市営プールでどっきりなのよ!
私は箕輪まどか。中学二年の美少女霊能者。
どうよ? もう開き直ったわ。
この前、クラスメートの柳原まりさんと約束したので、私は連絡係となり、プール三昧をするため、まずは親友の近藤明菜に連絡した。
「もちろん、行くわよ」
明菜は速攻で承諾した。
「美輪君には明菜から連絡してくれるよね?」
私は手間を省こうと思って尋ねた。すると明菜は、
「どうして?」
と驚愕の質問返しをした。あんた、柳原さんがいれば、美輪君はいなくていいの?
恐るべし、柳原さん。
「女子会にしようよ。だから、後は瑠希弥さんと靖子ちゃんだけ誘えばいいよ」
「そうなんですか」
私は力なく「お題目」を唱えた。って事は、私の彼氏の江原耕司君も誘ってはいけないという事だ。
「そうすれば、靖子ちゃんに連絡するだけで瑠希弥さんにも伝わって、まどかは任務完了でしょ?」
何故か明菜は嬉しそうに言う。
「あれ、明菜って、瑠希弥さんの事、嫌いじゃなかったっけ?」
「ど、どうしてよ!? そんな訳ないでしょ!」
明菜は非常に動揺していた。彼女は、柳原さんが尊敬している小松崎瑠希弥さんを嫌っていたはずなのだが、何と変わり身の早い……。
え? 変わり身の早さでは、お前の方が上だろう、ですって?
ま、まあね。
「まどか、その事、柳原さんの前で言ったら、絶交だからね!」
「はいはい」
明菜は言い出したら聞かないので、従うしかないのだ。
そして翌日。
瑠希弥さんのお陰で、宿題をほとんど片づけた私は、意気揚々と家を出た。
ところで、意気揚々って何?
途中で明菜と落ち合い、江原ッチといつも合流に使っているコンビニに向かった。
「今日もあのビキニなの、明菜?」
こっそり尋ねる。すると明菜は顔を赤らめて、
「恥ずかしいから、やめた」
と俯いた。え? なになに、この乙女な明菜は? ちょっと怖いんだけど……。
「柳原さんを見ると、自分がどんなにさもしい人間なのか、よくわかるの」
「そうなんですか」
おお! 本日二度目のお題目だ。
で、さもしいって、何?
やがて、私達はコンビニに着き、先に来ていた瑠希弥さんと靖子ちゃんに合流した。
「今日は誘ってくれたありがとう、まどかさん」
瑠希弥さんは嬉しそうだ。しかし、プールに行くのに黒のスカートスーツはどうかと思う。
「瑠希弥さんが半袖Tシャツと短パン姿になると、お兄ちゃんがおかしくなっちゃうから」
靖子ちゃんが苦笑いして、教えてくれた。
「そうなんですか」
おおっと! 本日三度目。何かいい事ありそうな予感だ。
確かに、江原ッチや美輪君、そして力丸卓司君達を誘わなくて正解だったかもね。
「ごめん、遅くなってしまって」
そこに本日のメインゲストである柳原さんが登場した。
何故か、綾小路さやかと共に。
私と明菜は目が点になりそうだ。
「そこでバッタリ会ったんだ。いいでしょ、さやかさんも一緒で?」
柳原さんが爽やかな笑顔で言うと、
「もちろんよ、柳原さん!」
と明菜と靖子ちゃんが見事にハモッて同意した。
「まどか、酷いじゃない、私だけ誘わないなんて!」
さやかが小声で文句を言って来た。私は苦笑いするしかない。
「では、行きましょうか」
瑠希弥さんが言った。
「はい!」
柳原さんと愉快な仲間達は声を揃えて返事をした。
すごいな、あのシンクロぶりは……。
瑠希弥さんを先頭にしてゾロゾロと歩いている私達は、引率の先生の後ろを歩いている小学生みたいだ。
何だか、注目されているようで恥ずかしい。
私達は市営プールに着いた。
「呼んでいただいたお礼に、入場料は私が払いますね」
瑠希弥さんが言うと、
「そんな事はしないでください、瑠希弥さん。ここはボクが……」
柳原さんが鞄から財布を出す。男前な黒革の財布だ。おおっと、明菜達から歓声が上がる。
「いえ、私が出します」
明菜と靖子ちゃんまでそんな事を言い出した。
結局押し問答の末、瑠希弥さんが出してくれる事になった。
「ありがとうございます」
私達は瑠希弥さんにお礼を言った。瑠希弥さんは照れ臭そうに、
「そんな大した額ではないですから」
と言うと、スタスタと中に入って行ってしまう。何か可愛いな、瑠希弥さんて。
たまには男抜きの「女子会」もいいものだ。
あれ? 柳原さんは「女子」でいいのか?
更衣室でクラクラしてしまった私は、壁に掴まりながら、プールサイドに出た。
「大丈夫、まどかさん?」
瑠希弥さんが声をかけてくれた。
「はい、大丈夫です」
私は微笑んで瑠希弥さんを見る。そもそも、瑠希弥さんが原因なんだけどね。
とにかく、まさにこれこそ「ダイナマイトボディ」というプロポーションなのだ。
しかも、水着も豹柄で、余計に刺激的だ。
以前、山形で一緒にお風呂に入った時より、エロくなっているのではないだろうか?
周囲を歩いている男達が、全員瑠希弥さんに見入っていて、奥さんや彼女に小突かれている。
本当に、男って奴は……。
しかも、その後ろには「ボクっ娘オーラ」全開の柳原さんが、競泳用の水着みたいなのを着て歩いている。
明菜や靖子ちゃん、そしてあのさやかまでもがメロメロの顔で柳原さんに付き従っている。
何か、怖い。
「あ!」
私と瑠希弥さんはほぼ同時に反応した。
「まどかさん、一緒に行きましょう」
「はい!」
何故か周囲の男共が悶絶していたが、今はそんな事はどうでもいい。
私は瑠希弥さんと共に流れるプールの奥へと走った。
「待ちなさいよ、まどか!」
柳原さんにメロメロだったさやかも、さすがに気づいたのか、私を追いかけて来た。
認めたくないのだが、さやかは確かに私より胸が大きかった。
「認めなさいよ!」
さやかが怒る。私はそれを無視して、瑠希弥さんを追いかけた。
「やっぱり」
瑠希弥さんが呟く。そう、流れるプールの奥にいたのは、この前さやかが追い払った浮遊霊だった。
「何でよ? この前、私がやっつけたのに!」
さやかは悔しそうだ。すると瑠希弥さんが、
「霊全てを追い払ったり、攻撃したりするのでは、解決しない事もあります。見ていてね」
とさやかに優しく微笑み、浮遊霊に近づく。
霊がいる周辺は、他のお客達は逃げていて、まるでそこに何か仕切りがあるかのようにポッカリ空いている。
瑠希弥さんはゆっくりプールに入る。スケベな男が、それを舐めるような目で見ていたので、
(こいつ!)
と思った時、私より先にさやかが動いていた。
「インダラヤソワカ」
バシンと雷撃がそのスケベ男を攻撃した。
「ぐげげ!」
男は感電し、プールサイドに倒れた。
「いえい!」
私とさやかはハイタッチした。
「貴方はどうしてそこに留まろうとしているのですか?」
瑠希弥さんがまさしく菩薩様のような顔で尋ねる。
すると形を成していなかった霊が、若い男の姿になった。
『俺は痴漢にされて、会社も辞めさせられて、自殺したんだ。このプールが憎い』
その霊の言う通り、痴漢は間違いだったようだ。
金目当ての悪い女二人組みの仕業。そんな女がいるから、本当に痴漢被害にあった女性達まで疑われてしまうのだ。
許せないわ、同性として!
「わかりました。でも、そこに留まっても、何もいい事はないわ。早く、逝く所に行ってください」
瑠希弥さんの言葉に、男の霊は涙した。私もさやかも泣いてしまった。
「オンカカカビサンマエイソワカ」
瑠希弥さんが地蔵真言を唱える。私とさやかも唱えた。
やがて霊は地蔵菩薩の光に包まれ、天へと昇り始めた。
「貴女のような女性に生きている間に出会いたかった」
男の霊は泣きながらそう言った。
「ありがとうございます」
瑠希弥さんは笑顔満開で応じた。
そして何故か、誰からともなく沸き起こった拍手に瑠希弥さんはびっくりしていた。
たくさんの歓声を浴びながら、私達はその場を去った。
「今の、あそこにいた人達全員に見えていたんですか?」
私は瑠希弥さんに小声で尋ねた。
「はい。できるだけたくさんの人の優しさを借りて、あの霊を浄化しました。悪い霊ではないから、その方法が一番です」
「そうなんですか」
私とさやかのシンクロナイズド「お題目」だった。
今日は貴重な体験をしたまどか&さやかだった。