リル散歩
「魔王様。預かっていたアイテムですが、無事に双葉達へ渡せました」
「え?もう来たの?予想より早かったね」
今はロンドさんからの護衛依頼でアクル王国を移動中なんですけど、夜営時間を使って奈落の底に来ていました。
代理としてイトを置いてきたし、リルもいるので護衛は大丈夫だと思います。
護衛依頼の内容は、アクル王国の東側にある街での買い付けなんですけど…何やら重要な品物らしくてロンドさん自身が出張ってきていました。
そこで、いつもより護衛にお金を掛けて、僕に声が掛かったという訳です。
それにしても、バスに聞いたイビルドラゴンの能力を考えると、聖女パーティはもっと苦戦すると思ってました。
「でも、無事にイビルドラゴンが倒せたみたいで良かったよ」
「それが…」
あれ?倒した訳じゃないのかな?
「イビルドラゴンはおらず戦闘にならなかったそうです。状況から考えますと…外に逃げた可能性があります…」
「え!ダンジョンボスって外に逃げる事があるの?」
「基本的にはありません。特にドラゴン種の様な巨体の場合は道を通れませんし。ただ…イビルドラゴンは時空属性が使えますので、もしかしたら…という感じです」
何処に行ったんでしょうね…。今のところは何処かで暴れてるって噂は聞きません。
「まぁ僕が考える事じゃ無いね。とりあえず双葉達に渡してくれてありがとう」
「恐れ入ります」
それぞれに適した物を選んだつもりなので、みんなの助けになれば良いな。双葉と白鳥さんのは僕の手作りだからちょっと不安だけど…。
「そう言えば、バレッタが準備してくれた鞍と籠はどう?」
「鞍は問題無いのですが、籠は空を飛ぶ時だけにした方が良さそうです。陸上だと上下に跳ねてしまい…乗り手には厳しそうでした」
「そっか…まぁ改良案とか考えてみるよ」
「宜しくお願い致します」
とりあえず、僕とリルが乗るだけなら問題無いでしょう。
「じゃあ奈落の底で待ってて貰う必要も無くなったから、一緒にリルの所に戻ろっか」
「はっ!承知しました」
明日にはアクル王国の王都に着きます。実は、ちょっとドキドキしてました…。
クラスメイトに会うつもりはありません。でも、偶然姿を見るかもしれない…。会いたい様な、会いたくない様な…違うな、怖いんだ…。そんな複雑な心境でした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここが王都?人がいっぱいだねー」
俺たちは王都に到着しました。目的地は東の街なんだけど、西側にあるビオス王国から向かうと途中で王都を通るんです。
今日は王都に宿泊して、明日の朝に再出発する予定になってます。
「そうだよ、リル。迷子にならない様に気をつけてね?」
「匂いで分かるからだいじょうぶだよー!」
「そっか。リルは凄いね」
俺とリルはコクヨクに乗っています。人が近付かないので、言葉遣いを気にしなくて良いのが楽ですね。
そして、そのまま王都を歩いて行くと、宿泊する宿に到着しました。
「ロンドは今日どうするんだ?」
「市を見て物価などを確認したいと思っています。ライト様はご自由になさって大丈夫ですよ」
自由か…。さて、どうしようかな…。
「リルはどうしたい?」
「リルはお散歩してくるー!」
「ん?1人で行ってくるのか?」
「うん!ライトは気になる事があるみたいだから、それやった方が良いと思うよ!」
見透かされちゃってましたか…リルは鋭いなぁ。せっかくリルが後押ししてくれてるんだし、僕も勇気を出してみますか!
「分かった。じゃあ別行動だな。夜までには帰ってくるんだぞ?」
「はぁーい!」
じゃあ、僕はみんなの様子を見てこようと思います。来ようと思えばいつでも来れるんだけど…だからこそきっかけが無いと言うか…今回は良い機会なのかなと思ったんです。
みんな元気にしてれば良いけど…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ここからリル視点になります。
「ふんふふーん♪」
初めて見る食べ物がいっぱーい!
アクル王国は異世界召喚をいっぱいしてるから、異世界のごはんが色々とあるみたい!
ごはんと交換できるお金?っていう銀色の板をトールがいっぱいくれたから、いっぱい食べるの!
「おじちゃん!このくれーぷっていうのくださいな!」
「あいよ。銅貨7枚だ」
「はい。コレ」
「銀貨1枚だから、お釣りの銅貨3枚だ。すぐ作るからちょっと待っててな」
わぁー。美味しそうなのに美味しそうなの乗せてるー!美味しそー!
「ほら完成だ。落とさない様にな」
「ありがとー!」
パクッ!
やっぱり美味しいー!異世界のごはんって凄いよー!
それからは、歩きながら色々食べたよ。タコヤキは『残念ながらタコが入ってないんだ』って言われたけど、タコってなーに?でも美味しかった!
そうやってお散歩してたら、何だかうるさい人たちに会いました。
「おい!よくも僕の服を汚してくれやがったな!」
「ご…ごめんなさい」
「ごめんなさいで済むか!一般人が伯爵家跡取りである僕に粗相したんだ。奴隷に落として売ってやる!」
「そんな…」
「お前ら、こいつを捕らえろ」
「はっ!」
何だか兵士っぽい人達が女の子を捕まえようとしてるので、リルは話しかけてみることにしました。
「どうしたの?」
「は?何だお前は?」
「リルはね。Fランク冒険者なんだよ!」
「……。Fランク冒険者如きが…何の用だ?」
兵士さんたちは何だか困ってるみたい。でも、リルはちゃんとトールに教わっているのです!
「えっとね。女の子は泣かしちゃダメなんだって!泣かせた方も辛くなるみたいだよ!」
「お前…ふざけてるのか?」
「え?リルはふざけてないよ?」
「おい!何してる!その女も一緒に捕まえてしまえ!」
「はっ!」
何だか分からないけど凄く怒ってる。うーん。トールから1人で戦闘しちゃダメって言われてるから………戦闘ごっこしよう!
人間の身体にはまだ慣れてないんだけど…ちゃんと手加減できるかなぁ?死なない様に気をつけて…えいっ!
リルの右手から放たれた空気の塊は、襲い掛かってきた兵士達を数十メートル吹き飛ばしました。
うん!死んでない!
それにしても、なんでトール以外の人間は攻撃を避けないんだろう?ふしぎー!
「貴様!トレイラル伯爵家に歯向かうのか!?」
えっと…どういう事なんだろう?攻撃したら攻撃されるよね?その事を人間は歯向かうって呼んでるのかな?
そして、分かんなくて首を傾げてたら、知らない人達が話しかけてきたよ!
「ねぇ?これって誘拐事件とかだったりするの?」
「リルには分かんない。あの子を奴隷にして売るんだって」
「………へぇ」
怒ったのかな?話しかけてきた人達はトレイラル・ハクシャクケの所に行っちゃった。
「久しぶりに王都に来たら、こんな所に出くわすなんて…」
「何だ?お前…た…ち………あ…聖女…様?」
「ふーん。麗奈の顔を知ってるんだ?じゃあ召喚の時にいた人なのかな?」
トレイラルはキョドキョドしてる。あの女の人が怖いみたい。
「聖女パーティは…な…奈落迷宮に行かれてたのではないのですか?」
「踏破したから戻ってきたのよ。ところで…あの子を奴隷にして売っちゃうって…本当?」
「え?あ…いえ…そんな事は…」
女の人がトレイラルをじーっと見てるよ。やっぱり凄く怒ってるみたい。
「だったら、ここに用事…無いよね?」
「あ、はい!ありません!失礼します!」
あ、トレイラルが仲間を置いてどっか行っちゃった。この女の人がすごく怖かったんだね。確かにつよそー!
「あ…あの!助けてくれてありがとうございました!」
「良いんだよ。それに、私達よりあの子にお礼言わなきゃね」
リルのこと?女の子がリルの所に歩いてきてペコリとお辞儀をしました。
「あの…ありがとう!」
「うん。いいよー!」
なんだろう?えへへ…何だか鼻がムズムズするぅ!
「ねぇ。あなた凄く強そうだし、良かったらちょっとお話ししない?」
話しかけてきた怖いお姉さんを見ると、お姉さんの後ろで太陽がオレンジ色に輝いてました。
もうすぐ太陽が沈んじゃいそう!
「あ!もう帰らないとト…ライトに怒られちゃう!」
「あ、待って!せめて貴方の名前を教えて!」
「リルはリルだよ。またね!」
帰るのが遅くなったらトールだけ美味しいの食べちゃうかも!急いで帰らなきゃ!
ズルいのはダメなんだからね!
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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