オルトロス退治…じゃない
2023/03/17 表現を一部見直しました。
「ライト様。申し訳ありません。受けるクエストを…こちらに変更頂けないでしょうか?」
「いったいどうした?」
護衛依頼前の予定で残ってたのはオルトロス退治だけだったので、そのクエストを受けに来た。んだが…。
「フルラ村から緊急の依頼が来ておりまして…どうやらオーガに襲われているらしいのです」
確かオーガもCランクだ。緊急事態ならそっちを優先すべきだろう。
「俺的にはオルトロスの間引きでもオーガでも問題ない。詳細を教えてくれ」
「はい。早馬で救援依頼が来ました。相手はオーガの群れなのですが、ボスが特殊な個体の様です」
おや…Cランク魔物の群れだとクエストとしてはBランク扱いじゃないかな?俺が受けても大丈夫なのか?
「特殊個体に群れか。それはCランククエストではなさそうだな」
「おっしゃる…通りです…」
バレッタが何だか言いづらそうにしている。
「受けられるのなら別に構わない。事情を教えてくれ」
「状況からして…ライト様しか間に合いそうにないのです…。それで…無理矢理オーガ単体の討伐としてCランククエストで登録致しました…」
本当はBランク以上のクエストだけど、Cランクとして対応しようって事か。
「なるほどな。良くやった。場所はどこだ?」
「え?」
「どうしたバレッタ?早く場所を教えろ」
「よ…宜しいのですか?本当はBランクかAランクに相当するクエストなのに…Cランクとして受けて頂こうという話なのですよ?」
全く…。バレッタは俺の専属の癖して分かってないな…。
「俺にとってはAランクでもCランクでも同じだ。そして、今俺にとって必要なのはCランククエストだろう?だったら『良くやった』以外に言葉があるのか?」
そういう事だ。Bランククエストだと冒険者として受けれない。だが見殺しにもできない…。タダ働きになる所をクエストにしてくれたんだから有難い限りだ。
「っ!!ありがとう…ございます!」
「いいから場所を」
「はい!レイオスとリッケルトのちょうど中間。街道から南西に1キロほど行った所にあります!」
「分かった。では行ってくる」
俺はゲート専用部屋に向かうと、すぐにゲートを開いた。
その街道は通った事がある。多分村はすぐに見つかるだろう。
そして俺がゲートを抜けると…残念な事に村の場所はすぐに見つかった…。
煙が…立ち上がっている…。
「ヤバいな。急がないと被害が悪化する」
俺は急いで村へと走った…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これは酷いな…」
村は数体のオーガに蹂躙されていた…。
オーガは大きな鬼で、1階建ての家より頭2つ背が高い。それが、家を壊しながら村の中心に向かって歩いている。
かまど等から引火したのか、壊された家からは火の手が上がっている物もある。
俺はオーガを追いかける様に村の中心へと走った。
ただ、幸運な事に…今のところ人の姿を見ていない。どうやら事前に避難できているみたいだな。
そして、一番近いオーガに追いついた。
オーガは戦士風の男と戦っていて、戦士風の男が劣勢だ…。
「参戦するぞ!」
俺は一方的に言い放つと、新調した刀でオーガを袈裟切りにする。
武器屋のおやじさん。今度の刀も良い感じっす!
「おい。状況を教えろ。村人達は避難できているのか?」
俺は、助けた戦士に対して単刀直入に聞いた。
「まず、ありがとう。えっと…大半の村人は集会所に避難している。ただ…全員って訳じゃない。オーガの数は10体くらいで、家を壊しながら集会所に向かわれてる…」
なるほど…。集会所に辿り着かれるのは言語道断だとして、避難できてない人がいるのなら急いでオーガを倒す必要があるな。
「わかった。オーガは俺が倒すから、お前は避難できていない人を探して集会所に連れていけ」
「りょ…了解です…」
そして、俺は片っ端からオーガを倒していく。
倒しながら中心へと近づいていき、集会所の前で最後のオーガを発見した。
正に今…集会所を叩き潰そうとしている…。
「させるか…」
俺は転移で集会所とオーガの間に移動すると、振り下ろしていた棍棒を片手で受け止め、光属性魔法でオーガの首を飛ばす。
「今のでラストか?特殊な個体がいるって話だったが…。とりあえず村人の安全が第一だな。集会所に入ろう」
俺は集会所の扉を開ける。中には100名程の人が身を寄せ合いながら怯えていた。
オーガに怯えていたのもあるけど…。俺自身にも怯えられてる気がする…。
仮面の男は信用されづらいな…。
「俺は冒険者だ。オーガ討伐依頼を受けてきた。ひとまず村にいたオーガは撃退したが…代表の者はいるか?」
俺がそう言うと、村人達の表情が少し柔らかくなった。
そして、1人の老人が出てくる。
「わしが村長のモルンですじゃ…。外が安全になったのは本当でしょうか?」
「あぁ。村に入った9体は退治した。これで全部なのか?」
「いえ…あとボスがいるはずですじゃ…」
どうやら、村に入って来てないのがいるみたいだな。
「わかった。とりあえずボス撃退の前に安全を確保しよう。この集会所を治療される空間にするから、怪我人はここにどんどん連れてこい」
「お主…何を言って…」
村長の発言を無視して、俺は集会所に対して聖域を使った。
集会所の中が光輝き、怪我をしていた人は見る間に回復していく。
「お…おぉぉ…これは…。す…すぐに集めますじゃ」
「あぁ、頼む。あと、病気や建物の倒壊で動けなくなってる者がいたら言ってくれ。俺が運ぼう」
若者が中心となって、村の確認が始まった。
それからしばらくすると、俺に救援依頼がやってくる。
「す…すいません。寝たきりのエリー婆さんが…崩れた建物の中に埋もれてしまっていて…」
「遠慮するな。何処だ?連れて行ってくれ」
「こちらです!」
そして、俺はエリー婆さんの家に連れて行ってもらった。建物は崩壊している…。
「崩れた建物をどかす。危ないから離れててくれ」
「は…はい!」
俺は建物だった資材を除けていく。
更に崩れない様に注意しないと…埋まってる人が余計に怪我をしてしまう…。
「ん?人の手だな…。ここか…」
まぁ探知魔法で場所は突きとめていて、そこを中心に救出活動してたんだけどな…。
俺は資材を除けて、エリー婆さんを助け出した。
「う…うぁ………」
喋れないが意識はあるみたいだ。急いだ方が良い。
そして、俺はその場でゲートを開く。
「集会所に連れて行く。どうせだからお前もゲートを通ってくれ」
そう言うと、俺はエリー婆さんを抱えてゲートを通った。
ゲートは、集会所の中に直接繋げている。
そして、ゲートから出た途端、エリー婆さんの傷は治療され始めた。
「な…なんじゃこれは…。奇跡がおきとる…」
「エリーさん。で良いのかな?傷の具合はどうだ?」
「大怪我じゃったのに一瞬で治ったわい。冥途の土産に良い経験ができたの…」
縁起でもない事を言うな…。まったく…。
「俺がいればこれから冥途の土産になる話も増える。どうせなら、もっと土産を貯めてから逝きな」
「ひゃひゃ。そうじゃの。何だか元々の状態より元気になっとるし、これから楽しく貯めさせてもらうわい」
聖域は、寝たきりになっていた原因についても治療してしまったみたいだ。
「はは…俺も時空属性を経験しちゃったし…まるで勇者様だな…」
余計な一言を…。
道案内をしてくれた男性はこの村出身のDランク冒険者で、たまたま実家に帰って来ていたらしい。
「おぉ…確かに凄い光魔法じゃったし…」
「村に入ったオーガを全部倒してくれたしな」
「怪我も全部治してくれたよ!」
「勇者…」
「勇者様だ…」
村人達が騒めきはじめる…。
「勇者様!」
「勇者様だ!」
「勇者っ!勇者っ!」
マジか…勇者様コールが…始まった……。
「やめろっ!!!!!!」
「え……………………」
「俺は勇者じゃない。一緒にするな」
集会所の中を…静寂が支配する…。
「……………………わかり…ました。」
どうやら…理解してくれたみたいだ。
「なんだよ…のり悪いな…」
「バカもん!」
村の若い男の発言にエリー婆さんがすぐさま反応し、頭にゲンコツを落とす。
「人には触れられたくない事とか、どうしても引けない事とか…あるもんじゃ」
エリー婆ちゃん。ありがとう。
「全員の無事が確認できたみたいだな。俺はボスの所へ向かおうと思う。ここの魔法はもう少し維持しておくから、避難しててくれ」
「わかりましたじゃ…。ライト様、宜しく頼みますのじゃ」
村長の許可も出たので、ボスを探しに行こう。
俺は外に出ると。オーガを探して探知魔法を行った。
「見つけた…。西の方に1体いるな…」
俺はオーガのボスを倒すため、移動を開始した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「バス…あのオーガ…呪われてね?」
『呪われてるっす!』
俺はオーガのボスを発見していた。ただ…オーガの身体からは瘴気が出ている…。
「オデ…ニンゲンタオス…。ニンゲンタベル…」
そんな事…許す訳にはいかない。
「ニンゲン!タベルゥゥゥゥゥゥ!」
俺がボスオーガの前に立つと、オーガは棍棒を振り下ろしてくる。
「早いな…」
通常のオーガに比べると圧倒的に早い。だが、それだけだ…。
俺は振り下ろされた棍棒に対して右ストレートを当てる。すると棍棒は粉々に砕け散った…。
さて…トドメを刺しますか…。
「ニンゲン…タベル…。デモ…タベルダメ…」
「ん?」
こいつ…いま何て言った?
「ニンゲン…タベタイ…。コエモ…タベロ…イウ…。デモ…タベルダメ…イウ…。オデ…ワカラナイ…」
「なんだ?こいつ…随分と混乱しているな…」
そして、混乱するオーガは改めて俺に襲い掛かる。
「ニンゲン!タベタイィィィィ!!」
「悪いが食べられる訳にはいかないな」
ピュィィーーーーン
俺は、光属性魔法によってボスオーガを左右真っ二つにした。
「いったい…何だったんだ?ん?」
切り捨てたボスオーガの断面から、黒いモヤが溢れ出てきた…。
その黒いモヤは段々と1つに集まって行き、人の様な形になっていく…。
『なんで邪魔をするのよ…。自分たちばっかりのびのび生きてる奴らなんて……魔物に食べられて死ねば良いのに!』
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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