アクル王国の内情
「凄いですわー!人がゴミの様ですわー!」
いや…そこまで上空は飛んで無いよ…。
今は帝都に向かって移動している最中なんだけど、途中にある村の上空を通ったら王女様が危険な事を言い出しました…。異世界人からネタが流出してるのかな…。
「ハルト。予定の町まではどれくらいだ?」
「この感じだと1時間くらいかな?アリコーンは早いねー」
「コクヨクは特殊個体だから特にな」
「ミレーヌ様。あと1時間ほどでバールに到着します。本日はバールで休み、明日は朝から出て昼には帝都に到着する予定です」
「分かりました。ふふふ…。早くアレク様にプレゼントを渡したいですわ」
ミレーヌはアレクとやらにベタ惚れだな。学校が同じなんだっけ?どこかの国の王族とかなんだろうか?
「そう言えばアレクって何者なんだ?ミレーヌが惚れる相手なんだから何処かの国の要人なのか?」
「アレク様はアクル王国の第一王子ですわ」
………は?マジで?いやいやいやいや…聞き間違いだよね?王女様、アクル王国の事をボロカスに言ってたじゃないですか…。
「えっと…聞き間違いか?アクル王国の王子と聞こえたが…」
「そう言いましたわ」
間違ってなかったよ…。
「そうか…。アクル王国の事は嫌ってると思っていた…」
「国が嫌いと言うか、現指導者は嫌いですわね」
「第一王子なら後継だろう?似た考え方だったりするんじゃないのか?」
「アレク様をあのバカ国王と一緒にしないで頂きたいですわ!」
うわー。俺大混乱です…。俺は助けて欲しくてハルトの方を向きました。
「えっと…ライトはアクル王国の王族について詳しくないみたいだね」
「そうだな。国としてやってる事は耳にするが、個人としての情報だと第一王女くらいしか知らないな」
「あー、あの怖い王女様ね…。アクル王国の後継はその第一王女様だろうってもっぱらの噂だよ」
「王位継承は男子優先では無いのだな」
「いや、男子優先だね」
うーわー!コイツも俺を混乱させるー!もっと優しく教えてくれ…。
「悪い悪い。本来は男子優先なんだけど、権力争いで負けた形なんだよ。現国王の子供を歳の順に言うと、第一王女、第二王女、第三王女、第一王子なんだけど、上2人と下2人は母親が違うんだ。で、権力争いの結果、下の2人は冷遇されてるって話だね」
イザベラ王女の母親はかなり怖い人みたいですね…。でも派閥争いで王子を担ぐ人が出たりしないのかな?
「王子を担ぐ派閥とかいないのか?」
「そこが恐ろしい所でね…。表向きには派閥は一つしか無くなってる。第一王妃に反抗する奴は全員処罰されたらしいよ。第二王妃も亡くなってるんだけど、第一王妃に殺されたんだろうって言われてるね」
マジか…恐ろしい所だな…。
「ってな訳でね。アレク様は後継教育もされてないし、王子様なのに冷遇される中で頑張ってる人なんだよ。正直、性格は良い子だね」
「本当にそうですわ。アクル王国の現状にアレク様がどれだけ心を痛められているか…。現国王は勇退してアレク様に全てを任せれば良いのです!」
なるほどね…。これは良い事を聞けたかもしれません。下の2人となら協力体制を敷けるかもしれないな。
「よく分かった。アレク様はアクル王国の中にあって国とは違う方向を向いてる人なんだな」
「その通りですわ。でも…最近は良くない噂を聞くのでアレク様のお体が心配です…」
「良くない噂?」
「アクル王国がまた異世界召喚をやっていると言う噂ですわ。本人達はしらばっくれてますけど…。ノウハウが彼らにしかないので困ったものです」
「ミレーヌ様!その様な事を話して宜しいのですか?」
「別に良いのではなくて?どうせすぐに広まる話です」
異世界召喚は周りの国に反対されながら隠れてやってたのか…。それと…日本に帰る為にはアクル王国の協力が必要みたいだな…。ん~…。
でも、それがアレクの体と何の関係があるんだろう?
「異世界召喚されるとアレク様に危険があるのか?」
「色々ありますわ。生贄的に使われるかもとか…王女に命を狙われるかもとか…異世界人から色目を使われるかもとか…」
最後のが本音っぽいかな…。
「そう言えば、ミレーヌとアレク様はどういう関係なんだ?」
「そ…そんな…関係だなんて…」
ミレーヌが何だかモジモジしてます。隠れた恋人同士とかなのかな?ロミオとジュリエット的な感じだもんね。
「ただのクラスメイトですよ」
ハルトがサクッと教えてくれました…。
そして暴露されたミレーヌはハルトをコクヨクから落とそうと押しています…。おいおい、危ないからやめてくれ…。
でも真面目な話、よくクラスメイトになれたな…。
「帝国の学校なのか?国の関係を考えると2人が同じ学校に入れる気がしないんだが」
「ハァ…ハァ…。ライトは本当に何も知りませんのね。通っているのは大陸の中心にある学術都市の学校ですわ。あそこでは各国の権力や関係は無視されますのよ」
「そうなのか…。知らなかった。教えてくれて感謝する」
凄いな。そんな所があるのか。学術都市なら異世界転移魔法の事とか何か分かるかもしれないな。
「お、ライト。町が見えてきたぞ」
「本当だな。帝都に近いだけあって大きな町だ」
いきなり町の中に入る訳にもいかないから門の前に降りましょう。
「ライト。西門の方に行ってくれ。そっちが貴族専用なんだ」
「………もう立場を隠さないんだな」
「なんか、ライトにはもう良いかなって…。バレバレみたいだし…」
体裁を保つのが面倒になったみたいです…。
「コクヨク。西門の前に下りてくれ」
「ヒヒーン!」
コクヨクは指示通りに西門の前に降り立ちました。でも…なんだか兵士達が物騒な雰囲気です…。いきなり上位魔物のアリコーンが現れたので警戒してるみたいですね。
でも、コクヨクから降りたハルトが装飾の激しい小刀を掲げると雰囲気が一変しました。
「ミレーヌ王女殿下の御前である。控えよ!」
すると、兵士達はあわてて武器を下ろし、片膝をついて頭を下げます。ミレーヌは帝国の王女様なんだなって初めて実感しました…。
でも、俺はミレーヌに対する態度を変える気はありません。
「ミレーヌ。さっさと降りろ」
「ちゃんとエスコートできませんの?男として情けないですわよ?」
下馬して鎧を出して手を引いてって…コクヨクのサイズでそんな事できないだろ…。そもそも鎧はまだ付いてないし…。まさか…俺に踏み台になれとでも言うのか?お断りだ!
そして、自力で飛び降りたミレーヌはコクヨクに話しかけました。
「コクヨク。男として情けないライトじゃなくて私に仕えませんこと?」
「おい…」
目の前での引き抜き行為はやめてください…。
しかし、コクヨクは首を横に振って誘いを断りました。良かった…。もちろん信用してましたよ?
断られたミレーヌは『むむむ…』という顔をしています。
「はぁ…。主従揃ってわたくしの誘いを断るなんて…。仕方がありませんわね。それでは行きますわよ」
2人が入門手続きなんてせずに堂々と進んで行くので、俺は後ろを付いて行きます。
行った先では当たり前のように馬車が準備されていて、2人はそこに乗り込みました。
「ライトはコクヨクに乗って付いてきてくれ」
「分かった」
馬車は町の中をどんどん進んでいきます。そして…町の人はコクヨクを見てざわつきました…。『従魔ですよー!首輪見てねー!』という気持ちで俺は従魔の首輪を指差します。付けてて良かった…。
そしてたどり着いたのは、貴族御用達の高級ホテルです。
「いつもご利用ありがとうごさいます。こちらになります」
これが本物のVIPという奴ですか…。名前も聞かず、金額に関するやりとりもなく、当たり前の様に最上級の部屋に案内されます…。
不安になった俺は近くにいたメイドを捕まえて値段を聞いてみました。
一泊で金貨10枚…。日本円で100万円…。俺は聞いた事を後悔しました…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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