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セリア・ロンド

2023/03/05 表現を一部見直しました。

「ライト様。お帰りなさいませ」


冒険者ギルド・レイオス支部のゲート用部屋に移動すると、いきなりバレッタに挨拶された。


(ヤバい!リル、ストップ!)


僕は急いでリルへと念話を送る。

いまゲートを通ると姿を見られちゃう!

1度レイオスに来てから、リルをリッケルトの宿まで送ろうと思ってたんだけど…。


バレッタさんは何でこんな狭い部屋にいるの?ここって3畳くらいの元倉庫だよ…。

まさか…ずっとここで待ってた訳じゃないよね?


「バレッタさ…バレッタ。何故この部屋にいる?」

「ライト様がそろそろお戻りになる頃かと思い、こちらに移動して来ておりました」


えー……。

自分で言うのもなんだけど、僕のクエスト達成速度は普通じゃない。

今日の朝に話を聞いて、今はその日の夕方なんだけど……。

普通は5日ほど掛かる内容だよ?何をもって『そろそろ』だと思ったんだ…。


「ふむ…予測能力が凄いな…」

「不躾な真似をしてしまいました…申し訳ありません」

「いや、少々驚いただけだ。別に構わない」


後学の為に、もうちょっと聞いてみようかな…。


「ちなみに、どう考えたのか教えてくだ…もらえるか?」

「はい。まず、静寂の森にはライト様の敵になる魔物はいないと思いますので、森の入口から湖までは普通に歩いて3時間ほどかと…」

「なるほど?」


確かにそれくらいだった…。


「あとは移動時間です。行動の早いライト様は、ゆっくりとした馬車での移動は選択しないと思いました。早馬ならば片道3時間です」


早馬じゃなくて走ったんだけどね…。


「しかし、ライト様は時空属性をお持ちです。もし静寂の森へ行った事がありましたら往復分が。なければ片道分の時間が無くなります」


え?往復分の考慮?もしかして…。


「つまり、3時間前か今回の時間だと考えた訳です」

「という事は、3時間前にもこの部屋にいたのか?」

「はい…。今回の時間が本命だったので、10分程だけですが…」


知らない所で色々と動いてるんですね…。


「ライト様のお帰りが待ちきれず……申し訳ありません…」


何と言うか…能力の無駄遣いだね…。

まぁ正直驚いたので、素直に褒めておこう…。


「いや。さっきも言ったが別に構わない。むしろ有能なギルド職員である事を実感させてもらった」

「…っえ!あ、ありがとうございますですわ!」


おっ、『ですわ』が出たね。

バレッタさんは『ですわ口調』が癖みたいなんだけど、僕には出さない様に注意してるっぽい。別に良いんだけど…。

でも、動揺したり感情的になると出ちゃうんだ。

まぁ…僕も動揺してライト口調が微妙になってるんだけどね…。


ふぅ…でもちょっと落ち着いてきた……。


「では達成報告がしたい。先に応接室で待っていてくれないか?俺もすぐに向かう」

「承知致しました。では特別応接室にて、紅茶を入れてお待ちしております」

「あぁ、分かった」


そしてバレッタはお辞儀をすると、部屋を出て行った。


「………。もう大丈夫……かな?」


うん。近くに人はいなそうだ。


「はぁ…油断した…。先にリッケルトに行くべきだったなぁ…。リル。こっち来て大丈夫だよ」

「ワフーン…」(びっくりしたぁ…)

「ホントにね…。じゃあリッケルトの宿に向けてゲートを開くから、先に帰ってて」

「ワフウ」(はーい)


そして僕はリルを送ってから、急いで特別応接室へと向かった。


…………。

………。

……。


「バレッタ。これが回収してきたユニコーンの角だ」


俺はアイテムボックスからユニコーンの角を取り出すと、バレッタへと渡した。


「はい。確かに受け取りました。クエスト達成とさせて頂きます」


特に問題とかは無かったみたいだな。良かった。


「それにしても…ずいぶんと大きな角を手に入れられたのですね…交渉はできたのですか?」


「あぁ、コミュニケーションは取れた。しかしな…」


俺は、これがボスの角である事やユニコーン式の決闘をして譲り受けた事等をバレッタに話した。

ボスと友誼を結んだ事は、パーフェクトヒールを秘密にしながら話している。


「なるほど…誇り…。この角は丁重に扱わせて頂きます」

「あぁ、頼む。誇り高い奴だった。尊敬に値する」

「ふふふ…。羨ましいですわ…」


バレッタにも理解して貰えて良かった。


「かなり理性的で思考がしっかりしていた。体格も一回り大きかったし、少し特殊な個体なのかもしれない」

「素晴らしい出会い。おめでとうございます」


今度会いに行った時に、魔眼で種族とか見せてもらおうかな…。


「それでは、早速ですがユニコーンの角をロンド商会に渡してきたいと思います」

「こんな時間に突発で大丈夫なのか?」

「はい。入手できたらすぐに持って来る様にと言われておりますので」


そんなに危険な状態なのか…。


「それでですね…。宜しければ、ライト様も一緒にいらっしゃいませんか?」


なるほどね。バレッタに隙は無いな。


「あぁ、大丈夫だ。俺が認められる事が目的だからな」

「はい。直接感謝された方が先方の印象にも残ります。それに、もしかしたら…。いえ、気になさらないでください」

「ん?分かった。では行こうか」

「はい」


俺はロンド商会の場所を知らないのでゲートは使えない。

今日はバレッタと一緒に、歩いて外に出る事になった。もしかしたら初めてかもしれない。


俺達は1階に行って正面の扉に向かう。

なんだ?何だか冒険者達の視線が悲し気だな…。


「貴様!バ…バレッタちゃんを独占しやがって!ぜってぇ許さねぇからな!!」


包帯グルグル巻きの男が悲しんでいた。

あー。そういう事か。専属になって通常勤務はしてないから、他の冒険者からしたら俺に奪われた様なものか…。


まぁとりあえず……吹き飛ばした男が生きていて安心した……。


…………。

………。

……。


「バレッタ。ここがロンド商会か?」


予想より随分と大きな屋敷だな…。


「はい。厳密には店舗ではなくロンド家のお屋敷になります」

「商人はこういう家に住むのが普通なのか?」


これに比べると、ドミニクさんは随分と慎ましい生活だったなぁ…。


「ロンド家は元々は普通の商家ですが、現在は準男爵位を叙爵(じょしゃく)して、準貴族でもあります」

「つまり、金で地位を買ったわけだな?」

「歯に衣を着せずに言いますと…」


仕事で成功した平民が、その後は権力を求めるという王道パターンみたいだな。

まぁ、別に気にする所でもないし、どうでも良い。


「しかし、資金のある準男爵は赤貧な男爵よりもは実権がありますので、見知っておいて損はないかと」

「あぁ、わかった。では行こう」


バレッタは頷くと、門へと近づき門衛に話しかけた。


「冒険者ギルドのバレッタです。今日はご依頼頂いていた品をお持ちしましたわ」

「わかった。家令の者を連れて来る。そこで待て」


2人いた門番の内、1人が家の中へと入っていく。

なかなか高圧的な物言いだったな…。


「バレッタ。門番の喋り方はあれが普通なのか?」

「………?っあ!」


ん?何かに気づいたのか?


「あの…私ども平民の世界では普通です…。相手は準貴族の家の者ですし、門衛という業務的立場としても相手に舐められる訳にはいきませんので…」


俺も平民だが…。


「しかし…。家主よりも上位の方に対してあの態度は駄目です。気付けずに指摘が遅れ申し訳ありません…」


何かバレッタが勘違いしてるみたいだ…。


「あの者達に注意して参ります!」

「いやいや、構わない。普通を知りたかっただけだ」

「そ…そうですか…」


バレッタはまた何やらブツブツ言っている…。


「ライト様は俗世の事を学ばれようとしてるんだわ…」


バレッタの中のライト像に『実は俗世に関わらないレベルの上流階級』というのが入ってしまった様だ…。

俺は俗世の存在だけどね…。まぁ勘違いしておいて貰いましょう…。


それからしばらく待っていると、1人の男が慌てて館から出てきた。如何にも執事という格好をしている。


「バレッタさん!ハァ…ハァ…依頼の品を持って来て頂いたというのは…本当でしょうか?」


呼びに行った門衛は置き去りにしたみたいだ…。


「はい。急いだ方が良いかと思い、こんな時間になってしまいましたわ。申し訳ありません」

「いえいえ!良いのです!これでお嬢様の病気が治るかもしれません!」


この家令の人がお嬢様を大事にしているのが伝わってくる。良い人そうだな。


「そうですわね。ではお品はどうしましょうか?」

「案内させて頂きますので、旦那様に直接お渡しください。所で…」


執事さんが怪しむ目線で俺を見る。

あぁ…怪しい自覚は満々だ…。


「こちらは、今回のお品を回収してきて頂いたライト様ですわ。一緒に伺っても宜しいでしょうか?」

「おぉ!クエストを受注して頂いた冒険者の方でしたか!どうぞどうぞ!こちらです!」


執事に続いて家の中へ入ると、35歳前後の男の人がロビーをウロウロしていた。

そして、こちらに気づくと顔を綻ばせて近づいてくる。

この人が商会長のロンドさんみたいだ。


「君たちだね?ユニコーンの角を取ってきてくれたのは。ありがとう!」

「取ってきたのはこちらのライト様ですわ」


ロンドさんは俺の方を見ると一瞬ギョッとする。


「そ…そうか…仮面を付けているのは何か訳ありか?」

「あぁ、そうだ。外す訳にはいかない」

「きっ、貴様、お館様になんと無礼な口の利き方を!」


だよね。だが、このキャラの存在意義からして下手に出る訳には行かない。

俺は文句を言った護衛を無視して、ロンドさんに向かって話す。


「悪いが察してくれ」

「うむ…今は時間も無いことだしな…不問とする。それよりも…角は何処にあるのだ?」

「こちらですわ」


バレッタは、ユニコーンの角を出すとロンドさんに手渡した。


「おぉ!何とも立派な…。薬師よ、これで大丈夫か?」

「旦那様、こんなにも清らかな気で満ちたものは初めてみます!これ以上は無い品質かと思います!」

「よし!では早速取り掛かれ!」

「はい!」


薬師の人は、ユニコーンの角を受け取ると調剤室へと入っていった。

他の材料は揃っていて、準備万端らしい。

30分もすれば薬が出来上がるとの事だった。


という事で、待ち時間が発生したので、俺は気になっている事をロンドさんに聞いてみた。


「ロンド殿。1つ質問しても良いかな?」

「あぁ、何かな?」

「娘殿の病状はどの様なものなのだ?この薬で確実に回復すると分かっているのか?」

「症状としては身体の中から瘴気が溢れてくるのだ…。身体の中に瘴気の元になる何かがあるという話なのだが…」


瘴気?それって…病気なのか?


「清浄なるユニコーンの角には浄化の力がある。故に…この薬で内部から清めれば…治せる可能性が高いと…」


既知の病気で治し方が明確…という訳ではないのか…。


「あぁ…。もし治らなかったら……」

「ロンド殿。良ければ俺にも立ち合わせて貰えないか?」

「何だと?それは何故だ?」

「もしかしたら何かに気づけるかもしれない。保証は出来んがな」


ロンドさんは悩んでいる。

年頃の娘の寝室だからな…当然か。


「ロンド様。私と致しましては、ライト様に付き添って頂くことをお勧めしますわ」

「ほぅ…レイオス支部1の才女と言われるバレッタ嬢の推薦か…」


「それでは1つ情報を…」

「なんだ?」

「私は先日、ライト様の専属受付嬢を拝命しましたわ」

「なっ?専属だと?専属が着く冒険者は…」

「つまりは、そういう事ですわ…」

「なるほど…。仮面がまかり通る存在か…」


そういう事ってどうゆう事なのかサッパリなんだが…。

まぁ、謎っぽい雰囲気だから良いか…。


「承知した。ただ…ライト殿に1つ頼みがある」

「なんだ?」

「娘を見ても…驚いたり嫌な顔をしないで頂きたいのだ…」

「それ程なのか?」

「娘は今14なのだが…。親バカかもしれんが町でも評判の美人でな…。なのに気立ても良く…皆に好かれていて…」


確かに親バカかもしれんな…。良い事だと思うが。


「気丈に振る舞っているが、あの姿になってしまい内心ではショックを受けていると思うのだ…」

「あぁ、大丈夫だ。仮面で俺の顔は見えんしな」

「確かに…。では…宜しく頼む」


「ライト様。少々補足させて頂きます。セリア嬢が良い方なのは本当ですわ。自ら孤児院を手伝っている姿を何度も拝見しております」

「そうか。了解した」


それは絶対に治さないとだな…。もし薬が効かなかったとしても…何とかしてあげたい。


そうこうしていると、薬師が戻ってきた。


「お待たせ致しました。薬ができあがりました!」

「よし!ではセリアの元に行くぞ!」


急いで薬を使うため、俺達はセリア嬢の寝室へと向かう。


部屋に入ると、すぐに雰囲気が変わった事に気付いた。澱んだ空気が中から溢れて来る感じだ。

そして、全員でセリア嬢のベッドの横に着いた。


「セリア。ユニコーンの角を使った薬を持ってきたぞ」

「ハァ…ハァ…。お…お父様…。少しお痩せに…なられましたか?私のために…申し訳ありません…」


………なるほど。

肌はひび割れ、痩せこけてミイラの様になっている。14歳か…。見た目には80歳ほどの老婆だな…。

そして全身のひび割れから、黒いモヤが出ている。瘴気か…これは酷い……。



それにしても…やはり病気という気がしないんだが…。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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