陰謀の報い
「くくく…。上位4人を勝ち抜けるものならやってみやがれ。しかも出来るだけ万全な状態で当たる様にしてやったぜ。アマンダの奴ちゃんと辞退しろよ…」
うーん。誰かが不正を働いている気がしますね。偶然にしては出来過ぎです。やっているとしたら方法は何だろう…。
くじ引きは、箱の中から封筒の様なものを取り出して司会者へ渡し、司会者が封を開けて中に入ってるカードを読むという流れです。
可能性があるとしたら魔法でしょうか。特定の封筒を引かされたとか?
魔法が関わっていないとすると…司会者が怪しいですよね。あ…凄く単純な方法だけど、司会者が言ってる番号は嘘だとか?念のため確認してみましょう。
「司会者。アマンダが引いたカードを見せてくれ」
「え…何故ですか?」
「念のため確認したいだけだ」
「まぁ良いですけど…。どうぞ」
あれ…素直に渡したな…。
俺は司会者からカードを受け取ると書かれた文字を見てみる。金属製のカードには黒文字で『A-7』と書かれていた。
違う事が書いてるか何も書かれてないと思ったんだけど…そんな事は無いみたいです…。
「特に問題はないな」
「はい!勿論ですとも!時にはこの様な偶然もある物なのです…だから面白い!」
そうかもしれないけど…。んー。気になるなぁ…。念のため最後のカードも見てみるか。
俺は探知魔法で箱の中を把握し、ゲートを使って最後の封筒をこっそり取り出した。更に封筒の中からカードも取り出す。
……うん。やはり何も書いてないですね。
やっぱり不正っぽいのでカードをじっくりと見てみます。あぁ…そういう事か…。
『狡猾鏡(子9):親に記入した文字を表示する。ただし効果範囲は10メートル程度』
10メートルの範囲内だとすると…司会者とアシスタントと出場者か…。
俺はカードを封筒に戻して、封筒も箱の中へ戻しました。
「司会者。俺もクジを引いて良いか?」
「引く意味は無いですけど…気が済むならどうぞ」
俺はさっき戻した封筒を取って司会者に渡しました。司会者は封を開けてカードを確認すると、カードをこちらに見せながら番号を言います。
「この通りB-7です」
ふぅ…。犯人が動きの遅い奴で助かった…。
俺は細かく探知をして、周辺の状態をパラパラ漫画の様に確認していました。犯行が1コマの中に収まる速度だったら気付けなかったかもしれません。
俺はしっかり見ていました。カードに文字が浮かび上がる様も。予選5組の突破者が左手の手の平に文字を書いている様も。
転移で即座に犯人の横に移動すると、左手の手首を掴んで締め上げます。すると、左手の中から金属の板が地面に落ちました。
「やはり不正で、こいつが犯人だ」
「ちょ…待て。違う…。俺は依頼されて…」
司会者は状況が理解できずにオロオロしています。そして、ダリルが聞いてきました。
「ライト。どういう事だ?」
「クジに使われていたカードは魔道具だ。コイツが持っていた親機で入力した文字が浮かび上がるらしい」
「そういう事か…。しかし何故?」
「それはコイツに聞く必要があるな」
「だから違うって…。これは大会運営の演出なんだよ…。俺は依頼通りにやっただけだ…」
犯人がとんでもない事を言い始めました。たぶんそれは無いと思います。盛り上げたいならこの組み合わせにはしないと思うので…。
「司会者。コイツの言っている事は本当か?」
「そ…そんな訳ありません!運営はヤラセ行為なんてやりませんよ!」
何とも泥沼化しそうな状況ですが、事態に追いつけていない観客席の中から発言する人がいました。
「自分が不利な状態だからって対戦表の内容を有耶無耶にするつもりだ!」
あれは…受付の時の男…。あー…そう言う事か…。
「おい。正直に言えば腕を折らないでおいてやる。お前に依頼したって言うのはあいつか?」
「え…?あ…そうだ!あいつだ!あいつがこの組み合わせになる様に指示してきたんだ!自分は大会運営の重鎮だって!盛り上げるための演出だって!」
なるほど。納得です。俺に対する復讐ならこの組み合わせにするでしょうね。この犯人もアマンダさんも俺のとばっちりで迷惑をかけられてたみたいです…。
さて、どうしようかな。元Bランクの受付担当を捕まえてもグダグダ言ってきて泥沼化しそうだし、罪が証明されるまで時間がかかりそうですね。それまで、クジ結果が不利だから騒いでいた男と思われるのか…。
それと、この4人をぶつければ俺が負けると思われていたんですよね?舐められたものです…。偶然には驚いたけど、別に困る訳じゃありません。
じゃあ…クジ結果がどうでも良くなる提案をしたいと思います。その方が俺には都合が良いし…。
「司会者。突然だが提案がある」
「な…何ですか?」
「金クラスの決勝トーナメントは俺対他15人の戦いにしないか?」
「……え?何を言ってるんですか?」
俺の発言に司会者が驚いてます。そして、ダリル達も驚いていました。更に言えば元Bランクの受付担当も。
そして、言葉を理解したダリルが俺に食って掛かってきます。
「ライト!ふざけているのか?俺達15人を同時に相手にするだと!?」
「大真面目だ。俺は勝てるつもりでいる」
俺は光の剣を14本出すと、手首を捻っている奴以外の本戦出場者達に向けて放ちました。光の剣は命中する直前で停止し、空中に浮遊しています。
下手に反応できてしまい盾で防いだり剣で受けようとした人は装備が破壊されていました。本戦出場者達から俺に対して剣呑な視線が送られてきます。
「もし俺が負けたら、その後は俺抜きでトーナメントを続ければ良い。ダリルも賛同してもらえないか?」
「っく…。認められる訳がないだろう!」
そうか…。仕方がない。じゃあ他の人に訴えてみましょう。
「皇帝よ!見たくはないか?俺が残りの15人を圧倒するところを」
すると、貴賓席にいた皇帝が立ち上がりました。
「ふむ。荒唐無稽な事を言っている訳でもなさそうじゃな。面白そうじゃ。運営よ、ライトの希望を認めよ。最初にその戦いを行い、その後に15人でトーナメントをすれば良い」
お、やった!皇帝陛下の承認を得られましたよ!
皇帝陛下の言葉を受けて運営がドタバタし始めます。そして、しばらくすると皇帝陛下の指示に従う旨が発表されました。
「まったくふざけた事をしてくれる…。絶対にライトを後悔させてみせよう…」
「ダリル。それは楽しみだ」
これで今日の所は解散となりました。
ちなみに本戦の実施日は鉄、銅、銀、金の順で1日ずつやるらしいので、金クラスは4日後になります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「畜生…あいつの所為で俺の人生がめちゃくちゃだ…」
今は深夜なのですが、文句を言っている人は大量の荷物を持っています。まるで夜逃げみたいですね。
「逃すわけがないだろう?」
「ひぃぃ……!」
全員と戦う事にしましたが、それはそれ、これはこれです。こいつを許した訳ではありません。
「俺に復讐する為に予選5組の奴を騙したり、本戦出場者達に迷惑をかけたりしたな」
「お前が悪いんだろうが!」
「大会出場者に言われるなら分かるが、原因であるお前に言われる筋合いはない」
「俺を…どうするつもりだ?」
「こうする」
俺は元Bランクの顔面を掴むとそのまま持ち上げました。そして俺の腕から出る黒いモヤが元Bランクの口から体内に入っていきます。
「ぐっ…ぐぼ…。ご…ごれは…呪い?」
「周りに人がいなくて良かったな。気をつけろ。もしこの呪いの事を他に知られたらお前は死ぬ。あと、この帝都を出たり大会を観に来なくても死ぬ。俺が闇属性魔法を使った事をバラしても死ぬ。更に他者に対して悪意を持った行動をしても死ぬ…」
「そ…そんな…」
元Bランクは絶望的な表情をしています。そんな元Bランクに俺は一言囁きました。
「金クラスの本戦。楽しみにしててくれ」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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