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透許すまじ…

※双葉視点になります。


「あの…敵じゃないんですか?」

「うむ。敵対する気は無い。我が主より、迷宮踏破者は城へ案内し褒賞を与える様に仰せつかっている」


 とりあえず敵じゃないみたい…良かった…。でも、城に連れていかれると困っちゃうな…。


「あの…私たちはイビルドラゴンなんて倒してないので…褒賞を受け取る権利は無いんじゃないかな?って思うんですけど…」


 私は城に連れて行かれるのを回避するために、権利が無いことを主張してみました。でも、お馬さんはキョトンと首を傾けています。


「ん?しかし、ここに辿り着けているではないか。99階層でボスを倒したのではないのか?」

「えっと…ボスはいなくって階段が出てる状態でした…」

「そうか…可能性があるとしたら…ふむ…」


 お馬さんは何やら考え事をしています。もう透を探しに行かせてもらえないかな…。


「あの…と言う事で、私たちは倒してないので、もう行っても良いですか?私たち人を探してるんです」

「いや、到達した事には変わりない。褒賞を受け取る権利はあるだろう」


 うぅぅぅぅぅ…。人を探してるって言ってるのに…イライラしてきた!


「あの!さっき言った通り、人を探しに来たんです!奈落の穴を探さなきゃいけないんだからほっといて下さい!!」

「す…すまない…」


 お馬さんがびっくりしちゃいました…。お馬さんって繊細な動物なんだっけ?悪い事したかなぁ…。

 でも、そしたらありがたい提案をしてくれました。


「うむ。では先に奈落の穴にも乗せて行こう。それでどうか?」

「え?いいの?私たち装備もあるし結構重いよ?特に田中くんとか…」

「そうだな…俺自身の体重も装備もな…」


 えっと…装備込みで考えると…5人で400キロくらいになるのかな?もちろん内訳は秘密です!


「造作もない。5人乗せては空は飛べぬが、地上は走れる。ここからならば半刻も掛からん。乗るが良い」


 そう言うと、お馬さんは乗りやすい様に座ってくれました。それでも全然高いけど…。


「双葉ちゃん凄い!交渉上手だね!」

「私は何もしてないけどね」

「脅迫……」


 和也くんが何か言ってる気がするけど無視します。


「じゃあ…お願いします!私は立花双葉です」

「うむ。我は王の足。名をコクヨクと言う。背中の籠に乗り、しーとべると(・・・・・・)を締めるが良い」


 王の足って事は何処かの王国に属してるのかな?アクル王国じゃなさそうだけど…。

 背中に登ってみると、首の付け根には鞍がありました。背中からお尻にかけてはお相撲の枡席みたいになってます。

 ここがコクヨクさんが言ってた籠かな?全員が籠に座ってシートベルトを締めました。

 何だかアトラクションっぽくてワクワクしてきた!


「では…行くぞ!」



…………。

………。

……。



「ごめん…足に力が入らなくて立ち上がれない…ちょっと待って…」

「俺は気持ち悪い…」


 出発してから15分くらいで奈落の穴に到着しました。コクヨクさんは凄く速かったよ…。ううん…速すぎ(・・・)だよ…。

 たぶん200キロくらい出てた気がするけど…四足歩行だから上下運動が…。横には動かないでくれたのが救いかな。目の前に来た魔物が全部吹き飛んでたけど…。


 男性陣は籠から降りる事さえ出来なくなっています。かく言う私も、籠からは降りられたものの、そのまま地面にへたり込んでしまいました…。

 アトラクションっぽいとか思ってた15分前の私に『油断するな!』って教えてあげたい…。


「所で…なんで2人は平気なの?」


 平気って程ではないのかもしれないけど、何故か麗奈と仁科さんは私たちより元気です。


「私、三半規管強いから」


 まぁ、仁科さんは納得できます。


「スタートしてすぐに気絶してたよぉ…」


 苦手過ぎたのね…麗奈頑張った!そっか…身を委ねた方が楽だったのかぁ…。

 さて、そろそろ立てるかな。私は探索を開始しようと思ってコクヨクさんに質問をしました。


「上から落下してきた場合、どこら辺に落ちると思います?」

「『穴の下の何処か』としか分からんな」

「そうですよね。…よしっ!」


 地道に確認したいと思います!透は絶対生きてる…その証拠を見つけてみせます!


「分担しよう。麗奈は田中くんが復活したら2人であっちの方をお願い。仁科さんはそっちを。私はこっちを見るね!和也くん聞こえてるー?復活したらここら辺の確認よろしくね!」

「はぁ〜い…」


 籠の中で倒れてる和也くんの返事が頼りないけど、実は責任感が強いからきっと大丈夫。

 よし!頑張るぞー!



…………。

………。

……。



「これ…何だろう?」

「まぁ…クレーターだよね…」


 私の呟きに和也くんが答えてくれました。

 みんな外側から確認していったんだけど、残念ながら何も見つからなくて…真ん中で合流したらそこにクレーターが有ったっていう感じです。


「まさか…透が落ちた跡?でも…人が落ちても普通はこう(・・)はならないよね…?」

「んー…でも、普通は(・・・)って話をすると、生きてないはずって事になっちゃうよね。逆に言うと、親友が生きてるんだとしたら、普通じゃない事が起きたんじゃないかな?特性魔王とかも関係してるのかも」


 そっか…。透は生きてる。って事は、普通じゃない事が起きたって事だよね。そしたら…クレーターくらい出来ててもおかしくないよね!


「そうだよ双葉ちゃん!確認してみよう!」

「うん。そうだね!」


 私たちはクレーターの中心に下りてみました…。


「透…」

「透くん…」


 クレーターの中心には…もの凄い血の跡が残っています。そして、ローブの切れ端が挟まっていました。

 確か…あの日に透が着ていたローブはこんな色だった気がします。


「立花さん。私見を言ってもいい?」

「うん。もちろんだよ。仁科さんの意見を聞かせて」

「血の跡はあるけど死体はない。魔物に食べられたのなら骨が残ってそうだけど、それもない。それに、服はもっと引き千切られると思う」


 えっと…つまり…?


「透くんは、何かが起きて生きてるのか、誰かがここから運んだんだと思う」

「そっ…かぁ…」


 私は、一緒に下りてきてくれたコクヨクさんに質問してみた。


「奈落の底に人が居るとしたら…何処ら辺に住んでると思います?」

「奈落の底にある建物は城だけだ」


 城…そうだ、城!人間的な文化があるじゃない!


「あの…お城に連れて行って貰えますか?」

「当然だ。我が目的を忘れたか?」


 そうでした…そもそもお城に招待されてるんでした…。


「それじゃ…よろしくお願いします!ただ…」

「どうした?」

「今度はゆっくり走ってもらっても良いですか?4分の1くらいで…」


 コクヨクさんは優しい目をして答えてくれました。


「承知した」



…………。

………。

……。



「うわぁー。大きいお城…」


 むむむ…。これ、人のお城じゃなさそう…。でも、人も住んでるかもしれないかぁ…。

 私が考え事をしていると、麗奈がコクヨクさんに質問しました。


「あの…コクヨクさん。結界が張られてるみたいなんですけど…通れるんですか?」


 え?そんなのが張られてるの?さすが麗奈!良く気付いたなぁ。


「うむ。お主達は承認されているので問題ない」


 いつの間にされたんだろう?踏破者だからかな?


「では入るぞ」

「あっ、はい!了解です!」


 私たちはコクヨクさんに乗ったまま城の中に入りました。降りなくて良いのかなぁ…。


「コクヨクさん、このお城って誰か住んでるんですか?」

今は(・・)住んでおらん」

「そっかぁ…」


 コクヨクさんはそのまま奥に進んで行き、ある部屋の中に入りました。

 リビング…かな?ちょっと配置のバランスが悪いというか、ソファが足りない気がします。


「ここでしばらく寛いでいてくれ。褒賞を持ってくる」

「うーん。人を探したい所だけど…わかりました」


 色々と助けて貰ってるし、我儘ばっかり言ってちゃダメだよね。

 コクヨクさんは、褒賞とやらを取りに部屋を出て行きました。


「双葉ちゃん。ティーセットがあるけど紅茶飲む?」

「うん。あ、でも、ずっと放置されてたんならホコリが溜まってるんじゃない?」

「んー、あ、ほんとだ。ちょっとホコリ付いてるかも」


 え…ちょっと?付いてるかも?


「麗奈。ちょっと見せて」

「うん。はい」


 私は麗奈から渡されたコップを確認してみました。確かにちょっとだけ…2、3ヶ月使ってなかったくらい…。


「ねぇ。この部屋に誰かが住んでた形跡ないかな?ちょっと探してみよう?」

「うん!分かった!」


 みんなで部屋にあるものを片っ端から確認します。

 ちょっと前まで誰かが住んでいた気はする…。でも、透だと断定できるものが見つからない…。


「………グス。グス…うぅぅ…」


 え…。麗奈が…泣いてる…?


「麗奈、どうしたの?辛くなった?」


 麗奈がブンブンと首を横に振ります。


「透くん…。透くん…やっぱり生きてたぁ…」


 麗奈は1冊のノートを手に持っていました。


「麗奈。ちょっと見せてくれる?」

「うん…」


 私は、渡されたノートを開いて中を確認すると、声に出して読みました。


「火+土でボルケーノ。土+風で飛行。×××××× これはヤバい。×××××× 絶対に使っちゃダメ」


 最後の2つは組み合わせを塗りつぶしてるけど、合成魔法をメモってたのかな?はは…透の…字だぁ…。


「双葉ちゃん…。透くんの字だよね?」

「うん。確実に…。麗奈、良く見つけたね」

「えへへ…」


 これで、透が生きてた事がはっきりしました。信じてたけど…生きてるって信じてたけど…やっぱり凄く嬉しいです!


「2人とも親友の字が分かるんだね…」

「余計な茶々入れないの」


 でも…そうなると、1つの疑問が生まれます。


「何で私たちの所に帰って来ないだろう?」

「え?あー…何でだろうねぇ…?」

「帰って来ないって事は、帰って来れない理由があるって事」

「そ…そうだね…」

「透は、自分に関する理由だったら割り切って戻ってくると思う」

「え?そうかな…」

「多分、私や麗奈が冷静でいられない理由がある」

「え?あ…えっと…」

「地上に戻ろう。透は地上で潜伏してる(・・・・・・・・)!」

「え!?」


 ズンッ!ズンッ!

 ちょうど良い所にコクヨクさんが戻ってきました。


「コクヨクさん、お帰りなさい」

「待たせたな。このマジックバッグに褒賞が入っている。マジックバッグごと持っていくが良い」

「わぁ!ありがとう!」


 受け取ったマジックバッグから中身を出してみると、ちょうど5つのアイテムが入っていました。

 入っていたのは、腕輪、ブローチ、短剣、ローブ、そして鎧です。


「ん、んん。双葉は腕輪、麗奈はブローチ、咲は短剣が良いのではないかな。和也はローブで修平は鎧が良いと思うぞ」


 コクヨクさんがオススメを教えてくれました。


「なるほど…。地上で鑑定してから考えますが、参考にさせてもらいますね!」

「うむ。そうか」

「では、私たちは地上に戻ろうと思います。色々とありがとうございました!」

「うむ。お主らの未来に幸あらんことを」


 あー、奈落迷宮…大変だったなぁ。もう来なくて良いと思ったら、何でか名残惜しい気持ちも出てきました。

 いや、ダメダメ!透を見つけなくちゃ!


「和也くん。ゲートお願い」

「了解!」


 和也くんが1階へと続くゲートを作成しました。では、地上に帰ろうと思います。


「コクヨクさん。また!」

「うむ。またな」


 何でだろう?もう奈落迷宮に来る事は無いと思うんだけど…何となく、また会える気がします。

 そして、私たちの奈落迷宮探索は終了しました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「奈落迷宮、踏破しました」

「な…本当ですか?」


 私たちは、1階入り口にある迷宮管理所に報告をしています。一応、ちゃんと伝えておいた方が良いかな?と思って…。


「別に信じてくれなくても良いですけど…」

「申し訳ありません…。えっと…疑う訳では無いのですが、何か証明する様な物はないでしょうか?」

「一応、踏破した褒賞として貰った物はありますけど…別に踏破してないって事でも良いですよ?そもそも…」


 バンッ!!


 職員さんの疑いを晴らすどうでも良い話をしていたら、大きな音を立てながら部屋の扉が開かれました。


「奈落迷宮が踏破されたって…本当ですか?」

「城之内君…」


 部屋に入ってきたのは勇者・城之内君でした。


「くっ…畜生……。俺が負けるなんて…」

「………。」


 城之内君は何を勘違いしてるんだろう…。

 すると、麗奈が城之内君の方に歩いて行きました。


 カツカツカツカツカツカツ…


「白鳥さ…」

 パンッ!!


 麗奈が…城之内君の頬を平手打ちしていました…。


「私たちは透くんを探してたんです!別に競争なんてしてません!あなたは何をやってるの!?」


 そうだよね…。勝ち負けなんて無いよね…。

 でも、勇者様には分からないみたい…。


「僕は勇者に…みんなの助けに…」


 うん。付き合ってられないかな。城之内君は放置して、久々に王都に行きましょう。


 透…何か事情があるのは分かるよ?でもね…絶対に許してあげないんだから!

 透も、私と麗奈のビンタを受ける覚悟をちゃんとしてなさいよ!

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

ブクマして頂けたり、↓の☆で皆様の評価をお聞かせ頂けるととても嬉しいです!


あと、下にある『小説家になろう 勝手にランキング』をクリックして貰えると助かります!

ランキングサイトに移動しますが、そのサイトでの順位が上がるみたいです。よろしくお願いします!

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