夏休みの最終日に思い出作りなのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。ついでに言ってしまうと、お通じが三日ないの。
って、こらーー!!
美少女関係をいじるのはいいけど、そこはやめてよ!
私は、「花も恥じらう乙女」なんだからね!
え? 言う事がいちいち古くさい? 余計なお世話よ! フンだ!
先日、G県北西部のA妻川の河川敷で、私はとても悲しい思いをした。
同じ町内に住んでいた女の子が水死したのを霊視で見つけたのだ。
あのエロ兄貴が優しくしてくれるほど、その日の私は酷く落ち込んだ。
「悪かったな、まどか。しばらく捜査には参加しなくていいよ」
兄貴のその心遣いに私はキュンとしてしまった。
「ありがとう、お兄ちゃん」
心の底からそう言ったのに、
「今度からは瑠希弥さんと二人で行くから」
というオチを用意していたので、
「あの時の事、まゆ子さんに言いつける」
とまた適当に脅かしてあげた。
「ば、バカヤロウ、洒落にならないから、やめろ」
真剣な顔で言う兄貴を見て、真相が知りたくなった。
そして、とうとう夏休み最後の日。
私は彼氏の江原耕司君と二人きりで、デートに出かけた。
江原ッチとは、霊感課や女子会の件でしばらくデートしていなかったから、ウキウキしてしまう。
「まどかりん、どこに行こうか?」
江原ッチもこころなしか、嬉しそうだ。
そりゃそうよね。私ほどの美少女とデートできるんだもん。
な、何よ! いいじゃない、それくらい思ったって! 誰にも迷惑かけないでしょ!
え? また2ちゃんねるで「香ばしい」って書かれるって?
いいじゃん、書かれても。書かれてナンボなのよ、この業界は。
そんな訳で、私と江原ッチはしばらく行っていなかった映画館に行ってみた。
しかも、ラブストーリー映画だ。
今まで一度も一緒に観た事がない。
私は苦手だったし、江原ッチは恥ずかしがっていたから。
でも、付き合い始めて一年以上経ったのだから、一歩前進したかったのだ。
別に、変な事をしたい訳じゃないわよ。私はまだ十五歳未満なんだからね。
ところが、私達が入った上映室は、やばいところだった。
「まどかりん、いるよ、ここ」
中に入るなり、江原ッチが言う。勿論私も感じていた。
え? そういう意味じゃないわよ、オジさん! もう、何考えてるのよ。
恋愛映画を彼氏と観に来るのが夢だった女性が、闘病生活に疲れて自ら命を絶った。
そのどうしても観たかった映画を上映したのが、ここだったみたいなのだ。
スクリーンの左の端にその女性の霊は佇んでいる。暗い表情だ。
でも、観客の皆さんがすでにたくさん入って来ているので、今は何もできない。
仕方がないので、映画が終わるのを待つ事にした。
場内が暗くなり、映画が始まる。
最初はラブコメ調のストーリーだったのに、最後の方では女性達は全員すすり泣きするような展開。
私も泣いてしまい、江原ッチに手を握ってもらった。
エンドロールの頃には、もう涙で字が霞むほどの号泣。
映画でこんなに泣いたのって、ET以来よ。
え? バカな事言わないでよ、映画館で観る訳ないでしょ!
私は平成生まれなのよ! テレビで観たのに決まってるでしょ!
そして上映時間が終了し、明かりが点いた。
ふとスクリーンの端を観ると、女性の霊がいない。
「あれ、どこ?」
私がキョロキョロしていると、江原ッチが、
「あそこだよ、まどかりん」
と指差して教えてくれた。私達の一つ後ろの列だ。
そこの座席には、男の人が一人で座っていた。隣の席には写真立てがある。
その写真立ての写真の女性こそ、さっきの女性の霊だったのだ。
「彼氏なの?」
私は涙を拭いながら、江原ッチを見た。
「うん。彼女と一緒に映画を観る約束を今日果たしに来たんだよ、あの人は」
男の人には霊感はないようだ。
女性の霊が隣の席に座っているのに全く気づいていない。
「ありがとう」
女性の霊は、最初に見かけた時と大違いの顔をしていた。
幸せそうだ。本当に嬉しそうにしている。
「貴方を好きになって、本当に良かった」
彼女の業は解けたようだ。光に包まれ始めた。
「さようなら。私の分まで生きてね」
女性の霊はそのまま光と共に天へと昇って行った。
「さあ、行こうか、まどかりん」
江原ッチも涙ぐんでいたようだったが、私に知られるのが恥ずかしいのか、眠いフリをして伸びをしてみせる。
「うん」
優しい私は、当然の事ながら、気づかないフリをした。
そして、その帰り道、公園の木陰でちょっぴり大人のキスをしたまどかだった。ムフ。