新装霊感課が初仕事なのよ!
私は箕輪まどか。中学二年の霊感少女だ。
お師匠様だった小松崎瑠希弥さんが西園寺蘭子お姉さんのところに帰った。
ショックだったけど、それを乗り越えなければならない。
私ももう十四歳。来年は十五歳になるのだから。
え? 当たり前の事を言うな、ですって?
十五歳は大きな区切りなのよ、知らないの?
私が十五歳になれば、十五禁にできるでしょ?
そしたら、私の魅惑のボディも披露できるしって、何言わせるのよ!
違うわよ!
瑠希弥さんがいなくなった事で、急速に仕事への意欲を失ったエロ兄貴は、恋人である里見まゆ子さんにこってり説教されたようだ。
今日は日曜日。霊感課の仕事だ。
私の彼氏の江原耕司君とどうやら友人らしい綾小路さやか、そしてクラスの副担任の椿直美先生が来ている。
霊感課の事務方である親友の近藤明菜と、その彼氏の美輪幸治君は本日は欠勤だ。
またあの二人、ボクッ娘の柳原まりさんが瑠希弥さんを追って東京に行ってしまったので、元通りになったらしく、デート三昧のようだ。
羨ましいけど、私も仕事を兼ねてのデート気分だから、まあいいのよね。
現場は、G県の西部、長野県との県境のある峠。
その崖下で、白骨死体が発見された。
衣服は見つかっておらず、恐らく全裸で放置されたとの事。
猟奇殺人事件の臭いがする。
「まどか」
さやかが小声で話しかけて来た。
「何?」
私も小声で尋ねる。
「私はまだ、友人らしい程度なの?」
涙目で言われ、苦笑いするしかない。
さやかは私の心の声を全部聞いてしまうから、うっかりした事を思えないのだ。
「そんな事ないよ、さやかは親友だよ」
私はあの御徒町樹里さんに負けないくらいの笑顔で言った。
「ありがとう、まどか」
さやかは本当に嬉しそうだ。もう完全に心を許し合える関係かもね。
「付近にガイシャの霊がいないか探ってください」
まゆ子さんが私達に指示する。兄貴はまだ落ち込んでおり、
「どうしたんだあ、箕輪?」
ロリコン疑惑がまだ晴れない鑑識課最古参の宮川さんに声をかけられていた。
私と江原ッチ、椿先生とさやかで組み、付近をサーチする。
「まどかりんと一緒に仕事ができて嬉しいよ」
江原ッチが言ってくれた。
「私もよ」
そう言って江原ッチを見上げると、江原ッチの目は椿先生を追いかけていた。
「江原耕司君、帰りは歩きにしますか?」
私は低い声で言った。
「ひいい!」
江原ッチはビクッとして椿先生を見るのをやめた。
全く、どうしてそうなのよ、男って奴は!?
「おかしいな。関係ない霊はたくさん見えるんだけどなあ」
江原ッチが首を傾げた。私もそうだ。全く手がかりが掴めない。
「そちらはどうでしたか?」
一旦兄貴達のところに戻ると、椿先生が尋ねて来た。
「収穫はなしです。どういう事なんでしょうか?」
江原ッチはヘラヘラしながら椿先生に近づく。
「椿先生はどうですか?」
私は江原ッチの腕を思い切り抓りながら尋ねた。
「私達も収穫はないですね。代わりに別の殺人事件の被害者の方の霊とご遺体を発見しましたけど」
椿先生はそう言ってさやかを見る。
さやかは発見場所を宮川さんに説明している。
宮川さんは「近過ぎだろ!」というくらい顔を寄せて、さやかに質問していた。
よし、そのままさやかに乗り換えて、宮川さん!
あれ? さやかは嫌がっていないな。どうしてだろう?
あ。
その時、さやかのガードが緩み、彼女の心が見えた。
さやかはお父さんを小さい頃に亡くしている。
恐らく彼女は、宮川さんが娘さんを亡くしているのに気づいているのだろう。
だから、さやかは宮川さんに普段私達には見せないような顔を見せているのかも知れない。
何だか、さやかが更に好きになった。
「まどか、やめてよね、隙を突いて人の心を覗くのは」
さやかは顔を赤らめて言った。
「あんたに言われたくないわよ」
私はすかさず反論した。すると宮川さんが何を勘違いしたのか、
「なーんだ、まーどかちゃん、俺がさーやかちゃんと話しているんで、嫉妬したのかあ?」
と嬉しそうに訊いて来た。何てポジティブシンキングな人だろう。
「違います」
間髪入れずに答えた。宮川さんは項垂れて、
「そうかあ」
と呟くと、寂しそうに去ってしまった。
「酷いのね、まどかは。可哀想よ、宮川さんが」
すっかり宮川さんと同調しているさやかが非難めいた口調で私を責める。
「いつもこんな感じよ。あの人は大丈夫。娘さんにも会わせたから」
私は微笑んで応じた。するとさやかは、
「そうか。だから宮川さん、まどかの事をすごく信頼してるんだね」
と言った。私はその言葉に面食らってしまい、顔が火照るのを感じた。
さすがさやかだ。そこまで宮川さんの心を見抜いているのか。
私にはそれはわからなかったなあ。まだまださやかには敵わないみたい。
「もう一度白骨死体の写真を見せていただけませんか?」
椿先生がまゆ子さんに言ったのが聞こえたので、私とさやかは椿先生に近づいた。
江原ッチはそれより早く先生のそばにいた。もう!
「どうぞ」
まゆ子さんは、アタッシュケースの中から、ポリエチレンの袋に入った写真を取り出して、椿先生に渡した。
「この方が亡くなったのは、百年位前ですよ」
椿先生は写真を手に取るなりそう言った。
「え?」
まゆ子さんと兄貴は仰天したようだ。
「そんなバカな! 鑑識の話では、それほど前とは……」
兄貴は元鑑識課員として、椿先生の結論に賛成できないようだ。
「理由はわかりませんが、私の見立てに間違いないです。それにその白骨死体は、葬儀を経て、一度埋葬されています。理由までは本物を見ないとわかりませんが、複雑な事件みたいですよ」
椿先生の話は、兄貴やまゆ子さん、そして宮川さんにはとても理解できないだろう。
でも、私と江原ッチとさやかにはわかった。
椿先生と同じで、理由はわからないが、その死体は一度埋葬されたにも関わらず、掘り出され、何かをされたようだ。
猟奇殺人事件より恐ろしい事かも知れない。
そして実際に、それはとんでもない事件へと発展する。
久しぶりに霊感推理っぽい展開のまどかだった。