大会前隙間時間(カインの場合)
「リル。晴れて良かったね!」
「ワフンッ!」(きもちいー!)
「やっぱり昼前だと冒険者は少ないなー。あれ?あの人は…」
僕はリッケルトでリルとお散歩をしています。
武闘大会まで数日あるし今は必須の用事も無い状態です。改めて考えると、ここ数ヶ月は休み無しで動き続けていた気がするので…今日はお休みにしてリルとゆっくりする事に決めました。最近はライトとしての行動が多くてリルに寂しい思いをさせてましたしね。
リルにやりたい事を聞いたら『お散歩!』という事だったのでリッケルトの町を散策していたのですが、前から見知った人が歩いてきました。
「あら。トール君じゃない。久しぶりね」
「アリアさん、お久しぶりです」
歩いてきたのはライトに何度か助けられたCランク冒険者のアリアさんでした。
この前、天竜の塔で一緒に戦った日以来です。
「ギルドでも見かけないからどうしてるのか心配してたわ。大丈夫なの?」
「あ、はい!ちょっと用事があって冒険者活動はお休みしてました…」
「そう。とりあえず元気みたいで良かったわ」
嘘をつくのは心苦しいのですが、心配してくれてたみたいで嬉しいです。綺麗で優しいお姉さんって良いですね…。
「アリアさんはどうしたんですか?今日はお休みですか?」
「えぇ…。何だかやる気が起きなくって…」
おっと、何だか元気がないですね。どうしたんだろう?
「何か困ってることでもあるんですか?僕で良ければ相談に乗りますよ?」
「え?うーん…」
「僕では頼りにならないとは思いますが、話すだけでも楽になったりするかもです。良ければ話してください」
「だ…大丈夫よ。そんな相談することでもないの…」
「そ…そうですか…」
残念です…断られてしまいました…。まぁ、僕じゃ頼りないよね…。
そうしてアリアさんと立ち話しをしていたら、更に見知った顔が歩いてきました。
「あれ?トールにリル。アリアの姉御まで。こんな所でどうしたんだ?」
「アリアさんとばったり出会ってね。ちょっと立ち話しをしてただけだよ。カインこそどうしたの?いつもならクエストに行ってる時間だよ?」
「いや、今日は休みなんだ…。と言うか、休みになったんだ…。ったく…」
おや?カインも何かあったみたいですね…。ちょっと機嫌が悪そうです。
「どうしたの?」
「おぉ!聞いてくれるか!実はさぁ…リーシアの奴が怒ってて仕事をボイコットしやがってよ…」
あれ?責任感の強いリーシアさんがそんな事するなんて珍しいですね。いったいどうしたんでしょう。
「カイン…何か怒らせる事したの?リーシアさんは何で怒ってるの?」
「いや…キャサリンのお店で酒を飲んだだけなんだが…」
ん?確かその店って…。
「あれ?そこってカインが『騙されて入るなよ』って言ってた接客嬢がエロいお店だよね?」
「あぁ…うん…そんな事言ったかなぁ…」
言ったよ…。どうやら原因はカインの方にありそうですね。ちなみに、アリアさんとリルがジト目になってます…。
「ワフッ…」(オスらしくない…)
確かにね…。自分の発言を認められないのはね…。
「えっと、ぶっちゃけカインとリーシアさんって付き合ってるよね?」
「う…うん…まあ…?」
カインが照れてモジモジしてます…。いやいや…今は照れてる場合じゃないと思うけど…。なんだよそのドヤ顔は…。
「ワフッ…」(キモい…)
うわぁ…リルも含んだ女性陣の視線がどんどん険しくなってます…。
「リーシアさんは嫌がってて前にも怒られてたよね?何でまた行ったの?」
「いやぁ…まぁ…何となく?でも…別に浮気してる訳でもないし?」
やめろカイン!お前はこの視線に気付けないのか!?
女性陣の目線は険しいものでは無くなっていました…。とても冷淡な…ゴミでも見ているかの様な目でカインを見ています…。
「え…えっとさ、僕は浮気イコール絶対駄目とも思ってないんだけど「ん?そうか?でも俺は嫌だなぁ」
割って入るな!変な所で切れるだろ!
ひぃ!今度は僕を見る女性陣の目が冷たくなってます…。いやちょっと待って!違うから!最後まで聞いて!リル、足をかじかじしないで!
「うん、僕も嫌だよ?大事な事だからもう1度言うね?僕も嫌だよ?」
「お…おぅ……」
僕も嫌なことを真剣に訴えました。カインが引いてる気もするけど、きっと理解してもらえた事でしょう。
「でもね…世の中には浮気オッケーなカップルもいるんだ。じゃあ、その差は何なのか?」
「な…何なんだ?」
「僕は、相手を悲しませてる事だと思う」
カインが目を『かっ!』っと見開きました。とても普通な話をしてるだけなんだけど…。リアクションが良いと助かりますね。
「浮気だからダメなんじゃなくて、相手が悲しむ。苦しむ。だからダメなんじゃないかな?浮気は大抵の人が該当するけど…」
「確かにそうだな…」
「逆に言うとね、浮気じゃなくても相手を悲しませてるならダメだと思うよ。本質ってそこじゃないかな?」
カインが膝から崩れ落ちます。そして、リルがやっと足を離してくれました。持っていきたい話の方向性を理解してもらえたみたいです。足がジクジク痛い…。
「リーシアさん的には悲しい事だったんだよね?カインはそういうリーシアさんを選んだ上で悲しませたんだよね?」
「ぐ…ぐぅ…」
よし!効いてるぞ!ここで畳みかけよう!
「で、どうするの?背景はどうあれリーシアさんは苦しんでるよ?大事なのはそこじゃないの?リーシアさんが悲しむ事より自分の娯楽が大事なの?もしそうならリーシアさんが離れてしまっても仕方がないんじゃない?カインが悪いとは言わないよ。リーシアさんとは合わなかったってだけさ」
「ぐ…ぐぅ……ぐあぁー!!」
カインが叫びながら立ち上がって天を仰ぎます。
「リーシアと離れるなんて嫌だ!俺は何て事をやっちまったんだ!リーシア行かないでくれー!!」
「カイン!善は急げだ!今すぐリーシアさんの所に行って謝るんだ!」
「あぁ!行ってくる!またなっ!!」
「がんばれー!」
僕は大きく手を振ります。カインはリーシアさんの元へと走って行きました。
ふう…嵐の様でしたね。何だか大事にしちゃった気もするけど、結果的に2人が仲直りするなら良いか…。
よし!女性陣の冷淡な目も戻ってる!良かった…。
「先生…」
「え?アリアさんどうしたんですか?」
「先生!私の相談に乗ってください!」
あれ…話してくれるみたいですね。当然ながら僕は問題ありません。でも、問題のある人もいたみたいです。
「ワフゥー」(お腹すいたよー)
立ち話ししてる間に随分と時間が経ってたみたいですね。僕はリルの頭をなでなでしながらアリアさんに提案しました。
「お話し聞くのは大丈夫ですよ。ただ、そろそろお昼ですからそこの食堂に行きませんか?あと話し方は普通でお願いしたいです」
「ありがとう!私は大丈夫よ」
問題ないみたいで良かったです。そして僕達は食堂に入りました。ここは従魔もオッケーな食堂なので、犬で通してるリルも大丈夫でしょう。
「リルは何食べたい?」
「ワフン!」(おいしいお肉!)
「おっけー!」
「ふふふ…」
おっと、アリアさんに笑われてしまいました…。
「すいません。騒がしくて」
「いいのよ。まるで言葉が通じてるみたいだなって思って」
「こ…心が通じてますので!」
「そっか。良いわね」
ふぅ…。油断してました…。ついつい普通にリルとやりとりしてましたよ…。
料理が来るまではちょっとかかりそうなので、先に本題を聞いちゃおうかな。
「ところでアリアさん。相談って何ですか?元気がなかった理由ですよね?」
「えぇ、実はね…ある男性の事が頭から離れなくて…仕事にならないのよ…」
え…。まさかの恋バナ!?それは男に言いづらいですよね…。って言うか相手が羨ましいなぁ。
それにしてもどうしよう…参考にできる経験なんて僕にはないよ…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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