ヘルマン
「ロンド様!これはいったい何事ですか!?」
ドルツ男爵の側近であるグルーエルが、俺の後ろにいるロンドへと問いかけた。ロンドが忘れ物を取りに来たという事にして館へ入ったんだけど…勝手に奥へと進んで来たので当然の疑問だと思う。
しかし、山賊頭に気が付いたグルーエルは、ロンドの回答も待たずに急に怒鳴り声を上げた。
「お前は何をしているんだ!仕事はどうした!?」
「くっくっくっ…」
「何がおかしい!もう時間が無いんだぞ!」
いったいどうしたと言うんだ?仕事?こいつらは山賊だ。山賊をしてないとグルーエルが困るのか?
いや…違うな…。こいつらのアジトには何があった?売却するための…人間だ。つまり、いま求められている仕事は…。
「急いで女子供を誘拐してくる様に言われてるのか?」
「あぁ、その通りだ。今日がヘルマンへの納品日だってのに、お前がガキ共を逃がしちまったからな」
「貴様!何を勝手にベラベラと喋っている!」
さらっとバラす山賊頭に対してグルーエルは激怒した。
そうか…逆だったのか…。山賊がアクル王国に売却していて、ドルツはその上前を跳ねてるのかと思ってたんだけど…むしろ首謀者はドルツ側だったみたいだ。
「貴様ら…既に余計な事を知ってしまっている様だな…。仕方がない。首を突っ込んだ代償は、その命で払って貰おうか!」
グルーエルが兵士達を呼んでいる。ここに来るまでは戦闘を避けてたけど、もうグルーエルは悪人決定なので手加減する必要は無いでしょう。
ただ、全ての兵士が悪事を理解して着いて行ってたのか分からないので、俺は魔王覇気を出しながら兵士達に問いかけた。
「兵士達。先に聞いておく。グルーエルは人身売買に関与していた。それを知らずに従っていた者はいるか?いまここでグルーエルから離れるものは武器を捨てろ。攻撃対象から外そう」
覇気に気圧される兵士達は周りの様子をキョロキョロと見回す。他の者たちがどうするのか見ている様だ。ただ、今のところ武器を下ろす者はいない…。
そんな中、1人の兵士が話しかけてきた。
「あ…あの…。ドルツ男爵様やグルーエル様の事は噂程度には知っていたのですが…武器を捨てたら見逃して頂けますか?」
線引きが難しいなぁ…。
「この場で俺が攻撃しない事は約束しよう。その後は国の判断だな。どれだけ関わって何をやったのかは人それぞれだろう」
カランッ…
「き…きさま!何をしている!」
武器を捨てた兵士にグルーエルが叫んだ。兵士はグルーエルを怯えた目で見ながら喋り始める。
「わ…私は本当に噂でしか知りませんし、誘拐や不正に関わった事はありません…。家族がいるのです…無罪になる可能性があるならそれに賭けたい…です」
カランッ…カランッ…。
「私も…」
「私もです…」
1人が武器を捨てると、続く様にしてどんどん武器を捨て始めた。どうやら約半数ほどの兵士が武器を捨てたみたいだ。
なるほど。残りの半数は有罪になる自覚ありと言うわけか。
「もう良いかな。では、行くぞ」
バヂィイイイイイイイ!!
俺は地面に触れて雷魔法を発動した。俺を中心として、地を這う雷が四方八方へと飛び散っていく。そしてその雷は、武器を持った兵士とグルーエルだけを駆け抜けていった。
「ひっ、ひぃ…」
「い…一瞬で…」
「武器を捨てて良かった…」
武器を捨てた兵士達が騒がしい中、俺に近づいて来る者がいた。近づいてきた男、ロンドが俺に話しかけてくる。
「ライト様。グルーエルまで気絶させてしまって宜しかったのですか?尋問などをした方が宜しかったのでは?」
「あぁ、証跡集めだな?たぶん大丈夫だ。もしダメなら起こそう」
そう言って、俺はグルーエルの部屋で探知魔法を使った。
裏帳簿とかあると思うんだよね…。そして、そういうのは普通には置いてない気がするから…。あ、柱の中に空間があって本っぽいのがあるな…。
「ロンド。たぶんこっちだ」
俺は柱に近づいて、空間がある周辺の部分を触ってみる。
えっと…隠し扉を開ける仕掛けとかがあると思うんだけど…。今こそキールさんから教わったダンジョン罠解除知識を発揮する時だ!
駄目だ…。わからん…。
バゴッ!ガラガラガラガラ…
俺は柱の周辺部分を力ずくで引き剥がして、空間が丸見えな状態にした。そして、中にあった本を取り出すとパラパラとめくる。
「正解だな。人身売買、麻薬取引、脱税に賄賂…これは裏帳簿だ」
「ライト様。さすがでございます」
「おいおい。マジかよ。どうやって見つけたんだ?しかし、これでドルツ男爵の面白い顔が見れそうだなぁ。くっくっくっ…」
その通り。次はドルツ男爵ですね。と言う事で、俺は兵士達に指示を出す。
「俺達はこのままドルツ男爵の元へ向かう。グルーエルと倒れた兵士の捕縛は任せた」
「はっ、はい!承知致しました!」
さて、遂に黒幕です。町の人や旅人、そして子供達の犠牲の上になりたった贅沢のツケを払ってもらいましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「き、貴様ら!この反逆者めが!何をしているのか分かっておるのか!」
俺達がドルツ男爵の部屋に着くと、ドルツ男爵は女達を置き去りにして自分だけ逃げ出そうとしている所だった。グルーエルの所でドタバタしている間に、誰かが報告に行ってたみたいだ。
そして、騒ぐドルツ男爵に対してロンドが口を開いた。
「バヒム・モズリア・ドルツ男爵。国に対する反逆行為を行なっているのはあなたの方だ!国から任された土地を私物化し、国の法に背いた行いを繰り返している。私はこの実態を正式に報告する所存ですぞ!!」
おぉ!ロンドがはっきり言った!望む未来の為に全力を尽くすって言ってたけど、ドルツ男爵の罪を有無を言わさぬレベルで確定にする方針みたいだ。
「ぐぬぬぬ!準男爵風情が何をぬかすか!代々国に仕えるモズリア家に歯向かうなど許される事ではないわ!」
まったく…お前らはそればかりだな…。
俺はビオス王国の国民じゃないので関係ない。って言おうと思ったのだが…ドルツ男爵から並々ならぬ気配を感じる…。俺は答弁をせずにドルツ男爵へと集中した。
「歓談中に悪いが、少し良いかな?」
その声はドルツ男爵の背後から聞こえた。そして、ドルツ男爵の影からヒョコッと顔を覗かせる。
俺はすぐに感じ取った。こいつ…クリシュナさんやバルさんよりも強い…。
「へ…ヘルマン様…」
「ドルツさん。商品を受け取りに行ったら商品も山賊も誰もいないんですけど、どうなってますか?」
「そ…それが…その…」
「早く商品を引き渡してください。私がイザベラ様に叱られてしまいます」
イザベラだと!?こいつ…そんな事をサラッと言って良いのか…。だが事実だとすると…売却先はイザベラ王女…なのか?
「ヘルマン様…。実は…山賊達が裏切りまして…」
そう言いながら、ドルツ男爵は山賊頭を見る。その目線を追って、ヘルマンも山賊頭を見つけた。
「おやおや。確かに頭の人ですね。我々の為に商品を集めてくれないのですか?」
「あぁ。ダメになっちまった。ククク…」
「そうですか。じゃあそんな頭はいりません」
ゴキュッ
俺の横で…嫌な音が聞こえた…。嫌な予感がするが…俺は横を向いてみる。
そこには…首が180度逆を向いた山賊頭の姿があった…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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