高い買い物
「経験か。確かに有効な経験であれば買いたい所だが、何をどうやって受け取るのかによるな」
経験なんて形の無いものですからね。ダンジョンに連れて行かれてこき使われた結果、それを戦闘経験とか言われても困ります。
「回りくどいのは嫌みたいだから簡潔に言うよ。この大陸にあるすべての都市と町に連れて行こう。あと、ダンジョンも」
流石は同じ時空属性使い…分かってるな…。
一度行ってしまえばいつでも一瞬で行ける様になる。でも、その1回目が大変なんだ…。コクヨクで移動すれば普通の人よりも簡単かもしれないけど、それでも何ヶ月か掛かってしまう。この商品…正直に言えばめっちゃ欲しい…。
「なるほど。魅力的な商品だ。ダンジョンは何処までだ?入り口か?最奥か?」
「値段に反映させようかな。入り口なら2割引きで良いよ」
つまり…全てのダンジョンの最奥に行ってるって事か…。流石はSランク冒険者だな。
「分かった。値段を教えてくれ」
「前向きに考えてくれてありがとう。そうだな金貨1万枚だ。ダンジョンが入り口までなら8千枚だね」
「な…なんですと!?」
流れでドミニクさん達も一緒に聞いてたんだけど、出てきた数字に思わず反応しちゃったみたいです。
日本円で10億円だもんね。こんな立ち話で出す金額じゃないんでしょう。
「買った。ただ、ダンジョンの奥にだけ連れて行かれても困る。入り口にも連れて行ってくれ」
「毎度あり。ライト君は太っ腹だね。まぁ、それくらいはサービスで良いよ」
すると、トントン拍子で進む商談にドミニクさんが割って入ってきました。
「申し訳ありません。私が口を挟む事では無いのでしょうが…その金額は些か法外ではありませんか?」
その気持ちも分かります…金額だけ聞くと高く感じちゃいますよね。多分、時空属性を持ってないから、この商品の価値に気付けて無いんでしょう。
「ドミニク殿。割って入るのは構わない。俺の事を心配してくれたのも分かっている。しかし、値段は妥当だ。むしろ、もっと高くても購入していた」
「な!?そうなのですか?」
ドミニクさんが俺の発言に驚いています。しかし、サリオンも別の意味で驚いていました。
「おっと、これはもっと高くても良かったかな?ライト君の事を甘く見ていた様だ。私は商人ではないからな…こういうのは苦手だよ。ハハハ」
そうなんですよね。本当はもっと高くても良いと思うんですけど…その正当性を客が理解できない可能性が高いんです。その為、サリオンは値段を控えめにして提案したんでしょう。
俺はドミニクさんに、この値段でも買いたい理由を説明しました。
「まず、サリオンが売ろうとしているものは、Sランク冒険者が何年も掛けて積み上げたものだ」
「確かに普通の冒険者ではそもそも無理な話ではありますが…ライト様ならば可能なのでは?」
「確かに同じ年月を掛ければ自分でも積み上げられるが、ここで重要なのは時空属性持ちだという事だ」
「と、おっしゃいますと?」
やっぱり時空属性持ちじゃないとピンと来ないかな?『収入-支出=利益』な訳だけど、収入が分からないと支出の許容範囲は判断できませんよね。
「時空属性における活用効率は異常だ。本来は積み重ねている時間で経験を有効に使えば、金貨1万枚どころではない益を生む。つまりこの商品は、時空属性持ちに限って言えば金貨1万枚以上の価値がある」
「なるほど…」
「更に言えば売却先が限られていて商談経験が少ないんだろうな。サリオンがせっかくミスをしてくれたのに、遠慮する事も無いだろう」
「分かりました。余計な口を挟んでしまい申し訳ありません…」
ドミニクさんが納得してくれたのでサリオンに目を向けると、悔しがってるかと思いきやサリオンは笑顔でした。
えっと…値段はどうでも良さそうだな…。あ、もしかして…。
「俺に経験を渡す事が目的か」
「流石、理解が早いね。この経験があればライト君はより一層の活躍を見せてくれるだろう。活躍するって事は、それだけ救われる人が増えるって事だ。それなら、グランドマスターとして渡さない理由がない」
そういう事ですか…だったら無償でくれれば良いのに…。サリオンって、思ったよりグランドマスターとしての意識が高いのかもしれませんね。
「では早速だが、商品を受け取らせて貰えるか?」
「私の魔力では1度に全ては無理だ。これから1週間ほど掛けて渡していく。今日の所は中心地である学術都市かな」
「了解だ」
まぁ仕方がないでしょう。2日目からは途中まで俺が運ぶとかして効率的に行きたいと思います。
そして、俺はドミニクさん達に向き直ると、1人ずつ挨拶をしました。
「と言う事で、俺は用事ができたのでこれで失礼する。ドミニク殿、何かあれば連絡する。アリア嬢、また今夜。ロランはもう少し基礎からやった方が良い」
ドミニクさんとアリアさんは普通に挨拶を返してくれました。ロランは…『師匠の指示通りに基礎から頑張ります!』とか言ってます。師匠としての指示じゃないんだけど…。発言を失敗したかな…。
そして、俺はサリオンの出したゲートに入って行きました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アリア嬢。待たせてしまったみたいだな。すまない」
「あ!いえ!私が早く来すぎただけですから…」
約束時間の30分前に来たんですけど…既にアリアさんは待ち合わせ場所に来ていました。
アリアさんはいつもの戦士の格好ではなくて可愛いシャツにスカートを履いています。その他も何だかオシャレです。アリアさんの私服ってこんな感じなのか…日頃とのギャップも合って良いですね!
「あ…あの…その…」
「どうした?」
どうしたんでしょう…?アリアさんはスカートを掴んで俯いています。
「あまり…その…こういう服は着慣れてなくて…」
「そうなのか?」
「………。」
えっと…あれ?ここは俺が何か喋るシーンですか?アリアさんが俺をチラチラ見ています…。
「う…すいません。何でもないです…。お店に行きましょう…」
「あ…あぁ」
やっばい…。何が起きてるのか全然分かりません…。
とりあえず、アリアさんと一緒に春の若葉亭に入りました。そんなに格式張っている所では無いのですが、綺麗なレストランです。
「料理に何か希望はあるか?」
「い…いえ…。何でも大丈夫です…」
「そうか。ではコースで頼んでしまおう」
俺は店員さんを呼ぶと、コース料理を2人前注文しました。
飲み物はソフトドリンクです。アリアさんはアルコール頼んでも良かったんだけど、止めておくそうです。俺に合わせたのかな…。
「で、アリア嬢。話とは何かな?」
「あ…はい…。その…ライト様は…」
話したい事って言うか、俺に聞きたい事があるのかな?何だか言いづらそうですね…。真っ赤な顔をして下を向いています。
「その…奥方様とか…いらっしゃるのでしょうか…?」
えっと…この質問はどういう意味なんでしょう??
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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