魔王?
2023/02/25 話し方や表現等の見直しをしました。
「…………………………………………………魔王」
その言葉を聞くと同時に、兵士が僕に矛先を向けて来た。だが、その矛先は恐怖で小刻みに震えている。
「待って!待ってください!!お願いです。落ち着いてください!!」
落ち着く様に訴える海老原先生。双葉と白鳥さんと和也も来て、4人が僕と兵士の間に割って入る。
さっきまでの和やかムードから一変、重苦しい雰囲気が応接室を覆い尽くした。
「透に何かしたら…許さないんだからねっ!」
「透くんは、何も悪い事なんてしてませんっ!武器を下ろしてください!!」
「はは…。親友は見捨てられないよなぁ」
緊張の糸が張り詰める…。
うわ…どうする。どうする。どうするっ!このままじゃ、皆を巻き添えにしてしまう…。
どうすれば良いのか判断がつかず、硬直する僕達と兵士達。
そんな中、王女様が話しかけてきた。
「トール様…で宜しかったでしょうか?これは非常に重要な事です。宝玉を確認させて頂けないでしょうか」
言葉にならなかったのでコクンと頷くと、改めて宝玉に手を乗せた。
「そこの兵士。宝玉を確認しなさい」
「えっ?あ、はい…」
王女様に命令されて、ビクビクしながら宝玉を覗き込む兵士。
「う…。魔王と、出ております…」
「そうですか…」
目を瞑り、何かを考え始める王女様。
たぶん1分も経っていないのだが、恐ろしく長い時間に感じる。そして王女様が口を開いた。
「先ほども話させて頂きました通り、特性はあくまでも才能…素質です。必ずそうなるという訳ではありません」
確かにそんな事を言ってたな…。勇者らしからぬ行動をしていたら勇者になれないとか何とか…。
「トール様は…魔王への憧れですとか、世界を滅ぼしたいという欲求をお持ちだったりするのでしょうか…?」
「そ…そんな訳ありません!平和で穏やかな生活が一番ですよ!」
王女様はクラスメイト達を見渡し、そして最後に白鳥さんを見て話し始める。
「特性が魔王であっても、魔王にはなられない方…。そう信じても大丈夫でしょうか?」
「もちろんですっ!透くんはとても良い人です!悪い魔王になるなんてありえません!!」
即答してくれる白鳥さん。やばい…嬉しくて涙が出て来る…。そして、覚悟を決めた表情になる王女様。
「承知致しました…。大変失礼致しました。全員、トール様に向けている矛を下ろしなさい」
不安そうにしながらも、兵士達は僕に向けていた矛を下ろした。
「トール様のお言葉を…何よりも聖女様のお言葉を、信じさせて頂きたいと思います」
どうにか危機は乗り越えたのかな…?でも周りからクラスメイト達の声が聞こえて来る…。
「うわ、魔王って…」
「やばくね…?」
「敵のボスじゃん…」
なんだか嬉しそうな隼人…。僕が集中砲火を受けてご満悦な感じだ…。
「さて、皆さんお疲れでしょう。特性を確認している間に部屋の準備をさせて頂きました。どうぞゆっくりとご寛ぎ下さい」
なんと、1人1部屋が割り当てられてるらしい。
周りから冷たい視線を受けながら、僕達は一先ず移動する事にした。
「透!気にしちゃ駄目だからね!」
「そうですよ!透くんは良い人です!」
良い人…期待を裏切らない様に出来る限り頑張ります…。
「あっ!じゃあ部屋でちょっと落ち着いたら、私の部屋に集まって対策会議しない?」
「立花さんの部屋はやめた方が良いかな。女性部屋に入ったのがバレたら俺と親友が非難を浴びそうだ…」
「じゃあどうするの?」
「親友の部屋の方が良いんじゃない?」
「んっ、おっけー!じゃあ30分後くらいに透の部屋に集合ね!」
集合の約束をすると、僕達はメイドさんに連れられて各々の部屋へと入って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「な…何か御座いましたら、そちらのベルを、お…御鳴らし下さい。ひぃ…」
僕だけ劣悪な部屋を準備されるとか、そういう覚悟もしてたんだけど…そんな事は全然なかった。このメイドさんはニーナさんって言うらしいんだけど、ビビり過ぎなのはどうにかならないかなぁ…。
「あ、はい。分かりました。何かあったら呼ばせて頂きますね」
「そ、それでは失礼致します!」
お辞儀をして、そそくさと部屋を出て行くニーナさん。僕の担当にされて可哀そうに…。
はぁ…それにしても魔王って何だよ…。それって人間側の特性なのかよ…。モヤモヤしながらベットの中で考え事をしていると、コンッコンッとノックの音が響いた。
「透!私達だけど入っても大丈夫ー?」
「大丈夫だよ。どうぞどうぞー」
部屋に入ってくる双葉と白鳥さんと和也の3人。
「うんうん。ちょっと心配だったけど…少しは立ち直ったみたいで安心した!」
「まぁ、ずっと落ち込んではいられないからね…」
「透くん…凄いです!」
僕なんかの為に心配してくれて、ありがたい限りだ…。
「さてさて、じゃあ作戦会議なんだけど、まず私的に大前提の話があってね」
「うん、何だい?」
「イザベラ王女は信用できないっ!」
うはっ、いきなりぶっこんで来ましたよ…。
「まぁ僕も全てを信じてる訳じゃないけど…ちなみにそれは何で?」
握った手を口元に充てて、首を傾げて考える双葉。
「勘?」
「「「えーーー!?」」」
「だって…言ってる事が色々とモヤモヤするんだもんっ!」
どうしたものかな…。でも軽い気持ちでこんな事を言う奴じゃないしな…。
「僕は勘って、事象から結論を導くロジックが知覚できてないだけだと思うな」
「どういう事?」
「実は理由になる情報は持ってて、経験から無意識に判断して結論が出てる感じかな」
「うん。そういう事あるかも!」
「まぁ、思い込みな事もあるけどね…。例えばどこがモヤモヤしたの?」
双葉は召喚されてからの一連を思い出しながら僕の質問に答えた。
「えっと…、日本に返還してくれるって事だったけど、本当にそうなのかな?って思った…」
「俺も千年前の勇者が戻れたのか気になるな」
「帰れてなかったら…もしかして僕達も?」
「そうそう。魔王倒した後に帰れてるんかね?」
「千年前もだけど…帰還者の話題って聞いた事が無いから、今までに召喚された人も帰れたのかな?」
双葉の発言に白鳥さんが驚愕の声を上げた。
「え?召喚って何度かされてるの?」
「あれ…何で召喚されてるって思ったんだっけ……」
双葉は頑張って思い返す。
「あっ!『異世界人は変わった特性が多い』っていう判断ができるくらい実績があるんだなって思ったの」
「なるほど…。王女様が聞いてるって言ってたから、最近だけじゃなさそうだしね」
「うん…。この千年って平和だったんだよね?なのに何で呼んでたんだろう…」
双葉の呟きに皆で首を傾げる…。答えは出なそうだ。
「確かに疑問が残るね…。他には?」
「んとね…。魔物っていうのが良く分からないんだけど…悪い存在なのかな?」
「え?理性なく人間を襲うイメージだけど…」
「そうなの?何をもって魔物なんだろう?」
「確かに…僕が魔王候補なくらいだし…」
「5年前に魔物が建国を宣言したって言ってたじゃない?魔物って建国するの?」
「人間並みの知能があれば有りうるんじゃない?」
「宣言したんだよね?」
「そう言ってたね」
「宣言って、公に対して、国として認識して欲しいって周知したって事だよね?」
「確かに…」
「群れて襲うだけなら必要無いと思うんだけど…なんか文化的じゃない?」
双葉がやたらと鋭い事を言う…。勘て嘘だろ…。
「ゲームで良くある設定だから気にならなかったけど…確かに魔物が国を作る必要性って分からないね…」
国とは何ぞや?みたいな話だな…。
「人間並みの知能があって、人間の文化に歩み寄り、国として関係性を築こうとしてる存在って…本当に敵なのかな?」
3人が驚きの表情で双葉を見る。情報不足で断言はできないけど…可能性が無くは無い。
「王女様の言う通り敵なのか、実は話が通じる相手なのか、それとも……実は魔物じゃないのか…」
「私の考え過ぎかもしれないけど…話を鵜呑みにするのは危険だと思う」
「うんっ!私も魔物の国とお話し合いをした方が良いと思った!ふふふっ…双葉ちゃんは頼りになるなぁ!」
双葉に抱き着く白鳥さん。うん、女子のこういう絡みって良いよねっ!
「双葉の意見は了解した。じゃあそれを踏まえてどうしようか?他の人にも伝える?」
「いや、それは止めた方が良いんじゃないか?」
「それは何で?」
「まだ可能性の段階だし、王女の耳に入ったら事だ」
「そうだね…。僕の所為で信用してくれない可能性も高いし…」
「はいはいっ!もぉ…そんな卑屈になってどうするのよっ!元気出しなさいっ!」
そう言いながら、双葉は僕のほっぺたをつねってくる。
痛い痛いっ!強いよっ!!そういう暴力的な絡みはいらない!!
「あとね…透には全力で訓練に参加して欲しいの」
「ほれは何れ?あと、そろそろ放ひてくらはい…」
「もう…、ちゃんと反省してよ?」
やっと僕のほっぺたは解放された…。これからは発言に気を付けよう…。そして双葉が言い辛そうに続きを話す。
「もしもの話なんだけど…。王女様の話が全然信用できなかった場合、透を信じてくれるって言ってたのも嘘かもしれない…」
「それはヤバイな…。親友の命が狙われるかも…」
「うん…。透が殺されるなんて嫌だよ…。だから……襲われる事を想定して準備をしておいた方が良いと思うの…。もちろん私も透を守る為に修行頑張るけど…」
ぷにっ!僕は辛気臭い雰囲気を出す双葉のほっぺたをつまんだ。
「まったく、双葉が元気無くなってどうするのさ。これは反省が必要だなっ」
ぷにっ!ぷにっ!何故か和也と白鳥さんまで双葉のほっぺたをつまむ。
「あと、親友を守る為に修行頑張るのは私達なっ」
「だよ!双葉ちゃん!反省っ!!」
そして手を放してみんなで笑い合う。双葉もほっぺたを赤くしながら笑ってる。
「じゃあ、どういう訓練か不明だけど、皆全力で頑張りますかっ!」
「「「おーっ!」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クラスメイト達が各々部屋で寛いでいた頃、隼人は王城のバルコニーに一人で立っていた。腕を組んで壁にもたれかかり、この場から動く気配はない。
どうやら誰かを待っている様だ。
「まったく…いつまで待たせるつもりだ…」
数分待たされただけで苛々が募る。そんな隼人に近づく影があった。
「勇者様。お呼び立てしてしまい申し訳ございません」
「別に構わないが…いったい何の用だ?イザベラ姫」
「実は…ご相談に乗って頂きたい事があるのです…」
イザベラ姫は、思い詰めた表情で隼人が嫌いな名前を口にする。
「トール様の事です…」
「………」
「私個人はトール様の事を信じたいと考えております。何かあったとしても、私の命で責任が取れるのなら構わないという覚悟もしております」
「…それで?」
「しかし…もしトール様に関連した何かがおきてしまった場合、きっと私の命程度では責任が取れない事態になってしまう事でしょう…」
「…何が言いたいんだ?」
「世界のリスクと私の我儘…私はどちらを優先すべきだと思われますか?宜しければ勇者様のご意見を頂けないでしょうか…」
「………」
隼人は両眼を瞑り何かを考える…。
「そうだな…。では勇者として…イザベラ姫に提案がある…」
そして隼人は、イザベラ姫の耳元で何かを囁くのであった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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