頼りになる相棒
「リルがどうかしたのか?」
「いや…驚いてしまったが、ただの同名だろう。忘れてくれ」
えー…。明らかにおかしな反応でしたよね。それに、何か部下っぽい人に小声で話し掛けてます。反応からすると指示を出してるみたいなんですが…。
あ、指示された部下が何処かへ走って行きました。気に…なる…。
「それよりも世界樹の話だ。中へ入れ」
「あぁ。分かった」
建物に入ると、真ん中に大きなテーブルがあるだけの殺風景な空間になっていました。
ディートはテーブルの奥側に行って椅子に座ります。
「お前達も座れ」
「ありがとうございます」
ディートに勧められてロンドが椅子に座りました。
俺は護衛なので後ろに立っていようと思います。
「で、世界樹の葉が必要だという理由は?」
「はい。レイオスに住む数万人の命に関わる話なのですが…」
ん?初耳だぞ…。
「レイオスの南方には静寂の森があるのですが、その奥には山脈と繋がっている場所があります」
「トロールやオーガ等の大型魔物で有名な所か」
「その通りです。最近、その場所で魔物の異常行動に関する報告が上がってきました。冒険者ギルドに依頼をして調べた所………スタンピードの疑いがあります」
スタンピードって、魔物が溢れかえって周辺を襲いだすんだっけ?しかも大型って…本当に危険な状態じゃないですか。
「なるほど。大変な状況なのは分かった。しかし、何故世界樹の葉が必要になるんだ?」
「対策を検討する為には静寂の森を詳しく調べる必要がありますが……最奥から濃厚な瘴気が溢れ出す様になりまして、静寂の森に近付く事が出来なくなってしまったのです」
「聖属性術者に祓わせては?」
「それは…」
あ、レイオスには居ない事になってるんだっけ…。
「腹を割って話しましょう。私も最近知ったのですが、実はレイオスには聖属性持ちがいます。まぁ…個人的には冒険者ギルドに思う所もあるのですが…それは今は置いておきましょう」
セリアの呪いを解く時に、バレッタに居ないって言われたもんね…。まぁバレッタの権限じゃ話せなかったんでしょう。許してあげて欲しいな…。
「その者が浄化に行ったのですが…残念ながらダメでした。入り口が一時的に薄くなるものの、奥から瘴気が溢れてくるのです」
「範囲と魔力量の問題か。それならば、もっと人数を集められないのか?」
「そうなると、ゼノン聖国に頼るしかないのですが…」
「頼れば良い」
おっと…ロンドが悲しい顔をしています…。
「レイオスの領主であるアレク様が、国を介してゼノン聖国へ協力の依頼をしました。王城には遠距離でも連絡可能な魔道具があるんです…。しかし、危険なので協力はできないと…」
「はぁ…。人族は、数が多いのになぜ協力し合わないのか…」
「お恥ずかしい限りです…」
この話は人族として情けない限りですが、世界樹の葉が必要になる理由がわかりませんね…。
でも、そう思ったのは俺だけだったみたいです。ディートは少し考えると自分の予想を話しました。
「しかし…なるほど、話が見えてきた。せめて探索者を守りたい訳か」
「おっしゃる通りです。世界樹は世界の邪を浄化していると聞きます。その繊維で作られた装備を付ければ、探索者の周辺は浄化されるだろうと…」
世界樹にはそんな役割があるんですね。知りませんでした…。
「理由は把握した」
「で…では、お譲り頂けるのでしょうか?」
「申し訳ないが………駄目だな」
「そんな…何故……」
「まず、危機が可能性でしかない。次に、人族で対応可能なのに人族内の問題で対応できていないだけだ。その尻拭いを我々がしなければならない通りはない」
まぁそうなんだけど…。助ける理由が無くても、助けちゃ駄目な理由が無いなら売ってくれれば良いのに…。
同じ様に考えたのか、ロンドがディートに食い下がります。
「しかし…もしスタンピードが発生してしまったら取り返しのつかない事に…。決して損の無い内容で取引しますので…」
「そこが違う。世界樹は我々にとっての神だ。我々の所有物とは考えていない。故に取引という発想はない」
「う…」
「我々としても、どうしても必要な場合にのみ下賜して頂くのだ。故に、必要なものは益ではない。義や信だ」
うーん。なるほど…。これから義と信を積み上げるのは時間的に難しそうだな…。
まぁ、時間的にとか考えて利己的にやってる時点でダメかもしれないけど…。
「く…何か他に提示できる利点はないか…」
んー…ロンドでは厳しそうだな…。相手がしているのは商いじゃないから…理屈が噛み合ってない。
すると、横で黙って聞いていたリルが質問してきました。
「ねぇねぇ。スタンピードっていうのが起きると、静寂の森はどうなるの?」
「溢れた魔物によって踏み荒らされる可能性が高いかな…」
「ユニコーンさんは?」
そうなんだよね…。レイオスの人達も心配だけど、中心の湖にいるユニコーン達も心配です。
「ユニコーンはDランクだから…蹂躙されるか、一緒になってレイオスを襲ってくるか…」
「えー!やだなぁ…」
そうだよね…。もう俺が勝手に行ってこようかな…。
なんて考えていたのですが、唐突にリルがディートへ話しかけました。
「ケチなおじちゃん!葉っぱくらい良いじゃん!ちょうだいよ!」
うっは!!さすがリル…理屈なんて関係無しです…。
「ケチ…。いや、そう言う事ではなくてだな…」
「世界樹さんがヤダって言ったの?おじちゃんの神様は不幸が好きな嫌なやつなの?」
「いや、そんな事は…」
「だったら良いじゃん!」
ディートがタジタジです。良いぞリル!
こっちに救いを求める目線を向けて来ますが、そんなのは無視します!
「グルルルルルルル…」
「ディ…ディート様…」
あ…。リルがディートを威嚇していると、建物に入る前に走って行った部下が戻ってきました。
そして、ディートの耳元で何やら報告しています。
「そうか…分かった。長老が言うのであれば仕方がない」
おや…いったいどうしたのかな?売ってくれるのかな?
「長老がお会いになるそうだ。今から里へ連れて行く。ただ、悪いが人数は制限させてもらうぞ。ロンド殿、ライト、リルの3名だけだ」
「おぉ!構いませんとも!長老殿と直接交渉できる場を設けて頂き、ありがとうございます!」
お…もしかしたら売ってもらえるかもしれませんね。それにしても…なんでリルが名指しで選ばれたんだろう…。
ほら、リル行くよ。ディートに噛み付くのは長老にも断られてからにしようね。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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