穴1つ
2023/03/17 表現を一部見直しました。何度もすいません…。
「セリア…さぁ、薬を飲むんだ…」
ロンドさんは、自らセリア嬢に薬を飲ませる。
薬はビンに入った液体で、ユニコーンの角の様に綺麗な白色だった。
「ング…ング…ング………」
薬を飲ませると、セリアの身体が淡く光り、瘴気の噴出が止まる。
そして、身体の亀裂が閉じていく…。
「おぉ!セリア!どうだ?」
「お…お父様…少し楽に…。ゔ…グゥ…あ…あぁ…ああああああああああ!」
一瞬治ったと思ったのだが…。
身体の亀裂が開き出し、そこからまたモヤが出はじめた。
治っても、またすぐに発症してしまう。
「あぁ…あぁぁァァァァァ…」
「そ…そんな…。セリア…」
「旦那様…。一瞬浄化されたのですが…原因が残ってしまい…再発してしまう様です…」
「なんと言う事だ…」
やっぱりこれは…病気じゃない気がする…。
バスなら分かるかもしれないな。
(バス…あれって病気なのかな?)
『病気じゃないっすよ!』
(あ、やっぱり?何だか分かる?)
『呪いっすね!』
(うわぁ…。治すにはどうしたら良いんだろう?)
『呪いには解呪が1番っす!ただ…なかなか強力な呪いなんで、普通の治癒師やスクロールでは厳しいかもしれないっす!』
(僕なら治せそう?)
『ご主人様の解呪なら余裕っす!』
バスに聞いてみたら呪いだという事が判明した。
解呪は聖属性だから…堂々と使う訳には行かないな…。
「ロンド殿。少し良いかな?」
「ライト殿!何か…何か分かったのですか?」
「あぁ。多分これは呪いだ」
「呪いですと?そんな…いったい誰が…」
確かに…。
呪いだという事は…呪った奴が居るという事だ…。
「誰か心当たりはいないのか?」
「セリアは誰かに恨まれる様な事をする娘ではない!」
なるほど。ただの親バカかもしれないが…。しかし、他の可能性もある。
「では、お前は?」
「なっ…」
「ロンド殿…もしくは一族か。その恨みのとばっちりを受けている可能性は?」
「…………。あり過ぎて分からない…」
貴族の末席に入れるくらい荒稼ぎをしたんだ。きっと色々あったんだろう…。
「そうか。まぁ、今は犯人探しよりもセリア嬢を治すことが第一だろう」
「そうだな…」
重要なのは、俺以外の聖属性術師を呼ぶ事ができるかだな…。
「解呪を使える聖属性術師に心当たりはないか?」
「ゼノン聖国に行けば確実にいると思うが…それでは何ヶ月かかることか…」
ゼノン聖国か。奈落の本に出てきたな。この世界で1番浸透している宗教の総本山で、確か大陸の反対側だな…。
「もっと近場にはいないのか?」
「最近、アクル王国の奈落迷宮に、腕の良い聖属性術師がいると聞いたことがある…」
それは却下だ…。
「確実性の低い話だな。バレッタ。冒険者にはいないのか?」
「ライト様…。なかなか居ないからこその希少属性です…。特に聖属性となると、ゼノン聖国が集めておりまして…」
「とは言え、Bランク以上にも1人もいないのか?」
「えっと…その…。おりません…」
バレッタは答えづらそうにしていたが、ロンドさんをチラッと見てから居ないと答えた。
あぁ…表面的には隠してる存在がいるのかな…。
となると、誰かにやってもらうのは無理か…。
「では仕方がないな」
「なっ!諦めろと言うのか!」
ロンドさんが非難めいた口調で言ってくる。そんな訳が無いだろう。
「いや。俺が持っているスクロールを使おう」
「か…解呪のスクロールを持っているのか?是非買わせてくれ!いや…買わせてください!」
あぁ、そうなるか…困ったな。
スクロールでは力不足みたいだから、使っている振りをして無詠唱で魔法を使おうと思ったのに…。
渡しても失敗するかもしれないから、俺が使ってる振りをしないとな…。
んー…。ではこうしよう。
「俺にとってはそこまで希少な物では無い。あまり気にしなくても良いが…まぁ使ってみて効果があったら買い取ってくれ」
「聖属性のスクロールが希少ではないなんて…。ライト殿!是非お願い致します!」
「あぁ、では離れていろ」
セリア嬢のベッドの周りから、全員が離れる。
俺はセリア嬢に近づくと、アイテムボックスから空のスクロールを取り出した。
「なっ…ライト殿は時空属性持ちなのか…」
「ふふふ…。だけではありませんわ…」
俺はバレッタがドヤ顔しているのを無視して解呪を行った。これは…。
心臓の横に闇が集まっているのを感じる。
その闇が何処か遠くに…たぶん、呪った本人に繋がっている気がする…。
これ…解呪すると術者に被害が出るんじゃないか?
でもまぁ…自業自得か…。
とりあえず、これを消し去れば良いのかな…。
俺は解呪の力を闇に集中しようとした。すると…闇が逃げる様に、心臓へと纏わりつく。
「うっ…ぐっ…ぐぅ………」
「セ…セリア!大丈夫か?」
胸を押えて苦しむセリア嬢。
しつこいな…セリア嬢を道連れにするつもりか?
えっと…『人を呪わば穴二つ』だっけ?ふざけるな!自分だけ入ってろ!!
ジュワァァァァァァ…
解呪の力で闇はどんどん浄化されていく。
そして、浄化が進んで行くと、誰かの感情が流れ込んできた…。
『美人なんてみんな死ねばいい!』
『私の事を虐める奴もみんな死ねばいい!』
『嫌い!嫌い!みんな嫌い!』
『私なんて…大嫌い…』
『ママとパパに会いたい…』
『早く…東京に帰りたいよ…』
闇は浄化されると、白い雲の様になってどこかへ飛んで行った。たぶん術者の元だろう…。
これは闇属性魔法だよね?
そっか…僕はこういう事をする存在だって思われてたのか…。
それにしても…呪ったのは誰なんだろう…。
「あ…あの…。貴方はどなたですか?」
あぁ、セリア嬢を忘れてた。
ひび割れは治ったな。もちろん瘴気も出てない。栄養不足な感じはするけど、大丈夫そうだ。
なるほど、美人への妬みね…。確かに可愛いな。
「セリア!大丈夫か!?」
ロンドさんがセリア嬢へと近づき顔に手を当てる。
「お父様…。なんともありません…。胸の奥にあった気持ち悪い物が全て無くなりました…」
「良かった…。再発しそうな感じはどうだ?」
「いえ、ありません…。あの…いったい何があったのですか?薬を飲んで少ししてからの記憶が無くて…」
再発してからは意識が無かったみたいだ…。苦しそうだったしな…。
「あぁ…。お前は病気ではなく、呪われていたのだ…」
「え?呪いですか?そんな…」
「きっと私に対する恨みの矛先がお前に向いたのだ…。これからは商売のやり方を改める。すまなかった…」
えーっと…。たぶん原因は違うっぽいけど…。まぁ敢えて否定する事でもないか…。
「ライト殿。セリアの呪いはもう大丈夫なのだな?」
「あぁ。根本を駆逐したから大丈夫だろう。新たに呪われなければな」
新たな呪いまでは保証できませんよ…。
「お父様…それで、こちらの方は?」
「おぉ、悪い悪い。この方はライト殿でな!お前を救ってくれた方だ!」
ロンドさんは、俺がユニコーンの角を回収して来た事、原因が呪いだと見破った事、解呪のスクロールで治してくれた事をセリアさんに話した。
「あ…ありがとうございます!そんなにお世話になってしまって…」
「仕事だ。気にするな」
俺の都合で俺がやりたくてやった事だからね…。
「ライト殿。私からも改めてお礼を。あとスクロールの買取ですが、もちろん言い値で買い取らせて頂きます」
「別に通常価格で良い。バレッタ任せた」
「承知致しました。口座の方に入れておきます」
むしろ貰うのが心苦しい…。本当はスクロール使ってないしね…。
「聖属性スクロールが端金扱いですか…。ライト殿…いや『様』は、さすが専属付きという所か…」
俺がスクロールのお金程度に興味を示さないのを見て、どうやら評価を改めたみたいだ。
「そうですわね。現在はランクを上げてる最中なのでDランクですが、実力はもっと上です。そのDランクも最短記録ですわ」
「ほほぅ…。登録からDランクまでの記録はどれくらいだったのだ?」
ロンドさん、記録が気になるみたいだ…。バレッタに誘導されている気がする…。
「1日ですわ」
「は?」
「登録日なので1日ですわ。厳密には2時間ですわね」
「それはまた…。は…はは…」
ロンドさんはドン引きして、畏怖の念が混じった目を俺に向けていた…。
「あ、ロンド様。せっかくなので、1つここで確認を済ませてしまっても宜しいでしょうか?」
「あぁ、何かな?」
「9日後の護衛依頼ですが、ライト様も参加を希望されております。宜しいでしょうか?」
バレッタの話を聞いてロンドさんは凄く喜んだ。
「おぉ!もちろんだとも!それは商人として受けない訳がない!」
商人として?商人は恩義が大事って事か?
「Dランク冒険者の費用でライト様に護衛して貰えるのだろう?そんな超お得な…ある意味でボーナスタイムなのだから、もちろん頼む!」
あぁ…損得勘定ですか…。
「ではロンド殿。9日後、宜しく頼む」
「ライト様!こちらこそ宜しくお願い致します!」
あぁ…見事にバレッタの思惑通りだなぁ…。
とりあえずセリア嬢が元気になって良かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
セリア嬢の呪いが解けた頃、アクル王国の王城では数人のメイドがドタバタと暴れていた。
「ちょっと!ネズミそっちに行きました!」
「えい!えい!」
最近、城のネズミが増えていて、ちょっと問題になっていたのだ。
そして、ネズミを追いかけているメイド達の近くにある廊下では、3人の女性が剣呑な雰囲気を出していた。
眼鏡を掛けた女性の頭が掴まれ、その頭は壁に叩きつけられている…。
「おい!ミク!あんたが臭ぇからネズミが集まってんじゃないの?」
「そーだよ。きっとミクに寄って来てるんだよー」
「し…知らないよ。やめてっ」
3人とも透達のクラスメイトだった。
頭を掴んでいるのが土屋佳奈で、横で煽っているのが加藤恵なのだが…2人は性格の暗い平野未来の事を嫌っていた。
正直、ネズミの事など難癖で、絡む理由は何でも良いのだ。
バリィイイイイン!
突然、3人のそばにある窓が割れる。
そして、割れた窓から白いモヤが入って来た。
「な、なんだよコレ…。おい!あんた壁になりな!」
土屋加奈は、近づいてくる白いモヤに平野未来を押し付ける。
「や…やめて…。う…うあああ!ぐ…グボォ…!」
白いモヤは平野未来の体内へと入った。そして、平野未来は嘔吐しながら倒れ込んでしまう。
「うわ…キモ…。メグ行こう」
「う、うん。カナ。待って!」
倒れた平野未来を放置して、土屋加奈と加藤恵はどこかへと行ってしまった。
そして平野未来は、自分の吐瀉物の中に顔を埋もれながら、何かをブツブツと呟いている…。
「死ね…死ね…みんな死ね…。みんな魔物に食われちゃえ…」
それは呪いの言葉だった…。
そして、そんな平野未来を柱の陰から見つめる者がいた。
「ふふふふ…。良い感じねぇ…」
柱の陰から見ていた女性は、平野未来を見て満足すると、別の所へと歩き出す。
向かった先は、イザベラ姫の私室だった。
「おねぇ様、入りますわよぉ」
「リーゼロッテ、良く来ましたね。生徒達の育成具合はどうですか?」
柱の陰から見ていた女性の名はリーゼロッテ。イザベラ姫の妹で、アクル王国の第2王女だ。
リーゼロッテは闇属性を持っており、クラスメイト達への魔法講師の1人をやっている。
ちなみに、リーゼロッテの下には姫と王子が1人ずつ存在していて、イザベラ姫たちは4人姉弟である。
「ふふふ…。ばっちりですわぁ。特に一人、お気に入りの娘がおりますのぉ。とても才能豊かなんですのよぉ」
「あなたが人を褒めるなんて珍しいですね」
「本当にぃ…。人を嫌いになる才能のある娘…人に嫌われる才能のある娘なんですのぉ。ふふふふ…」
リーゼロッテは恍惚とした表情をしている。
「呪術のコツわぁ、人を嫌いになる事…その為に自分が不幸になることですわぁ」
「そうですか…」
「異世界では『人を呪わば穴二つ』って言葉があるらしいのですけどぉ。なんて勿体なぁい…。呪術師なら…苦しみを独り占めしたい所ですわぁ…」
「1つの穴に、自分だけ飛び込みたいのですね…」
イザベラ姫も、この妹の考えはいまいち理解できないでいた…。
「ミクに試させた呪いが返されてて…ミクの表情が素敵だったわぁ…。ミクを穴に突き落とした相手には感謝ですぅ。さて、次は何をさせようかしらぁ…ふふふ…」
リーゼロッテは、平野未来をどうやって不幸にしようか考えて、とても楽しそうに笑った。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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