お説教
「ライト君、いったいどういう事かな?」
「ん?何の話だ?」
俺はアリアさんとの食事が終わってから冒険者ギルドに来ていました。まだバレッタが残ってるか分からなかったけど、サリオンの事を相談したかったんですよね。
ところが…来て早々にギルドマスターであるフリードさんに捕まってしまいました…。
「今日グランドマスターが来てね。ライト君とバレッタさんがギルド本部へ移籍した場合の条件を置いて行ったよ」
あ、ハルトのお遣いってそれだったのか。そう言えばハルトが本部への移籍を勧めてきてたな…。
「いやー。とても評価されてますねぇ。破格の条件ですよ?移籍に素直に合意すればレイオス支部の予算は5倍にしてくれるらしいです。もちろんライト君とバレッタさんにも莫大な移籍金が支払われます」
「そう…か…」
フリードさん、笑顔で喋ってるけど目が笑ってないなぁ…。なんだか怖いんですけど…。
「で、移籍するんですか?」
「バレッタがその方が良いならと思って…いる…ん…だが…」
あれ…何だか悪寒がします。フリードさんは変わらずに微笑んでるんですけど…。
「聞きました聞きました。でも、それはどうなんですかね?責任をバレッタさんに押し付けるんですか?」
「いや…そんなつもりじゃないんだが…」
「でも、ライト君が移籍するかはバレッタさん次第なんですよね?そうしたら、ライト君が移籍しなかったらバレッタさんの所為って事になりませんか?先方の恨みはバレッタさんに向かいますよね?」
あ…確かに…。そこまで頭が回ってませんでした…。
「バレッタさん自身やバレッタさんの家族に何かあったらどうするんですか?サリオン様やラインハルト様が変な事をするとは思えませんが、場合によっては誘拐されて脅されてもおかしくないケースですよ?」
実際にやったら俺を敵に回すだけなんだけど、分からなくてやる奴とかいるかもしれませんよね…。
「悪い。俺の考えが至らなかった」
「ふむふむ。では、どうします?」
まずは直接の謝罪。そして、バレッタの気持ちを確認しないとですね。
「バレッタと話しをさせてくれ」
「はい、分かりました。では、バレッタさんを呼んできますね」
ふぅ…フリードさんにお説教されちゃいましたね。ぐぅの音も出ません。これが年の功って奴なんでしょう…。完全に俺が悪いです。
それから少しすると、俺の所にバレッタがやってきました。
「ライト様。お呼びでしょうか?」
「バレッタ。申し訳なかった。バレッタの判断を優先するつもりが、決断を押し付ける形になってしまった」
「あ…その件ですか。実は経緯が分かっていないのですが…」
「帝都に行った時に、2人で本部へ移籍しないかとハルトに誘われたんだ」
「私もですか?正直、評価して頂けたのは嬉しく思いますが…」
「俺は、バレッタがいるなら何処でも良いと考えて『バレッタを説得できたら』と答えてしまったんだ。軽率だった」
「え?そんな…。私がいるなら…何処でも?や…ヤバいですわ…恥ずかしいですわ…」
「ハルトから圧力とか掛かってないか?本当に悪かった」
「あ…あの…。私もライト様がいるなら…何処でも良いですわ…」
どうしたんだろう?バレッタがモジモジしています。
それにしても、バレッタも何処でも良いんですね。実は拘り無かったのかな?
「家族と離れる事や土地への愛着などは問題ないのか?」
「ありますわ…。なので、ライト様が何処でも良いのならレイオスが望ましいです…。でも、ライト様が帝都に行くのなら…私は着いていきますわ」
「そうか。だったらレイオスのままだな。サリオンとハルトには俺から断っておこう。俺の判断でレイオスに残るとな」
「はい!承知しましたわ!」
俺の判断って事にしないと今以上に迷惑を掛けちゃいますからね。バレッタが何だか嬉しそうです。やっぱりレイオスに残りたかったんですね。
そんな、嬉しそうにしていたバレッタですが、ふと何かを思い出した様に話しかけてきました。
「あ、そう言えば。なぜライト様はこんな時間にギルドへいらしたのですか?」
「そうだ。バレッタに相談があったんだ。サリオンから全ての街とダンジョンに金貨1万枚で案内してもらう事になった。この事についてバレッタにも意見を聞いてみたかったのと、支払い手続きをお願いしたくてな」
「なるほど…。ライト様の貯金額、本来の労力、得られる効果を考えますと、私も購入されるのをお勧め致します」
「やはりそうか。バレッタと同じ意見で安心した。では支払いは宜しく頼む」
「承知致しました。あ、それと…」
「なんだ?」
「今回のクエストと大会優勝を鑑みて、ひとまずBランクへの昇格が決まりました。おめでとうございます」
あれ?予定より早いですね。大会優勝が思った以上に効果あったのかな?
「ポイントは不足していたと思うが、特例か?」
「本来はAランクとBランクで鎬を削っているのが金クラスです。それを優勝した人がCランク…と言うのは問題だという事になりました」
「何故だ?」
「ギルドの昇格基準は不適切。またはギルドは見る目がないのだと思われてしまいます」
「なるほどな」
やっぱり大会で優勝しておいて正解でしたね。権威のある大会だというのは本当だったみたいです。
そうして俺が納得していると、突然バレッタが予想外のことを聞いてきました。ちょっと言いづらそうにしています。
「話は変わりますが…。ライト様。アリアさんは如何でしたか?」
「ん?『如何』とは?」
「アリアさん、とても衣装に迷われてたんですよ?私も少し相談に乗りました」
「そうなのか?」
「とても可愛いかったと思いますが、ちゃんと服を褒めましたか?」
「いや。服については何も触れていない」
「………。えっと、じゃあアリアさんの歩調に合わせて歩いて差し上げましたか?」
「いや。気にしてなかったな…」
「椅子を引いたりのエスコートは…?」
「いや……」
「まさか…女性との食事中に他の客と揉めたりはしてませんよね?」
「ムカつく奴がいて店の外に放り出した…」
「………。」
バレッタが『マジかー』って感じの顔をしてます…。だって…双葉以外の女性と2人っきりで食事した事なんて無いし、双葉はそんな事を気にしませんよ?
「ライト様…少しお話があります。お時間頂いても宜しいですか?」
「あ…あぁ…」
それから俺は、バレッタからマナー講習と言う名目のお説教を受けました…。2時間って少しなんですね…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リル、ただいまー。遅くなってゴメンね」
帰るのが予定よりも随分と遅くなってしまいました。何だか、今日は怒られてばっかりで疲れましたね…。
「ワフーン!」(おかえりー!お腹ペコペコだよぉ)
オナカ…ペコペコ…。あ!ヤバい!
近寄って来るリルが、ピタリと止まります。
「ワフッ…」(今日も美味しそうな匂いしてる…)
「あ、いや、その…ね?」
「ワフゥ…」(自分だけ美味しいもの食べてきたね…)
しまったぁ!春の若葉亭でお土産を作ってもらうの忘れてたぁ!!
店に入る直前までは覚えてたのに…。
「ガウッ!」(ずーるーいー!)
「ごめん!リル、ホントごめん!」
リルは僕の足に噛みつきながら文句を言ってきます。痛い…。
「ガウー!」(リルも美味しいの食べたいー!)
「お店はもう閉まってる時間だし…。今日は僕の手料理で我慢して?食材はアイテムボックスにあるやつ何使っても良いから…」
「グルゥ…」(仕方ないなぁ…)
それから僕は大量の料理を作りました…。今日は反省する事が盛り沢山です…。
でも、何だろう。何となく仲間がいるような…心強い感じがするんです。もしかして、和也もお説教されてるのかな…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ここから和也視点になります。
「麗奈。この前の王子が婚約者になって欲しいって?」
「そうなの…。困っちゃうよね…」
「白鳥さん凄い。王子がメロメロだね」
俺の前では、女性陣の3人がお喋りをしています。ここは会話に入らない方が良いでしょう。俺はじーっと座っています。
「この世界だと成人前の婚約とか許婚とかが当たり前みたい。私は許婚なんて考えられないよ」
確かに現代日本人には馴染まない文化だよね。そんな白鳥さんの発言を聞いて、立花さんが何か思い出したみたいです。
「あ、そう言えば…私いるよ?」
「え?双葉ちゃん許婚がいるの?初耳だよー」
「うん。今の今まで忘れてた」
「へー。立花さんだと道場関係かな?私達の知ってる人?」
「うん。透だよ」
「「「………え?」」」
親友よ、マジか!?俺も初耳だぞ!!
俺はあまりの衝撃に、思わず立ち上がっていた。
「佐藤君。正座継続」
「はい」
仁科さんに指摘された俺は、素直にまた座り直しました…。
そんな中、白鳥さんが立花さんに詰め寄ります。
「双葉ちゃん?どうゆうこと?初めて聞くんだけど??」
白鳥さん…瞳孔が開いてて目が怖いっす…。
「えっと、本人達は気にしてないよ?親同士が昔決めたってだけだもん。許婚って言葉で今思い出したくらいだから」
「じゃ…じゃあ、なんで解消しないの?」
「んー。透の両親は亡くなってるから、そういう話がしづらいんだよね…」
「そうなんだ…」
「たぶんこの話は自然消滅するよ。透となんて無い無い。ははは…」
「分かった…。双葉ちゃん、取り乱しちゃってごめんね」
「いいよいいよ。ビックリはしたけどね」
どうやら落ち着いたみたいです。そんな中、仁科さんが立花さんに質問しました。
「透君は無いんだね。じゃあ、透君より有る人はいる?」
「え?うーん…思い浮かばないけど…」
「そう…」
仁科さんが何やら考え込んでますね。どうしたんだろう?
「仁科さん。どうかしたの?」
「気にしないで。埋没爆弾を発見しただけ」
「え!?それは大事じゃ無いのかい?」
仁科さんが俺をじっと見てきます…。熱い視線だったら嬉しいんだけど…目が据わってるなぁ…。
「和也君が懲りずに覗きをしようとする事よりは大事じゃないから、和也君は気にせず反省に集中して大丈夫だよ」
「はい…」
親友よ。何となくだけど、お前も叱られてる気がするよ。強く生きて行こうな…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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