柳原さんに嫉妬されたのよ!
私は箕輪まどか。中学二年の霊能者。どちらかと言うと、可愛いと思う。
え? 随分謙虚になったな、ですって? それはそうよ。
あれだけ、打ちのめされれば、大人しくなるというもの。
先日、小松崎瑠希弥さんに送ってもらって、お母さんのお小言を逃れようとしたら、成り行きで瑠希弥さんが宿題を見てくれる事になって……。
お母さんより優しく教えてもらえると思ったら、とんでもなくスパルタだった。
お陰で、私は宿題の大半を終了する事ができた。
お母さんは大喜びし、
「是非またいらしてくださいな」
と瑠希弥さんを送り出した。
ああ。瑠希弥さんは大好きだけど、勉強の事に関して言えば、もう勘弁して欲しい。
あの人、真面目な人だから、妥協を許してくれないのよね。
「瑠希弥さんが家に来たのに、どうして俺を呼んでくれなかったんだ?」
エロ兄貴が後でブツブツ言ったが、
「まゆ子さんに言いつけるぞ」
と言い返すと、ギクッとして自分の部屋に逃げて行った。
本当に懲りない奴だ。我が兄貴ながら、どうかしていると思う。
いずれにしても、予定以上に宿題が捗ったので、それだけは良しとしよう。
朝食を終えた私は、久しぶりのお通じがあったのも手伝ってって、何言わせるのよ!?
び、美少女はそんな事しないんだからね! う、嘘じゃないわよ!
何となくウキウキ気分の私は、スキップしながら自分の部屋に戻った。
「え?」
その時、携帯が鳴り出した。誰だろう? 親友の近藤明菜は、確か彼氏の美輪幸治君と家族を交えて海水浴に行っているはず。
「お?」
開いてみると、柳原まりさんからだ。彼女(でいいのよね?)から電話なんて、どうしたのだろう?
「こんにちは、箕輪さん」
私が携帯に出ると、柳原さんが挨拶して来た。
「こ、こんにちは」
私的にはまだ「おはよう」なのだが、時計を見ると十時を過ぎているので、そうなのかも知れない。
「箕輪さん、酷いよ。瑠希弥さんと二人きりで宿題をしたんだって?」
柳原さんは言った。私は仰天した。どうしてそんな事を柳原さんが知ってるの?
「近藤さんから聞いたんだ。今度からはボクも誘ってよ」
柳原さんの声のトーンはかなり非難めいている。全く。明菜のお喋りめ。帰って来たら、お説教よ。
うーん。別に私は瑠希弥さんとはそういう関係ではないし、柳原さんと瑠希弥さんを争うつもりもないし。
「わかった。今度からは連絡するね。それより、瑠希弥さんに柳原さんの事、伝えようか? そうすれば、二人きりで宿題できるよ」
私は気を遣ってそう言ってみた。すると柳原さんの気が乱れるのを感じた。
「そ、そこまでしてくれなくていいよ。二人きりだなんて、ボク、気絶しちゃう」
「ああ、そうなんだ……」
私は唖然としてしまった。そこまで瑠希弥さんの事が好きなんだ。すごいな。
「それより、この前の霊感課の件、どうなったか知ってる?」
柳原さんは、瑠希弥さんの話題を避けたいのか、急に話を変えて来た。
「それなら、全員合格だって。そのうち、県警から通知が行くはずだよ」
「え? 全員?」
柳原さんの声のテンション落ちた。どうしたんだ?
「じゃあ、江原耕司君も合格したの?」
「うん。江原ッチも合格したよ」
何だか、不穏な感じ。以前、柳原さんは私の彼氏の江原ッチと戦った事があるからなあ。
「そうか。わかった。ありがとう、箕輪さん」
柳原さんの声のトーンが明るくなった。訳がわからない。私はふと思いついた事があったので、
「ねえ、柳原さん」
「何、箕輪さん?」
「私達、名前で呼び合わない? 何だか、名字だと他人行儀な気がして」
私は思い切って切り出した。すると柳原さんは、
「うん、いいね。そうしよう。えっと、まどかさん」
「ありがとう、まりさん」
私達は更に近づけた気がした。決して、そっちの世界に私が近づいた訳ではないけど。
「やっぱり、まどかさんも素敵だな。また好きになりそうだよ」
柳原さんからの衝撃の言葉! 私は思わず携帯を耳から放してしまった。
「そ、そう。ありがとう、まりさん」
そして、お盆休み明けにプールに行く約束をした。
「できれば、瑠希弥さんも誘ってくれると嬉しいんだけど」
柳原さんはボソボソと告げた。私は苦笑いして、
「うん、いいよ。伝えとくね」
私は携帯を切り、大きく溜息を吐いてしまった。
プールへ行く日、どうなるんだろう?
先行き不安なまどかだった。