護衛依頼(?)完了
「寄り親という事はレイオス伯爵のことを良く知っているのだな?信頼できる相手か?」
「はい。公明正大な方だと思います」
寄り親というのは、貴族派閥の中の直属上司と言うか、兄貴分と言うか、ケツ持ちと言うか…そんな感じの仕組みだ。まぁ両方ともレイオスに住んでるんだし、納得の関係性だと思う。
「いま伯爵はレイオスにいるのか?」
「急な予定が入っていなければそのはずです」
ドルツ男爵をさっさと引き渡したい所だけど、レイオス伯爵の顔とか家とか知らないのでロンドについてきてもらえると安心だ。でも、そもそもロンドは商売をしにドルツに来てるから…その邪魔になっちゃうのは申し訳ないな…。
「ロンド。売却や仕入れにはまだ数日かかると思うが、認識は合っているか?」
「売却については事前に調整してから出立してますので問題ないです。仕入れに関しては…確かに数日かかりますね。しかし、そんな事を言ってる場合ではありませんので、商売の事は忘れて頂いて大丈夫ですよ」
ロンドに気を使わせてしまった…。
よし!ゲートを使ってしまおう!ドルツ男爵を引き渡す為の往復はもちろんのこと、護衛依頼としてレイオスに帰るのにも使おうと思う。俺に付き合わせた時間が押しちゃうんだから俺がどうにかすべきでしょう。いや、そうしたい!
もう既に護衛依頼って感じじゃないし…バレッタも許してくれる気がする…。たぶん…。
「ロンド。護衛依頼の復路はゲートを使おう。それによって空く時間を仕入れに充ててくれ」
「おや、宜しいのですか?そのゲート費用はライト様の奢りという事でしょうか?」
ロンドが微笑みながら聞いてくる。だが…目が商人の目になってるなぁ…。
「あぁ。今回の帰還分は無料で良い」
「今回分は無料ですね。承知致しました。お言葉に甘えさせて頂きます」
すると、ロンドは早速部下に指示を出し始めた。仕入れの話っぽいな。忙しない事だ…。
「では、ドルツ男爵を引き渡しにいこう」
「承知致しました」
「い…嫌だ!私は行かないぞ!!」
ドルツ男爵が…座り込んで駄々をこねだした。子供か!まぁ、精神年齢は子供なんだろうな…。面倒くさい…。
俺はドルツ男爵の後ろに回ると首筋に手刀を叩き込んだ。俗に言う首トンですね。これ、的確に第7頸椎を叩かないといけないし、強すぎると神経が損傷するから結構難しいんです。
そして、気を失ったドルツ男爵はそのまま前に倒れ込んだ。
「ラ…ライト様…。殺してしまったのですか?」
俺はドルツ男爵の頭を鷲掴みにして持ち上げながらロンドに答える。
「いや、気絶させただけだ。うるさいからな」
「な…なるほど…」
「では、まずはギルドに行く。付いて来てくれ」
「承知致しました」
俺はバスケットボールの様にドルツ男爵を持ちながら、ギルドに続くゲートへと入って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「その…頭を掴まれてブラブラされてるのがドルツ男爵…なのですか?」
俺は今回のクエストで何が起きたのかをバレッタに説明していた。そして、これからレイオス伯爵の元へ向かう事と、帰りはゲートを使うつもりである事も伝えた。
そんな中で1番気になったのは、ドルツ男爵をぶら下げてる事みたいだ…。
「その通りだ。では伯爵に引き渡してくる」
「あの…そのまま運ばれるのですか?」
「あぁ。こいつにはコレで十分だろう」
「しょ…承知致しました…」
バレッタは何か言いたげではあったが、言葉を飲み込んで俺達を送り出してくれた。それから俺は、ロンドに案内されながらレイオス伯爵邸に向かう。
何だか…町のみんなの視線が痛々しいな…。お母さんが子供に『見ちゃいけません!』とか言ってる…。そんなにおかしいかな…?
「ライト様。ここが伯爵邸になります」
レイオスの領主館は町のほぼ中心に存在していた。流石は上級貴族である伯爵が住む屋敷だけあって、王城を除けば今まで見た屋敷で1番大きい。
ロンドは屋敷の正門に近づいていくと、門衛に話しかけた。
「ロンド準男爵である。伯爵様に急ぎお伝えする事があり参上した。謁見の可否について確認頂きたい」
「承知致しました。少々お待ちください」
おや、門衛の態度が丁寧だな。寄り親の部下だから顔見知りなのかもしれない。門衛は急いで屋敷の中へ入っていくと、すぐに戻ってきた。
「伯爵様がお会いになられるとの事です。どうぞお入りください」
順調に話が進むな。ロンドに来てもらって良かった。
そして俺たちは応接室へと通される。まだレイオス伯爵は来ていないが、すぐに来るので待っていて欲しいと言う事だ。
しばらくすると、応接室に身なりの良い若い男が入ってきた。若いと言っても俺よりは年上だろう。20台前半って感じかな?
「ラーハイム様。急な訪問申し訳ありません」
「構わぬ。ロンド殿が急ぎだと言うのなら、本当に急ぎの要件なのだろう」
「ありがとうございます」
「そして、その要件はそちらの方が持っているドルツ男爵に関してかな?」
レイオス伯爵はこちらを向くと、近づいてきて話しかける。
「私はアレク・ラーハイム・レイオス伯爵である。貴方が持っているドルツ男爵を放してもらえるか?そんなのでも、一応はビオス王国貴族なのでね」
そうですか。では放してあげましょう。
俺は持っていたドルツ男爵をレイオス伯爵の前に投げ捨てた。そして魔王覇気を出しながら喋り始める。
「キャリー・ライトだ。装備や素性については詮索するな」
「くっ…。ロンド殿…これは一体どういう事だ?」
「ラーハイム様…。説明させて頂きます…」
ロンドはドルツ男爵がアクル王国や魔族と共謀して密売をしていた事やその他に犯していた罪の数々を説明した。そして、それは俺が全て洗い出して一網打尽にした事も報告する。
「なるほど…。ちなみに証拠は揃っているか?」
「はい。多数の証人や裏帳簿など、十分に揃っております」
「そうか。ロンド殿よくやった」
よくやった…か…。その発言は立ち位置的にどうなんだろうか?俺は納得が行かなかったのでレイオス伯爵に問いかける。
「それでは、ビオス王国の怠慢について聞かせて貰おうか。なぜドルツに好き勝手させていた?ドルツに苦しめられる民を放置していた?」
レイオス伯爵が冷や汗をかきながら答えてくる。
「手厳しいな…。しかし、国がどうにかすべきだった事は確かだ。一応言っておくと、全く動いていなかった訳ではない。ドルツ男爵が何やら悪さを行なっているのは感じていたので調査していたが…証拠が掴めなくて困っていた…。つまりは『好き勝手させていた』のではなく、力不足により『好き勝手されていた』という所だ」
んー。俺が気になるポイントはそこじゃない…。
「言葉遊びをするつもりは無い。苦しんでいる民がいるのに何も対応していなかった事実は変わらん。ドルツの捕縛以外にも出来ることはあったはずだ。単純に本腰を入れていなかっただけだろう」
伯爵達の思考は『ドルツ男爵を罰さなければ』になってると思う。それも大事なのだが、俺としては『苦しむ民をどうしよう』が最も重要で、ドルツ男爵を捕らえるのは手法の1つだと思うんだ。つまり姿勢の問題なんだが、民に本気で向き合っていない気がする…。
「その通りだ…。物資支援や国軍によるテコ入れなど、本気で向き合っていれば出来ることはあったと思う。様々な調整が発生して難しい所だが…そもそもそれをするのが我々の仕事だな…」
ロンドの言う通り、レイオス伯爵は信用できそうだ。でも念のため…もう一押し言っておこうかな…。
俺は魔王覇気を強めてからレイオス伯爵に向かって話し掛ける。
「そうだな。しっかり責任を果たせ。もしお前達に任せられないなら、俺が頭をすげ替える。覚えておけ」
兵士達が腰を抜かす中、レイオス伯爵だけが冷や汗を流しつつも耐えている。完全に反逆罪に問われても仕方がない発言なんだけど…そこは追及せずに伯爵は返答してくれた。
「あぁ、覚えておく…。貴殿に愛想を尽かされぬ様に気をつけよう」
「ではドルツ男爵の処罰は任せた。ロンド、戻るぞ」
俺はその場でドルツ向けのゲートを開くと、そのまま中へと入った。ロンドはレイオス伯爵に挨拶をしてからゲートへ入る。
そして、俺達がいなくなった後の応接室では、レイオス伯爵が1人言を呟いた。
「ふぅ…何だったんだ…アレは…。絶対に敵対してはならぬ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ドルツに戻ってから4日が経っていた。当初の滞在予定よりも長くなっているが、帰りはゲートを使うので問題ない。
そして、仕入れが終わってレイオスに戻る準備ができたと連絡があったので、待ち合わせの広場へとやってきた。のだが…。
「ロンド…。これはズルいんじゃないか…?」
「おや、何も違反行為は無いと思いますが。ライト様は約束を違えるのですかな?」
ロンドは荷馬車を5台購入して荷物をパンパンに積ませていた。それをワイバーンの翼の面々に引かせている。本来なら護衛の数が足らないし、馬車の足が遅くなったり壊れたりするのでこんなには積めない…。
ここぞという時には遠慮せずに来るな…流石だ…。
「今回は随分とロンドの世話になったし…仕方がない。良しとしよう」
「おぉ!安全にこれだけの量が運べるとは。ライト様、ありがとうございます!」
そして荷馬車が入るサイズのゲートを開くと、みんな一緒にレイオスへと戻った。
ちなみに、ワイバーンの翼の面々は大喜びしている。珍しい時空魔法が経験できたこともあるが、楽ができた上にロンドから御者代としてボーナスが出るらしい…。みんな俺にお礼を言ってから帰っていった。
そして俺は、ギルドに戻ってバレッタに達成報告を行った。普通の護衛クエストとは言えない内容だったが、一応は護衛クエスト達成と言うことで無事にCランクへ昇格する事ができた。
さて、リッケルトの宿屋に帰るのは久しぶりだな。宿屋に戻ったら和也に電話してヘルマンの事を伝えなきゃ。
そんな事を思いながら、僕は宿屋に繋げたゲートに入る。
「リルー。ただいまー!」
「………。」
「リル?」
チラッ…。プイッ…。
リルが拗ねてる!帰って来なさすぎた!!
和也ごめん!電話は明日するから!!
「リルー!ごめんよー!!」
そして、僕はリルのご機嫌取りに奔走するのであった…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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