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もう一羽

「イザベラ王女。こんな所に呼び出して何の用だ?」

「奈落迷宮では聖女パーティに負けてしまわれましたので、勇者様の訓練のお手伝いができればと思いまして」

「………ちっ」


 ここはアクル王国の王都にある闘技場の中心です。イザベラ王女に呼び出された勇者・城之内隼人は、聖女パーティに負けた事を思い出させられてイライラしていました。


「まぁ、支援には感謝する。で、戦う相手は?」

「はい。いま勇者様の成長に1番重要だと思われる魔物を用意させて頂きました」

「ほぅ…。どんな魔物か楽しみだな」


 すると…イザベラ王女の合図に合わせて、馬に引かれた鉄製の檻が運ばれてきました。檻の横には小太りで豪華な服を着た男が立っています。


「イザベラ様。ご所望の魔物(・・)でございます」

「トレイラル伯爵。ご苦労様です」


 檻の中には…鎖に繋がれたウサギ耳の少女(・・・・・・・)が膝を抱えて座っていました。

 隼人は10歳前後の少女を見ながら硬直しています。


「なっ…この子が…魔物?」

「はい。その通りです。しかし…」


 イザベラ王女はトレイラル伯爵に視線を移すと、笑顔で質問をしました。


「トレイラル伯爵。2匹…いえ、この場合は2羽ですか?と、聞いていましたが?」

「も…申し訳ありません。1羽には輸送中に逃げられてしまいまして…」

「逃げられた…」


 イザベラ王女が『困りましたね』という感じで、顎に片手を添えながら首を傾げています。


「捕らえた魔物に逃げられたというのは…国として体裁が悪いと思いませんか?魔物達に舐められてしまうかもしれませんね」

「は…はっ!おっしゃる通りで御座います!」

「では、どうするのですか?」

「現在、息子のグリードが捕獲に動いております!また、捕らえ次第見せしめとして首を刎ねる様に指示しております!」

「そうですか。では、まぁ良いでしょう」


 イザベラ王女は、真っ青になっている勇者の方に向き直りました。


「さぁ、勇者様。魔物を殺し(・・・・・)なさい」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「全く手間を掛けさせやがって…。おい、お前達!アクル王国に歯向かう奴がどうなるのかしっかり見ておけ!」


 うさぎ耳の少女を放り投げた男…グリードが腰の剣を抜きました。少女の前まで歩いて行き、剣を振り上げます。

 俺は…気付いたらグリードと少女の間に転移していました。振り下ろされた剣を手で掴んで受け止めます。そして、少女に聖域を使って回復をしました。


「貴様!何者だ?僕が誰だか分かっているのか?」

「グリードだろう?」

「トレイラル家のグリード様だ!!アクル王国伯爵家の嫡男だぞ!」

「俺にとって価値のない言葉ばかり並べるな…。何故そんなに自分が無価値だと説明しているんだ?」


 グリードは何を言われているのか理解できないという感じで眉を寄せています。


「お前は…何を言っているんだ?」

「言い直そう。俺はアクル王国民ではないし敬意も何もない。俺からすれば、たかがアクル王国の、王族でもない伯爵ごとき、しかも当主でさえない…俺にとっては無価値などうでも良い存在だ」

「き…貴様…!無礼者が!」

「無礼…その通りだな。お前に通すべき礼など無い」

「く…くそう…」


 グリードは俺に掴まれた剣を抜こうと頑張っていますが、剣はびくともしません。

 グリードは振り向いて、兵士達に向かって叫びました。


「お前達!何を見ている!さっさとこの男を捕らえよ!」

「グリード様…そ…それが…謎の光剣が…」


 兵士達の額には俺の出した光の小剣が突きつけられています。


「動かない方が良い。動けば問答無用で殺す」

「グリード様…申し訳ありません…」

「ふざけるな!貴様らの家族がどうなっても良いのか!」

「!?」


 こいつ…。なんて酷いことを…。


「うっ…」

「ぐあぁ!」


 そういう脅しはズルいなぁ…。後ろの方で家族の為に動いちゃった人がいますが、眉間に刺すのはやめて太腿にしておきました。


「お前は反省が必要だな。他人の苦しみを知った方が良い」


 俺はグリードの首を掴んで持ち上げます。さて、どうしようかな…。

 そんな事を考えていると、リルが近付いてきました。


「この匂い…。やっぱりそうだ!」

「リル。どうした?」

「えっとね!王都で女の人を捕まえて奴隷として売ろうとしてた人だ!」

「あ…貴様あの時の…」

「王都で別行動をした時か?」

「うん!そう!」


 戦闘はしてないって言ってたけど…まぁそこは良いか…。よし!決めた!


「リル。ちょっと待っていてくれ。こいつに罰を与えてくる」

「うん!もし兵士さんが動いたら戦闘ごっこしておくね!」

「あぁ。よろしくな」


 そっか…戦闘ごっこはあったのかもね…。

 俺はグリードに罰を与える為、グリードを持ち上げたままゲートに入りました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「こいつを売却したい。いくらになる?」

「へっへっへ…働きざかりな若い男だな。金貨10枚って所だ」


 俺はグリードに呪いをかけました。喋ったり文字を書いたりする事ができなくなるというものです。これで助けを求める事はできないでしょう。

 そして、服を質素な物に着替えさせてから奴隷商の所に連れてきました。


「グリード。これがお前の価値だ。受け取れ」

「ぐ…ぐぅ…」


 俺は売値の金貨10枚をグリードに渡しました。


「奴隷商。こいつを買い戻そうとしたら幾らになる?」

「そうだな…倍額だ」

「だとさ。頑張って金貨20枚を貯めてから自分で自分を買い戻すんだな」


 実は、ここはアクル王国です。サリオンに連れて来てもらった最南端の町になります。グリードには自分達が作ったルールを体験してもらおうと考えた訳です。

 期間は金貨20枚を貯められるまでですね…。どれだけ大変かやってみて貰いましょう。


「では、後は任せた」

「へっへっへ…。毎度ありでさぁ」


 俺はグリードを置いてエイルードに戻りました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「リル。戻ったよ」

「おかえりー!」


 兵士が3分の1くらい倒れてます。僕がいなくなってから動いてリルにやられたみたいですね。まぁ今はそれよりも…。

 俺はうさぎ耳の少女に近づきました。


「魔法で治療したから怪我は大丈夫だと思うけど…痛い所はないか?」


 少女は怯えた表情で首をコクンッと縦に振りました。


「君の名前は?」

「………。」

「家は何処かな?良ければ送るけど…」

「………。」


 さて…困ったぞ…。どうしよう…。


「ちょっとステータス見せて貰うね」

「………?」

「兎人族のミミちゃんか。9歳なんだね。でも、それ以外に家が分かるような情報は無いか…」


 うーん…セリアの孤児院で預かってもらう?でも、ライトが助けたのを見られちゃってるから孤児院に迷惑をかけるかも。

 無責任に放置する事はできない。俺に責任がある。だけど…ずっと付いててあげるのは難しい…。

 あの人にお願いしてみよう…。


「ミミちゃん。ひとまず安全な所に連れて行かせて貰うね」


 俺はミミちゃんを抱っこしました。特に嫌がるそぶりはありません。


「ライト。この兵士達はどうする?」

「ディート。任せても良いか?」

「あぁ。大丈夫だ。捕虜にしておこう」

「悪い。よろしく頼む」


 それから俺は、ミミちゃんを抱っこしたままゲートでレイオスに移動しました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「バレッタ…頼む!」


 俺は深々と頭を下げました。前屈でもしてるのか?という勢いです。

 ミミちゃんは俺の横で不思議そうに見上げてます。


「ら…ライト様。どうされましたの?」

「実は子供を保護して…この子の面倒をお願いしたいんだが…」

「それは…ギルド業務じゃありませんわね…」

「う…」


 そりゃそうですよね…。でも、バレッタの返事は予想外なものでした。


「良いですわよ」

「ほ…本当か?」

「ライト様に嘘なんか吐きませんわ。ライト様の助けになるのでしたら、公私に関わらず何でも致します。むしろ…頼って頂けてとても嬉しいですわ」

「助かる。ミミちゃん、このお姉さんはバレッタだ。しばらく一緒に過ごして欲しいんだが…」


 ありゃ…ミミちゃんが俺のマントを掴んで離しません。そりゃあ不安だよね。


「ミミちゃん。このお姉さんは大丈夫だよ。俺が1番信頼してるお姉さんだ」

「そ…そそそ…そんな…照れますわ。恥ずかしいですわ」


 ミミちゃんがバレッタをじーっと見つめています。


「ふふふ…いらっしゃい」


 バレッタがしゃがんで腕を広げます。ミミちゃんはバレッタの所へ歩いていって腕の中に飛び込みました。

 2人はギューっと抱きしめてます。


 ひとまず良かった…。自分の無力が情けない所だけど…。

 バレッタ。本当にありがとう。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

ブクマして頂けたり、↓の☆で皆様の評価をお聞かせ頂けるととても嬉しいです!


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ランキングサイトに移動しますが、そのサイトでの順位が上がるみたいです。よろしくお願いします!

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