暴君
誤字報告ありがとうございます!助かります!
「くっ!急いで治療を…」
俺は山賊頭を囲む様に聖域を展開した。だけど…こんな事は初めてだ…。治療が始まらない…。
「おや、回復魔法ですか?頭の人は既に死んでますからそれは無駄ですよ。しかし…光属性ですか…」
手遅れだったか…。山賊頭さんゴメン…。でも…本人的には満足だったのかな…?
くそ…仮面に隠れて気付かれてない事に期待したいけど冷や汗が止まらない。魔王になってから初めての経験だ。周囲の人を守れる自信が…ない…。
「んー。そこの仮面の人、出身はどちらですか?」
「なぜ、そんな事に答えないといけない?」
「おやおや。質問に質問で返すのは失礼だって教わりませんでした?」
「お前は礼を失してはいけない相手ではないからな」
「これは手厳しい。しかし、確かにその通りですね」
マジか…納得された…。普通の貴族なら『無礼者!』とか言って怒る所だろう…。こいつは結構な変わり者なのか?
「では私は答えましょう。我々は光属性持ちが大嫌いなので、その存在に敏感です。事前に把握できてない光属性持ちが現われるなんて、勇者召喚以外だと別大陸からの来訪者くらいですね。という事で、あなたの正体が気になる訳です」
光属性持ちが大嫌い?アクル王国は隼人の存在に大喜びだったと思うけど…どういう事だ?ちょっと話してみるか…。
「俺が勇者かもしれないだろ?」
「はははは。それは無いですね。アレは奈落迷宮に行ってますし、あなたはアレよりも危険な感じがしますから」
たぶん隼人の事を言ってるんだよね?アレ扱いか…隼人も可哀そうに…。
「あ!もしかして…あなた『あーさん』の変装だったりします?」
「は?誰だそれは?」
「その反応…演技じゃなさそうですね。そうなると…やはり正体不明です…」
俺の正体があーさんって奴なら納得だったのか…。って事は…俺に近しい力を持ってる奴がいる?
「なぁ。あーさんって誰だ?」
「それを教えたら、あなたの正体を教えてくれますか?」
「………。」
「ですよね。それは都合が良すぎるというものです」
結構おしゃべりだからサラッと教えてくれないかな?と思ったけど、そこまで甘くなかった…。
「教えてくれないなら仕方がないですね。では見なかった事にしましょう」
俺の正体は諦めたみたいだな…。と思った時、後ろからロンドが叫んだ。
「ライト様!危ない!」
ロンドの声を聞いて一瞬で気を引き締める。そして、周囲に意識を向けると横から攻撃が来ている事を感じ取った。殺意が無くて分かり辛い…。
横からの攻撃…死んだ山賊頭から振り下ろされた剣に対して、俺は刀を抜いて受け止めた。
「ヘルマン…。見なかった事にしてくれるんじゃなかったのか?」
「えぇ。あなたが死ねば無かった事にできるでしょう?」
あぁ…そういう事か…。くそ…こいつの能力は何なんだ?
『闇属性の影魔法っすよ!』
……。えっと…自問自答というか…呟きに対してバスが答えてくれました…。
(バスありがとう。闇属性魔法だったんだね)
『そうっすね!所で、ご主人様に質問があるっす!』
(なんだい?)
『ご主人様は、何で魔眼で相手の能力を調べないっすか?』
(!?)
『え、忘れてた感じっすか?』
(戦闘に関連するスキルって感覚じゃなかった…)
『そうっすか…。せっかくの能力っすから有効活用した方が良いと思うっすよ!敵を知り己を知れば百戦危うからずっす!』
(そうだね…ありがとう…)
魔眼を使う癖を付けないとな…。腑に落ちてないと言うか…馴染んでないと言うか…日頃やってない行動って咄嗟に出ないよね…。
よし!では早速やってみましょう!俺はヘルマンに対して魔眼を発動した。
<隠蔽後>
■名前:ヘルマン
■種族:人族
■性別:男
■年齢:27
■レベル:21
■魔法
土:3
無:3
■スキル
剣術:2
■称号:アクル王国伯爵
割と普通のステータスに見えるけど…隠蔽後?って事は嘘ステータスなのか…。
そして、隠蔽後として表示されているステータスの下に、更に別のステータスが表示されていた。
<隠蔽前>
■名前:ヘルマン
■種族:魔族
■性別:男型
■年齢:273
■レベル:66
■魔法
土:5
闇:6
無:5
■スキル
操影術:6
影人形:5
影移動:5
剣術:4
隠蔽:4
催眠:3
■称号:男爵級魔族
「は?魔族…?」
俺は全く予想していなかった結果に…ついつい呟いてしまった…。
「これはこれは…いったいどういう事でしょう…。私の隠蔽を見破れるレベルの鑑定持ちですか?」
「さあな。言うと思うのか?」
「教えてくれませんか。残念です。しかし、私の隠蔽を見破る鑑定となるとレベル5以上です…それだけでも普通の人間じゃありませんね…」
レベルも合ってるみたいだし、鑑定結果がおかしい訳ではないみたいだ…。そうなると…色々と疑問が出て来るな…。
「ヘルマン。お前は何で人間に紛れて生活してるんだ?」
「さて、何故でしょうね」
「イザベラ王女はお前の正体を知っているのか?」
「質問攻めですねぇ…。あなたに余計な事を喋るのは危険そうです」
イザベラ王女は魔物や魔族に対抗するために召喚魔法を使ったと言っていた…。じゃあ、王女もヘルマンに騙されているのかな?でも…あの王女なら…。くそ…分からない…。
「はぁ…。こうなれば長居は禁物ですね。今は一旦引きましょう。準備をしてからまた来ます」
「逃がすと思うのか?」
「逃げるくらいなら」
俺は転移でヘルマンの正面に移動すると、ボディにえぐり込む様なアッパーを打ち込んだ。しかし…拳に感触が残る事はなかった…。
ヘルマンの身体はくの字に曲がると、そのまま拳は突き抜けてヘルマンの身体は霧散してしまう。
「ダミーか…。どうやら逃げられてしまったみたいだな…」
「ライト様…。ヘルマンが魔族だったというのは本当でしょうか?」
「あぁ、確かだ。つまり、ドルツ男爵は魔族と人身売買をしていたという事になるな」
「なっ!知らん!ヘルマン様が魔族だったなぞ私は知らん!」
ドルツ男爵は顔面蒼白になって言い訳をしている。まぁ、ヘルマンがドルツ男爵に正体を明かすとも思えないので、たぶん本当に知らなかったんだとは思うけど…。
「お前の認識はどうでも良い。ただ、魔族と人身売買をしていたのは事実だ。その事実を裁いて貰うんだな」
「嫌だ!私は悪くない!私はドルツでは何をしても良いのだ!」
ふざけるなよ…。俺はドルツ男爵に足払いをして、倒れた男爵の腹を踏みつける。苦しそうにする男爵は呻きながら文句を言ってきた。
「ぐっ、ぐへぇ…。貴様!何をする!ビオス王国の貴族でありドルツ領の領主である私を足蹴にするとは…何たる無礼者か!!」
「それがどうした?お前が頼りにするその権力に価値があるのなら、その権力で俺をどうにかしてみればいい」
踏み込む足の力を少しづつ強くしていく。ドルツ男爵は息をするのも難しそうだ。
「自慢の権力はどうした?さぁ対応してみせろ」
「ぐ…ぐぅ…」
「お前の権力なぞこの程度の執行力しかない。何をしても良いなぞお前の勘違いだ」
「おのれ…。私は…貴様らとは違う…価値の高い存在なのだ…」
はぁ…。人に対して価値とか言うの嫌なんだけど…。こいつにはこういう言い方が効果的なんだろうな…。
俺はドルツ男爵の顔面を踏みつけながら喋り始めた。
「お前の価値が高い?そんな訳がないだろう。町の人達は日々の生活の中で様々な幸せを生み出す。それに比べてお前は害悪だ。マイナスの存在だ。つまり、この町で最も価値の低い存在がお前だ。虫以下だな」
「ぐぬ…ぐぬぬぬぬぬ…」
ドルツ男爵の顔が破裂してしまいそうなほど真っ赤になっている。かなりご立腹なご様子だ。
「ラ…ライト様…。後は国に任せましょう。証拠もありますし流石に相応の罰が下るはずです。私が仲介致します」
「突き出し方で何か考えがあるのか?」
「私の寄り親であるアレク・ラーハイム・レイオス伯爵を頼ろうと思います」
レイオス伯爵か…。領主をしている人は名前の最後に領地名が入る。つまりレイオスの領主様って事だ。いったいどんな人かな…。
そう言えばドルツ男爵を足蹴にする俺の姿はかなりの人に見られていて、この事実は急速に広まる事となる。
これが…俺の二つ名の原因となる最初の事件だった…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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