我儘
「俺の婚姻関係か?なぜそんな事を…」
「え?あ…えっと…そんなに深い理由がある訳ではなくてですね!雑談と言いますか…何と言いますか…」
何でかアリアさんがとても焦っています。良く分からないけど、問題のある情報でもないし普通に答えようかな…。
「雑談か。分かった。特に婚姻関係を結んでいたりはしない」
「そ、そうなんですか!?えっと…でも…」
「ん?何だ?」
「許嫁とかはいます…よね?」
あー。許嫁かぁ。何でそんな事が気になるのかな?んー、今ってどうなってるんだろう…。
俺が答えに困っていると、アリアさんの表情が曇ってきました。
「やっぱり…いますよね…。ライト様の様な上流階級では許嫁とか常識ですもんね…」
上流階級ではないんだけどな…。バレッタも勘違いしてたけど、この装備をしてるとそういう風に見えるんだろうか…。
「いや、改めて考えると自分でも分からないんだ…」
「え?そうなのですか?」
「親同士が勝手に決めた話はあったんだが、既に俺の両親は他界していてな」
「あ、申し訳ありません…。ご両親の事を思い返させてしまいましたね…」
「いや、構わない。気持ちの整理は付いている」
そうです…。僕の両親の事については仕方がなかったと思っています。
「と言う訳で、今はどういう扱いになっているのか不明なんだ」
「あの…。先方から解消されたりは?」
「ないな。まぁ、当人達は何も気にしていないからな…」
「そうですか…」
当人達は許嫁にされてる事なんてすっかり忘れてる感じですからね。改めて解消の話とかも出なかったんだと思います。
「はぁ…亡国の王子様とお姫様なのかしら…。本人達は気にせず婚約を継続されてるなんて…強く思い合ってるのね…」
「ん?何か言ったか?」
「い、いいえ!何でもありません!!」
「そうか…」
なんだか誤解が生まれた気がしなくもないですね…。
そうしてアリアさんと謎の雑談をしていたのですが、急に食器の割れる音と男の喚く声が聞こえてきました。
「こんな所で泣かせるんじゃありません!実に不愉快です!」
「すいません…」
どうしたんだろう?レストラン内の結構離れた席で、男性が赤ん坊連れの女性に絡んでいる様に見えます。
ここまでは聞こえて来てなかったのですが、赤ん坊が泣いてしまい他の客がクレームに行ったみたいですね…。
「アリア嬢。申し訳ないが少し席を外しても?」
「え?あ、はい!」
俺はアリアさんの承諾を得て席を立つと、騒ぎになっているテーブルへと向かいました。
近づいてみると、小太りな男が『母親失格』だとか『恥知らず』だとか『最近の女は教育もできない』だとか…女性に暴言を浴びせています。
そして、周りでそんなに騒いでいるのですから当然ですが、赤ん坊は泣き止む気配がありません。
「私が誰だか分かってるんですか?ルック商会の会頭ですよ?貴女の所為で楽しい時間が台無しです!どうしてくれるんですか?」
「すいません…。泣き止んで…お願いだから…」
これは…俺には放置できません…。俺は騒いでいるテーブルまで行くと、母親と男の間に割って入りました。
「五月蝿いぞ」
「えぇ!そうでしょう!やはりこの女に責任を取って貰わないと気が済みませんな!何なら身体で賠償してもらっても構いませんよ?まだまだ若そうだ…グフュフュフュ…」
「すいません…どうかご勘弁を…」
俺は、男の頭を掴んで持ち上げました。
「五月蝿いのはお前だ」
「なっ!放せ!放さんかっ!悪いのは子を教育できてないこの女だろう!」
「赤ん坊相手に何を言っている?それに、教育の邪魔をしているのはお前だ」
「私は何もしていない!」
「いや。我儘を通して他人を苦しめる様を実演している。三つ子の魂百までと言うが、これで他人を苦しめても良いんだと覚えたらどうするつもりだ?」
まぁ、まだ記憶に残る年齢でもないと思うけど、稀に赤ちゃんの記憶がある人とかいるしね…。
「ぐぬぅ…他人などどうでも良い…。大事なのは私の幸せだ…」
「ほらな。我儘を通す事を覚えたらお前みたいになってしまう。ここは俺も教育に協力しよう。お前みたいなのがどうなるのか、この子に実演して見せておかなくてはな」
自分の幸せが大事っていうのは良いんですけどね…。その為に他人を不幸にするのには反対です。
「やめろ!放せ!はーなーせー!!」
「あぁ、そうだな。そろそろ離してやろう」
俺は、男の首を覆う形でゲートを開きました。頭は通らないギリギリのサイズです。
すると、頭と胴体が分離して身体だけが床に落ちました。離れた首は、まだゲートによって繋がっている状態です。見た目としてはデュラハンみたいですね。
「ひ…ひぃ…。な…何を…」
「お望み通り離したんだが?」
「ち…違う!頭を掴むのを止めろと言っているんだ!」
「あぁ、そっちか。分かった」
俺は男の頭を…店の外に放り投げました。
「ぎゃー!いっ!いて!いたっ!」
男の声が身体側のゲートから聞こえてきます。少しは隙間がありますからね。どうやら頭は店の外で転がってるみたいです…。
「この魔法は1時間後に解除する。それまでに頭を探して付けておけ。間に合わなかったら、そのまま切り離されて死ぬ」
「ひ…ひぃ…」
俺は胴体の襟首を掴んで持ち上げると店の外に置きました。店の中にいられても迷惑ですからね…。胴体は立ち上がると、頭を求めて夜の街をヨチヨチと歩いて行きました。
俺は店に戻ると、声を張って全体に聞こえる様に話をします。
「食事を楽しんでいる所、騒がせてしまい申し訳なかった。せめてものお詫びに本日の代金は俺に持たせて貰いたい。宜しく頼む」
俺は一礼すると、次は赤ん坊の所へと向かった。
ピンポン玉くらいの光の球を出すと、赤ん坊の前でフヨフヨと浮かせて見せる。ちょっと興味を引けたみたいで、赤ん坊は光の球を凝視していた。
俺は更に光の球を分裂させたり速度を速くしたり遅くしたり…まるで無数の光球が踊ってる様に操作してみた。
「きゃっ!きゃっ!」
「どうやら泣き止んだみたいだな」
「ありがとうございます。何とお礼を言えば良いか…」
「気にするな。俺がやりたくてやった事だ。では連れも居るので戻らせて頂く」
俺は赤ん坊の頭をポンポンすると、自分の席へと戻っていった。席に戻ると、既にスープがサーブされている。アリアさんも俺を待って食事に手をつけていなかった。
「悪い。待たせたな」
「いえ。大丈夫ですよ。あの…」
「どうした?」
「先程の男に掛けていた魔法ですが…1時間後に問答無用で解除するのですか?」
あぁ、その事ですか。流石にこれで人死が出るのもどうかなと思ってます。さっきのお母さんも気にしちゃうと思いますし。
「いや。1時間反省したら戻してやるつもりだ。流石に身に染みるだろう」
「そうですか。ライト様は優しいんですね」
「いや。俺も我儘を通してるだけだ。本質的にはあの男がやっている事と変わらない」
「全然…違いますよ…」
それからアリアさんとご飯を食べて、あの男を戻してやってから解散しました。結局何だったんだろう…。バルさんから俺の身辺調査依頼とか受けてたのかな…?
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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