皇太子ちゃま
「バレッタ…。その…大丈夫か?」
机で事務作業をするバレッタの膝の上にはミミちゃんがちょこんと座っています。
本人の前で『重くないか?』とか『邪魔じゃないか?』とか聞くのが憚られたので曖昧な質問になってしまいましたが…流石のバレッタは意図を察してくれました。
「大丈夫ですよ。ミミちゃんはとても軽いしおとなしいですから」
「確かに軽かったな…」
「むしろ軽過ぎるのが問題ですね。これからはご飯いっぱい食べてもらいます♪」
バレッタがミミちゃんを撫でながら言いました。なんか…良いな……。
「よろしく頼む。お金は俺の口座から好きなだけ使ってくれ」
「ふふふ…。ライト様は優し過ぎですね。承知しました」
それくらいは当然でしょう…。バレッタには個別にお礼を考えなきゃ。
それと、ミミちゃんで気になってる事がもう1つあります。
「やっぱり喋らないか?」
「そうですね…。多分精神的なものが原因だと思いますが…」
まぁ、焦らず行きましょう。すると、喋りながらも仕事を続けていたバレッタが手元の書類をまとめました。
「ライト様。手続き完了しました。これで護衛依頼は達成になります。それにしても…またロンド様の為にゲートを無償で提供されたのですか?」
「別にロンドの為って訳じゃないけどな」
俺はミミちゃんをバレッタに預けてからエイルードに戻ってロンド達と合流しました。そして、ロンド達も連れてゲートでレイオスに戻ったんです。
だって…レイオスの緊急事態ですからね。こういう時は遠慮しないで頼ってくれって話です。
ただ、ロンドが『そういう事なら荷馬車を買っても良いですか?』とか言ってきたのは却下しました!
急ぐ為に提案してるのに、そこで時間を使ってどうする…。商人って凄いな…。
「ライト様。お送り頂いてありがとうございました。早速ですが静寂の森の調査に入りたいと思います」
手続きの完了を待っていたロンドが、世界樹の葉を持ちながら言ってきました。
「ロンド。俺の手伝いは不要か?」
「リルも手伝うよ?」
お世話になってるレイオスの為なら可能な事はやりますよ?と思ったんですけど…。
「ありがとうございます。ただ、ライト様達に頼るのは最終手段にさせて頂ければと思います」
「既に調査員が決まってるのか?」
「はい。Aランク冒険者パーティである『古狼の牙』に準備させております。個人的にはライト様にお願いした方が確実だと思っているのですが…」
なるほど。これはロンドの個人的な依頼じゃないからね…。俺がBランクでリルがFランクだから、安全を期する為にはAランクを雇うべきという話になるか…。
「分かった。何かあれば遠慮せずに言ってくれ」
「言ってね!」
「お二人とも、ありがとうございます!」
ひとまずAランク冒険者の人達にお任せしましょう。冒険者としての知識や経験では負けてる自信がありますからね…。
宵の明光のキールさんに色々教わったんだけど結構難しいんですよ…。
そうしてロンドと話していたら、不意に後ろから声が掛かりました。
「ライト君。いま大丈夫かい?」
声のした方向を見てみると、そこには冒険者ギルドのグランドマスターであるサリオンが立っていました。
「サリオンか。どうした?」
「ミレーヌ様からの指名依頼を持ってきたんだ。悪いけど、すぐに帝国に来て貰えるかい?」
急だな…。すると、バレッタが即座に反応しました。
「サリオン様!何やらお急ぎのご様子ですがクエスト依頼は私を通して頂かないと困ります。グランドマスターがギルドルールを破ってどうするんですか!」
「おっと…おっしゃる通りだね…。専属が付いてるのに申し訳ない」
俺のマネージメントはバレッタに一任しています。ギルドルールとしてはバレッタがベストな選択をして俺に連携する事になっている…んですが…。
バレッタが正しいと思う。でも、バレッタも言った通りサリオンも焦ってるっぽいしな…。
「バレッタ、一緒に説明を聞こう。サリオンを伝言係に使うとは余程だ」
「……分かりました。それではライト様とリル様とサリオン様は特別応接室に。ロンド様、申し訳ありませんが本日はここで…」
「承知致しました。それでは私はこれにて失礼させて頂きます。静寂の森について何か分かりましたら連携させて頂きますので。それでは」
帰るタイミングを失っていたロンドは、一礼するとサッと帰っていきました。
「ミミちゃん。バレッタお姉さんの椅子に座っててね。ライト様、リル様、サリオン様、参りましょう」
という事で、俺達はバレッタに連れられて特別応接室に向かいました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇねぇ!あれ倒して良いの?」
リルが角の生えた虎の剥製を指差しながら言いました…。いや…やめてください…。
「リル、あれは剥製と言って、既に倒したやつを飾ってるだけなんだ。決して壊さない様にね…」
「えー!じゃああれは?」
「んー…。残念ながらここに壊して良い物は無いかな…」
高級品ばっかりなんで勘弁してください!あぁ…壁に掛けてる高級絨毯を見つめながら尻尾を振らないで…。
俺はリルを抱っこしてソファに座りました。全員の紅茶を入れたバレッタが席に着いて話を進めます。
「では、サリオン様。ご依頼の内容を教えて頂けますか?」
「………。」
バレッタは普通にサリオンに聞いたのですが…サリオンはバレッタを見つめてから微笑むと、いきなり関係ない事を喋り始めました。
「バレッタ君。昔は私を見ると『やばばばっ!』って言ってたのに成長したね」
「ありがとうございます。ライト様にお会いしたからですわ」
「はははは。ライト君は私よりも『やばば』か」
おーい。何の話を始めてるんだ…。
「サリオン。急いでるんじゃないのか?」
「うん。そうなんだけどね。どうしようかな…ギルド職員と言えどもあまり話せない内容なんだ」
んー。これは前提条件を説明しないとですね。
「サリオン。バレッタの位置付けは俺と同義だと思ってくれ。バレッタに話せないのなら俺も聞けない」
「やばばばばばばば…」
「ははは。素晴らしい信頼関係だね。まぁ専属だし…了解だ。話すよ」
サリオンが納得してくれました。そして、依頼内容を話し始めます。
「皇帝陛下が崩御なされた。と言うか暗殺だ」
「は?この前弟が殺されたばかりだろう?」
これは確かに国の極秘事情か…。普通のギルド職員には話せないのは納得だ…。
「どうやら陛下が愚かな行動を取ったみたいなんだが…まぁ今はそこは良い。問題は、犯人が不明だと言う事。そんな中で皇太子殿下を護らなければならないという所だ」
犯人か…。可能性が高いのはアクル王国かな?もしかしたら、あの王女はそのマーキングの為に侵入してきたのかも…。
それと、王太子ってミレーヌの事じゃないよね?
「息子なんていたんだな。ミレーヌしか知らなかった」
「あぁ。しかし、直系で唯一の男性になってしまった。バルトロ帝国は男系継承なので、皇太子殿下まで暗殺されてしまうと内政がガタついてしまう…」
「なるほど…」
ミレーヌでは継げないって事ですね…。そうなると、親戚から選ばれるのかな?
親戚同士で争ったり、ミレーヌを担ぐ奴とか出てきて争ったり…。うん。トラブルしか思いつきません。
「背景は承知しました。決して他言致しません。それで、ご依頼の内容は何でしょうか?」
「察してると思うが皇太子殿下の護衛をお願いしたい」
「期間はどれくらいでしょうか?」
「3日で良い。いま安全確保の準備をしているんだが、それが3日で完了する予定だ」
安全確保?それって何だろう…大丈夫なのかな?
「俺が気にする事では無いかもしれないが、安全確保の方法は大丈夫なのか?」
「そうだな。詳しくは言えないが時空属性には有効な方法だと思う」
時空属性に…。なるほど、ピンと来た。時空属性持ちが行けない所、行った事が無い所…つまり何処かに新たな何かを作ってるのか…。
「話を折って悪かった。了解だ」
俺の言葉を聞いて、バレッタが話を続けました。まだ確認したい事があるみたいです。
「サリオン様。報酬は?」
「金貨千枚を考えてる。3日の報酬としては破格でしょう?」
「だけですか?」
!?バ…バレッタさん?十分じゃないですか?3日で1億円ですよ??
「ははは。バレッタさんの言いたい事は分かってますよ。私としても望む所なので問題ありません。Aランク昇格も付けましょう」
バレッタが微笑みながらこちらを向きました。
「私としてはお受けしても良いのではないかと思います。ライト様、如何でしょうか?」
「あぁ。受けよう」
「承知致しました。では、事務手続きは私の方で実施しておきます」
やっぱりバレッタにマネジメントを一任してて良かった…。俺だったらタダ働きしてたかも…。
「では、バレッタ君の許可も出たみたいなんで帝国に行こうか」
「あぁ。ゲートは俺が開こう。ギルド本部で良いか?」
「うん、お願いするよ。魔力を温存したい。私の部屋へ頼む」
「分かった」
そして、リルを抱えたままギルド本部グランドマスター室へと繋がるゲートに入りました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ライト。久しぶりですわね」
「よっ!」
俺達はギルド本部から王城へ歩いて移動して、ミレーヌの部屋へとやってきました。
王城に直接ゲートを開く事もできるけど…ただでも暗殺騒ぎで警戒してる所にゲートを開くと大騒ぎになるよね…。
そして、ミレーヌの部屋にはいつも通りハルトもいました。
「では、早速ですがアルの部屋に案内しますわ」
「皇太子殿下の事だよ。まぁそんな呼び方をするのはミレーヌ様くらいだけどね」
サリオンが皇太子殿下の名前について補足してくれました。ミレーヌは相変わらず自由だな…。
「あぁ、頼む。まずは顔合わせをしておこう」
それからミレーヌの案内で皇太子殿下の部屋へとやってきました。城の中は男性と女性で大きく分けてるみたいで、ミレーヌの部屋とは随分と離れています。
そして、流石に護衛がいっぱいです。
「ハルト。そう言えば、ミレーヌに対するお前みたいに、皇太子殿下の護衛っていないのか?」
「まぁ、いるっちゃいるね。第一騎士団長だよ」
「ん?だったら俺って必要なのか?」
「あぁ。騎士団長は認めないだろうけど実力不足だね」
「そうか…」
コンッコンッ…
「アル、ミレーヌです。入りますよ」
そして護衛が扉を開くと………目の前には6歳くらいの男の子が立っていました。
「アル。ライトに挨拶なさい」
「よ…余が…皇太子のアルバートである!」
なんて事だ…。頑張ってる感じで可愛いじゃないか…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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