はそれには全く関心を示さず、白骨死体に手を合わせてから、頭部、胸部、腹部、下肢と触って行く。
私はその緊迫感に思わず唾を呑み込んだ。
私はさやかと江原ッチに目配せして、死体に近づいた。
「なるほど。これは死者への冒涜ですね。目的は定かではありませんが、死霊魔術師が絡んでいます」
椿先生の言葉に、兄貴達はキョトンとし、私達はギョッとした。
「何です、そのネクロ何とかって?」
兄貴が尋ねた。椿先生は兄貴を見て、
「古代ギリシアの昔から伝わると言われている邪法です」
「ええ? そんな事が現実にできるんですか?」
兄貴はまゆ子さんと顔を見合わせてから重ねて尋ねた。
「それはわかりません。ですが、このご遺体は明らかに蘇生させられています。だから、鑑識課の見立てと私の見立てが食い違ったのです」
椿先生は白骨死体を見てから兄貴を見て言った。
エロ兄貴はまた嬉しそうにしたので、まゆ子さんに腕を抓られた。
「もしかしてそれ、『復活の会』が絡んでいませんか?」
さやかが椿先生に尋ねた。
さやかの顔はいつになく真剣だ。
椿先生は弾かれたようにさやかを見た。
私と江原ッチもだ。
兄貴とまゆ子さんはまたキョトンとしている。
「綾小路さん、貴女、その組織を知っているの?」
椿先生がさやかに近づきながら尋ねた。さやかは小さく頷き、
「はい。亡くなった父がそこにいましたから」
さやかは衝撃の事実を明かした。椿先生は、
「そうなの。だからなのね、江原先生が『綾小路さんにも参加してもらってください』とおっしゃったのは」
あれ、江原ッチのお父さんの雅功さんは知っていたの?
「どんな組織かも知らずに力を貸し、知った時には後戻りできず、無理に抜けようとして殺されたんです」
さやかは淡々と語ったが、心の中は乱れていた。
私はもらい泣きをしてしまった。
「まどかりん」
江原ッチが優しく肩を抱いてくれる。
「もし、この件に復活の会が関わっているのであれば、もうこれ以上探るのはやめた方がいいです」
さやかは震えながら言った。
「彼らに敵と判断された人は、それとわからないように殺されます。私の父も病死にされました」
さやかは必死になって涙を堪えていたが、
「ありがとう、話してくれて」
椿先生が微笑んで、彼女を抱きしめた途端、声を上げて泣き出した。
私も江原ッチにすがりついて泣いた。
「でもね、綾小路さん、このまま放っておくと、貴女と同じ思いをする人達が増えて行くばかりなの。早く何とかしないと」
椿先生はさやかをギュウッと抱きしめて続ける。
「大丈夫。私と江原先生を信じて、綾小路さん。復活の会の悪事は必ず私達が阻止するから」
「先生!」
さやかは椿先生に抱きついて泣いた。
ふと気づくと、兄貴と江原ッチがそれを羨ましそうに見ている。
私はまゆ子さんとアイコンタクトをとり、同時に腕を思い切り抓った。
「ひいい!」
兄貴と江原ッチは見事にハモって叫んだ。
私とさやかと江原ッチは、椿先生を手伝って、白骨死体から更に情報を引き出すために力を結集した。
その白骨死体は古い墓地から掘り返され、様々な呪術によって別の魂を宿された。
そして白骨死体は衣服を着せられて銀行強盗をした。
数カ月前に起こったG州銀行本店営業部の襲撃事件だ。
その中の強盗団の一人が、この白骨死体だった。
「じゃあ、あの事件でどうしてもわからなかった指紋が、この死体のものなんですか?」
さすがの兄貴も、もうエロい目で椿先生を見る事はなかった。
すっかり、元の鑑識課員の目になっている。
「はい。指紋も呪術で、そのご遺体が生きていた時のものを再現したのでしょう。まさに恐るべき完全犯罪ですね」
椿先生の言葉に兄貴とまゆ子さんは唖然とした。
確かに放っておけない。
何とかしないと、次々に同じ事が起こってしまう。
いつになく真面目な展開のまどかだった。




