宿屋経営
「まあ、今までは何も問題を起こしてなかったし?今回も物損はあっても人の被害は出てないし?実は普通の犬じゃねぇとも思ってたし?俺らにも責任の一端があるとは思ってるぜ?」
「申し訳…ありませんでした!」
僕はいま、冒険者ギルドの応接室で正座をさせられています…。いや、させて頂いています!横には小型化したリルも連れてきていました。
巨大化したリルは何人かに見られていて、リルがフェンリルだと言う事が冒険者ギルドにバレてしまったんです。それで、ギルドマスターのバルさんから呼び出されてしまい、現在お説教中という訳です…。
「宿屋の賠償をちゃんとするなら、今回に限りギルドとしては不問にしてやる。当然だが、ちゃんとリルの従魔登録をする前提でな」
バルさんの温情判決に感謝です!当然弁償はするんですけど、その上で牢屋に入れられたりギルドカードを剥奪される可能性も考えてました…。
「ありがとうございます!修理費はもちろんですが、修理中の売上保証とかも含めてしっかり賠償します!」
「ワフゥ…」(ごめんね…)
リル…。僕が原因なのに一緒に謝ってくれてありがとう…。
バルさんは僕達をじーっと見つめて…溜息を吐いてから話し始めました。
「まぁ、しっかり反省はしてるみたいだな…。エルマ。リルの従魔登録をしてやれ」
「承知しました。ではトールさん。こちらに記入をお願いします」
「はいっ!」
僕はコクヨクの時と同じ様に必要事項を記入しました。コクヨク…と同じ…あれ、何か引っかかるな………あっ!
「エルマさん。リルって今のサイズと20メートルくらいのサイズになるんですけど…普通の首輪だと大きくなった時に首が絞まっちゃいます…」
「あ…そうなんですね…。その場合は伸縮自在なマジックアイテムの首輪になるんですけど…高額で有償なんです…」
「対処策は有るんですね。良かったです」
良かった。どうにかお金で解決できそうです。大きくなるの禁止になったら、リルもストレス溜まりますもんね。
「でも…とても高額でして…Fランクの収入ではとても…」
「なるほど…。えっとですね。実はリッケルトに来る前にそれなりの蓄えがありまして、もしかしたら足りるかもしれません。お幾らですか?」
「金貨100枚になります…」
ふっふっふ…。それくらい余裕ですとも。僕はポケットに手を入れると、アイテムボックスからお金を取り出します。
「良かった。どうにか足ります。では、これでお願いします」
僕はポケットから出した1枚のコインをエルマさんに渡しました。
「え?これ…白金貨…ですか?」
「はい。確か金貨100枚分ですよね?」
「その通りですが…え?」
どうしたんでしょう?エルマさんが少し挙動不審です。白金貨は使えないのかな?
「えっと…何か問題でもありましたか?」
「いえ…大丈夫です。失礼致しました。それでは首輪をご用意致しますので少々お待ちください」
「はい。お願いします」
それからしばらくすると、エルマさんがリルの首輪を持ってきて着けてくれました。これでリルと町を歩いても大丈夫ですね。
それじゃあ次は宿屋です。僕は改めてバルさん達に頭を下げると、ギルドを出て宿屋へと向かいました。
「ギルドマスター。私、白金貨なんて初めて見ました」
「そりゃそうだろ。白金貨なんて上位貴族や特別な奴の間でしか流通してないからな。持ってる奴なんてそうそういない。ましてや、ポケットに入れて持ち歩いてる奴なんている訳がない」
「ですよね…。私の感覚が正常で安心しました」
「あいつ…。あの調子で大丈夫なのか…?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやー。実はタイミングが悪くて…どうしようか迷ってるんだよね…」
「タイミング…ですか?」
僕達は宿屋に戻ってきてから宿屋の主人に謝罪をしました。そして、賠償について相談を始めたのですが…何やら問題があるみたいです。
「実は…サリーが学術都市の試験に受かってね。家族で学術都市に引っ越す予定だったんだ」
「え!?そうなんですか?えっと…とりあえずサリーちゃんの合格はおめでとうございます!」
サリーちゃんはこの宿屋の一人娘で、食堂の手伝いを頑張ってる女の子です。いつも元気な接客で、看板娘なんですよね。
「ありがとう。それでね…ここは宿屋として継続してくれる人に売却する予定だったんだ」
「う…それは確かにタイミングが…。壊れてる宿屋は高く売れないですよね…」
「そうだね。まぁ、値段以前に白紙になってしまったよ。さっき商談中だった相手からキャンセルの連絡が来た」
うわあぁぁぁぁぁぁ!ものすごく迷惑かけてるぅぅううう!!
いつも良くしてくれてる宿屋なのに…。恩を仇で返すとはこの事ですね…。
「ちなみに…お幾らの予定だったんですか?」
「金貨150枚だ」
1500万円か…。それなりに広い宿屋の売却としては、思ったより安いですね。この世界は人件費が掛かる物品は安い傾向がある様に感じます。
「えっと…ちょっと時間をください。売却先を探してみます!」
「分かった。でも、あまり無理しない様にな」
迷惑かけてる僕の心配をするなんて…なんて優しい人なんでしょう…。
売却先について、僕には1つの考えがあります。僕はライトの装備に着替えると、レイオスへと向かいました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「バレッタ。サハルさんはどうしてる?」
「ギルドが紹介する日雇いの仕事をして頂いております。ドルツに戻られるか確認したのですが、折角なのでもう少しドルツの外で頑張ってみたいそうです」
「そうか」
サハルさんは、マリーさんとルルちゃんを連れてドルツから逃走し、山賊に襲われていた所を助けた人です。
「実は相談したい仕事があってな。本人と話したいのだが」
「そうですか。それでは夕方にご自宅に行かれるのが宜しいかと思います。仕事が終わって帰宅されているはずです」
「あぁ。分かった。家族全体に関わる事なので一緒に聞いてもらおう」
バレッタから住んでいる場所も聞いたので、改めて夕方に行きたいと思います。何かお土産でも買って行こうかな。
…………。
………。
……。
「突然の訪問、申し訳ない」
「いえいえ。いつでもいらして頂いて大丈夫ですよ」
「あ!ライトのおじちゃんだ!」
夕方に家に行ったら、マリーさんとルルちゃんが出迎えてくれました。サハルさんはまだ帰ってないみたいです。
「サハルはもうすぐ帰ってくると思います。どうぞお入りになって下さい」
「ありがとう。あ、これは皆んなで食べてくれ」
俺はお土産に買ってきた串焼き詰め合わせをマリーさんに渡しました。
本当はお菓子でもと思ったんだけど、この世界はお菓子屋さんが少ないんですよね…。砂糖も凄く高くて、嗜好品なんだなって実感しました。
この世界にサトウキビとか甜菜はあるのかな?今度、糖分の高い食物を探してみよう。
「そんな…悪いです…」
「いや、気にしないでくれ。俺が世話になった人の店で買ってきたんだが、タレが美味くてオススメなんだ。是非食べてみて貰いたい」
「分かりました。ありがとうございます」
せっかくルルス町まで買いに行ってきたので、是非食べて貰えたらと思います。奈落の底から出て、久々に味わった文明の味なんです。
「ママー!食べてもいい?」
「もう…一本だけよ?」
「わーい!」
ルルちゃんが美味しそうに食べてくれてます。買ってきたばかりなので、まだ温かいし柔らかいですからね!
「おいしー!」
「おや?今日は何だか賑やかだね」
お、サハルさんが帰ってきましたね。本当にすぐでした。
「サハル、久しぶりだな。なかなか顔を出せずすまなかった」
「あ、ライト様!とんでもございません。今日はどうされたのですか?」
「実は…3人に相談があって来たんだ」
あれ…ここは訝しがる場面だと思うんですけど…。何故かサハルさんは嬉しそうな顔をして話し始めました。
「何でしょうか?私達にできる事なら何でもさせて頂きますよ!」
「サハル…そんな危険な発言はしない方が良いぞ?」
「ははは。もちろんライト様だからですよ?ライト様が酷い事を言う訳がありませんし、ライト様のお役に立てるのが嬉しいのです」
おっと…嬉しい事を言ってくれますね…。では、単刀直入に言っちゃいましょう。
「ありがとう。では遠慮せずに相談させてもらうが、リッケルトで宿屋を経営する気はないか?確かサハルはドルツで宿屋を経営していたよな?初期費用は俺が出す」
「え?それは…相談も何も、私からすれば非常に有難いお話しです。ドルツで宿屋をやっていた事、覚えていて下さったのですね…」
「では、話を進めてもいいのか?」
「むしろお願いします!是非やらせてください!」
良かった…。どうにかなりそうだ…。
つまり、考えていた売却先は僕でした。対外的にはサハルさんって事にさせてもらおうと思いますけどね…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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