踏破
※ここから双葉視点になります。
「みんな!今日もよろしくね!」
「うん!双葉ちゃん!」
私達は昨日、やっと98階までやってきました。今日はたぶんボス戦になると思います。90階台のボスはAランク数体って事もあったけど、殆どSランクばっかりだったから今日もSランクな気がするなぁ…。
Sランクって下位でも凄く強いんだよ!正直に言うと、和也くんが時空属性を使えなかったら勝てないかもしれないです…。
そんな頼りにしてる和也くんなんだけど、何だか凄く疲れてるみたい…。大丈夫かな?
「和也くん、疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「立花さん、心配してくれてありがとう!でも、大丈夫だよ。怒られ過ぎて心が疲れてるだけだから…」
また仁科さんに怒られたのかな?和也くんも懲りないから…。でも、仁科さんがあんなに感情を見せる男の子って和也くんくらいなんだよね。
和也くんが変な事さえしなければ…無くはないんじゃないかなぁ?ふふふ…。
「じゃあ、みんな準備は大丈夫かな?」
「「「「はーい!」」」」
それから私たちは98階のボス部屋を探して歩き周りました。
ちなみに、和也くんが魔法を覚えるまでの隊列は『仁科さん >>> 私 >>> 山田くん>麗奈>和也くん』っていう感じだったんだけど、今は『仁科さん >>> 私+ 和也くん > 山田くん>麗奈』って感じになってます。
そうして歩いていると、仁科さんがハンドサインで敵がいる事を教えてくれました。
「和也くん、Aランクが1体みたい。いつものパターンで行くね」
「了解。無理しないでね」
私と和也くんは前進して仁科さんを抜くと、敵の姿を見つけました。
キマイラだ…飛んでない!チャンス!
キマイラは、ライオンの頭と山羊の頭、蝙蝠の羽に蛇の尻尾を持つ魔物で、火は吐くし、蛇に噛まれると石化するし…と、凄く多才な魔物なんです。
私はキマイラのもとへ飛び込んで行くと、前足の関節にローキックを入れてから背中に飛び乗りました。そして背中に生えている蝙蝠の羽を抑えます。
背中に乗った私が邪魔みたいで、キマイラは蛇の尻尾で攻撃してきました。くぅ…羽を抑えながら避けるのが大変です…。
「和也くん!オッケーだよ!早くお願い!」
「了解!ディメンションブレード!」
和也くんの一撃で、キマイラは縦に真っ二つになっていました。そうなんです…いま1番のアタッカーは和也くんなんです!
ただ、当たれば無類の破壊力を見せる時空属性魔法も無敵という訳じゃありません。術者の知覚よりも早く動かれれば攻撃が当たらないし、転移による高い回避力があっても敵の攻撃を認識できなければ避けられません。
つまり、不意打ちに弱かったり、敵の足止めが必要だったりするんです。それで、今の私の役割は撹乱と足止めになっていました。
「それじゃキマイラはアイテムボックスに入れちゃうね」
「和也くん、よろしくー!」
ふぅ…。雑魚でこれだから…やっぱりボスは強そうだなぁ…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「立花さん、着いたみたいだよ」
「大きな扉だねー。ここのボスは凄く大きいのかな?」
今まで見てきた中で1番大きな扉です。ボスの体の大きさも比例して大きい様な気がします。
「双葉ちゃん、どういう作戦で行くの?」
「そうだね…。相手が何かも分かってないから、麗奈、和也くん、田中くんは後方待機。仁科さんと私で動きを止められるなら和也くんがトドメお願い。ダメそうなら一旦ボス部屋前に戻してもらっても良いかな?」
「了解。まずは後方で白鳥さん達と様子見するよ。戻る時は合図もらえると助かるな」
「うん。分かったよ。じゃあ開けるね」
私が大きな扉を押すと、扉はゆっくりと開いていきました。
広い…横幅もさることながら、高さが何百メートルもありそう。うーん…空を飛ぶ魔物なのかなぁ?
私達は扉の中へ入ると、周りを警戒しながら奥へと入って行きます。
ギャァオオオオオオオオオン!!
何かが叫ぶ音が響きました。聞こえる方向は…やはり、空!
見上げると、空から炎の塊が降ってきています。
「麗奈!結界!」
「うん!」
私と仁科さんは、急いで麗奈の元に駆け寄りました。
そして、炎の塊は地面に着弾します。周囲は炎に包まれていました。でも、麗奈の結界の中は普通の状態と変わりありません。
「やっぱり麗奈の結界は凄いね!」
「そうかな?えへへ…。双葉ちゃん、ありがとう」
炎の塊を飛ばしてきた犯人は、空を縦横無尽に飛び回っていました。
「レッドドラゴン…。レッサーとかじゃなくて本物の竜種だね。和也くん、ここから狙えそう?」
「今のままだと厳しいかな…速くて間に合わない」
「やっぱりそうだよね…」
速い相手だと『ここの空間を斬ろう』と思ってる間に、相手がそこから居なくなってる。って感じになるみたいです。
そのズレを踏まえた上で、未来予測した場所を切らないとダメな訳だけど…複雑な動きをする相手とかだとかなり難しいみたい。
まぁ、だからこそ私が足止めしないといけない訳なんだけど…空…飛んでるなぁ…。
「和也くん、私を転移でドラゴン周辺に送れないかな?」
「できるけど…その後はどうするの?」
「私を食べにきたら逆に叩き落とせるかもと思って」
「無視されたら落ちるだけだよ…」
「そっか…」
こういう時、普通はどうするんだろう?遠くから放出系の魔法を撃ちまくるのかな?
でも、この距離だとあまり当たらないし、ちょっと当たってもドラゴンはタフだし…。やっぱりSランクって難しいね…。
「立花さん、俺自身が行ってくるよ。ちょっと危険すぎて試せてない魔法があるんだけど、これだけ離れてるのは丁度良いかも」
「え?和也くんは大丈夫なの?」
「俺は大丈夫。周りの被害が無差別なんだ…。でも、無差別だからドラゴンも避けようがないと思う」
「そっか。じゃあお願いして良い?」
「もちろん。じゃあ行ってくるね」
そして和也くんの姿は消えました。転移でドラゴン周辺に飛んだんだと思います。
すると、空間の一点にヒビが入りました。強化ガラスをトンカチで叩いちゃった感じです。そして…そこからヒビが周囲に広がって行きます……。
「ちょ…ちょっと…これ大丈夫なの?」
「双葉ちゃん。念のため結界を強化しておくね…」
「綺麗…」
いやいや、仁科さん!確かに花火みたいではあるけど…綺麗ってよりは断然怖いだよ!
でも、結果的には私たちの所までヒビ割れは来ませんでした。ヒビ割れの範囲は半径50メートルくらいかな。
そして、ヒビ割れの拡張が止まると、和也くんが転移で結界の中に戻ってきました。
「ただいま!」
「佐藤くん、おかえり。終わったの?」
「うん。今から死体が降ってくると思うから、仁科さん、まだ結界から出ないでね」
その後の状況は凄惨でした…。空から血の雨と切り刻まれた肉片が降ってくるんです…。
「和也くん、凄いね…。初めての魔法はどうだった?」
「崩壊は禁呪って書いてるだけあってヤバかった…」
「え!?禁呪だったの?」
「禁呪だから一般には広まってないし周辺の被害が酷いからあまり使うなって書いてたよ。でもそれ以上に…」
「それ以上に?」
「紐なしバンジーが超怖かった…」
「ふふふ。私の代わりにやってくれてありがとうね!」
そんな話をしていると、ボスを撃破したので、下へと続く階段と宝箱が出てきました。
「仁科さん。ボスクリア報酬だから大丈夫だと思うけど、念のため宝箱の罠確認お願い」
「うん。分かった」
「開いたらそのままアイテムボックスに収納するね」
「うん。和也くんよろしくね」
やっぱり鍵は掛かってなくて、中には薬っぽい瓶と鏡が入ってました。私たちは鑑定系のスキルが無いので、とりあえず和也くんに収納してもらって、地上で鑑定してもらってからどうするか考えたいと思います。スクロールだったら書いてる内容で大体分かるんだけどね…。
それから私たちはバラバラになったレッドドラゴンの素材を回収して、地下99階への階段を降りて行きました。
素材もバラバラになるし、そういう意味でも崩壊は今後使用禁止ですね!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここをクリアしたら透に会えるかも…なんだね」
奈落の底が何層目にあるのかは不明なんだけど、たぶん100層じゃないかな?ってみんなと話してました。
「うん。奈落の底に到着する可能性は高いと思う」
「そ…そうだね…。親友がいたらいいなあー」
和也くんって時々抑揚の無い喋り方するよね。何でか分からないけど、仁科さんが和也くんにチョップしてます。
私たちは既に99階のボス部屋に到達していました。とは言っても、98階をクリアしてから2日経ってるんですけどね…。
バックベアード?だったかな。目玉の化け物は能力が特殊で面倒だった…。リッチは麗奈が一瞬で倒しちゃったから簡単だったよ!
そして、目の前には98階よりも更に大きな扉があります。
「作戦は98階と同じかな」
「あ、もし俺の力が通じない感じなら一回撤退しても良い?」
「うん!和也くんの魔法が通用しないのは一大事だからね。そうなったらひとまず逃げて対策考えよう!生きてればまたすぐに来れるもん!」
「了解!」
という事で、私と田中くんで大きな扉を押しました。あー、ドキドキするー。
ゴゴゴゴゴゴ…ゴウンッ
「みんな…全周囲に警戒してね!」
みんなが無言で頷いてくれます。そして、私たちは中に入っていきました。
98階と同様に、横幅も高さも凄い空間になっています。ゆっくりゆっくり…周囲を警戒しながら進んで行きます…。
そして真ん中らしき所まで…到着しました。
……………。
「なぁ…」
「何?和也くん」
「何も起きなくね?」
「………だね。更に奥に進んでみよう?」
「だな…」
私たちは、そのまま入り口とは反対側まで辿り着きました。
「………階段があるね」
「マジかー。すげー緊張してたのに…」
何故か、ボスを倒した時に出る階段が既に出ています。
「もしかしたら、隼人君達が直前にクリアしたのかな?」
「私達より先に?白鳥さん。クラスメイト達にはまだ無理だと思うよ」
「そっかー…」
「考えてても分からなそうだし、とりあえず他に何かないか確認してみよっか?」
「そうだね!双葉ちゃんの意見に賛成!」
「それじゃあ…手分けして調査開始!」
それからボス部屋を隅々まで調べてみたけど、1箇所だけ何かを撃ち込んだ様な跡が沢山有るだけで、他には何もありませんでした。宝箱とかも無かったです。
「うーん…じゃあ階段を降りよう!遂に奈落の底かもしれないし!」
「うん!やっと透くんに会えるかも!」
私たちは階段を降りて行きました。
階段を降り切ると、一面には果てしなく続く空間が広がっています。上を向くと遠くの方に天井が見えました。何だか天井が淡く光っている様に見えます。
「1度でイビルドラゴンを倒すとは予想外だな…。ここが奈落迷宮の最深層『奈落の底』だ。よくぞ辿り着いた」
声がした方を見ると、ペガサスとユニコーンが合体したみたいな黒くて大きな馬が立っていました。
え?この馬が…喋ったの…?イビルドラゴンなんて倒してないんだけど…。
そして、一目見ただけで分かります…。
この馬…ヤバいくらい強い…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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