帝都へ
「わー!怪人ブラブラだ!逃げろー!!」
これから冒険者ギルドに行く所なんだけど、町の様子を見ながら向かおうと思ったんだ…。それで町を歩いていたら突然子供に指をさされて逃げられた…。怪人ブラブラって……何?
追いかけ回して聞くわけにも行かないし…気にせずにギルドへ行こうかな…。そうして少し足早になってギルドへ向かっていると、今度は奥様方のひそひそ声が聞こえてきた…。
「あら、怪人ブラブラって実在したの?」
「奥さん、だから言ったじゃない」
「お隣の家では、怪人ブラブラの話をしたらとても素直になったらしいわよ」
「まぁ!それは良いわね。やっぱり実在してるから説得力があるのかしら」
えっと…どういう事だろうか?何やら事情を知ってそうなので聞いてみようかな…。
そして俺は井戸端会議をしている奥様達にゆっくりと近づいて行った…のだが…。俺に気付いた奥様達が叫び出してしまった…。
「きゃー!すいませんー!」
「私達は何も悪いことしてないですー!」
「助けてー!」
驚かせない為にゆっくり近づいてたんだけど…。奥様達は蜘蛛の子を散らす様に走り去ってしまった…。えぇぇぇぇぇぇぇ…。
何が起きているんだ?とりあえず外を歩いてるのは危険だな。こうなったら急いでギルドへ向かおう!
ギルドへと向かう俺の足は、いつの間にやら自然と走り出していた…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あら、怪人ブラブラ様。ご足労頂き申し訳ありません」
おいバレッタ…。ご足労なんかより、その呼び名の方が申し訳なくならないのか…?
「町の中でも何度かその名を聞いたんだが…。その呼び名は何なんだ?」
「どうやらライト様の事みたいです」
「あぁ、これだけ呼ばれるんだからそうなんだろう…。で、何でそんな呼ばれ方をされている?」
「どうやらドルツ男爵を片手で持っていた姿が話題になっている様ですね。しかも、何処かの家庭で言う事を聞かない子供に『悪い事をしてると怪人ブラブラに頭掴まれて持ってかれちゃうぞー!貴族でさえ問答無用だぞー!』って言ったら効果絶大だったみたいで…。いま子育て世代で大人気なんですよ?」
なんだそれは…。とりあえず、貴族という特権階級にあの仕打ちは衝撃的だったみたいだ…。そっか…それでこんな事に…。
まぁ、役に立ってるなら別にいいです…。便利に使ってください…。
「こうなったら、ライト様の二つ名は『怪人ブラブラ』で決まりですね」
「おい。二つ名って言うより偽名だし、それは駄目だろ」
バレッタが危険な事を言うので即座に突っ込んでしまった…。しかし、突っ込まれたバレッタはニコニコと笑っている。
「ふふふふ。冗談ですわ。個人的には少し可愛い感じもあって好きですけど、残念ながらギルド的にダメですわね。二つ名は畏怖と尊敬の念を込めて呼ばれるものですから」
「そうか…それは良かった」
ふぅ…少し安心した…。まったく…バレッタも洒落にならない事を言ってくれるもんだ…。
「所で、次のクエストの事を聞きに来たんだが」
「あ、はい。準備は出来ております」
「そうか。次は何をすれば良い?」
「バルトロ帝国へ行っていただきたいと思います」
「前に言っていたSランクになるための顔売りか?」
バレッタがニッコリと微笑んだ。俺が覚えていた事が嬉しいみたいだ。
「その通りです。行っただけでは顔は売れません。帝国に行って何をするのかが重要ですが、現在帝都において難題が発生している様でして、これを解決すればギルド本部の覚えも良くなると思います」
「なるほどな。ちなみに何がおきているんだ?」
「それは…ふふ…」
バレッタは内容を喋ろうとしたのだが、クスクスと笑いだしてしまい喋れなくなっていた。
「いったいどうした?」
「も…申し訳ありません。ふふふふ…。えっと、帝都で発生している事件ですね。実は…夜な夜な現れるらしいのです。謎の怪人が。それが色々な施設を破壊するそうなのですが、どうにも捕まえられなくて困っているとの事です」
「………。」
「目には目を。歯には歯を。怪人には怪人ですね!」
こいつ…言う様になったものだ…。それならば…。
俺はマントをたなびかせると中2病ポーズをして、低くて良い声を意識して喋り始めた。
「怪人の風上にも置けぬ奴!どちらが本物の怪人か、この怪人ブラブラが明らかにしてくれるわ!」
「ブフッ!ふ…ふふふ…ライト様…不意打ちは酷いですわ…」
お前が散々いじってくれたんだろうが…。でも笑って貰えて良かったよ。笑って貰えなかったら大惨事だ…。
「まぁ冗談はさておき、帝都へ行ってギルド本部に行けば良いのか?」
「は、はい!こちらは紹介状になります。ギルド本部に着きましたら、こちらを受付にお渡しください」
「ありがとう。ちなみに帝都まではどれくらいだ?」
「北の街道をひたすら進んで行けば辿り着けますが、馬車で20日ほどかかります」
「なかなか遠いな。分かった。それでは早速だがこれから向かってくる」
「承知致しました。怪人対決の結果を楽しみにしながらお待ちしております」
まったく…。俺はバレッタに背を向けると、手をヒラヒラと振って冒険者ギルドを後にした。そして北門に向かって歩き出したのだが…、道の真ん中で仁王立ちをして行く手を阻む者が現われる。
「怪人ブラブラなんてオレが退治してやるっ!!」
それは…10歳くらいの男の子だった。母親に俺の存在で脅されたけど、脅しには屈せずに倒しに来たという所かな?さてどうしたものか…。
「これでもくらえー!」
子供はボール状の物を投げて来た。これは…泥団子か…。問答無用でそういう事をしてきますか…。そうですか…。これは悪い子ですね…。
しばらくはレイオスに顔を出せなくなるので、いま反省して貰いましょう。
俺は両手をワシの爪の様にして前に突き出し、少年へと近づいていく。当然ながら泥団子は全て避けている。
「あたれ!あたれー!」
「クククク…。そんなものは当たらぬ。さて、いたずらする悪い子はどこまで運ぼうかな~。アクル王国に売ってしまおうか…いっその事、別の大陸も良いなぁ」
「うわー!来るなー!来るなー!」
ゆっくりと近づいて少年の恐怖心を煽ってみた。そして、ある程度近づくと一瞬で背後を取って後ろから頭を鷲掴みにする。そして、持ち上げながら少年に語り掛けた。
「よし決めた。お前は天竜の塔に持って行って、竜の餌にしてしまおう
「やだ…やだー!ごめんなさいー!!」
「ふむ…。素直に謝れたから今回だけ特別に許してやろう」
俺は少年を地面に下ろすと、掴んでいた頭を離す。すると、少年は泣きながら一目散に逃げ出していった。
これで少しは実感させる事ができたかな?お母さんの言う事をちゃんと聞くんだよ…。
そして俺は北門から町を出て、そのまま更に北へと向かう。
「さてさて、どうやって移動しようかな…」
普通の馬だと遅いし、空を飛ぶと色々な問題が出るし…。
どうしようか考えながら、ひとまず俺はバルトロ帝国に向かって走り出すのだった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
ブクマして頂けたり、↓の☆で皆様の評価をお聞かせ頂けるととても嬉しいです!




