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腐敗

「はぁ…。こうなる気はしてたぜ…」


 隠れ家に帰ってきた山賊頭が呟いた。隠れ家は倒れた部下達で埋め尽くされている。そして、ソファには黒衣に包まれた仮面の男が座っていた。


「ドルツに連行する時、やたらと素直なのが気にはなっていた。解放される自信があったんだな」

「まーな」

「と言う事は、あの時に対応した兵士個人の話ではない。どの兵士が対応しても確実に解放されると確信できるほど腐敗しているのか…」

「そう言う事だな。で、どうするんだい?俺は抵抗する気は無いが何度連行しても解放されると思うぜ?同じ事を繰り返すだけだな」


 さて、どうしたものかな。山賊とドルツ兵が共謀している可能性は高いが、一方だけの話を聞いて行動するのも良くない気がする。もう1度山賊を兵士に引き渡して話を聞いてみるか。


「ひとまず、もう1度兵士に突き出す。それからの事は兵士の反応次第だな」

「へいへい。好きになさってくださいな」


 良いって言ってる山賊頭を始め、山賊達を全て捕縛した。山賊達はとても素直で、逃げ出そうとする者はいない。無事に解放される事に凄い信頼があるみたいだ…。

 そして捕縛が終わると、俺は兵士の詰所まで連行していった。さて、兵士達は何て言ってくるかな…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おい。山賊をまた(・・)連れてきた。どういう事か説明してもらえるか?」

「なっ!」


 兵士は驚いた後に山賊頭を睨みつける。しかし…山賊頭は開き直った様子でへらへらとしていた。


「そんなに睨んでくれるなよ。この仮面の男はバケモンだ。俺達じゃどうしようもねぇ」


 んー。反応を見る限り、少なくとも知り合いではありそうだ…。


「はぁ…。『どういう事か』だな?」

「あぁ、説明してもらえるか」

「こちらで調べた結果、こいつらは山賊ではない事が明らかとなった。無罪なのだから解放して当然だ」


 マジか…凄い理屈を持ち出してきた…。


「俺はこいつらを捕まえた当人だ。こいつらが街道で人を襲っている所を見ているし、アジトに子供達が捕らえられていたのも見ている。お前は何をもって山賊ではないと言っている?」

「チッ!」


 おいおい…。こいつ舌打ちしましたよ…。やっぱり兵士はアウト確定で良さそうだな。そんな事を考えていたら、この兵士はとんでもない事を言い出した。


「なるほど。お前こそが山賊だな?怪しい仮面を着けやがって。街道で旅人を襲っていたのも子供を誘拐していたのも、犯人はお前だ」

「………。はぁ?」


 いま…こいつ何て言った?俺が山賊?俺が襲った?俺が誘拐した?何を…言ってるんだ?

 話しをしていた兵士が手を挙げて合図をすると、周りにいた兵士達が俺に対して武器を構える。


「ってなるんだな。なかなか面白い町だろ?」


 山賊頭がドヤ顔で言ってくる。全然面白くない…。お前はもう少し笑いのセンスを磨いた方が良い。


「無駄な抵抗は止めておけ。我々に歯向かうと言う事は国に歯向かう事と同義だぞ?」

「そうか…分かった。お前らは国ごと俺の敵になるって事だな…」


 俺は怒りに任せて辺りに魔王覇気を撒き散らした。武器を構えていた兵士達は恐怖に震えてしまっている。中には武器を落としてしまう者もいた。


「き…貴様…いったい何を…」

「まだ何もしていない。まぁ、これからお前達を殲滅するけどな」

「なっ!ビオス王国に歯向かうと言うのか!?」 


 うるさい男だな…こいつは国の後ろ盾が無ければ何もできないのか。


「勘違いするな」

「そうか…歯向かわないと言うなら…」

「違う。ビオス王国ごときに興味は無い。敵になろうが味方になろうがどうでも良い」


 兵士達は目を見開いて俺を見ている。もっと怒るかと思ったんだが、怒りよりも驚きの方が勝ってしまっているみたいだ。

 彼らにとって国とは、その存在意義を考えるまでもなく最上位の存在なのだろう。絶対王政の文化で育ったのだから仕方がないのかもしれない。


「く…国に歯向かうと言うのか?」

「国がお前ら側に立つならそうなるな。ビオス王国の現統治体制は滅ぼそう。お前らを正しく裁けるのなら残しておいてやる」


 兵士の顔が恐怖に染まっている。俺の力ではなく考え方に対して恐怖を感じている様に見えるな。たぶん宇宙人でも見ている気分なんだろう…。


「くくくく…。おもしれぇ…」

「では、そろそろ始めるか」


 俺は一瞬ゲートを開いて、そこにパンチを入れる。ゲートは兵士のアゴ先に繋がっているのだが、不意なパンチによって思い切り脳を揺らされた兵士はそのまま意識を失った。


「…え?」


 何処かの兵士の呟きが聞こえた。何が起きているのか理解できなかったんだろう。だが、理解を待ってあげるつもりはない。俺はどんどんゲートを開いて片っ端から意識を刈り取って行く。

 1人辺り2秒も掛からないので、1分後にはその場にいた兵士30人の意識を刈り尽くしていた。


「くははは。本当にすげぇな。平気な顔して国に喧嘩売れるのも納得だぜ」


 何故か山賊頭が楽しそうにしている。


「さっきも面白いって言っていたな。お前的にこの流れは良いのか?」

「あぁ、俺達の人生なんて既に終わってんだよ。後は死ぬまでにどれだけ面白い事に出会えるかだ。俺としてはお前を見れてかなり満足してるぜ」

「そうか…」


 その自暴自棄に他人を巻き込むなよ…。山賊なんかやらずに、死ぬ気になって何かをやれば良かったのに。でも…色々な選択肢がある現代日本で育ったからこそ、そういう考えができるのかな…。


「では、もっと面白い物を見せてやるから協力しないか?」

「お、いいな。何をすれば良いんだ?」

「情報が欲しい。お前と繋がっていた人間は誰だ?」


 最終的に黒幕を叩くためには、こうやって紐解いていくしかないでしょう。もうゴールは目前な気がするけど…。


「なるほどな。俺も連れて行ってくれるんなら喋るぜ」

「あぁ、問題ない」

「交渉成立だ。俺に指示を出していた男の名はグルーエル。ドルツ男爵家の家令をやってる男だな」


 ここまで大規模な事ができるんだから分かり切ってはいたけど、やっぱりドルツ男爵家が関わってますか。


「ではグルーエルの所へ連れて行ってくれ」

「くくく…お安い御用だ」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ライト様…何故この様な所に?」


 山賊頭に連れられて領主邸前に行くと、ちょうど領主邸から出てきたロンドに出くわした。手土産を渡すだけだったのに随分と時間が掛かっていたな。


「山賊の後ろ盾が領主である可能性が出てきたのでな。その確認に来た」

「そんな…。いや…あの感じならあり得るのか…」


 何やら心当たりがありそうだ。


「どうした?何があったんだ?」

「いやぁ…先触れを出していたのに3時間も待たされたあげく、何人も半裸の女を連れての登場ですよ。しかも真っ当な手土産には興味を示さず、麻薬や奴隷などの違法なものばかり催促してきて…。道理が通用する感じはありませんでしたな…」


 酷い内容だな…。我儘が許され続けるとこういう人間が出来上がるのか…。


「所で、横の男は山賊頭ではありませんか?」

「あぁ。牢屋に入れられずに解放されていた。再度捕らえて兵士に突き出したら、逆に俺が山賊扱いされる始末だ」


 ロンドはヤレヤレ…という仕草をする。


「ライト様を山賊呼ばわりとは愚かの極みですな。しかし…ライト様はこれからどうされるおつもりですか?領主が黒幕だった場合は…」


 黒幕だった場合の最初の行動は決めている。その後は反応次第なんだけどね…。


「捕らえてビオス王国に突き出す」

「やはりそうですか…」


 ロンドが何やら言い辛そうにしている…。反対なのかな?話の展開を予想して俺が最終的にどうするつもりなのか思い当たってしまったのかもしれない…。

 そしてロンドは覚悟を決めた様子で話しかけてきた。


「我が国が正しい判断をすると信じたいです。しかし…正直に言って分かりません。ドルツ男爵を支持する動きを取るかもしれません。そうしたら…ライト様はどうされますか?」


 やはり思い当たってしまっていたか…。ロンド相手には言い辛いけど…覚悟を決めて話してくれるロンドに、真摯に回答しましょう。


「そうなればビオス王国対俺1人の戦争だな。国民に被害を与える気はないが、そんな判断しかできない王家は滅ぼす(・・・)


 ロンドは苦虫を噛んだ様な顔をしている。予想はしていた回答なのだろう。驚いた様子は無い。


「承知致しました。では、私も連れて行って頂けないでしょうか。私は私なりに…望む未来を掴むために全力を尽くしたいと思います」


 ロンドが何だかカッコいい。覚悟を決めた男の凄みか。


「分かった。では、一緒に行こう」


 ロンドも付いて来ることになりました。

 では、みんなでグルーエルの元へと向かいましょう。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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