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ローンブレイヴ

なかなか更新できず申し訳ありませんでした。

プライベートが落ち着いてきたので、更新頻度は戻って行くと思います。

2023/04/16 最後少し表現を変更しました。

2023/06/01 誤字を修正しました。

「マナよ。光となりて敵を貫け!閃光!」


 ギャオォオオオ………


 いま勇者パーティが戦っているのは、奈落迷宮40階層のボスであるレッサードラゴンだった。聖女パーティから遅れること約1ヶ月での挑戦である。

 いや、挑戦と言うのは表現が不適切かもしれない…。戦闘に関しては圧倒的であり、隼人が放った光属性魔法はレッサードラゴンの胴体を正面から貫いている。


 ズズン……


 身体に大穴を開けたレッサードラゴンが倒れると、その死体に向けて隼人はつぶやいた。


「ふんっ…デカいだけのトカゲだな…。戦闘さえ出来れば俺にだってこれくらい余裕なんだ…」


 聖女パーティより遅れているのが悔しいのか、隼人は苦々しい顔をしている。

 だが、打って変わって他の勇者パーティについてはレッサードラゴンを倒した事に大喜びしていた。そして隼人の元へと集まってくると親友である龍彦が興奮しながら隼人に話しかける。


「隼人!やったな!光属性魔法で消し飛んだ部分も多いけど、それでも金貨50枚くらいにはなるぜ!これだけあると何買うか迷うな!」

「金貨50枚か…」


 金貨50枚は日本円にすると500万円ほどだ。5等分すれば1人あたり100万円になる。普通の学生だった彼らからすれば、大はしゃぎするのも納得の金額だろう。

 しかし、隼人の表情だけは何故か暗い…。その理由は…そもそも勇者パーティがなぜ40階まで来れたのかに関係していた。


(くそ…。こんな金額じゃ全然足りない…。5等分したら利子分にもならないじゃないか…)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※2日前のアクル王国王城


 隼人はイザベラ王女に呼び出されて彼女の私室へと来ていた。部屋にはクリシュナもいる。


「勇者様。奈落迷宮の探索ですが、現在は何階層まで到達されましたか?」

「………。」


 隼人としては聞いてほしくない事だった。しかし、イザベラ王女は追求を止めない…。


「正しい情報を把握していないと適切な支援もできません。勇者様。何階層でしょうか?」

「35階層だ…」

「そうですか…。聖女パーティとは随分と差をつけられてしまいましたね。これでは国王陛下と約束した報酬も厳しくなってしまうと思われます…」


 聖女パーティはもうすぐ70層に辿り着きそうだと言われていた。あと少しで倍の差がついてしまう…正直な所、隼人はとても焦っていた。


「実力で劣っている訳ではない!物資不足で戻らなきゃいけなくなるんだ!俺たちだって大容量のマジックバッグやゲートのスクロールがあればもっと奥へと行けるんだ!」

「勇者様のおっしゃる通りです。わたくしも1番強いのは勇者様だと思っております」


 イザベラ王女は間髪入れずに隼人の意見に合意した。しかし、実のところ彼女の本音は違っている…。イザベラ王女には持っていきたい話題があり、これはその為の布石だった。そもそも勇者パーティが現在35階層な事は知っている。


(高価値のアイテムを入手したり、荷物の工夫や現地調達で継戦能力を上げるのも実力の内なんですけど…。まぁ、足りていないのがスクロールだと考えているのは非常に都合が良いですね)


「イザベラ王女…。アクル王国でゲートのスクロールを集める事はできないだろうか?あと出来ればマジックバッグも…」

「そうですね…。集める事は可能です。ただ…」

「なんだ?はっきり言ってくれ!」

「非常に高価な品です。しかも希少ですから、集めようとすると値が上がり相場よりも高くなってしまいます。残念ながら…わたくしから無償で提供できる範囲を超えております」

「そ…そうか…」


 イザベラ王女の回答を聞いた隼人は見るからに落胆してしまう。そして俯いたまま黙り込んでしまった。そんな隼人をイザベラ王女は侮蔑の視線で見つめている。


(自己負担との妥協案を提案してこない…。無償で貰う事が前提だったのですね。何とも甘やかされた考え方です。まぁ、予想通りではありますが…。隼人から提案してきた方が望ましいので、もう少し待ってみましょうか)


 コンコンッ!


 沈黙が支配する中、イザベラ王女の私室の扉がノックされた。イザベラ王女は来訪者を予測していた為、ノックした者に対して扉越しに声を掛ける。


「聖女パーティの報告ですね?そのまま報告しなさい」

「はっ!聖女パーティが奈落迷宮から帰還致しました。70階層のボスを撃破し、そのまま72階まで進んだ模様です!公式での最高記録更新になります!」


 イザベラ王女がチラッと隼人を見ると、隼人は絶望的な表情で地面を見つめていた。その姿を見たイザベラ王女は口の端を釣り上げる。


「分かりました。報告ありがとうございます」

「はっ!では失礼致します!」


 報告に来た兵士の気配を感じなくなってから、イザベラ王女は隼人に話しかけた。


「勇者様…。半分以下(・・・・)になってしまいましたね?」

「イザベラ王女!必ず返す!金を貸して貰えないか!」


 イザベラ王女の嫌味や挑発とも取れる発言に一瞬でカッとなった隼人は、瞬発的に借金の願いを申し出ていた。


「良いのですか?以前、異世界の方がこの世界の金利に驚いていました。この世界の一般的な利率は10日で1割ですよ?」


 未成熟な世界では回収の困難さや法の緩さから金利は高くなりがちだ。地球だって金利が高い時代から段々と下がって今の状態になっている。この世界では、日本においては違法となる金利が一般的だった。


「だ…大丈夫だ!それで金貨300枚を貸してくれ!往復のゲートスクロールとマジックバッグを購入する!」

「そうですか…。勇者様のご覚悟、確かに拝見させて頂きました。ゲートのスクロールは相場価格で準備させて頂きます。先程は相場よりも高くなると言いましたが、差額くらいはわたくしに賄わせてください」


 イザベラ王女の発言に隼人は目を輝かせる。支援無しを覚悟した所に出てきた甘い言葉が、彼の心に効果的に響いていた。


「い…いいのか?」

「勇者様ならばすぐに完済頂けると信じておりますから。40階層以降のボス素材は高価です。進めば進むほど収入も増える事でしょう」

「その通りだな!」

「聖女パーティの様に迷宮内でスクロールを発見できるかもしれませんし、むしろ売却できるほど余るかもしれません」

「あぁ!きっとこれで良い感じに回り始める!」

「勇者様の力ならば、すぐに聖女パーティに追いつける事でしょう」

「ありがとう。イザベラ王女、感謝する」

「私は勇者様の大ファンなのです。子供の頃から勇者様の物語を読み聞かせられて育っておりますから、憧れなのですよ」

「そうか!期待に応えてみせよう!」


 何の根拠も無いというのに隼人はもう成功する未来しか想像できていない。停滞していた所から急にトントン拍子で話が進んだ為、このまま順調に行くものと錯覚に陥っていた。


「これで奥に行ける!こんな借金すぐに返してやる!」

「期待しております」

「よし!すぐに奈落迷宮に潜る準備を行う。スクロールの準備、よろしく頼むぞ」

「承知致しました」


 そして勇者はイザベラ王女の私室を出ていった。すると、ずっと黙って聞いていたクリシュナがイザベラ王女に問い掛けた。


「イザベラ様…。奈落迷宮にゲートスクロールがあったとしても、聖女パーティが先に拾っているため後追いの勇者はあまり拾えないのではないでしょうか?」

「そうかもしれませんね」

「完済される可能性は低い様に感じますが…宜しいのですか?」

「ふふふ。むしろ返されては困ります」

「それは…何故でしょうか?」

「分かりませんか?勇者をお金で縛るためです。借金に沈める事でアクル王国に歯向かう事ができなくなるでしょう?」

「なるほど…」

「それにゲートのスクロールはわたくしのお手製です。元手はほぼゼロですから、こんなに美味しい話はありませんよ」

「承知致しました…」


 隼人は既にイザベラ王女の手のひらの上だった…。

 そして、更に隼人を苦しめる原因となっているのが『勇者パーティはスクロールが借金による物だと知らない』という事だ。隼人の自業自得なのだが…小さなプライドが邪魔をしてメンバーに説明できていなかった…。

 その結果、自分の取り分…つまりは探索収入の5分の1を元手として返済しなくてはならず、返済の見通しは全く立っていない状態となっている…。


 こうして、愚かな勇者の借金生活が幕を開けたのだった…。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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