それぞれの目的
「あの…私を助けて頂いたのはライト様で相違ない…ですよね?」
不安そうにドミニクさんが聞いてきます。状況からドミニクさんが予想しただけで、実際は誰が助けたのか不明ですからね。
まぁ、嘘つくことでもないか…。
「たぶん…ゴブリンジェネラルに襲われていた商人だな?あの時は急いでいて、何も言わずに立ち去ってしまい悪かった」
「いえいえ!滅相もありません!」
自分の想像が当たっていた事が分かって、ドミニクさんは満面の笑みになっています。
「それで、俺に何の用だ?」
「はい!助けて頂いたお礼と…あの時にライト様が倒された魔物の魔石をお渡ししたく」
あ、そんな事言ってましたね。当時は渡せる機会は無いと思ったけど、自ら機会を作り出すドミニクさんの執念は凄いなぁ…。
「別に気にしなくて良かったんだが…。せっかくの気持ちだ。受け取ろう」
「ではこれを…。命を助けて頂き、本当にありがとうございました!」
俺はドミニクさんから袋と感謝の言葉を受け取りました。袋には魔石が入っているみたいですね。
「では、用事は以上かな?」
「あ…あと私に何か協力できる事は無いでしょうか?」
「ライト様!実はお話ししたい事が!」
「ライトさん、弟子にして下さい!」
おぉぅ…。話を終わらせようとしたら、3人同時に捲し立ててきました…。
場が終わると感じて焦ったっぽいですね。
「冷静になれ。バラバラに3人の目的があるのだな。理解した。まずはドミニク殿からだ」
「ありがとうございます。助けて頂いたお礼とは別で…。私にライト様のお手伝いをさせて頂けないでしょうか?」
えっと…何か勘違いがあると思うんだよね…。
「何か誤解がないだろうか?ドミニク殿は俺の目的を知らぬだろう。何の手伝いをすると言うのだ?」
「確かに目的を知っている訳ではありません。しかし、ライト様が英雄であり、悪を滅ぼす存在だとは理解しています。そのお手伝いがしたいのです」
「いや、やはり誤解があるな。俺は正義な訳ではないし、相手が悪であったのかも分からん。目的の過程で発見し、個人的に許せなかったので我儘を通した。それだけだ」
俺の話を聞いてドミニクさんは少し考えます。そして確信を持って発言しました。
「では、ライト様の我儘のお手伝いをさせて頂けないでしょうか」
え?何故そうなる…?
「よく分からんな。何故俺の我儘を手伝うんだ?」
「ライト様の我儘が正義なのかは私にも分かりません。しかし、私の事やゴブリンキングの件、ドルツでのお噂を考えると…ライト様の我儘は私にとって嬉しい事の様です」
そう…ですか…。正義とか悪とか関係無しに、自分にとって嬉しい事だから協力したいと…。
「分かった。そこまで言うのであれば、何か手伝いが欲しい際は声を掛けさせてもらおう。よろしく頼む」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
何だろう…。何だか…ちょっと嬉しいな…。
とりあえず、ドミニクさんは終了みたいなので、次に行きましょう。
「では、次はアリア嬢。何だろうか?」
「あっ、はい!あ…あ…あの…。ふ…2人でお話をする時間を頂けないでしょうか?」
ん?皆んながいる場所では話しずらい事みたいですね。もちろん大丈夫ですよ。
「あぁ、別に構わない。では今夜、大通りにある春の若葉亭というレストランで待ち合わせしよう」
「わ…私の為にわざわざ…ありがとうございます!」
さて、ではアリアさんは今夜という事で、ラストはロラン君ですね。まぁ、目的についてはさっきから何度か口に出してますが…。
「最後は、確かロランだったな?」
「え!?な…名前を覚えて頂いてたとは…光栄です!」
「まぁ、ゴブリンロードまで付いてきたメンバーだからな。で、ロランの目的は?」
「弟子にしてください!」
「弟子は取ってない」
「そんな………」
俺の即答に、ロラン君は悲しい瞳になっています。捨てられた子犬みたいだな…。
いやいや!いやいや!俺は流されないぞ!
「俺も自分の事で忙しくてな。弟子を取っている余裕もない」
「そうですか…。今までは何処に行かれてたんですか?」
「バルトロ帝国の帝都に行っていた」
「あ!武闘大会に出たんですか?」
「あぁ。本来の目的は違ったんだが、ついでにな」
「あ…あの…結果はどうだったんですか?」
「優勝だ」
「おぉ!さすが師匠!」
「師匠じゃない」
師匠呼びを認める訳には行かないぜ…。自然とそんな雰囲気になっちゃうし…。
「銀クラス優勝なんて将来のAランク確定ですね!」
「優勝したのは金クラスだが?」
「え…?」
ロラン君が停止しました。あれ…ドミニクさんとアリアさんも目を見開いて停止しています。
そのうちバレそうだけど、1対15で勝った事は黙っておこうかな…。
「ふふふ…。しかも他の本戦出場者に喧嘩を売って、1対15で圧倒するという暴挙振りだったよ」
隠そうと思った矢先にバラされました…。こいつ何しに来たんだよ…。グランドマスターって暇なの?
「サリオン殿、グランドマスターがこんな所まで何用かな?」
「ははは。ライト君。ギルド本部に寄らないで帰るなんて寂しいじゃないか。まぁ、目的は2つあってね。1つはハルトからの依頼。もう1つは君に売りたいモノについての商談だ」
「売りたいもの?」
「あー、先にハルトの遣いを済ませてしまうから、後で時間を貰えるかな?」
「分かった」
「ではまた後で」
そう言ってサリオンはギルマスの部屋に向かって行きました。
そう言えば、サリオンって時空属性持ちなんですよ。自分で使ってると気付きづらいけど、時空属性って人に使われるとビックリしますね…。
驚いている3人を代表してドミニクさんが聞いてきました。
「今の方は…?それと1対15とは何でしょうか?」
「今のは冒険者ギルド本部でグラントマスターをやっているサリオンだ。Sランク冒険者でもあるな」
「あの方が百識のサリオン殿…」
サリオンの二つ名は『百識』らしいです。時空属性と鑑定眼を持っているので、色んな所へ行って鑑定しまくったんでしょうね。
「1対15と言うのはな…。手っ取り早く実力差を見せる為に、金クラス本戦でそういう勝負を持ちかけたんだ…」
「そして…実力差を見せつけた訳ですな…」
「………。」
しばし沈黙が流れました…。そして、唐突にロラン君が叫び出します。
「うわー!実力差があり過ぎるー!とても弟子にして下さいなんて言える状態じゃない!」
んー。実力差があるからこそ師弟関係になるものだとも思うけど…。
ロラン君は1から教わると言うよりも、一緒に着いて行って学び取るイメージだったみたいですね。俺としてはもう少し基礎訓練した方が良いと思うけど…。
「師匠!模擬戦してください!せめて現在の実力差を知りたいのです!」
師匠呼び止めないな…。まぁ、模擬戦くらい良いですよ。すぐに終わると思うし。
「良いだろう。ただし1本だけだ。訓練場に行くぞ」
「はいっ!」
そして…俺達は全員で訓練場に向かいました。ドミニクさんやアリアさんも見学したいらしいです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「俺は刃引きした訓練用ロングソードを使う。ロランは使い慣れた物を使ってくれ」
「師匠は刀ではないのですか?」
「師匠ではないが、刀も剣も使う」
「分かりました。お言葉に甘えて自分は使い慣れた剣を使わせて貰います」
本当は俺に合わせて訓練用にしたいんだろうけど、実力差を考えて、より理解を深める為に自分の剣を使う事にしたみたいです。そこでプライドを捨てられるのは偉いと思います。
「では始めるぞ」
「よろしくお願いします!」
俺は前に歩きながら、スッと剣を前に突き出しました。特に早く動かした訳ではありません。むしろゆっくりだと思います。でも…俺が突き出した剣の切先は、ロラン君の眉間の手前で止まっていました。
「………え?」
「終わりだな」
ロラン君の全身から嫌な汗が出てきます。そして、全身が震えてきました…。
「は…反応すらできないなんて…。これほどの差ですか…」
「ちなみに、帝都にいるハルトって奴の槍術はもっと凄まじいぞ。俺の剣術はまだまだだ」
パチパチパチパチ…。
「ライト君の本領は魔法だと思うけど、肉弾戦も凄いね。それにしても、ハルトと比較されたらその子が可哀想だ」
「サリオン殿。用事は終わったのか?」
「あぁ、後は君との商談だけだよ」
「そうか。で、何を売ってくれるんだ?」
「これは買い手がかなり限定的でね。でもライト君には良い商品だと思うよ」
「回りくどいな」
サリオンはニヤリと笑うと、俺の目の前に転移してきて呟きました。
「私から提示する商品は…経験だ」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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