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悪女と悪女と悪役令嬢と聖女と

かなり長くなってしまって分ける事も考えたのですが…続けて読んで頂きたいのでこのまま行かせて頂きたいと思います。宜しくお願いします。

 ※ライトが帝都へ向かう数日前


「勇者の懐柔は順調ですが、他の切り崩しはうまく行っていない様ですね」

「残念ながら…」


 イザベラ王女の私室では、いつも通りイザベラとクリシュナが密談を行っていた。


「では別の角度から試してみましょう。そうですね…シルビアに賢者を落とさせなさい」

「な…。シルビア王女にですか?その様な計略はできない方だと思われますが…」

「失敗したならそれはそれで構いません。案外…計略ができない彼女だからこそ成功するかもしれませんよ」

「承知…致しました」


 どうやら佐々木に対してハニートラップを計画しているみたいです。お堅い学級委員長に通じるのでしょうか…。


「それと、折角なのでアレクに聖女を落とさせてみましょう」

「それは…。アレク王子は最近体調が優れないご様子ですが…」

「それはいけませんね…。それでは急いで取り掛からせなさい」

「……え?」


 クリシュナは、話が嚙み合っていないとも思える程の予想外な回答に困惑した。そして、イザベラ王女に真意を尋ねてみる。


「いったい…どういう意味でしょうか?」

「死ぬ前に有効活用しなければならないでしょう?」

「なっ……」

「どうせ死ぬのなら国の役にたってもらいましょう」

「そんな…必ず亡くなる…と…は……」


 そこまで発言してクリシュナは口を閉じた。1つの恐ろしい可能性に気付いてしまったのだ…。


「では、どちらも早速取り掛かりなさい」

「承知致しました…」


 そして、クリシュナはイザベラ王女に敬礼をすると部屋を出て行った。残ったイザベラ王女は溜め息を吐く…。


「はぁ…。クリシュナには困ったものです…。覚悟が足りませんね…」

「イザベラ王女はご機嫌斜めなご様子。来るタイミングを間違えたかな」


 イザベラ王女しかいないはずの部屋に別の声が響いた。そして、その声を聞いたイザベラ王女は更に溜め息を吐く…。


「まったく…。あー様ですか?姿を現してください」

「ははは。ちゃんと名前を呼んで欲しいものだね」

「発音が難しいので…ご容赦ください」


 そんな会話をしている中、イザベラ王女の私室には1人の姿が現われていた。その姿は子供…いや、むしろ幼児と言って良い年齢に見えた。


「お久しぶりですね。我が国の繁栄に何も協力してくれない方が何か御用でしょうか?」

「手厳しいね。でも君達の計画に乗っても王族が嬉しいだけで国にとって良い事とは限らないからなぁ…」

「……確かにその通りですね」


 珍しくも…イザベラ王女が王族批判とも取れる内容を素直に受け入れていた…。


「そう言えば、あなたに確認してからと思いまして、まだ行動していない事があるのですが」

「なんだい?」

「もう勇者は殺して(・・・・・・)しまっても(・・・・・)大丈夫でしょうか?」


 イザベラ王女はとても物騒な質問を行った…。それに対してあーさんは首を横に振って答える。


「いや、ダメだよ。むしろもっと鍛えて欲しい。今日はそれをお願いしに来たんだ」

「まだ役目があるのですか?後は搾取するだけ搾取して使い潰そうかと思っていたのですが…」

「あぁ。勇者にはまだやるべき事がある。しかし実力不足だ。良い教師を見つけてもっと鍛えてくれ」


 そう言われたイザベラ王女は少し困った顔をする。良い教師(・・・・)と言われても…。


「光属性持ちで勇者の教師になれる存在などそうそう居る訳が無いでしょう…。ご自分で育成された方が良いのではないですか?」

「それができれば簡単なんだけどね…。この姿の者に素直に師事すると思うかい?」


 イザベラ王女は改めてあーさんの幼児姿を見て…また深い溜め息を吐いた…。


「無理ですね…。良い者を探してみます」

「宜しく頼むよ」


 そして、イザベラ王女の私室からはいつの間にやらあーさんの姿は消えていた。そこに残されたのは眉間に皺を寄せたイザベラ王女の姿だけだった…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 イザベラ王女があーさんと話している頃、リーゼロッテとヘルマンとミクは別の場所にいた。そしてヘルマンがミクの耳元で何か呟いている。


「ニホンへ帰る準備ができたとしてもお前は置き去りにされるんだろうなぁ…。お前に気付かずに帰ってしまう?違うな…嫌いなお前の事を敢えて置いて行くのだ…」

「う…うぅぅ…」


 ミクからは黒い(もや)が出ていて、それがミクの前に集まっている。その集まっている靄は(くさび)の形になっていた。


「早くニホンへ帰りたいか?お前1人分の魔力ならすぐに集まるぞ。アクル王国に協力して魔物に(くみ)する邪国を滅ぼせば、お前は正義の使徒として国民から感謝される。そうなれば帰還を優先されても当然だろう…」

「あ…あぁぁ…あぁぁあああああああ!」


 ミクは黒い靄からできた楔を掴むと、目の前に広がる闇へと打ち付けた。


 グルルゥオォォォオオオオオオオオオオオ!!!!


 闇の中では…大きな瞳が見開かれていた。体に楔を打ち込まれた何かは、苦しみながら叫び声をあげている。


「安定してきましたな。もう自力で抜け出る事はできないでしょう」

「ふふふ…。良い感じねぇ…。あと5本くらい打ち込めば完璧よぉ。半月くらいかしらねぇ。」


 そしてリーゼロッテはミクを見る。楔を打ち込んだミクは、力尽きてその場で倒れていた。


「リーゼロッテ様のおっしゃる通り殺戮を正当化する内容を含めればミクの抵抗も減りましたな」

「ミクは甘々だから…夢を見せてあげれば飛びついちゃうのよ。ふふふ…」


 リーゼロッテはとても楽しそうに笑っている。そんなリーゼロッテを見たヘルマンは以前から不思議に思っていた事を質問した。


「とても嬉しそうですね。なぜ彼女が苦しんでるとそんなに楽しそうなのですか?」

「ですからぁ。あの娘は天才なのぉ。嫌われる天才」

「つまり?」

「私もあの娘のことが大嫌いなのよぉ。だから苦しんでるのが嬉しいのぉ」


 リーゼロッテはうっとりしながら回答する。その内容を聞いたヘルマンは首を傾げて呟いた…。


「やはり、人間の気持ちはよく分かりませんな…」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 それから数日が経ちライト達が帝都へ到着した日、馬車で城へと戻ったミレーヌは自分の部屋で報告を受けていた。

 

「ミレーヌ様。やはりアクル王国ではまた異世界召喚が行われておりました」

「はぁ…またですか。近々また攻めて来るかもしれませんわね」


 ミレーヌはうんざりとした顔をしながら、ひじ掛け付きの椅子へと腰を下ろした。


「しかも…今回は伝説の特性が含まれておりました…」

「それは一大事ですわね。どの特性ですか?」


 報告者は一瞬口ごもり…そして意を決して口を開いた。


「全てです。勇者、賢者、聖女、そして…魔王…」

「あの国は…本当に何をやらかしてるんですの?魔王を召喚してしまうなんて…」

「流石にアクル王国も危険性は分かっているみたいでして、奈落迷宮で暗殺を図った様です」

「それは成功したのですか?」

「表向きは行方不明という扱いになっておりますが…たぶん」

「そうですか…」


 既に暗殺されている可能性が高いという話を聞いて、ミレーヌは少し落ち着きを取り戻した。


「やっぱりアクル王国は早くアレク様がお継ぎになるべきですわ」

「あ…はい…。その通りだと思います…」


 アレクの名を聞いて何故か報告者の挙動が不審になる…。何か言いづらい事がありそうな雰囲気です…。


「それで、すぐに伝えたかった事っていうのは勇者達の事ですの?」

「それもあるのですが…」


 やはり、何か言いづらそうにしています…。


「それ以外は何ですの?はっきりおっしゃって下さいな」

「……アレク様が…」

「アレク様が?どうかされたんですか?」

「異世界から来た聖女にご執心のご様子です…」


 バキッ!

「………はぁ?」


 ミレーヌは座っていた椅子のひじ掛けを素手で握りつぶしていた…。そして怒りでフルフルと震えている…。


「嫌な予感は当たるものですね…。わたくしのアレク様に手を出すなんて…許せません…」

「お…おっしゃる通りです」


 アレクが聖女にという話だったのだが、恋するミレーヌにはそんな事は通用しない。

 報告者も頷く事しかできなかった。


「聖女の事を調べなさい。わたくしのアレク様に手を出したらどうなるのか…必ず思い知らせてやりますわっ!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「くしゅんっ!」

「麗奈、大丈夫?風邪でも引いちゃった?」

「んー熱っぽくないけど…何だろう?」


 ミレーヌが怒り狂っている頃、とばっちりで恨みを買ってしまった聖女は奈落迷宮の79階層に居た。女性陣3人だけで雑談をしている。

 聖女パーティが更に躍進している理由として、和也がチート級属性である時空魔法を使えるようになった事が大きい。

 一応サポートで田中君が付いているものの、今も訓練を兼ねて和也が単独で魔物と戦っていた。途中までは着いてくるだけだったので、レベルが頭ひとつ遅れているのだ。

 結果、男性陣と女性陣で別行動をする事になっていた。


「噂でもされてたんじゃない?麗奈は可愛いなぁ~って!」

「もう…双葉ちゃんやめてよ…」

「でも、本当にこの前の王子様…アレク王子だっけ?が噂してるのかもよ?」

「この前は迷宮を出たらずらっと兵士さんが並んでて…凄かったね」


 5日前にアレク王子と護衛の兵士達が地上で待ち構えているという事があったのだ。

 そして、デートがしたいとかパーティがしたいとか…白鳥麗奈はアレク王子から猛烈アピールを受けていた。


「あれ、海老原先生が教えてくれたやつだよね。白鳥さんを篭絡しようとしてるっていう…。思惑がバレてるとも知らずに…恥ずかしい奴…」

「チュチュッ!!」


 チュー太が胸を張ってドヤ顔をしている。

 実はイザベラ王女の思惑は海老原先生にバレていて、チュー太を経由して聖女パーティにも情報が連携されていた。

 その為、アレク王子の猛烈アピールは失敗に終わっており、聖女パーティは迷宮探索を即座に再開していた。


「でも、私は演技っぽくなかった気もするんだよね」

「もう…きっと双葉ちゃんの勘違いだよ…」


 イザベラ王女の思惑なだけではなく、実はアレク王子は実際に聖女パーティに憧れを抱いていた。

 ミレーヌが言っていた通りアレク王子は冒険に憧れる王子様で、聖女パーティは奈落迷宮の探索記録保持パーティなのだから当然と言えば当然であった。


「それにしても暇だねー」

「双葉ちゃんは今まで1番戦ってきたんだから、暇くらいでちょうどいいよ!」

「じゃあ暇ついでに。白鳥さんに聞きたかった事を質問しても良い?」

「私?いいよ!仁科さんになら何でも答えちゃうよ!」

「良かった。白鳥さんはいつから透君の事が好きなの?」

「……………え?」


 仁科さんからの予想外な質問に、白鳥さんが一瞬停止する…。


「私が白鳥さんに出会った時点ではもう好きみたいだったから、いつからなのか知りたかったんだよね」

「仁科さんナイス質問!麗奈ったら私にも教えてくれないんだよ!」

「そうなんだ。先に言質が取れてて良かった。何でも答えてくれるんだよね?」


 仁科さんが白鳥さんへ詰め寄る…。そして停止していた白鳥さんは、オロオロしながら無謀な返答を返した。


「そ…そもそも好きなんて…」

「「いや、それは無理」」

「うぅ…」

「ふふふ。諦めて喋っちゃいなさいよ」

「えっと…。うぅ〜。初めて…初めて出会った時から…」


「やった!麗奈がやっと認めた!このこの〜」

「初めてって言うと、高校の入学式とか?」

「ん〜ん。透君は覚えてないみたいなんだけど小学4年生の時に会ってて…」

「へー。どんな出会い方だったの?」


 仁科さんの追求から逃れる事を諦めた白鳥さんは、出会った時の事を語り始めた。


「えっとね…私は公園で友達と遊んでたの…。そしたら知らないおじさん達に話しかけられて…。無理矢理車に乗せられそうになったの…」

「え?誘拐じゃん!麗奈危ない!」

「うん…凄く怖かった…。怖くて怖くて…大声で『助けて!』って叫んだの…」

「思いのほかハードな話が出てきたね…」

「そしたらね…同い年くらいの男の子が助けに来てくれたの。それが透君だったんだよ…」

「凄い出会い方だね…。でも透と言えども小学生の時に複数の大人を相手にするのは無理なんじゃないかな…」


 技が今より未熟なのは当然だが、それ以上に何と言っても体格差が違い過ぎる。


「うん…。勝てなかったよ…。でもね…どんなに蹴られても相手にしがみついて…邪魔をして…時間を稼いでくれたの。それで騒ぎになってきて…誘拐犯は諦めて逃げていったんだ」

「あ、それって夏休みの時じゃない?」

「うん。そう!」

「透が珍しくボロボロになってて、どうしたのか聞いても教えてくれなかったんだよね。そんな事があったのかー」

「直接お礼が言いたかったんだけど警察の人が住所を教えてくれなくて…それっきり会えなかったんだ…」

「そっか…そして高校で奇跡の再会を果たしたんだね!」

「会った瞬間に分かったよ。ずっと想ってた私のヒーローだから…」


 白鳥さんは顔を真っ赤にしてモジモジしている。とても恥ずかしそうだ。


「なるほどねー。ちなみに、その時一緒にいた友達も元気にしてるの?」

「うん。元気だよ。同じクラスにいるし」

「え!だれだれ?」


 そして白鳥さんは、自分と一緒に透に助けられた幼馴染の名前を言った…。


城之内くん(・・・・・)

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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