魔法適性
2023/02/25 話し方や表現等の見直しをしました。
コンッ…コンッ…
夕方、部屋に1人でいると扉がノックされた。ニーナさんが夕食に呼びに来たのかな?
因みに、あまりウロウロしない方が良いと思ったので、昼食は部屋に持って来てもらって食べた。
入室の許可を出すと、予想通りニーナさんが入って来る。
「と…トール様…お夕食の準備が整いましたので、大食堂の方へ移動頂けますでしょうか…」
「あー…。お昼と同じ様に部屋に持って来て貰うんじゃ駄目ですか?」
ニーナさんの顔は恐怖に染まり、生唾を飲み込む。言葉が出てこない感じだけど、頑張って話し出した。
「もっ…申し訳ありません!その…明日以降に関するお話もあるらしく…食堂に集まって欲しい…という事なのですが…」
「そういう事ですか。分かりました、大丈夫ですよ」
「あっ、ありがとうございます!だ、大食堂はこちらになります…」
ニーナさんに続いて大食堂に向かうと、既に双葉たち3人が席に着いていたので、そこに合流する事にした。
「あっ!透!こっちこっち!」
「こんばんは。相席させて貰っても良いかな?」
「透くん、もちろんだよっ!」
双葉と白鳥さんが隣合わせに座っていたので、僕は空いていた和也の隣に座った。まだ食事は初まっていなかったみたいだ。
すると、周りのクラスメイト達がコソコソと話し始める。
「うわ、高杉が来たよ…」
「あいつがラスボスなんでしょ?」
「高杉君を差し出せば日本に帰して貰えるんじゃないの?」
やっぱりこういう雰囲気になったか…。出てこない方が良かったかな…?
周りの声を聞いて双葉がクラスメイト達を睨みだす。白鳥さんも頬を膨らませて怒ってるみたいだ。
「二人ともありがとう。僕の事で怒ってくれて凄く嬉しいよ。でも…クラス内で争い合いたくないから…申し訳ないけど我慢してくれると嬉しいかな…」
「むぅ……当人の透がそう言うなら…」
双葉と白鳥さんは、最後に回りを一睨みすると、普通の表情に戻ってくれた。
クラスメイトはどんどん集まって行き、最後にイザベラ王女、騎士、隼人が大食堂に入って来る。
「おいおい!何で魔王が聖女と一緒に居るんだよ!?」
入って来た途端、隼人が僕を見ながら声を荒げる。そんな隼人の発言に、白鳥さんが即座に反応した。
「透くんは魔王じゃありません!私のだいす…だ…大事な友達ですっ!!」
「白鳥さん…。そいつの近くにいたら危険ですよ…?」
「透くんは危険なんかじゃありません!危険だって思うなら…どうぞ城之内くんは私達から離れてて下さい!!」
「ぐっ…」
白鳥さんがこんなに怒る姿は珍しい。クラスメイトが固唾を呑んで見守る中、隼人は白鳥さんの鋭い視線に睨まれて気圧されていた。
イザベラ王女はちょっと困った表情で隼人を見てから、白鳥さんと隼人の間に割って入る。
「勇者様、宜しいでしょうか?」
「な…なんだ?」
「聖女様はトール様が魔王にならないと信じております。もちろん私も…。いま話を続けられても平行線かと思いますので、後日改めてお時間を取られては如何でしょうか?」
周りから『いつまで待たせるんだ?』という目線が隼人に突き刺さる。
「確かにその通りだな…。白鳥さん、また今度じっくり話しましょう」
そして隼人は僕達の席から離れて行く。
その後ろ姿に、双葉と白鳥さんがべ〜っと舌を出していた。
白鳥さんは可愛いのに、双葉はやり過ぎて面白い顔になっている…。なんとも双葉らしい。
そして、皆が席についた事を確認すると、王女様が話し始めた。
「みなさん、食事の前に1人紹介させて頂きたい者がおります。我が国の近衛騎士団長、クリシュナです」
王女様と一緒に入って来た騎士がクリシュナさんみたいだ。
何だろう…立ってるだけで圧力を感じる。迫力と言うか、醸し出される雰囲気が凄い。
「アクル王国近衛騎士団、騎士団長のクリシュナだ。君達の訓練については近衛騎士団に任されることになった。宜しく頼む」
「食事の後にクリシュナから明日の説明がありますので、食事が終わりましてもそのまま待機でお願い致します。それでは…」
王女様はそのまま大食堂から出て行った。夕飯は一緒に食べないみたいだ。そりゃそうか…。
食事が開始される様で、給仕係がスープを注いで回る。さて、頂きますか…。なかなか度胸が必要なんだよなぁ…。
「和也…これ何のスープだと思う?」
「気にしたら負けだと思うぜ…」
ひとまず、舌先で少し舐めてみる。痺れとかは無さそうだ…変な苦みや酸味も無い…と言うか、凄く美味い…。
「一応…大丈夫そうだな…」
「えっとね、こっちの人と私達、食べられる物とか味覚とかは基本的に同じみたいよ?以前召喚された人で明らかになったんだって!」
おぉっ!個人的にはその人達こそ勇者だと思う!!
まぁ僕にだけ毒が盛られてる可能性もあるので……念のため注意しながら食事をしよう。
そして、味的にはとても美味しかった事もあって、何だかんだで完食してしまった。
「ふふふっ。透くんがちゃんとご飯を食べられるくらい元気になって良かったぁ」
「自分でもビックリだけど、結構神経が太かったみたいだね…。白鳥さんありがとう」
みんな食べ終わったみたいで、クリシュナさんが立ち上がる。
「それでは良いかな?食事が終わったばかりで何だが、幾つか話をさせて頂きたい」
「あぁ。クリシュナ殿、宜しく頼む」
何故か僕達の代表かの様に返事をする隼人。まぁ皆が受け入れてるみたいだから良いか…。
あと、クリシュナさんの雰囲気がさっきより柔らかい気がする。さっきは王女様の前だから気を張ってたのかな?
「まず、基本中の基本となる無属性魔法の1つを伝授する。これは全員が使えるので、私に続いて唱えてくれ。」
おぉ、いきなり何か教えてくれるみたいだ。
「我が能力を示せ…ステータスオープン」
『『我が能力を示せっ…ステータスオープン!』』
目の前の空間に、液晶画面みたいな物が出てくる。
自分の前にしか見えないが、反応を見る限りでは皆の前にも出てるみたいだ。
「これはステータスウィンドウだ。現在のレベルや魔法適性、習得しているスキルや称号を確認する事ができる。しかし、他人のを見る事はできない」
「ふむ…あくまでも自身の把握用なのだな」
「その通りです勇者殿。ただ、スキルによっては他人のステータスを見れる物もございます」
鑑定系のスキルがあるみたい。そうなると隠蔽系もありそうだな…。
「では、ステータスの内容について確認したい。この中で既に称号を持っている者はいるか?」
し~ん……。誰も反応しない…僕も称号は持って無かった。
「称号獲得者は無しだな…。そうか…。では、次に魔法適性について説明する」
何だろう…。称号を誰も持っていない事がわかった時、安心した様な…少し悲しい様な…クリシュナさんが複雑な表情をした気がする…。
「魔法適性は全部で9種類ある。全員が持っている無属性、基本属性の火・水・風・土の4種類、あと希少属性である光・闇・聖・時空の4種類だ」
「それぞれ、どの様な特徴があるのだ?」
隼人が即座に質問した。皆も気になる様で、隼人とクリシュナさんの会話に耳を傾ける。
「まず、無属性は魔力をそのまま使用するもので、その他は魔力を使用してそれぞれの属性に干渉するものだという違いがあります」
「なるほどな。ステータスオープンは魔力で直接作られ、魔力で干渉して火を出したら自然現象として残ると言う訳か」
「はい。ご認識の通りです」
「基本属性はイメージしやすいが…希少属性はどうなんだ?」
「光属性は同じ様に光を操ります。しかし、その火力は凄まじいものです」
「ほう?それ程までにか?」
「はい。過去の勇者様は光属性だったと伝わっております」
「くくくっ…。それでか…。俺は光属性だ!つまり運命という事だなっ!!」
へー、隼人は光属性なのか。まぁ特性が勇者だから妥当な所なのかね。
それにしても…どうやって適性がわかったんだ?ステータス画面の表示内容について、見方がわからん…。
「流石は勇者殿です。あとは…闇属性は影や死霊を操る事ができます」
「死霊か…光属性とは真逆で、禍々しい感じだな」
「聖属性は清める力で、身体を清めれば回復、空間を清めれば結界、アンデッドを清めれば浄化という感じです。聖女様は聖属性ではありませんか?」
「あ、はい。私は聖属性です」
「やはりそうですか。伝説の特性と魔法適性は関係性がありそうですね…。」
白鳥さんが聖属性なのは皆が納得の様子で、うんうんっと頷いている。
「最後に、最も希少なのが時空属性です。異空間や時間への干渉ができる力で、皆さんをこの世界に召喚したのも時空魔法になります」
「あっ!じゃあさ!あーし達の誰かが時空属性持ってたら、姫っちに頼らなくても日本に帰れるんじゃね?」
クラスメイトの井上さんが不意に危険な発言をする。ギャルな感じの人なんだけど…考えが足りない…。
クリシュナさんの眉がピクっと動くのが見えた。
「ふむ…。確かにそうですな。如何でしょうか?時空属性を持っている方はおられますか?」
問われたクラスメイト達は周りをキョロキョロと見る。自分は持っていないが、誰か持っていないかと探している感じだ。
それにしても、みんな適性がわかってるのか…。そんなに明らかに載ってるの?
「残念ながら…いらっしゃらない様子ですね」
「ありゃ駄目かぁー。良い考えだと思ったんだけどなぁー」
誰も手を上げなかった事に安心していると、和也が小声で話し掛けてきた。
「あぶねぇ…。もし手を上げる人がいたら命狙われてる所だぜ…。親友、後でちょっと話したい事があるから時間くれ」
「わかった。了解」
そういう事だ…。姫っち呼びもどうかと思うが、勝手に帰れるとなったら何してくるか分かったもんじゃない…。
クリシュナさんが話を戻す。
「魔法適性の種類については理解頂けたかな?その他に何か質問がある方はいますか?」
「念の為の確認なんですが、ステータスの魔法欄に出ている属性が適性有りって事で良いんですよね?」
佐々木が手を上げて質問する。ん?どういう事だ?
「うむ。その認識で問題ない。その質問をするという事は…」
「ご推察の通り。僕は複数の魔法適性が出ています。具体的に言えば基本属性の4つ全てに適性があるみたいですね」
「なんと…無属性も合わせて5属性持ちなど初めて聞きました…。流石は賢者殿、素晴らしいですね」
「うはっ!賢者はすげーな!俺なんて無属性しかないぜ」
佐々木と仲の良い千葉は無属性だけらしい…。クラスメイト達は佐々木の複数持ち発言よりそっちの方が気になったみたいで悲しい視線が注がれていた。本人は全然気にしていない感じだけど…。
それにしても…。うわぁ…マジか…。
僕は自分のステータスを凝視していた…どうしよう…。
どうしようか焦っていると、クリシュナさんの目が僕を捉えた。
「そう言えば、トール殿の適性は何でしたか?」
「えっと…あの…その…」
「どうしました?言い辛い内容だったのですか?」
「闇属性……でした…」
「なるほど…。別に闇属性は悪い属性という訳ではありませんよ。希少な適性おめでとうございます」
「は…はは…。そうなんですか。安心しました…」
魔王だからね…。たぶん闇属性って答えるのが無難だったと思う…。
僕は改めてステータスに目を向けた。
<ステータス>
■名前:高杉 透
■種族:人族
■性別:男
■年齢:16
■レベル:1
■魔法
火:1
水:1
風:1
土:1
光:1
闇:1
聖:1
時空:1
無:1
■スキル
刀術:1
体術:5
アイテムボックス(小)
■称号:なし
なんで…なんで全属性に適性が有るんだよ…。正直に言ったら絶対に問題になる…。
自分で言うのも何だけど、光属性とか聖属性とか僕が持ってて良いものなのか?
「全員、自分の能力は把握したな?ここまでは事前整理だ。これから本題に入る」
事前整理でお腹いっぱいなんですけど…。
「今後の訓練だが、基本的にはパーティを組んでの迷宮攻略を考えている。30階層まで行ける様になれば、地上のモンスターに遅れを取る事はほぼ無いだろう」
力を付けて安全を確保したい僕ら。力を付けさせて世界を救って貰いたい彼ら。どちらにも利のある方法として考えてくれたみたいだな。
「まずは迷宮を肌で感じて貰いたい。近衛騎士団が護衛するので、明日は奈落迷宮へ向かう!」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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