帰還
2023/06/11 表現を一部修正しました。
「ライト。ちゃんと来た様だな」
試合は全行程が終了し、今日は表彰式です。表彰式は本戦闘技場で行われるのでやって来た訳ですが、来て早々にダリルさんから話しかけられました。
「来ないとでも思ったのか?」
「お主は何をしでかすか分からんからな。面倒臭いとか言って来ない可能性もあると考えていた」
鋭いな…一瞬頭を過ぎったのは認めますよ…。でもSランク昇格に関係するので、頑張ってくれてるバレッタに悪いなと考えたら掛け布団の重さに対抗する事ができました。
それにしても、ダリルの怪我が何だか増えてる気がするのですが…。
「治癒師に怪我を治して貰ったんじゃないのか?怪我が増えている気がするが」
「うむ。治癒師には世話になった。これはお主に付けられた傷ではない。あの後、15人でトーナメントをやったのだ。2位と3位も決めねばならぬしな」
そうか、優勝者だけ決めれば良いというものではなかったのか…。観客としても1試合しか見れないんじゃ不満足だろうしね。
「ダリルの成績はどうだったんだ?」
「お主がいないからな。トーナメントとしては優勝…ややこしいな。お主に続いて2位という結果だ」
「そうか、おめでとう」
「かかか!負かした相手に言うか。ちなみに組み合わせはくじ引き通りだったがアマンダは全力で挑んできたぞ」
「ほぅ。小細工はしなかったんだな」
「祭りにそんなものは不要だろう?」
気持ちの良い人達ですね。
そして、ダリルと話していたら表彰の舞台に皇帝が現れました。司会者から静聴する様に指示があります。
会場が静かになると、皇帝は威厳に満ちた表情で武闘大会の参加者たちに語りかけました。
「皆の者、実に素晴らしい試合であった!」
ミレーヌに聞いた話では、1対15を承認した事について『常識不足でCランクがボコボコにされるだけの無駄な時間を作った』と陰口を叩く者がいたらしいです。
それが、俺の勝利によって『慧眼を持つ皇帝』と評価が変わった結果、皇帝陛下は上機嫌かつ自信満々になっているみたいです。
「お主達が稀代の強者である事は、バルトロ帝国の皇帝である余が証人である!特に金クラスの優勝者であるライトは非常に見事であった!そちには余より特別な褒賞を与えよう!」
おや?何も聞いてませんよ?なんだか嫌な予感がしますね…。
「ライトよ。バルトロ帝国に従事する事を許そう!」
「断る」
「………。」
俺の即答によって会場は静寂に包まれました…。これは俺の所為じゃないよね…?
そして、皇帝が自分で静寂を破ります。
「…………なん…じゃと?」
「俺は誰に仕える気もない。俺の自由を脅かす者は何者であろうと敵と判断する」
「き…貴様……」
面目を潰されて、皇帝陛下の機嫌が悪くなりました。すると、横から宰相が出て来て皇帝陛下に何やら話しかけています。説得かな?ゲートで盗み聞きしちゃいましょう。
「へ…陛下。バルトロ帝国は大会主催国ではありますが、大陸統一武闘大会は各国の協賛によって成り立っております。あの者はビオス王国の所属…各国の手前、堂々と引き抜き発言をするのは不味いかと思います…」
「む…そうなのか?」
「はい。帝国だけの話ではありませんので、ここは陛下の寛大な御心を示して頂けますと…」
「仕方がないのう…」
んー。バルトロ帝国の将来は大丈夫なのかな?王弟殿下がいなくなったのって、実は致命傷だったんじゃないだろうか…。
そして、宰相に説得された皇帝が俺に話しかけました。
「ライトよ。残念ではあるが世界中での活躍を期待する事とする。栄誉ある当大会の優勝者である事を忘れる事なく今後も励むが良い」
皇帝は一方的に喋ると、俺の返事を待たずに後方へ下がっていきました。
表彰は皇帝からではなく大会委員長から実施されるみたいです。でも、帝国の大会ではないのなら当然ですね。
「それでは、呼ばれた者は前に出てください。鉄クラス3位…」
各クラスのトップ3位を表彰するみたいで、鉄クラスから呼ばれています。
大会委員長が一言声を掛けてから褒賞を渡していますね。よく聞こえませんが労いの言葉を言っているみたいです。
「では最後になります!金クラス優勝!ビオス王国レイオス支部所属のCランク冒険者!ライト殿!」
観客席から拍手が湧き起こる中、俺は舞台に上がりました。
「先程は皇帝陛下が申し訳ない事をした。どうか気を悪くせずに今後もミレーヌ様と仲良くしてくだされ」
「あぁ。気にしていない」
俺だけ労いの言葉ではなく謝罪でした…。なんだかんだで大会委員長はバルトロ帝国に属してる人みたいですね。
それにしても…褒賞の袋が俺だけ小さい気がする…。10枚くらいしか入ってないんじゃ…。
とりあえず、ここで袋を開けて確認するのもカッコ悪いので、俺はアイテムボックスに袋を入れて舞台を降りました。
「それでは、これにて当年の大陸統一武闘大会を閉幕とします。皆様ありがとうございました!」
司会者が締めの挨拶を行い、大会が無事に終わりました。アクル王国が皇帝の命を狙ってくるかもと思っていたのですが大丈夫でしたね。
あと、会場から出ていく観客の中に、元Bランク冒険者の受付担当を発見しました。まだ生きていたみたいで良かったです。このまま更生してくれる事を願うばかりですね。
まぁ、罪が確定すれば俺とは別に国からも罰が与えられるんですけど…。
「ダリル。2位の賞金はいくらなんだ?」
「金貨100枚だな。優勝の10分の1だ」
ん?優勝は金貨千枚なのか?そんなに入ってなかったけど…。
俺は褒賞の袋をアイテムボックスから出して中身を見てみました。見慣れないコインが10枚入ってます。
「白金貨か。それ1枚で金貨100枚分になるぞ」
なるほど、金貨千枚分ですね。来年の孤児院費用に充てようかな。
「ライト。皆を待たせているので俺はここで失礼する。また会った際にはよろしく頼む」
「あぁ。またな」
そう言うとダリルは去って行きました。さて、俺はもう1ヶ所行かなくてはいけない所があります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、いくらになったかな」
俺は賭博場の門を潜りました。
あれ…。大会終了直後だと言うのに人があまりいません。普通は払い戻しの客でごった返しそうなものですが…。
俺は受付に行って払い戻し用のチケットを渡しました。チケットを確認した受付嬢はなんだか震えています。
「しょ…しょしょ…少々お待ちください…」
「分かった」
俺が受付の所で待っていると、数分で受付嬢と支配人らしい人が来ました。何か問題でもあるのかな?
「この度は大変おめでとうございます。大会を優勝した上、この様な高額当選まで…」
「あぁ、なかなかの倍率になったか?」
「はい…。ライト様は唯一のCランクで元々倍率が高かった所に、全員を相手にするという事で更に倍率が上がり…更にライト様の掛け金も膨大でしたので…」
倍率が高いとか、上がりって言い方をしてくれてるけど、人気が無かったって事ですよね。まぁ肩書きからしたら仕方がないと思います。
「結果的に当選者配当総額の約9割がライト様の取り分となります」
「ふむ。いくらだ?」
「約ですが、金貨10万枚ほどになります。正直に言いまして、どの様に渡せば良いものか…」
白金貨はそんなに準備できないだろうし、金貨だとしたら重過ぎて持ち運べないですよね…。
「物質を介すると厳しいだろう。冒険者ギルドの口座に振り込む事は可能か?」
「はい。そうさせて頂けますとこちらとしても助かります」
「分かった。では、それで頼む」
「承知致しました」
なるほど。随分と人が少ないと思ったら、当選者が少ないのか…。とりあえず、大会のお陰でかなりの資金を得ることができました。
ではミレーヌとハルトにお別れを言ってレイオスに帰りましょう。
それから俺は城に行き、ミレーヌとハルトに『何かあればレイオスのバレッタに言ってくれ』と伝えてからレイオスに戻りました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「バレッタ。いま戻った」
「お帰りなさいませ」
「クエストは無事に達成だ。ついでに武闘大会を優勝してきた」
「おめでとう御座います」
「あまり驚かないな。やはり大会参加も想定内か」
「とんでも御座いません。その時に、もしライト様の気分が乗ればくらいに思っていただけです」
ははは…。乗っちゃいましたね…。
「ライト様。そう言えばお客様が来ておりますよ。連れて参りますね」
客?誰だろう…。俺の知り合いは少ないと思うんだけど…。
そして、バレッタと共に戻ってきた面々は、確かに俺が知っている人達でした。
「あの…お初にお目に掛かります。ライト様は覚えていらっしゃらないかもしれないのですが、リッケルトに向かう街道で助けて頂いた商人です。ドミニクと申します」
「あ…あの…お久しぶりです。アリアです…」
「ライトさん、弟子にしてください!」
お客さんは、リッケルトにいるはずのドミニクさん、アリアさん、ロラン君でした。ロラン君、Gランクから上がったのかな?護衛依頼を受けるにはランク制限があったはずだけど…。
もしかして、またリッケルトのギルマスであるバルさんが特別扱いしてるのかもしれませんね…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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