閑話① その頃の聖女パーティ
閑話とは言い難い内容になりました…。
※ここから双葉視点になります。
「みんなお疲れ様!今日はここで休憩にしよう!」
わたし達は、奈落迷宮の42階で休憩する事にした。
40階のボスを突破してから41階の探索をしたのが一昨日で、昨日は町で休憩と資材調達。そして、今日は42階に来たのです!
え?時間経過が合わないって?
ふふふ…凄いんだよ!40階のボスを倒したら、ゲートっていう魔法の巻物?スクロールって言うの?が、3本手に入ったの。
町に戻る時は価値もわからずに使ったんだけど…今日潜る時には使うかどうか凄く迷った…。これ…1つで金貨100枚もするんだって…。
日本の価値にすると1000万円くらい?片道の使い捨てで1000万円…迷った…正直迷ったよ!
でもね、40階まで潜るのって、片道で3日もかかるんだ…。
手段が無いなら諦めもつくけど、目の前に3日分の苦労が無くなるアイテムがあったら…。みんな手を出さずにはいられなかったの…。
特に和也くんが『深くなるほどレア物が出るのが定番だから、この先では普通に出る…かもよ?効率的に潜る事を優先した方が良いと思うなぁ~』って言ってたので、来るのも使っちゃう事になったの。
今回の探索でも往復分出たら良いなぁ~。
「やはり、疲れないでここまで来れるのは良いな」
「うん。難易度も上がってるから、疲労なしで挑めるのは助かる」
仁科さんの負担が減ってるみたいで良かった。いつも苦労を掛けてて申し訳ないよ…。
「それにしても、立花さんまた強くなってる?」
「どうだろう?でも、なんだかレベルが上がるほどに感覚が鋭くなってる気はするね。合わせやすいかな」
「そう言えば時々言ってるけど、その『合わせる』ってなに?」
「えっとね。合気の解釈は色々あるんだけど…私の流派では『気を合わせる』ことを指してるの」
「えっと…どういうことかな?」
やっぱり分かりづらいよね…。仁科さんが困ってる。
「んー…調和って感じかな?気の合う仲間とかってあるじゃない?それって意図せずに合気してるっていう解釈かなぁ」
「難しいね…。合わせるとどうなるの?」
「究極的に言えば、阿吽の呼吸って言われるやつだね!相手と気を合わせて、相手を理解し、相手の行動を踏まえて行動する。って感じかなぁ」
「味方じゃなくて敵とだよね?そんな事できるの?」
「難しいよ。まぁ、ゴールとしてはそこを目指してるっていう感じで…。敵だったらむしろ合わされない様にするものだし、行動原理や習慣が違うと難しいし…相手にもよるね」
「まるほど。それでレッサードラゴンは難しかったんだね」
「うんうん。4足歩行の爬虫類の気持ちとか訳分からなかったよ…。麗奈だったら合わせやすいんだけどねー」
仁科さんには何となく分かって貰えたかな?
「ちなみに、合わせた状態ってどんな感じなの?」
「んー、ちょっとやってみようか?麗奈。手伝ってもらって良い?」
「うん。いいよー!」
「ありがと!」
わたしは麗奈の正面に座った。
「じゃあ麗奈。私の身体に好きな様に触れてみて」
「う、うん」
そして、わたしは麗奈の右肩を押さえる。
それから左腕の付け根、左の手のひら、おでこ…。
その間、麗奈は全然動かない。
「え…え…え?触ろうとしたのに…全然動けないよぉ…」
「ふふふ。麗奈が肩を上げようとしたり、手を前に出そうとしたり、肘から先だけ動かそうとしたのが分かったから、動かす前に抑えたんだよ」
「「「「えぇぇぇぇ?」」」」
「最後に飛びつこうとしたのにはびっくりしたよ!」
「でも、おでこ押されて止められちゃった…」
「凄いな…そんな事ができるんだな…」
「麗奈とはそもそも『気が合ってる』からだよ。敵対してる相手だと全然難しいの…」
「これって親友もできるの?」
「透の方が凄いよ。今やったのって『どれだけ合わせられるか』『合わせさせないか』の練習で、子供の頃からやってるんだけど透に勝てた記憶が無いもん」
「親友にそんな特技が…全然知らなかった…」
「あ、隠してたとかじゃないと思うよ?単純に言う事じゃないと思ってるんじゃないかな?透は顕示欲とか全然無いし」
「確かにね…」
「あ、結構時間経っちゃったね。そろそろ寝ようか!じゃあ、見張り順はいつも通りでよろしくね!おやすみなさい!」
…………。
………。
……。
休憩時間が終わり、私達は出発の準備を終わらせた。
仁科さんが様子見から帰って来たので、さっそく探索を再開しようとした時だった。和也くんが何かに気付いたみたいだ。
「あ、あれぇ~?あんな所に何かあるなぁ」
「え?ホントだ…。木の箱かな?」
あれー?到着した時に確認したけど、何も無かったとはずなんだけどなぁ…。とりあえず近づいて見てみると、木の宝箱みたい。
「宝箱…かな?昨日の夜は何も無かったと思うんだけど…」
「立花さん。ちょっと待って。トラップとか鍵を確認してみるから」
「うん。仁科さんありがとう!よろしくね!」
そして仁科さんが確認する…けど、一瞬で終わったみたい。
「トラップは無いし…鍵さえ掛かってない…」
「そうなんだ。じゃあ開けてみようか」
ギギイィィ…
「なんだろう?本が入ってるね」
私は本を拾ってみた。そしてタイトルを読んでみる。
「えっと…『ゴブリンでも10日で覚える魔法入門』だって。なにこれ?」
「わ、わーい!魔法の本が見つかったぞぉー!やったー!」
なんか和也くんが喜んでる。どうしたんだろう?
「隠しててごめん…。実は魔法属性を持ってて魔法を覚えたかったんだ。でもアクル王国にバレる訳には行かなくて…」
わたし達は和也くんから
・魔法属性が時空であること
・アクル王国にバレると命の危険があったこと
・その為に無属性だけという事にしてたこと
・その所為で魔法を教わる事ができなかったこと
・時空魔法の魔術書は普通には売ってなかったこと
・そんな中、魔法の本が見つかって嬉しいこと
について、教えてもらった。
アイテムボックスは魔法じゃないから使えて、それで荷物をいっぱい持ててたんだって!和也くんは収納名人なんだと思ってた!
「でも、これで魔法を覚える事ができるよ!」
「和也くんやったね!時空魔法って事はゲートが使えるって事だよね?探索が凄くやりやすくなるよ!」
(立花さんが素直に喜んでくれてる…。親友よこれで良かったのか?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ここから和也視点になります。
ー一昨日(休憩日)の夜。
資材調達が終わった俺は宿屋に戻って来た。
そして、自分の部屋の鍵を開けて中に入ると…中には既に人がいた。
人差し指を立てた手を口に当てて「しぃ~~~!」ってしてる。
「えっと…どういう事なんだ?親友?」
「悪い。大きな音を出さずに話をしたいんだけど…大丈夫?」
「はぁ…。ちょっと待って」
俺は自分自身を落ち着かせる為に深呼吸をする。
すーっ。はーっ。すーっ。はーっ。
「よし…大丈夫かな…」
「ありがとう。助かるよ」
「で、どこで何をしてたんだ?立花さんや白鳥さんがどんな思いでいるか…」
俺は、親友が消えてから何があったのか。そして今、どんな冒険の日々を過ごしているのかを伝えた。
「そんな事になってたのか。すまない…」
「静かにしろって事は、立花さん達に会う気はないって事だろ?どうしてなんだ?」
「和也には正直に言うよ…。魔王になっちゃった…」
「マジか…。でも、秘密にすれば一緒に居られるんじゃないか?」
「いや。僕は魔王じゃない状態でも、既に殺害対象だったよ…。だから…狙われるだけだ…」
「おいおい…。何があったんだ?」
「実は…」
俺は、奈落迷宮を見学した日に何があったのか、親友から細かく教えてもらった。城之内…あいつ…。
そして、やはりアクル王国は危険だ…。
「いま合流するのは良くない。皆に迷惑がかかるし、僕自身も危険になる。そして…双葉と白鳥さんがどう動くのかが怖い…」
「立花さんと白鳥さんは暴走するだろうな…」
「だから…僕が生きている事は、まだ和也だけの胸の内にしまっておいて欲しいんだ」
「マジかぁ…何気に辛いなぁ…」
立花さんと白鳥さんに、どんな顔して会えば良いんだよ…。
「今の生活って結構大変なんだぜ?迷宮に行ったり来たり…。実はやらなくて良い苦労なのを秘密にするのか…」
「んー…。行動が変わるとアクル王国に怪しまれると思うから…。僕の生死は不明な前提で行動してもらった方が良いと思うな…。和也が魔法でこっそり送り迎えすれば楽になったりしない?」
「時空魔法は秘密にしてるから魔法を教えてもらえないんだよ…」
「あ、そっか…。いや、でもそれはむしろラッキーかもしれないよ」
親友はアイテムボックスから本を取り出した。
「これを読んで魔法を覚えて。普通に覚えるより為になると思うから」
「お、マジか。ありがとう。でも、急に魔法を覚えたらおかしくないかな?」
「その本を迷宮でゲットした事にすれば良いんじゃない?」
「それと、これ渡しておくよ」
親友が5本のスクロールと一昔前の携帯電話みたいなものを渡してきた。
「スクロールは全部ゲートだから、ダミーで持っておいて」
「なるほどね。俺のゲートで何度も行き来してたら怪しまれるから、その時にいっぱい持ってる事を見せるのか」
「そうそう。そういう事。あとそっちのは見たまんま携帯電話みたい」
「みたい?」
「いや、使った事なくてさ…。使う相手もいないから…」
「なんだか切ない話だな…」
スマホじゃなくてこのデザインなのに時代を感じる…。
携帯電話は普通に使えました。ただ、通話先は1対1みたいで、携帯電話って言うかトランシーバーみたいです。
うーん…。ひとまずこれで行ってみますか…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーー現在時刻。
実は、ゲートは一昨日の夜に修得済みだ。親友監修の元で教えてもらった。だから、立花さんの期待には応えられると思う。
「ねぇ佐藤くん…」
「ひゃうっ!」
仁科さんが僕の背後から声を掛けてきた。暗殺系スキルって心臓に悪い…。
「三文芝居がお上手な佐藤くん。まず私にだけ事情を教えてくれない?内容によっては協力するよ?」
ぬおぉぉぉぉぉぉ!やばいっ!バレバレですか?
その後、仁科さんにだけは情報を共有し、仲間になって貰う事ができた。とりあえず良かった…。
親友、この苦労の礼はきっちり払って貰うからな!
報酬は、親友が無事に帰って来る事だ。まからんぞ!
もう1つの閑話は半分くらいの量になると思います。
今夜か明日の午前中に掲載したいと思います。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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