プレゼント選びと
2023/06/01 誤字を修正しました。
「ライト様、私は領主の元に土産の品を納めて参ります」
ロンドはドルツ男爵の元に顔を出しに行くみたいだな。んー、俺も行った方が良いのだろうか?
「ロンド、俺も一緒に行った方が良いか?」
「いえいえ。持ってきた物を渡すだけですし、ドルツ男爵との縁はライト様には不要な様に感じます。私達だけで行って参りますよ」
「そうか。分かった」
じゃあ俺はどうするかな…。町でも散策して、情報収集や買い物でもするか。ここの特産品は何だろうな…。
「ライト様。それでは行って参ります」
「あぁ。気を付けてな」
さて、では俺も出かけるか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やはり…良い領主では無さそうだな…」
俺は街の様子を見ながら領主の情報を集めていた。
聞こえてくるのは、自分の懐にばかり執着している、町の綺麗どころを妾にしては捨てる、領民の生活には興味が無い…こんな話ばかりだった。
なんでこんな奴が領主なんてやっているのか不思議になる所だけど、これが貴族制による既得権益というものらしい…。
親から受け継いだみたいだけど、本人の成果でも適性でもないのに不思議な習慣だと思う。
俺に影響がでない限りは、この世界の国政に関わるべきじゃ無いと思ってるんだけど…こういうのを聞くと本当にそれで良いのか迷ってしまうね…。
とりあえず、あれこれ悩む前にお土産を買ってしまおうと思って、俺は商店街にやってきた。
山に囲まれているだけあって、この町の特産品は鉱石だった。んだけど…女性に宝石を送るのってどうなんだろう?指輪とかを避ければ渡しても大丈夫なのかな?こういう経験が無いので俺は迷いに迷っていた…。
「いつまで迷ってんだい。男だったら即断即決。パパっと買うもんだよ!」
気風の良いおかみさんが煽ってくる…。旅の恥はかき捨てって言うし、いっその事相談しちゃおうかな…。
「時間をかけてしまって悪いな。特別な関係ではない女性に土産として渡したいんだが…どれくらいだと重すぎず軽すぎず…ちょうど良い塩梅なのだろうか?」
話を聞いて、おかみさんは呆れた顔をしている…。
「そんな事を悩んでたのかい。情けない男だねぇ。しっかりしてるのは図体だけかい」
おぉぅ…手厳しい…。
「あぁ…俺の経験不足だ…素直に認めよう」
「ふーん、今の潔さはなかなか男らしかったから教えてやろうかね」
辛辣だけど優しいおかみさんで助かった…。
「特別な関係じゃ無いんなら銀貨10枚以内って所だね。それ以上行くと変な意味が生まれちまう。装飾品は指輪以外なら何でも大丈夫だけど、ピアスは好みが分かれるから注意しな」
ふむふむ…なるほど…。
「あと大事なのが宝石の意味だね。好きとか愛してるとか関係性に関するキモいのを選ぶんじゃないよ。そういうのは恋人になってから贈るもんだ。相手を表す様なのが良いね。知的とか情熱的とか…。あんたのイメージで選ぶのが良いんじゃないかい」
な…なるほど…。自分で選んでたら大失敗してた自信がある…。
バレッタは知的かな。暴走ってイメージもあるけど、それより知的なイメージの方が強い。あとセリアは優しいイメージだな。
そんな事を考えていたら、ふと頭の中に浮かぶ顔があった。いつ渡せるか分からないけど…双葉と白鳥さんのも買っておこう。
「決まったみたいだね」
「あぁ、知的を表した石で髪留めと、優しさを表した石でネックレスはあるか?」
「あぁ、大丈夫だよ」
バレッタとセリアの分は大丈夫そうだ。あとは双葉と白鳥さんのなんだけど…双葉のが迷うんだよな…。宝石じゃなくて装飾なんだけど、あいつは良く動くから小さい物だと無くしそうなんだよ…。
「えっと、情熱とか折れない心みたいなイメージの石で腕輪とかあるか?それと、純粋ってイメージの石でブローチがあれば欲しい」
「ブローチは大丈夫だよ。ただ、腕輪は装飾部分の金属が多くて銀貨20枚になっちまうね」
まぁ、それくらいなら大丈夫だろう。双葉だったら勘違いとかしなさそうだしね。
ちなみに和也には買いません。あいつが宝石で喜ぶ姿も想像つかないし…。代わりに何かマジックアイテムでもあげようかな。
「分かった。その4つで頼む」
「4つともかい?おやおや。見かけによらず随分とプレイボーイなんだね。銀貨50枚だよ」
だからそういうのじゃ無いって言ってるのに…。俺は金貨1枚を出すとおかみさんに手渡した。
「釣りはいらない。色々と教えてもらったからな。勉強代として取っておいてくれ」
「おやまあ、そういう所は男前なんだね。しかも銀貨10枚分を超えてるじゃないか。もしかして…私を落とそうとしてるのかい?」
おかみさんがバチコンッと情熱的なウインクをしてくる。
「あ…あなたはとても魅力的だと思うが…勘弁してくれ」
「がはははは。冗談だよ。あんたは色々経験して良い男になりな」
おかみさんが商品を包んで渡してくれる。その時、おかみさんが俺の後の方を見てため息をついた。
「はぁ…折角久しぶりに気分の良い客に会えたってのに嫌なものを見ちまったよ。あいつら町に来てんのかい…。全く…あんたはああいう碌でもない男になるんじゃないよ」
何の事だか分からない俺は、おかみさんが見ていた方向を向いてみた。そこには道の端っこをこそこそ歩いている男がいる。
何で…あいつが町を歩いているんだ?
そこには、マリーさんに馬乗りになっていた男が…兵士に引き渡したはずの男が歩いていた…。
「あいつの事を…何か知っているのか?」
「町のゴロツキだよ。子供の頃は可愛かったんだけどねぇ…。最近は山賊になっちまって…」
その通り…あいつは山賊で捕まえたはずなんだがな…。脱走でもしたのか?
「おかみさん。色々助かった。またドルツに来た時は寄らせてもらう」
「あぁ、またおいで。今度は恋人用のを買いにくるんだよ」
それはどうかなぁ…。あ、山賊が裏道に入って行った。捕まえてどうやって出てきたのか聞いてみましょう。
俺は山賊の後ろに転移で移動すると、唐突に声をかけた。
「おい。どうしてここにいる?」
ビクッ…
「あ…あぅ…そ…その…」
「どうした?兵士に引き渡したお前がここに居る理由を聞いているんだが?」
山賊は振り返って俺を見ると、尻餅をついて震え出した。
「ち…違う…違うんだ……」
「何が違うんだ?」
「俺は脱走なんてしていない…あんたに歯向かう気なんてない…」
脱走した訳じゃない?確かに兵士に渡したぞ…。牢から抜け出るのは脱走だろう。いや…抜け出てないのか…。
「抜け出た訳じゃなく意図的に出された。もしくは…そもそも牢屋に入れられていない?」
「そ…そうだ!俺の意思じゃない!牢屋に入れられずに解放されたんだ!」
あの引き渡した兵士…どういうつもりだ?
「お前らは全員解放されたのか?今は何処にいる?」
「全員だ…。今は隠れ家に潜んでる…」
そうか…。山賊を全員捕まえ直して…もう1度兵士に突き出してやる!
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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