女性?男性?
「ん?チャーリーは男なのか?俺の認識では女性なんだが…」
「え?チャーリーの裸を見たんですよね?」
「あぁ、見てしまったな」
確かに肉体的には男だったよ?でも、日頃の言動や仕草を見る限りだと性自認は女性だと思うんだけど…。
もしかして、正体を隠す為とか何か理由があって女装してるだけなのかな?だとしたら凄い演技力だ…。
俺の回答を聞いたレオは『え?でも、あれ??』という感じで混乱してる。何だか話が噛み合ってない感じがするなぁ…。
すると、俯いていたチャーリーが顔を上げて、俺に向かってポツリポツリと喋り出した。
「見られてからも…先生の態度は変わらなくて…。普通に女性として扱われて…。もしかしたら見られなかったのかな?って、期待したりもしたんだけど…不安で……。でも、やっぱり見られてて…。どうしてなんですか?私のこと気持ち悪くないんですか!?」
えっと、やっぱり性自認は女性なんだよね?もしかして……この世界では性同一性障害が認知されてない!?
いや、でもでも、生産パーティの手島さんが書いた『男同士の恋愛を描いた薄い漫画』は女学生の間で流行してるって…って言うか流行し過ぎて問題になってるって聞いたよ?あ、でも……性自認の話とは別なの……か?
つまり、男として男を好きなのは理解するけど、自分が女だと思うのはおかしいって事?そんな…。
でも確かに昔の日本でもそういう所があったって聞いたことがある気がする…。男色文化?なるほど……。
と、なると『どうしてなんですか?』に対する回答は『日本で育ったから』になるんだけど……そんな事は言えないな。
「もちろん気持ち悪いなんて思ってない。俺が育った土地との文化の違いだな」
「あっ!そう言えばライト先生は他の大陸から来たって話を聞いた事があります!」
え?レオ、そうなの?…………あー、冒険者登録した時に遠い国から来たとか言ったかも。それとドルツでヘルマンと話した時にも他の大陸がどうとか…。噂って凄いな…。
「そ、そういう事だ。俺の育った大陸では『心と肉体の性別がズレて生まれる事がある』って考えがあってな。チャーリーもそうなんだなと普通に考えていた」
「そう…なんですか…」
日本でも人によって考えは違うけど、俺は基本的な性別は内面で判断した方が良いと思ってる。もし俺が謎の魔道具とかで女性の身体になったとしても、自分の事は男だと思うだろうしね。
「で、でも、私は子供産めないんだよ!?」
あ、そこが判断基準になるのか…。確かに生物として『種を存続させる事』に着目すればそこを気にするのも分かるけど、それよりも俺は自由意志を持った個人の心の方が重要だと思うな。
いや、もしかしたら家系の継続を気にしてるのかな?確かに血脈を気にしてる家だと色々と言われるのかも知れない。
んー、でも、やっぱり俺は個人の気持ちが大事だと思う。家系が大事な人がいるのも分かるけど、他人に強要するのは違うと思うな。
「俺は『子供を産めるか』は男女の区別とは関係ないと思ってる。例えば病気や事故で出産できなくなった人は女性じゃなくなるのか?そんな事はないだろう?」
「それは…そうだけど……」
「つまり肉体とは、日々変化する可能性がある一時的なものなんだ。それで男女を分けるのは違うと思ってる」
「で、でも、私は変化したんじゃなくて初めから男なんだよ?」
まぁ、どこを初めと考えるかの違いなんだろうな。
「だから、子供を産めなくなったタイミングが母親のお腹の中だっただけの女性なんだろ?」
「え?あ…。そう…なのかな…?そっか……」
まぁ双葉に言わせると俺の考えはちょっと特殊みたいだけどね…。とりあえずチャーリーが少し落ち着いてきたみたいで良かった。
ただ、注意点と言うか気をつけなきゃいけない事も伝えないとかな。
「まぁ、これは俺の考えだ。俺の育った大陸でも意見は分かれる。それと、今の考え方をする時に注意しなければならない事もある」
「何…ですか?」
「それはな『虚偽』と『肉体で区別すべき事』が有るって事だ」
チャーリーはいまいち理解できなかったみたいで大きな目をパチクリしている。
まぁ、これについてチャーリー個人は大丈夫だと思ってるんだけどね。
「チャーリーは本当なんだと思うが、もしかしたら女性の振りをする奴が発生するかも知れない。いや、社会的に認める動きになれば確実に出てくる」
「え?何でそんな事を??」
女性の振りをする事が理解できないか…。この世界は男性優位な所が多そうだから利点が見い出せないんだろうな…。まぁ、だからこそチャーリーは本当なんだと思うけど。
「まぁ、女性の中に紛れ込む為だな。そうやって男としての欲望を満たす奴がいるんだ。だから、偽物をどうやって区別するのか?というのが重要になる」
「そう…なんですね…」
トイレ、風呂、更衣室とか、男女で分けてるものを安易に使える様にしちゃうのは駄目だと思う。まず他の女性に理解してもらう必要があるし、偽物を除外する為の仕組み作りが必須だよね。
そして、チャーリーは更衣室を使わずに教室で着替えをしてた。自分のリスクより他の女生徒の気持ちを優先してた。だから、チャーリーはちゃんと分かってると思う。
後でチャーリー用の設備でも作ろうかな…。
「あの…肉体で区別すべき事というのは?」
「それはな。たとえ心の性別は女性なんだとしても、あくまで身体的特徴は男性なんだって事だ。基本的に骨格や筋肉は女性よりも強くなる。そういう特性で区別すべき時には男性と混ざった方が良いかも知れない」
「作業を分ける時…とかでしょうか?」
まぁ、そんなイメージになるか。この前の武術大会も男女混合だったし、身体能力や技術を比較する時に男女で分ける文化がそもそも無いもんね。
地球のスポーツとかも男女で分けると難しくなるから、男女とは別の呼び方で分けた方が良いのかも。
「そういう感じだ。ちなみに、今は心が女性な例で話したが逆もあるからな?とりあえず俺がチャーリーを気持ち悪がってないって事は理解して貰えたか?」
「先生は……『男性と混ざった方が』と言いました……」
あ…やっぱり男性の中に混ざるのは嫌かな…?そりゃそうだよね…。
「男性と混ざるって事は私は男性じゃないって事です…。本当に私の事を女性だと思ってくれてるんだって…言葉の端々から実感できました。私は…そんなライト先生を信じたいです。ありがとうございます!」
そういう事か。そりゃ本当にそう思ってるんだから当然だな。
「礼を言われる事じゃない。とりあえず信じて貰えて良かったよ。レオ達も大丈夫か?」
「「「はいっ!!」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「って事でさ、チャーリー用の個室を準備しようかなと思ってるんだよね。特別扱いみたいで問題になるかな?」
「親友が個人でやる事なら別に良いんじゃね?事実として親友にとって特別な存在なんだろうし。主語が不要な完璧な『平等』なんて無いっしょ。みんな個性があるバラバラな人間なんだからさ」
魔道具研究所で和也に相談してみたんだけど和也は僕の考えを後押ししてくれました。
うんうん。そうだよね。平等って『等しく同じ』って事だと思うけど男女で分けてる時点で平等じゃないし。前提条件や範囲を頭に付けないと成り立たない言葉だよね。
チャーリーは男用も女用も使えなくて不平等な状態なんだから、チャーリー用があって平等なんだ。そう思う事にする!
「たださ、親友の理屈は基本的に分かるんだけどさ、男女逆でも同じかっていうと俺は違うと思うな」
「そうかな?それは何でそう思うの?」
身体が女性で心が男性な人だって…同じだよね?
「それはな…『痴女は万歳!』だからだよ」
「……は?何言ってるの??」
僕の事を親友と呼んでくれる男が訳のわからない事を言い出しました…。
「いや、だからさ。女性の振りして女性の中に入る痴漢は駄目だろ?」
「当然そうだね」
「でもさ、男性の振りして男性の中に入ってくる痴女って…もはや天使じゃん!?」
そう来たか…。
「なるほどね。それが嬉しいのかどうかは人によるけど、比率が男女で違いそうなのは何となく分かるよ」
「だろ?女にとって痴漢は悪だけど、男にとって痴女は善だと思うんだよなぁ」
そっか…それは分かってるんだな…。痴漢が悪い事だって…。
「和也なら女性のフリして女湯に入る?」
「そんな卑怯な事する訳ないだろ!」
だよね。分かってた。まぁ、ある意味もっと問題だと思うけどさ…。
「男なら正面突破だ!!」
「はい、アウトー!」
「いやいや、これは痴漢とは違うんだ。男の浪漫だろ…。青春の1ページだろ…。そこに夢の世界があるのならチャレンジするのが男…いや、漢ってもんじゃないのか!?」
違うと思うよ…。
まぁ、本当はやらないのも分かってるけどね。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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