ドルメア
「長老はこの先でお待ちしております」
「やっとゴールか」
昨夜振る舞われた料理はとても美味しかった。特にマグロのカツみたいな料理が絶品で、何の肉か聞いてみたらマギルホーンっていう魚の魔物らしい。
リルも気に入ったみたいだし今度捕まえに行ってみよう!
それからアーロンが『すぐに話しとくから今日は屋敷に泊まってけ』と言うのでお言葉に甘えさせてもらった。別にゲートで1度帰れば良いんだけど善意を無下にする必要も無いよね。
すると、翌朝にはギールが迎えに来てすぐにココまで案内してくれた。地下水路に入って、何枚も隠し扉を通って、なかなか複雑な道のりだったけど、やっと目的地に辿り着いたみたいだ。
「ドルメア様。ライト殿をお連れ致しました」
「ほぅ。おヌシが…。まさか光属性使いをここに招き入れる日が来ようとはのぅ…」
「俺はライトだ。こっちはリル。いくつか話を聞きたくてやって来た」
目の前にいる長老は、かなり小柄なお婆さんだった。俺の事をちょっと見てから何故か自分の首をスリスリとさする。
「ふむ、まだ生きとるか…。わしの名はドルメアじゃ。まぁ宜しくの…」
「ん?『まだ生きてる』っていうのはどういう意味だ?」
「分からんか?アーロンとギールは認めたそうじゃが、それはアジトを見つける為の演技かも知れん。会った瞬間に殺されるやも……ワシはそういう覚悟でこの席に座っとる」
なるほど…。光属性使いと殺し合ってきた過去を考えると当然か。
そう言えば……。
「ここに来るまで誰にも会わなかったが?」
「全員避難させとるわい。今ここにはワシらしかおらん」
何かがあっても被害を最小限にする為…か。
あれ?リューレの件を問い詰める為に来てる訳だけど、何だか俺が加害者な雰囲気になってない!?
「で、ワシに聞きたい事とは何じゃ?」
「あ、あぁ。リューレという女魔族に心当たりはないか?」
「あるとも。ただ、リューレなら学術都市に行っておるみたいじゃな」
おや?回答に違和感があるな…。何だか他人事みたいだ…。
「学術都市に行ったのは貴方の指示じゃないのか?」
「ふぅ…じゃからやめよと言うたのに…。本人の意思じゃよ。と言うより命令違反じゃな」
えっと、長老は止めたのに、リューレは命令に反して学術都市に行った?
訳分からないな…。長老は何故止めた?リューレは何故命令違反をした??
「リューレが学術都市へ何しに行ったのかは知っているのか?」
「レオ・ザッハトールの暗殺……じゃろ?」
「知ってはいるんだな。その上で止めていたと……。止めてくれていたのは個人的には嬉しいが、何故だ?お前達の目的なんだろう?」
ドルメアは俺の質問を聞いて苦虫を噛み潰した様な表情をする。
ん?いまチラっとギールの方を見たか?
「占いで良くない結果が出たのでな。嫌な予感がしただけじゃ」
嘘…だな。
ギールが居ると喋り辛い事でもあるのか?
「ギールは止めた理由とか聞いてないのか?」
「はい。私はアーロン様との調整とこの土地を守る事が使命ですので…」
そう言えばチームが違うとか言ってたか…。
「では、リューレが命令違反をしてまでレオ暗殺に拘った理由に心当たりは?」
「ハァ…。あのバカ娘はヘルマンに憧れておったからな。ヘルマンが主導しとる対光部隊になれたのに使命を果たす機会が無くて苛立っておった」
「光属性はレアだからな」
「そんな中、せっかく機会が訪れたのにワシに止められた…最近ヘルマンが顔を出さんし限界だったんじゃろうな」
レオを暗殺する事を『機会』とか言わないで欲しい……。
それと、ヘルマンの事を伝えておくべきか。
「ヘルマンは俺が倒した。もう2度と顔を出す事は無い」
「…………既に死んでおったか。まぁ、そんな気はしとった」
「あいつのやった事は許せなかったし、生かしておいたら更に問題を起こしていただろうからな」
「まぁそうじゃろうな。何か最後に言っていた事はあるかの?」
最後に喋ってたのは、この世界を変える為には俺が必要だったとか云々……だけど、そういう事じゃないよね。
「奴の最後の言葉は『願わくば仲間達には平穏を!』だとさ」
「ヘルマンが託したのか…?まさか…」
「言っておくが無条件で願いを聞く気はないぞ?」
「当然じゃ。むしろ……ふむ」
ドルメアは何やら1人で考え込んで、なんか納得したっぽい……。そして、話を戻して来た。
「で、レオとリューレはどうなったんじゃ?無事なのかい?」
「リューレなら逃げた。だから追っている」
「レオは?」
「ん?傷1つ無いぞ。このリルが守り切った」
「ワフンッ♪」
「そうかい……」
リルが自慢げに腰に手を当てて胸を張ってる。鼻高々だね!
ドルメアは……残念って感じなのかな?表情が分かりづらい……。
「リューレはここに戻って来ないのか?」
「リューレの影移動は短い。通常なら5日、急いで戻ったとて3日は掛かるじゃろうな」
「リューレ、近くで出たり消えたりしてたよ!」
追い抜いちゃってたのか…。影移動って転移みたいに一瞬で何処にでも行けるのかと思ってた…。
『それは正解だし間違いっす!』
(うぉ…バス、どういうこと?)
『転移みたいっていうのは正解っす!ただ、転移も魔力によって限界があるっす!』
(あ、そういやそうだったね…。サリオンも大陸の端から端は無理だったし…)
『更に影移動は転移よりも長距離移動に向いてないっす!別の移動手段に切り替えてる可能性が高いっす!』
(そっか…。学術都市で襲われてから3日目だから、そろそろ戻って来るかもね)
「それじゃもう良いかい?」
「あ、いや、待ってくれ」
「何だい。まだあるのかい…」
もう一つ重要な質問があるんだ。かなり根本的な……。
「光属性使いと和解する事は出来ないのか?」
「そんな事かい…。襲って来たのは人間じゃ。人間が変わらん限りどうしようもないわ。それとも一方的に殺されろと言うのかい?」
「それは、どちらが先か分からなくなって水掛け論になってるんじゃないか?」
根深い争い事って、そもそもの理由が分からなくなってる事ってあるよね?
お互いに『身の安全の為』に襲いあってる状態になってるのなら、一緒に鉾を下ろす選択肢もあるんじゃないかな?と思ったんだ。
「いいや。明らかに人間じゃ。ワシはその変わり目を実際に見ていた生き証人じゃからな」
俺の予想は外れてたみたいだ。でも、これは寧ろありがたい。
「つまり、争いの根源を知っているという事か?」
「知っとるとも」
「その理由……光属性使い、いや、人間が魔族を襲う理由を教えてくれないか?」
光属性を持ってると魔族を襲いたくなる……とか、そんな本能的な理由じゃないと思う。俺はそんな衝動に襲われないし、先代勇者のミシェルもヘルマンと仲間だったし…。
だから、もしかしたら光属性使いは利用されてるだけなんじゃ……。
「珍しい人間じゃな…。そうじゃのう。お主は……悪魔を知っとるか?」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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