キャリー・ライト
ギギイィィ…。
僕は…いや、俺は冒険者ギルド・レイオス支部の扉を開いた。
扉を抜けて中に入ると、みんなの視線が突き刺さる。
ビビってる人もいるっぽい。何もしてないのにね…いや、何もしてないんだがな!
心の中でも言葉使いを気を付けないと、すぐにボロが出るんだよね…。
ギルドの中へ進もうとしたら、縦巻きロールの女性がカウンターから飛び出てきた。
「ほ…本日はどの様な御用件でしょうか?わたくしバレッタが対応させて頂きます!」
「あぁ。新規の冒険者登録を頼む」
僕自身は目立たずに、様々な力を手に入れて、それを周囲に認知してもらう方法…。僕が考えたその答えがコレだった。
デコイと言うか…裏アカウントを作る感じかな?
謎の第三者として心置きなく力を使い、衆目を集めてしまえという訳だ。
これなら行けるはず!
「あの…どちらかからのご移籍などでしょうか?」
「いや、登録は初めてだが。何か問題でも?」
「い、いえ!何も問題ございません!」
何か俺の知らないルールでも有るのだろうか?
バレッタは何かブツブツ言っている。
「か…過去に触れちゃダメなんだわ…」
どうやら、秘密にしたい過去があって隠してるって思われたみたいだ。
謎の男としては良い感じなんじゃないだろうか?
「問題が無いのであれば、登録したいのだが?」
「はっ、はい!こちらのカウンターにお願い致します」
バレッタが俺を自分のカウンターへと連れて行く。
そのカウンターには並んでいた人がいたのだが…蜘蛛の子を散らす様に全員がどこかへ行ってしまった。
「で…では、こちらにご記入をお願い致します」
俺は渡された申込用紙にサラサラと記入していく。
だが、敢えて記入しない所もあった。それは設定を考えなかった訳ではなく、謎の男にする為に敢えて不明にしていた。
氏名…キャリー・ライト
職業…魔法戦士
魔法特性…光属性、時空属性
出身地…未記入
そして俺は、記入した申込用紙をバレッタに渡す。
バレッタは渡された申込用紙を確認した…のだが…。
「……え?えぇ?あの…こ…これは本当でしょうか?」
申込用紙の魔法特性欄を何度も見直すバレッタ。
記入内容が信じられないみたいで、自分の目を擦ったり、斜めから見たり、裏から見たりしている。裏から見ても何も分からんだろ…。
そして顔を申込用紙に近づけて、近距離で見ながら何か言っている。
「やばばばばばばば……」
まぁ…内容を口走らないだけでも、有能な受付嬢と言えるかもしれない…。
そうしてバレッタが挙動不審な行動を繰り返していると、俺の後ろから声がかかった。
「お、おい!テメェ!バレッタちゃんにちょっかいかけてんじゃねーぞ!」
「うぉー!いったー!」
「あいつバレッタちゃんに惚れてるしな…」
「さっきも飯に誘って断られてたな…」
俺はこの姿でも絡まれるのか…。カイン…まだ風格が足りないみたいだよ…。
そして、別の列に並んでいる冒険者や、併設している酒場で飲んでいる冒険者がザワザワしていた。
「おっ、おい!さっさとギルドから出ていけ!二度とツラ見せんじゃねぇぞ!」
「…………。」
こちらから手を出す訳にも行かないからね。俺は仮面越しにじっと相手を見つめた。
そして、相手の緊張が限界に達したみたいだ。
あー、左足と右肩に緊張が走ったね。右ストレートで俺の顔を殴ろうとしてる。遅いなぁ…。
俺は殴ってきてる右拳の手首を左手で掴み、右に引っ張りながら軽く捻る。すると、相手は上下逆さまで宙に浮き、俺の前にはガラ空きの脇腹が晒された。
ここに掌底を打ち込んだら、身体強化をしていなくても内蔵破裂で死んでしまうかもしれない…。
俺は右手に力を込めて、相手の脇腹を打った。厳密には脇腹に触れてから押したんだけど、早すぎて掌底を打った様に見えたと思う。
相手は豪快に吹き飛んでいた。
食事中のテーブルを1つ巻き込んだ後に、ギルドの壁を突き破って外まで行ってしまった。
ダメージは行かない様に押したから…死んでない…はず。だよね?
ギルドに静寂が訪れる…。
あぁ、食事中の人には悪い事したな…あとギルドの設備を壊しちゃった…。
「悪いな。これで勘弁してくれ」
俺は、食事が吹き飛んだ冒険者に対して金貨1枚を指で弾く。
飛んできた金貨をキャッチした男は苦笑していた。
「は…はは…。別に良いっすよ…」
許して貰えたみたいで良かった。
「バレッタ。すまないが、壊した設備の修理費は後ほど俺に請求してくれ」
「え?あ…はい!しょ…承知致しましたわ」
「では、登録の続きを頼む」
「は、はい!ただ…内容がヤバ…あ、いえ、内容が特殊ですので、ここで続けるのは不適切かと判断させて頂きました」
「ではどうする?」
「お手数ですが、2階の特別応接室で続けさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「あぁ、問題ない」
「ありがとうございます。では、こちらに」
俺はバレッタに着いて行こうと立ち上がる。
そしてバレッタは、カウンター横にいた男へと指示を出していた。
「ニコルさん。フリードさんを特別応接室に連れて来てください。至急で。第1優先だとお伝えください」
「わ…わかった…」
…………。
………。
……。
そして俺は、特別応接室へと通されていた。
豪華な応接室だな…。試しに魔眼で見てみると、どれも金貨100枚以上はしそうな高級品だった。『特別』って言うのも納得だ。
俺は足を組んでソファに座る。
うわぁぁぁぁぁぁ…。汚してしまいそうで怖いぃ…。
俺が内心ビクビクしている事に気付いていないバレッタは、お茶の準備をしてくれている。
そして、バレッタが俺の前に置かれたティーカップに紅茶を注いでいると、扉がノックされ、先ほどニコルと呼ばれていた男と40代中盤くらいの男が入って来た。
40台中盤の男はなかなか精悍な顔つきで、着ている服からすると魔術師みたいだ。
「はじめまして。私はレイオス支部のギルドマスターをしているフリードという者です」
「俺はキャリー・ライトだ。ライトとでも呼んでくれ」
フリードは、1度俺の全身を確認すると話を始めた。
「話は軽く聞いたのですが、改めていくつか聞かせて貰えないでしょうか?」
「構わん。答えたくない事には答えんがな」
「ライトさんは、何方からいらっしゃったのでしょうか?」
「遠い国だ」
「国名などは…」
「それは必要か?」
縦巻きロールが腕でバッテンを作り、首を横に振りながら口パクで「だーめーでーすー!」とかやってる…。
「いえ…可能であればという所なので大丈夫です…」
「そうか。それでは他には?」
「それでは…。この魔法属性は本当でしょうか?宜しければ見せて頂いても?」
「あぁ、構わん。それでは光からにしようか」
さて、どうやって見せるのが効果的かな…。そうだ。
「そこの男、剣を抜いて空に掲げろ。腹の部分をこちらに向けてくれ」
「え?…こうですか?」
ニコルは言われた通りにロングソードを掲げた。
そして、掲げたロングソードの中心に対して指を指す。
ピュン……
座っている僕からすると斜め上になる角度で光魔法を放った。
ロングソードの中心には穴が開いている。分かりやすく5センチくらいの穴にしておいた。本当は細くする方が技術がいるんだけどね。
「ひっ…ひゃっ!」
カッ…カラン…カラッ…カタタタタタ…
ニコルは剣を床に落としてしまった。
そして、ニコルの後ろの壁には、剣に開いたのと同じサイズの穴が開いている。
一応…壁に掛けてある高級カーペットには穴を開けない様に注意しましたよ…。
「悪いな。下に向けると危険なので、掲げてもらったのだ」
「…っす…凄い…」
「ヤバい…ヤバい…ヤバい…ヤバい……」
ギルマスは顔が青ざめていた。縦巻きロールは壊れたおもちゃみたいだ…。
時空魔法はどうしようかな…あまり物を壊しても何だし、アイテムボックスで良いか。
さて、何出そうか。このテーブルの大きさなら、アレ出しても大丈夫かな…。
「時空属性の証明はアイテムボックスでも良いか?問題なければ適当な物を机の上に出すが」
「はい。それで問題ありません…」
許可が出たので、俺はアイテムボックスから取り出して机の上に置く。
それは、直径80センチくらいの歪な球体だった。
「ヤバい…ヤバすぎる…」
「ひ…ひぃ…」
「は…はは…。なるほど…。これはキング…いや、ロードですか?」
俺が出したのは、先日討伐したゴブリンロードの生首だった。こういうのはインパクトが大事だよね。
それにしても、受付嬢よりビビるなんてニコルは情けないな。
「ロードだな…。で、証明としては問題無いか?」
「はい。問題ありません。どうぞ仕舞ってください…」
俺は急いで生首をアイテムボックスへと格納した。あと、血も回収する。
絨毯に血が滴る前に回収できた!セーフ!!
実は…血がテーブルを広がっていくのに気付いて、ドキドキしてたんです…。
「属性に偽りがない事は確認できました。いや…確認できてしまったと言った方が適切かもしれませんね…」
うーん…面倒事を増やしてしまったかな?
「最後に聞かせてください。ライトさんの目的は何でしょうか?」
「目的か…。『出来るだけ早く1番上のランクになりたい。』だな」
「なるほど…」
俺の答えを聞いてフリードは考え込む…。
多分、俺の扱いをどうするか迷っているんだろう。
それにしても…縦巻きロールの目がやたらと輝いているのが気になるな…。
「ギルドマスター!」
「何だね?バレッタ君」
「私に…私にライト様の専属受付嬢をやらせて頂けないでしょうか!」
「専属?何だそれは?」
「簡単に言えば、特別な冒険者が発生した際の優遇処置です。その冒険者専用のギルド職員を決め、その者は対象冒険者のサポートに集中します」
なるほど…そんな制度があったんだな…。
「ライト様の目的を叶える為に、適した依頼を探したり調整したり…色々とサポートをさせて頂きます!」
「如何でしょう?ライトさんとしては、バレッタ君が専属で問題ありませんか?」
「あぁ…専属が着くのは正直ありがたい。バレッタの能力はどうなんだ?」
「ギルド職員としての能力が当支部で最高なのは保証しましょう」
「そうか。ではお願いしよう」
「バレッタさん、貴方をライトさんの専属に任命します。しばらく通常勤務はしなくて良いです。ライトさんのサポートに集中してください」
「やばーーーーーい!!」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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