前夜祭(マジですか…)
2023/06/01 誤字を修正しました。
「なっ…この剣はミスリル製だぞっ!」
振り向くと、頭からフードを被った人が2人立っていました。玉座の後ろにでも隠れていたのでしょうか?
俺の首を落とそうとした人は、不意打ちが失敗した事をすぐに理解して飛び退いてから一定の距離を保っています。見覚えのある柄を握っていますね…。顔を隠していても誰なのかはバレバレですよ…。
そして、クリシュナさんがミスリルの剣を切断された事に驚いていますが、魔法金属であるミスリルの硬度は鉄とは比較になりません。一流の冒険者や各国の騎士団長クラスが憧れる装備らしいです。今までは傷ついた事さえなかったのかもしれません。
でも、俺の光魔法に耐える為には力不足です。愚者の仮面に使われているオリハルコンやアンサラーに使われているヒヒイロガネなどの神話級金属でもないと…。
それと、もう1人は誰だろう?もしかしたらヘルマンなのかな?
「此奴は危険です!お下がりください!」
……え?クリシュナさんの言葉遣いが…。まさか…。
突然ですが、ここでディメンションブレードについて説明させて貰いたいと思います。
ディメンションブレードは、実は3つの工程から成り立っています。それは①設置②分離③解除という流れで、③まで行かないと効果はありません。
切断したい箇所にゲートを作り、それをちょっと離します。この状態だとゲートを介してまだ繋がっています。ここでゲートを解除することによって離れていた物がその場に残り、結果的に切断された状態になる訳です。
俺は自分の首に発生したゲートに対して転移をぶつけて破壊しました。そして、後ろにいるフードの人…いや、女性に対して睨みつけます。残念ながら、僕は魔力感知も得意なんですよ。
それにしても…現場に出てくる事があるんですね。もっと安全圏にいるタイプかと誤解してましたよ。王女様。
「はぁっ!!」
王女様を睨んでいると、クリシュナさんが質の落ちる予備の剣で切り掛かってきました。
しかし、俺は一歩も動かずにクリシュナさんの剣を指2本で挟んで止めます。そして…同時にクリシュナさんの右腿には光の剣が刺さっていました。
「くそ…。化け物め…」
そう…ですか…。
アクル王国には、帰還の目処が立つまでクラスメイトを保護してほしいと思っています。その為、高杉透の生存を知られたくありません。
でも…いまここに居るのは…ライトと侵入者ですよね?少しくらい仕返ししても…大丈夫ですよね?
俺の周りに光の剣が発生して浮かび上がりました。ミスリルをも切り裂く光の剣が100本ほど…。
そして、俺は発生した100本の光剣をクリシュナさんに向けます。後ずさるクリシュナさん…。そして…俺が光剣を放とうとした瞬間!
…残念な事に、一瞬にして2人の姿は消えていました。相手の撤退判断の方が早かったみたいです…。
転移か…ゲートだったら邪魔できたのに…。
「しまった!」
そして、俺は大事な事を思い出しました。振り返って確認するのですが…案の定見当たりません…。
「冷静さを失ってたな…。完全に俺の落ち度だ…」
アクル王国の2人と一緒に…トーマの姿も消えていました…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ…。あんな化け物がいるとは想定外でした」
イザベラ王女はローブを脱ぐと豪華な椅子に腰を掛けました。そんな王女にクリシュナさんが話しかけます。
「イザベラ様。敵を仕留められず…申し訳ありません」
「まぁ目的は達しましたから良しとしましょう」
「ごめん…なさい…」
一緒に転移させられたトーマも俯いて謝罪をしています。
そんな3人の様子を見て、帰りを待っていた幼い声が話しかけました。
「おや?もしかして失敗したのかい?」
「いえ、成功ですよ。この子も役に立ちました。お返し致します」
「そっか。失敗作でも役に立ったみたいで良かったよ。じゃあトーマは回収させてもらうね」
「はい。ありがとうございました」
そして、あーさんがトーマに近づくと、2人の姿は忽然と消えてしまいました。
「クリシュナ。貴方だけであればもっと簡単に潜入できた所を私が潜入する為に骨を折らせましたね」
「滅相も御座いません」
「それにしても…あの仮面の者は光属性と時空属性ですか…。いつの間にあんな化け物が…」
「申し訳ありません。私も存じ上げませんでした…」
「クリシュナ。あの者を調べなさい」
「はっ!」
そしてクリシュナは、怪我した足を引きずりながらイザベラ王女の部屋を出て行きました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お疲れ様…でした…」
ミレーヌは皇帝陛下…という事になっている男の瞼をそっと閉じながら語り掛けています。
そして、そんな姿を見ていた俺に対して説明をしてくれました。
「この者は影武者ですわ…」
あぁ、知ってるよ。名前が違ったからな。『こんな娘を任されてお前も大変だな』なんて…俺も酷い事を言ってしまった。
「とは言っても無関係な人でもないんだろ?」
「本当のお父様の弟…叔父様と呼ぶべき人ですわね。でも、わたくしがずっとお父様として接してきた人ですわ…」
「お前にとっては本当の父親よりも父親だったんだな」
「影武者をする為に未婚を貫いていた人でしたから…わたくしの事を本当の娘の様に可愛がってくれておりましたわ…」
「そうか…」
無碍にしづらくなったな…。『親としての頼み』か…。
すると、今更ながらに事態を把握したのか、城内が騒がしくなってきました。
玉座の間にも人が集まってきます。そして、影武者の事など知らされていない兵士達が皇帝の死体に驚いています。
しかし、そんな混乱は長くは続きませんでした。影武者と同じ顔をした男が…つまりは本物のアルベルト・セイ・テ・バルトロ皇帝陛下が玉座の間に来たからです。
「ジョン…。逝ってしまったのか…」
ジョンと言うのは影武者…と呼ぶのも忍びないですね。王弟殿下の名前です。
自分の弟が…しかも自分の身代わりとなって亡くなったのですから思う所があるのでしょう。
「はぁ…。こうなっては自分で政務をやらねばならんではないか…」
…………は?俺は自分の耳を疑いました。そして確認する様にミレーヌを見ます。でも、ミレーヌは何かを諦めた様な目で悔しそうに皇帝を見ていました。
どうやら、本物の皇帝はこういう性格の様ですね…。王弟殿下が政務をやっていた方が良かったかもしれません…。
そんな本物の皇帝に対して宰相っぽい人が提案をしています。
「陛下。明日からの武闘大会は中止に致しましょう!いま実施するのは危険です!」
当然の提案だと思います。しかし、皇帝の返事は予想外のものでした…。
「いや、やる。この様なテロ行為に屈して中止にするなどバルトロ帝国の名誉に関わる。それにわしが健在なのを国民にアピールせねば」
マジですか…。大丈夫なんだろうか…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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