天竜の塔
2023/03/17 表現を一部見直しました。
「お、きたきた!トール。おはよう!」
「カイン。おはよう!待たせちゃったかな?」
僕はカインとの待ち合わせの為に冒険者ギルドに来ていた。
今日は、カインと一緒にダンジョンへ向かう予定になっている。
昨日の朝…カインは突然僕の宿に来て、宿の下から大声で叫んだんだ…。
『おーい!トールー!ダンジョン行こうぜー!』
空き地での野球に誘うくらい軽い感じで誘われた…。
まったくジモティーめ…こっちは凄く恥ずかしい思いをしたんだぞ…。
まぁ、ロンドさんの護衛依頼までは6日あるし、その間はオルトロス退治くらいしか予定がなかったので行く事にしました。
一緒にクエスト受ける約束もしてたしね。
「お、リルも一緒なんだな」
「ワフン!」(もちろん!)
「うん。一緒でも大丈夫だよね?」
「あぁ!もちろんだ!ぜひキールの座を奪ってくれ」
「ちょっと待ってよ。俺だって負けないよ?」
「はははは。結果で示してくれるって信じてるよ」
「ちぇっ…はいはい。頑張りますよー」
宵の明光の中にいると気が楽になって良いね。まさかカインに癒しを感じる様になるとは…。
「でさ。詳細は聞いてないんだけど何処に行くの?」
「あぁ、迷宮5階にいるポイズンスパイダーを討伐しに行こうかと思ってね」
「それってDランクのクエストだっけ?」
「いや、Eランクだな」
「え?それじゃカイン達に意味ないじゃん」
「んー…。でもDランククエストじゃトールに意味ないじゃん?」
真似んじゃねーよ…。
「お互い意味がある形にする為には、結局はトールがEランクになるしか無いんだ。だから長期的な観点で言うとEランクのクエストの方が意味があると思うな」
ぬぅ…ゴール設定が違うんだな…。カイン達はそこまで考えてくれてるのか…。
せめてEランクまでは上げておいた方が良かったかな…。
「じゃあ、僕がEランクに上げてからやる?」
「トールはいつやる気になるか分からないからなぁ…。まぁポイズンスパイダーの毒腺と糸を優先的に貰えれば、そんなに悪い話でも無いから気にするなって」
「わかったよ。ありがとうね」
「おう!」
じゃあクエスト内容自体は簡単っぽいから、楽しみながら行きますか!
「じゃあ、まずはトールのクエスト受注からだな」
「あ、そっか…。僕しか受ける人いないんだもんね…」
これは…見た目にはパワーレベリングというやつだね…。しかもかなり手厚い…。
「じゃあ行ってくるよ…」
そして僕は、エルマさんの列に並んでクエストを受注する。
久しぶりにクエストを受ける僕に、エルマさんは凄く喜んでくれました…。
なかなか受けなくてゴメンね…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うわー!高いなー!」
僕は天高く聳え立つ塔を見上げていた。
「くくく。これがリッケルトが誇る迷宮『天竜の塔』だ!どうだ?ワクワクするだろ?」
「確かに…」
塔は直径100メートルくらいあって、高さは…距離感が掴めないな…墨田区にある電波塔くらいあるのかな…。
「こんなに高い建物なのに遠くから全然見えなかったけど…。何でだろう?」
「何でだろうな…。理由までは分からないが、近くまで来ないと見えないんだ」
んー…。認識阻害か、光学迷彩か、実は別空間か…。色々と可能性はありそうだね…。
「トール。ここを満喫しようと思ったらランク上げなきゃなぁ?」
なんて脅しをしてきやがる…。
よし、今度ライトとして来よう!
まぁ、今日のところはカイン達と楽しむけどね。
「これ…何階あるの?」
「最高記録は40階だ。最上階は50階周辺じゃないかって噂がある」
この迷宮も踏破者はいないのか。もしくは…いないって事になってるのか…。
「最高記録が区切りが良いって事は、ボスが問題?」
「お、そんな事知ってるんだな。その通りだ。40階にリッチってのがいるんだが…何処かが仕切ってレギオン組まなきゃ無理だろうな」
リッチってAランクだっけ?行ける人いそうだけど…。
「Sランクがクリアしたりしないのかな?」
「もしかしたらクリアしてるかもなぁ…」
「え?不明なの?」
「あいつらは行動を公表しない奴が多いから良く分からないんだよ…」
おぉ!自由な感じで良いなぁ!
「Sランクってそんな感じなんだね。国から怒られたりしないの?」
「基本的には何処かに属してるけど、正直関係ないな。文句を言ったら出ていかれて国が困るだけだ…」
「そんなに重要なら、どうにかして束縛しようとしそうだね」
「ま、それが嫌だから色々と公表しないんだろうな」
納得だ…。つまり僕が目指す姿の先駆者達か…。ライトもSランク目指さなきゃ。
トールは勘弁だけど…。
「ねぇ、行かないの?ここに立ってても何も始まらないわよ」
「あ、悪い悪い。じゃあトール行こうか。最初は説明聞きながら見ててくれ」
「了解!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジャイロ!左の抑えておいてくれ。俺は右のをやる」
「了解だ」
リーシアさんの魔法は温存で、カインと獣人剣士のジャイロさんで戦闘中だ。
タンクのフリッツさんはリーシアさんを護衛してて、シーフのキールさんは戦闘のサポートをしてる。
相手はホブゴブリン。力は強いんだけどね…。
ここまでに何体かの魔物と戦って、みんなの役割分担とか強さとかは何となく分かった。
「よしっ!トドメだ!」
ザシュッ!
「お見事!カイン。魔石回収するね」
「あぁ。トール頼んだ。どうだ?次あたり参加してみるか?」
お、やっと僕も参加できるみたいだ。
ちなみにリルは、暇を持て余してさっきから脇道に行きまくってる…。自由だな…。
「うん。僕のショートソードの切れ味を見せてあげよう!」
「はははは。お前、自分が魔法使いだって忘れてないか?」
おっと。まぁカインと一緒に登録した時はそうなんだけどさ…。今はそうとも言い切れないんだなー。
「忘れてないよ。ただ、最近は剣の修行してるんだよ。だから試してみたいんだよねー」
そういう事なんだ。最近はアンサラーを使って剣の事もちょっとは分かってきたけど、ちゃんと自分自身で振ったことが無いんだよね…。
「へー。そいつは楽しみだな。だったら鎧着てくれば良いのに」
「重い鎧は苦手なんだよ…」
という事で、僕とキールさんが先頭を歩く事になった。
そもそも僕のクエストだしね…。
「トール。そこの違和感分かる?」
「えっと、どれだろ…もしかしてこの床がズレてるのですか?ちょっと作りが悪いだけに感じますけど…」
立て付けが悪くて、床のタイルの端っこがちょっと浮いてる感じだ。
「だめだめ。もしかしたら問題ないかもしれない。でも罠かもしれない。可能性が含まれてるなら罠だと思って行動しないとだよ!」
「おぉ!勉強になります!」
探知魔法を展開すれば色々と罠に気付けるかもしれないけど、今はわざと使ってない、
キールさんが色々と教えてくれるのが、とても勉強になるんだ。
「ほら。この足跡見て。重なってるけど、この境の所を見るとコッチが上だってわかるでしょ」
「そっか。後から乗ってるから砂が除けられたんだね」
「そうそう。だからこの足跡の敵が近くにいるって事。で、この足跡は、人型じゃないし、熊でもない。なんだと思う?」
うわー。難しい。指が2本みたいな…。馬の蹄が2つに割れてる感じかな…。
「えっと、シカとか?」
「お、惜しいね。正解はイノシシでした~。大きさからしてグレイトボアかな」
「イノシシかぁ。でも惜しかったの?」
「うん。両方とも似た感じの蹄でね。シカだともっと閉じてる感じなんだよ」
こういうの結構楽しいなぁ。こういう視点で動物を見てなかったよ。
「という事で、グレイトボアのお出ましです!トールやってみな」
「よしっ!了解!」
さっそく足跡の主のグレイトボアが現われた。
僕はショートソードをぶらんと持って無防備に進んで行く。
「おいおい。トール!修行したんじゃないのかよ!?」
「したから大丈夫だよ。カイン心配しないで」
僕に気付いたグレイトボアは前掲姿勢になって威嚇してくる。
それを気にせず真っ直ぐに歩いていると、グレイトボアは興奮して突っ込んできた。
猪突猛進。直前で避ければ相手は対応できなそうだ。
僕は直前で体を回しながら避けると、その勢いのまま相手の後ろ脚を膝から切り落とす。
うーん…。アンサラーに比べると短いから、思ったより遠心力が無いね。ちょっと感覚とズレがあった。
3本足になったグレイトボアは、辛そうにしながらも立ち上がる。
「さて、トドメ刺させてもらうね」
僕はグレイトボアの横に移動して、グレイトボアの頭を切り落とした。厳密には骨の間に刃を入れて切り離したって感じかな…。
「うぉ、マジか…。トールの何処がFランクなんだよ…」
「見事な動きだな。獣人でもこんなにしなやかに動けん…」
「Fランクにグレイトボアの太い首を切り落とす奴なんておらんな」
うーん。ショートソードだと違和感あるな…。僕は見学してたみんなの元へ不満顔で向かう。
「おいおい。何だよその顔。何が不満なんだ?」
「んー。練習してた剣より短いから違和感があった…」
「じゃあクエスト終わったら買いなおした方が良いな」
「うん。そうするよ」
刀を修理に出してから2週間くらい経つので、新しい刀の状況を聞きつつロングソードも買いに行こう…。
そうやって色々と教えてもらいながら進んでいると、僕達はやっと5階に辿り着いた。
さて、ポイズンスパイダーは何処かなー。
「あの!すいません!」
ポイズンスパイダーを探しに行こうとしたら、突然知らない女性に話しかけられた。
10代後半の新人冒険者って感じの人だ。
こういう時はリーダーのカインが対応するみたいだね。
「あぁ。どうしたんだ?」
「実は…仲間と来てるんですけど、群れに襲われてしまって…。女性冒険者が助けに入ってくれたんですけど、他にも助けてくれる人を探しに行く様に言われて…」
なるほど…。予想外の群れに当たって困ってるから助けて欲しいって事ですか。
「そうか。相手は何だ?」
「ポイズンスパイダーです…。50体くらいいると思います…」
お、これは丁度良いんじゃないですか?
カインもそう思ったみたいだ。
「わかった。倒したポイズンスパイダーの毒腺や糸は優先的に貰うぞ?」
「既に助けてくれてる女性冒険者次第ですが、私達は何もいりません!」
「了解だ。連れて行ってくれ」
「はい!ありがとうございます!」
そして僕達は、この人の仲間達の元へと向かった。
「うわぁ…蜘蛛の巣だらけ…」
1メートルサイズの蜘蛛が50体で糸を出したらこうなるのか…。
「みんなー!助けを連れてきたよー!」
「あ、見つかりましたか。良かったです」
あれ…何かデジャブを感じるな…。会うのは2週間ぶりくらいだね…。
そこには、新人を守りながら戦うアリアさんの姿があった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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