前夜祭(侵入者)
「スラム街で暴動が起きております!我々は鎮圧に向かう援軍です!」
「援軍?という事は、既に鎮圧に当たっている部隊があるというのに追加が必要な状態なのですか?」
スラム街で暴動騒ぎが起きてるみたいです。でも…何でこのタイミングなんでしょうか?スラムの人は武闘大会や前夜祭に対して何か思う所があるのかな?
「報告によりますと、普通の民衆のはずなのですが…理性を無くして強力な膂力を持っており苦戦しているとの事です」
「………。分かりました。私達も向かいます」
国民が心配なんでしょうね。ミレーヌも行くみたいです。
「ライト、連れて行きなさい」
俺ですか…。相変わらずナチュラルに人を使いますね…。まぁ俺も行くつもりだったから良いけど…。
俺はスラム街の入り口に向けてゲートを開きました。
「どうせだから騎士も全員通ってくれ」
「だ…大丈夫なのか?」
「帝国の騎士が情けない事を。ラインハルト行きますよ」
「了解です」
そしてミレーヌとハルトが先にゲートを通っていきました。そう言えば、この2人もゲートを通るのは初めてでしたね。
そして、ゲートの向こうから声が聞こえてきます。
「何の問題もありません。さっさといらっしゃい!」
「は…はっ!申し訳ありません。すぐに!」
騎士達が全員通った事を確認してから俺もゲートを通ります。スラム街に出るとすぐにハルトが話しかけてきました。
「この能力は便利すぎだな…。ミレーヌ様にこき使われる未来が見えるぜ…」
「悪いが付き合う気は無い。今回の様についでの時は手伝っても良いが。後はギルドに指名依頼でも出してくれ」
「まぁそれが筋だよなー。ちなみにアクル王国の城内に軍隊を送り込むとしたら白金貨何枚かな?」
いきなり軍事利用ですか…。今はゆっくり話してる場合じゃないし、そういう事はマネージャーに相談してください…。
「俺付きの専属受付嬢と話してくれ。レイオスのバレッタだ」
「できない訳じゃないんだな…。規格外の能力で羨ましいぜ…」
とりあえずスラム街の入り口では騒ぎになっていないので、もっと奥の方に移動する事になりました。
奥に進んでいくと段々と喧騒が聞こえてきます。そして民衆と騎士や兵士が争っている場所に到着しました。
そして暴れている民衆を見て、ハルトが呟きます。
「まるでアンデットみたいだな…。どうなってんだ…」
前にヘルマンが山賊頭の死体を操っていたけど、そういう訳では無さそうです。みんな生きてると思います。
ただ…最近よくみるモヤが出てますね…。
(バス、あれ呪われてるよね?)
『呪われてるっす!』
(そうなると…セリアやオーガを呪ってた女の子とヘルマンは関係してるのかな?)
『それは分からないっすけど、この呪いはオーガを呪ってたのとは別人だと思うっす!』
(そうなんだ?よく分かるね)
『魔力パターンが違うっす!』
(あぁ、メイドゴーレムのレインが本人認証に使ってたやつか…。なるほど…)
どうやら、あの女の子とは別口の呪いに掛かってるみたいです。でも、呪いって1人に掛けるのも大変なイメージがあるんですけど…。
(呪いって、こんなに大量の人間を一気に呪えるものなの?)
『普通は無理っすね!この人数を一気に呪う方法となると、俺っちに思いつくのは1つだけっす!』
(あるんだ?なになに?)
『ご主人様が呪った場合っす!』
俺はそんな事しないよ…。
そうなると…バスも知らない方法かぁ…。いや!もしかして一気にじゃないのか?
俺は思い当たった事があって近くにいた暴徒をスタンガン魔法で気絶させました。そして懐を漁ると…あった!俺は見つけたものを魔眼で確認してみます。
『バルトロ銀貨:バルトロ帝国が発行している銀貨』
『バルトロ銅貨:バルトロ帝国が発行している銅貨』
ハズレか…。魔族がばら撒いてたお金が関係してるのかと思ったんだけど…。
『ご主人様。もっと詳しく見てみれば何か分かるかもしれないっす!』
(詳しく?段階があるの?)
『あるっす!一見同じ物でも歴史や状態は異なるものっす!より魔力を込めて見てみるっす!』
言われてみれば、何年製とか付帯情報ってあるもんだよね。魔力を込めるほどに細かく見れるのか。
俺は、より魔力を込めてコインを再確認してみました。
『バルトロ銀貨(微呪):バルトロ帝国が発行している銀貨。
数枚触ったくらいでは影響がないほど微妙に呪われている』
『バルトロ銅貨(呪済):バルトロ帝国が発行している銅貨。
微妙に呪われていたが既に効果は発動済み。
現時点では普通の銅貨』
この男は呪済のコインを合計10枚持っていました。たぶん、術者が呪いを発動した時点で10枚持っていた者が効果を受けたんだと思います。
そして11枚目以降の過剰な分については微呪のまま残ったのかな…。
「ハルト!原因は魔族が配っていたコインだ!コインを媒介にして呪われている!」
「マジか…。じゃあただの被害者だな。そうなると傷つける訳にはいかないか…」
解呪するのが1番だけど、聖属性が使えるってバレたくないな…。でも、力を隠して何もできないんじゃライトの存在意義は無いと思う。
………よし!魔法をでっちあげよう!
聖域だって光魔法だと思ってくれてるんだから、光魔法と解呪を混ぜた合成魔法を作って光魔法だと言い張ろう!
「ハルト!呪いを破壊する光魔法を使うから合図をしたら全員目をつぶらせろ」
「え?そんな事ができるのか?そんな魔法知らな「いいから早くしろ!」
「わ…分かった」
ハルトは騎士や兵士に指示を出してくれました。
さて…余計な効果はいりません。出来るだけ広範囲に解呪の効果を広げる為には光が強い事が重要でしょう。ただただ強力な明かりと解呪の合成魔法だ。
「では行くぞ!閃光弾!」
俺から解き放たれた光は帝都全体を明るく照らしました。その光が呪いに当たると、呪いが分解されていくのが分かります。
分解された呪いからは、セリアを解呪した時と同様に白いモヤが出て何処かへ飛んで行きました。
「ライト!目をつぶっても辛いんだけど!?」
光が強すぎたかな…。スタングレネードって言うんですかね?直視したらヤバそうでした…。
「悪い。だが、民衆に掛かっていた呪いは解けたみたいだ」
「流石だな。それにしても犯人は何の目的なんだ?」
「コインを配っていた魔族の上司はヘルマンって奴でアクル王国の貴族をしてる」
「またアクル王国か…。しかし、犯人がアクル王国だとしたら何がやりたかったんだ?この程度の暴動を起こした所で国を揺るがす様な事にはならないぜ?」
確かになんだろう。まぁ迷惑な事ではあるけど、手間暇かけてる割には成果が少ないと思う…。
「嫌がらせ…民意操作…扇動…」
「コスパが悪くないか?あいつらなら、それでもやるかもしれないけどな」
「時間稼ぎ…陽動…?ハルト、いまアクル王国に来られて嫌な所って何処だ?」
「そりゃ王城だけど…」
「いま王城の警備状況は?」
「前夜祭の警備に出払ってるのと暴動騒ぎに割いたので薄いっちゃ薄い…。だが、流石に伏兵に対応できるくらいはいるぜ?」
そうか…。大丈夫…なのかな?
俺が考え事をしていると話を聞いていたミレーヌが提案をしてきました。
「わたくしも気になりますわ。ライトが早々に解決してしまっただけで暴動をもっと大きくするつもりだったのかもしれません。でも別の狙いがあるのかも。何もなければ良しとして、念のため王城に戻りましょう」
「そうだな」
「と言うわけで。ライト、ゲートを」
はいはい…。
あれ?やっぱり使われてきてます?ハルト…ニヤニヤするんじゃない…。
俺は王城の正門にゲートを開きました。
ゲートを抜けると、何となく違和感を覚えます。何だろう…。静か過ぎる…のかな?
俺達は城内に入ろうと正門を潜ろうとしました。あれ?門兵は何処にいるんだろう…?その時、何かに気付いたハルトが話し掛けてきました。
「ライト…。正解かもしれない…」
ハルトが気付いたのは兵士の死体でした。争った形跡は無く、一方的に瞬殺されている感じです。
と言うか…この傷痕には心当たりがあります。光属性魔法で貫いた痕だ…。
兵士の死体を簡単に確認していくと、更に気付いた事がありました。
「ミレーヌ。この兵士に見覚えがあるか?」
「迷子の子供を案内していた者ですね…」
やっぱりそうか…。せめて子供達が巻き込まれてなければ良いけど…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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