四天王
「あ、宿代はこっちで持つから気にしないでくれ。コクヨクで移動させてもらってるしね」
なるほど!コクヨクでの交通費と相殺という訳ですね!
って、無理やり納得しようとしたんだけど……相殺…で済んでないよね?移動ついでの相乗りで、言わばヒッチハイクで乗せてるだけだもん…。
「俺は護衛としてミレーヌ様と同室だけど、ライトは別室で頼む。悪いな」
そりゃあ年頃の女性が出会ったばかりの男と同室っていうのは不味いでしょう。王族だしスキャンダルになっちゃいます。
あぁ、なるほど…俺の部屋はもっと安い所を取ってるのかな。そういう事なら…。
「問題ない。ではお言葉に甘えよう」
「ありがとう。夕食はどうする?1人の方が良いなら部屋に運ばせるよ」
ハルトは結構気が利くな…。たぶん俺の仮面のことを気にしてくれたんだと思う。
「できれば別でも良いか?ちょっとやりたい事もあってな」
「りょーかい!じゃあまた明日よろしく!」
「あら、ライトは夕食別ですの?仕方がありませんわね。ではお休みなさい」
ミレーヌがカーテシーで挨拶をしてくれた。流石は王女様…様になるな…。
「あぁ。2人ともまた明日」
俺は2人に挨拶をしてから部屋を出た。これで明日の朝までは自由かな。夕食を食べたらリッケルトに戻って…その後にレインの所に行って…。
そんなプランを考えながらメイドさんに付いて行くと、俺の部屋に到着した。らしい…。
「まさか…ここが俺の部屋なのか?」
「も…申し訳ありません!当店ではここが最高品質のお部屋でして…。ご不満かとは思いますが誠心誠意努めさせて頂きますので…」
いやいや…違います…。『この程度が俺の部屋なのか?』って言ってる訳じゃないんですよ…。ミレーヌ達と同格の部屋じゃないですか…。
しょうがない…。今更断るのも何なので泊まらせて頂こうと思います。
ただ…こうなると問題が1つあるな…。
「大丈夫だ。よろしく頼む。ただ…食事は料理毎にサーブされる形式か?」
「おっしゃる通りです。1品毎にサーブさせて頂く予定ですが…」
「申し訳ないが先に全て並べて欲しい。提供側としては最適な温度やタイミング等があるのだろうが…」
そう言いながら、俺は自分の仮面を指先でコツコツと突ついた。
「あ…。気が付かず申し訳ありません!すぐにご準備をさせて頂きます」
どうやら『仮面を外せないと食べれないけど顔を見られたくない』と受け取ってくれたみたいです。本当はそんな事もないんだけど…。
しばらくすると、テーブルにはずらーっと高級そうな食事が並んでいました。明らかに1人分ではありません…。
「それでは我々は下がらせて頂きます。何かご用がありましたらいつでもお呼びください。失礼致します…」
メイドさんが全員下がって行きました。ふぅ…これでやっと落ち着けます。
そして僕はさっそく食事を開始する。のかと思いきや、テーブルに並んだ料理を片っ端からアイテムボックスに回収していきました。
食事を取ってからリッケルトに戻るつもりだったんだけど、予定変更して食べる前に戻りたいと思います。これこそが問題の対策なんです…。
マナー悪くてごめんね…。
そして、食事を全てアイテムボックスに入れた僕は、リッケルトの宿へと繋がるゲートを開きました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リルー!ただいまー!」
「ワフーン!」(おかえりー!)
リルがしっぽを振りながら僕に駆け寄ってきます。可愛いですね!
ところが…僕まであと少しという所でリルはピタリと止まりました…。
「ワフッ…ワフン…」(凄く良い匂い…美味しいもの食べたでしょ…)
や…やはり気付いたか…。1人で食べてたら大惨事になる所でした…。
「まだ食べてないよ。リルと一緒に食べようと思って持ってきた!」
そして、僕はアイテムボックスに入れていた料理を並べ直します。料理を見るリルの目がキラキラ輝いてますね!
「ワフーン!」(おいしそー!)
「なかなか食べれない高級な料理だから、しっかり味わって食べようね」
「ワッフ!ワッフ!」(もう食べていい?)
「いいよ!頂きまーす!」
「ワフーン!」(いただきまーす!)
…………。
………。
……。
「ワフ…」(美味しかったぁ…)
「ホントにね…。一瞬で食べきっちゃったね…」
流石は貴族御用達のホテルです。料理はとてつもなく美味しくてリルも大満足だったみたいですね。持って来て良かった…。
「さて、ご飯も食べた事だしレインの所に行こうかな」
「ワフ?」(レインてだれ?)
「あ、移動中に会ったんだけど、先代魔王が作ったメイドゴーレムだよ」
「ワフーン!」(リルも会いたーい!)
「それじゃ一緒に行こうか」
「ワフン!」(やったー!)
という事で、リルと一緒にレインの所に行きたいと思います。レインが言っていた渡すモノって何でしょうね。
僕とリルはゲートでゴーレム工場へと移動しました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「レイン、居るかな?」
「はい。こちらに」
移動してから尋ねてみると、レインはすぐに反応してくれました。
「渡したい物があるって話だったから忘れない内に来たよ」
「ご足労頂いてありがとうございます。あら…そのフェンリル…リルの親族でしょうか?」
ん?どういう事だ?親族っていうか本人だけど…。と言うより、会うの初めてだよね?
「この子の名前が『リル』だけど…知っているの?」
「ワフゥ」(わたしリルだよ?)
「………私が知る『リル』は成体です。どうやら同名の様ですね」
んー…。なんだか関係ありそうな気がします。
「レインが知ってる『リル』はどんな存在だったの?」
「魔王様の四天王のお一人で、魔王軍第二師団の団長でした」
あ…。それを聞いて僕は1つの事を思い出しました。見た時に気にはなってたけど、その後に忘れていた情報…。
リルの称号が『四天王の娘』でしたね。
「たぶん…レインが知っているのはリルの親だと思う」
「なるほど。名を受け継がれているのですね」
「辛い事を聞くかもしれないけど…。リルは親の事って覚えてる?」
「ウー…ワフン!」(ん~…わかんない。会った事ないよ)
「そっか…」
僕はリルの頭をわしゃわしゃしました。
リルの年齢は5歳です。5年前に何かがあったんでしょうね…。
今はこれ以上の情報は出なそうかな…。じゃあ本題の話に戻りましょう。
「話戻すね。レインが僕に渡したいモノって何かな?」
「はい。お渡ししますので、こちらに来て下さい」
そう言ってレインは施設の奥へと進んで行きます。僕とリルは後ろを付いて行きました。
あ、赤目ゴーレムの製造工場だ。パーツ毎に流れ作業で作られてて…こうやって見ると日本の工場そのものですね。
そして施設の一番奥へ来ると、とても厳重な扉に辿り着きました。
「渡したいモノはここにあるの?」
「はい。その通りです」
そう言いながらレインが数字パネルっぽいのをポチポチ押してます。
扉の開錠がパスワード管理されてるみたいですね。こんな技術があるとは…。
ゴウン…ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
重厚な扉が開くと、中には1つの台座があります。そして、その上には大きな魔石が飾られていました。
随分と密度の濃い魔石です…。とても自然発生したものとは思えません。
「レイン。これは?」
「こちらは魔王軍四天王のお一人で、第四師団長になります」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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