アーロン
更新が遅くなりまして申し訳ありません…
「ほぅ。お主が噂に聞く暴君ライトか」
「あぁ。そう言うお前はアーロンで間違いないか?」
「かかかかっ!そうだ。バルトロ帝国の東の果てで辺境伯などやらされとるジジイよ!」
門兵の隊長に連れて来られたのはアーロンの別荘だった。とは言っても凄くでかい屋敷なんだけど…。
とりあえず食事の準備をしてる間に1回会おうって話になったので、コクヨクを厩舎に預けて俺とリルはアーロンの執務室へと通された。
ジジイ…ね。実年齢は62歳みたいだけど、全身を覆う筋肉が外見年齢を狂わせるな…。
「礼儀を気にしないと言うのは本当みたいだな」
「ここではそんなもの何の役にも立たん。実力が全てよ」
アーロンは『ニヤリ…。』って感じの笑顔を見せた。
やらされてるとか言っておいて、随分とこの状況を楽しんでるみたいだ…。
「レイオスの冒険者ギルドへ依頼を出していたのだが、それで来た……訳ではなさそうだな」
「そうだな。依頼が来てた事さえ知らない」
「がはははっ!そうかそうか。そこまで酷い扱いを受けたのも久方振りだ!」
正直こういうのを笑い飛ばしてくれるのはありがたい。でも、依頼の内容は少し気になるな…。もしかしたら苦しんでる人が居るかも…。
「重要な依頼だったのか?」
「いや?お主に会ってみたかっただけで確か大した内容ではなかったぞ」
なるほどね。それだとバレッタの審査は通らないと思うよ…。
「たぶん見抜かれているな。俺の専属はそんなくだらない話を俺の所まで持って来ない」
「ほぅ…。その判断を任せているのか?辺境伯の依頼を断る権限を?」
「あぁ。国王や皇帝からの依頼だろうとな」
アーロンが仮面の奥にある俺の目をジッと見つめる…。
「……信頼しておるのだな」
そりゃあもう全幅だよ!ただ、あまり言うとバレッタが襲われる可能性が高くなるので…。
「責任は俺が取れば良いだけだからな」
「ふむ…。なかなか面白い男の様だ」
え?どこか面白い要素あった?よく分からないな…。
そして、俺との会話にひとまず満足したらしいアーロンは視線をリルへと移した。
「そちらのお嬢ちゃんも冒険者なのか?」
「あぁ、リルという。見た目は幼いがお前より強いぞ」
「リルだよ!よろしくね!」
「それはそれは…」
アーロンは椅子から立ち上がると満面の笑みを浮かべて『ボキボキ…』っと指を鳴らした。
「聞き捨てならんなぁ…」
あ、ミスったかも…。でもまぁ事実だし…。
「お嬢ちゃん。晩飯の前にジジイと少し遊ばんか?」
「いいよー!」
おいおい…。見た目は少女なリルに対して何言ってるんだ…。
「まさか戦闘でもするつもりか?」
「かかかっ!子供相手にそんな事せんわ!腕相撲じゃよ」
「えー!戦闘じゃないのー?」
んー……それなら良いかな?腕相撲なら流石にアーロンを殺してしまう事も無いでしょう。
戦闘なんてしたら…リルがアーロンの命を狩ってしまう…。
「リル。遊びだと言ったろ?」
「んー、わかったー」
「かかかかっ!お嬢ちゃんは怖いもの知らずじゃな!」
アーロンは横にあった小さな机から水差しとかをどかすと、肘を突いて腕相撲の姿勢をとる。
「さぁ来い!」
「うん!」
アーロンの『手を握れ』という仕草に従ってリルがアーロンの手を握った。けど、手のサイズが全然違う…。
「ん?ほぅ…。強いと言うのもあながち嘘ではなさそうか…」
「リルは強いもん!」
「そうかそうか。ライトよ、開始の合図を」
「仕方がないな…。では行くぞ?レディ……ゴォ!!」
俺は2人が握り合う拳の上に手を置くと試合開始の合図をした。
しかし、何故か2人ともそのまま動かない…。掛け声が違うのかな?いや、自動変換されてるはずだけど…。
「どうした?試合は始まっているぞ?」
「ぐぬ…ぐぬぬぬぬ……」
アーロンの唸り声と共にテーブルがメキメキと悲鳴をあげる。
おや?アーロンは力を込めてるな…。リルが止めてるのか。
「う…動かん……だと……?」
「リル、どうした?」
「ねぇ…」
リルが少し困った顔をしている…。どうしたんだろう?
「これ、どうすればいいの??」
それはどういう意味……?あっ!リル、もしかしてルールが分かってないのか!!
そりゃそうだよね…。リルが人間の文化を知ってる訳がなかったよ…。
「リル、これはな…」
「ぬぅおおおおおおお!!」
バギィッッッ!!
あ……。机が砕けた……。
綺麗にアーロン側だけ……。
そして、それを見たリルが何かに気付いた表情をする。
「あっ!もしかして…先に壊したほうが勝ちなの?」
「あ、いや、違う。手を押し合って相手の手の甲を机に付けた方が勝ちなんだ。まぁ今回は無効試合…引き分けが妥当か」
新しい机を準備するのも手間だし、勝てないの…分かってくれたよね?
本来は20m級の狼の前足なんですよ……。ムリでしょ。
「ぐぬぬ…その結果は……納得できん!」
おっと?我儘で『俺の勝ちにしろ!』ってタイプじゃないと思うんだけど…。
「これは……私の負けだ!」
「手は中心のままだった。つまり拮抗していたとも言える。決着はついてないと思うが?」
もちろん事実は違う。ルールの分からないリルが真ん中で固定していただけだ。
でも、見た目ではそんなこと分からないんだから引き分けにしておけるのに…。
「私の方だけ机が壊れた。つまり机に頼って負荷を掛けていたからだ。それで拮抗していたのなら私の負けだろう。まぁ拮抗していたとも思っておらんがな…」
「そうか。とりあえずリルの力を認めてくれた様で何よりだ」
正直…アーロンのこと嫌いじゃないかな…。
「えー!もっかいやろーよー!」
「リル。相手が負けを認めてるんだ。受け入れてあげよう?」
「うー。わかったぁ…」
「ジジイの気持ちを理解してくれて助かるぞ、お嬢…いや、リル殿」
「え?ん〜しょうがないなぁ〜」
俺の話だけではちょっと不満そうだったけど、アーロンにお礼を言われて少し嬉しそうにしてる。大丈夫そうかな。
「よし。では私は残りの仕事を片付けよう。ライト、すまんが夕食の準備ができるまでもう少し客室で待っていてくれ」
「ん?俺には『殿』を付けてくれないのか?」
「お前にはまだ負けとらん」
そうですか…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ライト様、リル様。会食の準備が整いましたのでダイニングホールへご案内させて頂きます」
「やったー!」
「分かった。よろしく頼む」
すっかり目的を見失ってたけど、食事を取りながらアーロンから魔族の事を聞かなきゃ。
そんな事を考えながら歩いていたらダイニングホールへはすぐに着きました。
「こちらでございます」
「ありがとう」
扉を開けて中へ入るとアーロンは既に席に着いていた。そして、その横には長身で細身の男が立っている。
え…ちょっと待って…。マジか…。
「おぉ、来たか。ん?この男が気になるのか?それならば先に紹介しておこう。我が軍の騎士団長を務めておるギールだ。ライトに会わせておきたくてな。急遽参加してもらった」
「ギールと申します。Sランク冒険者のライト殿にお会いできるとは…非常に光栄です」
ギールは物腰柔らかく俺に挨拶してきた。
って言うか、ギール……魔族なんですけど……。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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