ユニコーンの角
「おぉ!結構神秘的な所だなぁ」
「ワフ~ン」(空気おいし~)
僕はいま、リルと一緒に『静寂の森』と呼ばれる所に来ていた。
恰好はライトの状態なんだけど、今はリルと2人っきりだから普通に喋っても大丈夫です。
普通に喋れるって楽だなぁ…。
静寂の森に来てる理由は、バレッタさんと話してた『護衛依頼者へのアピール』に関するクエストのためでした。
クエストの対象がここにいるらしいんですよ。
バレッタさんの話では、こういう感じでした……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※数時間前
「では、護衛依頼者が出している別クエストの情報をお伝えさせて頂きます」
「あぁ、頼む」
「依頼主はロンド商会で、魔物素材の納入依頼になります。対象はDランクであるユニコーンの角ですね」
「ユニコーンと言うと、角の生えた馬の?」
「はい。角の生えた馬の内、1本角で翼が無いものになります」
「その言い方からすると、他にもいるのか?」
「2本角の馬がバイコーン。あと、1本角なのですが、更に翼のある馬でアリコーンという魔物がおります」
そんなに種類があるんだな…知らなかった…。
「そう言えば、清らかな乙女が好きだという噂を聞いた事があるが…。それは本当なのか?」
「全くの出鱈目では無いのですが…。厳密には清浄なるものが好きな魔物です。乙女の話はそこからの予測だと思われます」
「なるほどな…。その他に特徴はあるのか?」
「警戒心が強い事で有名ですね。基本的に襲ってくる事はなく、出会った場合は逃げてしまう事が多いです」
「まずは追いつく事か…」
「追い詰めた場合等は角を突き立てて襲ってきますので、ご注意ください」
まぁ、転移を使えば問題無さそうだ。
「また知能の高い魔物で、人間の言葉を理解する個体もいる様です」
「では、角を貰える様に交渉する事も可能なのか?」
「個体によっては可能かもしれませんが…。角を貰えるかと言えば、なかなか難しいのではないかと思われます…」
「まずは試してみるかな…」
「……っ」
バレッタが、一瞬驚いた顔をして、その後に微笑んだ。
何だろう…。
「どうした?」
「あ…いえ。申し訳ありません。ライト様のお力があれば、無理やり奪う事も容易だと考えていたのです…」
「まぁ可能だと思うが…」
「そんな中、面倒なのに…平和的な選択を自然とされたことに驚いてしまいました…。そして、ライト様がその様な方で…嬉しくなりました…」
「そうか?コミュニケーションが取れるのならば当然だと思うがな…」
「自分が恥ずかしいですわ…。今後はライト様の考え方も踏まえてサポートさせて頂きたいと思います…」
「あぁ、頼りにしている」
なんだか恥ずかしいな…。
「それで、ユニコーンはどこにいるんだ?」
「はい。レイオスの南側にある静寂の森に生息している事が確認できております。特に中心近くに綺麗な湖があり、そこで多く見られるそうです」
「なるほどな、分かり易くて助かる」
あ、そう言えば。クエスト達成には関係ないのだが、気になっている事が1つあった。
「因みに、なぜユニコーンの角を必要としているんだ?」
「ユニコーンの角は薬の材料となります。ロンド商会長の娘であるセリア嬢の体調が優れないという噂がありますので…。その薬に使われるのではないかと…」
なるほど…良く調べてあるものだ…。
娘の命の恩人ともなれば護衛依頼を断れないか……。バレッタ…恐ろしい人だな……。
「良く分かった。それでは行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
俺はバレッタの前でゲートを開き、リルと合流する為にリッケルトの宿へと戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さてと。じゃあリル。湖に向かって歩いてみようか」
「ワフゥ!」(湖たのしみ!)
えっと、この川に沿って行けば湖に辿り着けるみたいだね。でも、川沿いは魔物が多いので、普通は別ルートを進んで行くものらしい…。
しかし、僕達はもちろん川沿いに進む事を選択した。
お、探索魔法に大きな蛇が引っかかった。えっと…ブラックサーペントだね。
皮が、服とか小物の材料として高く売れるんだよなぁ。
「リル。ブラックサーペントが来てるけどやる?」
「ワフン!」(やる!)
「了解。皮はあまり傷つけずに倒してね」
リルはブラックサーペントに近づくと、敵の射程距離ギリギリの所を進んだり戻ったりして誘っていた。
そして、襲い掛かってきた所を避けると、隙だらけになったブラックサーペントに風の刃を飛ばして、頭の付け根から切り飛ばした。
「お見事!身体部分を傷つけずに倒せたね!」
「ワフーン」(よゆー!)
リルって結構強いんだよね。
それからも川沿いに進みながら、Dランクのアサシンタラテクトやフォレストゲーターを倒していく。
リルの遊び相手に丁度良いね!
そんな事を考えながら進んでいると、一気に20体以上の魔物が探索魔法に引っかかった。
これは…集団で狩りをするタイプかな…。
下半身が蜘蛛で、上半身が人間みたいだ。確か…アラクネって呼ばれてるやつですね。
「リル。20体以上来てるから僕も同時に襲われるかも。そうなったら参加するね?」
「ワフー」(はーい)
あ、やっぱり包囲する形で展開してますね…。
さて、どうしようかな。
「リル、やっぱり全方位から両方に来そう。前後で半分こしようか。リルは正面の敵をやって。僕はリルとの距離を保ちながら後ろのをやるね」
「ワフン!」(りょうかい!)
リルが前に進んで行くので、僕は良い距離感を保ちながら着いていく。
良い距離感は、僕とリルの間に入り込む隙をギリギリ作らない感じかなぁ。
もし離れすぎると、各々が囲まれて2つの円ができてしまう。その囲みが、瓢箪みたいな形になるのが理想だね。
すると、上手く囲めない事に痺れを切らしたアラクネが、一斉に飛びかかってきた。
蜘蛛の糸を飛ばしてくるやつ。手にもった槍を投げてくるやつ…。遠距離からの集中砲火か…。そして…。
「うわぁ…上半身が女性の裸体だ…」
目が黒一色で人間らしくないんだけど、やっぱりちょっと抵抗あるな…。
でも…覚悟を決めないとだ…。
僕は目を閉じて心の中で念じる…。
これは戦い…これは殺し合い…目の前にいるのは………敵だ!!
僕は身体強化をしてから目を開けると、腰に差していたアンサラーを引き抜いた。
その刀身は虹色に光り輝いている。
僕は、飛んできた攻撃に対してアンサラーを振るう。
的確な流れ、動きで、飛来物を全て切り裂く。僕…剣なんて碌に使った事がないのに…。
「うわ…剣が勝手に動く…。僕が振るよりも的確な軌道だ…」
そう言えば、こういう特性の剣だった…。僕は改めてアンサラーを魔眼で見る。
『魔剣アンサラー:ヒヒイロカネで作られた虹色の剣。』
『自動追尾機能があり、標的に対して飛翔して追尾を行う。また、手に握って振るった場合は、絶対必中と言える命中補正を与える。』
最適な剣筋を回答するからアンサラーか…。
今は僕が握ると邪魔になるな…力を抜いて、軽く持つだけにしよう。
僕はアンサラーに任せてみることにした。
でもこれって…最適な動きが分かりやすい。これは、剣の良い勉強になるかも…。
僕はアンサラーでの剣術修行を始めた。僕が振り回されてて情けないけど…。
「ワッフ…」(やれやれ…)
リルに馬鹿にされながらも、剣でアラクネを全滅させました…。
それから改めて川に沿って進むと、僕達は川の源流…湖にたどり着いた。
「うわぁ…凄い透明だね。湖のかなり奥まで見える…」
湖の淵の部分には大きな木々が根を張っていて、その根が湖の中で縦横無尽に絡まってる姿は何とも幻想的だった。
ちょっと水に入ってみたいな…。
「リル。一緒に湖に入ってみる?」
「ワフーン!」(入りたーい!)
よし、入っちゃおう!と思って湖に片足を突っ込んだ時だった。僕に向かって水球が飛んでくる。
僕は聖属性の結界を張って、水球を弾き飛ばした。
「おっと、水球を飛ばして来たのは誰かな?」
水球が飛んできた方に目を向けると、複数のユニコーンがこちらを見ていた。
ユニコーンの方から襲ってくるじゃないすか…。
群れの先頭には、ひと際大きな体格のユニコーンがいる。群れのボスかな?何だか怒ってるみたいだ…。
「えっと…、何だか怒ってます?」
「ブルルルルル…」
ボスは首を右に振って戻す。『どけ』とか『あっちに行け』という感じかな。この個体はコミュニケーションが取れそうだね。
「ちょっと相談があるんだけど…。良ければ魔力パスを繋げさせて貰えないかな?」
ボスは少し考えた後に、首を縦に振ってから僕に近づいてきた。やっぱり理解できてるね。
「ありがとう。じゃあ繋げるね」
僕はボスと見つめ合って魔力パスを繋げた。
「えっと…何やら怒らせてしまったみたいだけど、何か悪い事をしてしまったかな?」
「ブルルル…」(聖なる湖を不浄な身で汚すな)
「あぁ…そういう事か…。了解。湖に入るのは諦めるよ。ごめんね」
「ワフーン…」(ごめーん…)
「ブルル…」(分かって貰えたなら構わない)
「ありがとう。所でお願いがあるんだけど…」
「ブルルル?」(なんだ?)
「もし良かったら…角を1本分けて貰う事はできないだろうか…」
「………。」(………。)
うわぁ…。めっちゃ睨まれてる…。
「えっと…もちろんタダでとは言わないよ?何か必要な物があれば交換とか出来ると嬉しいなぁ…なんて…」
「ブルルルル…」(人間にとって、何が該当するのかはわからない…)
「う…うん?」
「ブルルルゥ…」(お前は、何かしらの報酬と引き換えに、誇りを差し出す事ができるのか?」
あー。これは僕が悪い。完全に考えが甘かったな…。
「悪い。失礼な事を言った。ただ…申し訳ないのだけど…何か入手できる方法はないだろうか?」
「ブルルルッ」(決闘だ!神聖な決闘の結果であれば、仕方が無いだろう)
「わかった!正々堂々と、あなた方のルールで決闘をしよう!」
「ブルルル…」(よかろう。では…私が相手となる)
「了解だ。えっと、どうすれば良い?」
「ブルル…ブル…」(押し合いだ。お互いの角をぶつけ合って押すのだが…お前は角が無いので私の角を掴んで押すが良い)
ユニコーンの世界における相撲って感じかな。
「わかった。では行くぞ?」
「ブルルル…」(さぁ、来い!)
僕はボスの角を掴む。そして身体強化を行った。
流石に素の力で馬と単純な力比べなんてしたら、僕のボロ負け確定ですよ…。
それに、全力を尽くさないのも失礼だと思うしね。
「ブルルル!」(では…開始だ!)
「あぁ!どりゃあ!」
あぁ、やっぱり強いね。両方とも馬だけど、ジャジャよりも魔物であるユニコーンの方が圧倒的に強いと思う。
でも…申し訳ないけど身体強化した僕には通用しない!
僕はボスを押して行く。ボスは少しづつ後ずさった。
「ぐぐぐぐ…。どうだ…」
「ブルルル…」(馬鹿な…人間に押されるとは…)
「さぁ、負けを認めるんだ!」
「ブルルルゥ!」(人間に…負ける訳には行かぬぅ!)
バキィイイ!!
ボスの角が…僕の力に耐えきれず折れてしまった…。
「ブルッブルルル…」(私の負けだ…角を持って行くが良い…)
「ありがとう。良い勝負だったよ…」
「ブルル…」(では私は去ろう。さらばだ…)
「あ、ちょっと待ってください」
「ブルルル…」(なんだ?)
「パーフェクトヒール」
パーフェクトヒールは、部位欠損も回復できる上位回復魔法だ。
たぶん角も治せるはず…。
僕の予想通り、ボスの角は元通りに回復していた。
動物の角って骨の延長とか毛の延長とかだけど、部位欠損はどっちも治すから行けると思ったんだよね。
「ブルルル…」(何という事だ。角が治った…。こんな事が可能なら、なぜ条件に出さなかったのだ?)
「治す事を前提に切り取る事は、あなたの誇りを汚す行為な気がしたので…まずは正々堂々と戦うべきだと思ったんです」
「ブルルゥ…」(ありがとう。我らが誇りを理解してくれた人間よ)
「角を貰ってるんだから、お礼を言うべきなのはこっちだよ。ありがとう!」
何だか良い奴だな。やっぱり話をして良かった。
「ブルルゥ…」(正面から私を倒したお前は我々の英雄だ。もし我々にできる事があればいつでも言ってくれ)
「わかった。もし何かあれば頼らせてもらうよ」
そして僕は、ボスとの友情を育んでから、レイオスの冒険者ギルドに向けてゲートを開いた。
あ、ちなみにレイオスでは、ライトとして宿を借りてます。リッケルトとの移動用として契約したんだよね。
ただ、ギルマスであるフリードさんがギルドに移動用部屋を用意してくれたので、今回はそっちにゲートを開いた訳です。
さて、早速ギルドに報告しに行きましょう。
体調が悪い会長の娘さんに、早く元気になって欲しいもんね。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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