参りました…
「エルマさん、薬草採取の受注登録お願いします!」
ゴブリンキングとの出会いから翌日。僕は懲りずに薬草採取のクエストを受けようと冒険者ギルドへ来ていた。
「トールさん…実はトールさんと話をしたいという人がいまして…2階の応接室Aまでお願いしたいのですが…」
おっと…なんだか怪しい雰囲気ですね…。
でも、エルマさんが悪い事をするとも思えないし、エルマさんの気持ちを無下にし続けているお詫びも兼ねて行ってみますか。
「分かりました。応接室Aですね」
「ありがとうございます。私もご一緒致します」
エルマさんと一緒に応接室へと向かう。エルマさんが応接室の扉をノックをすると、中から声がかかった。
「エルマです。トール様をお連れしました」
「はいれ」
中に入ると、40代中盤くらいと思われる戦士風の男が立っていた。強そうだね…。クリシュナさんと同じくらい強いと思います…。
「あぁ、わざわざ悪いな。俺は冒険者ギルド・リッケルト支部のギルドマスターでバルバドスという。まぁバルとでも呼んでくれ」
「マスターは、元Aランクの冒険者なんですよ」
エルマさんが補足してくれる。なるほど、道理で強そうな訳だ…。とてもじゃないけど気安く呼べないので、心の中でだけバルさんと呼ばせて貰いますよ…。
「僕はGランクのトールです。で、どの様なご用件でしょうか?」
「まぁ座ってくれ。そんなに大した話って訳でもない」
僕はバルさんに促されてソファーに座りました。
「ゴブリンキングの事は聞いてるか?」
「はい。森の奥で見つかって、明日討伐に行くんですよね?」
「あぁ、そうだな。最近ゴブリンが増えてた原因はその辺にあると考えてる」
ん?その辺?直接の原因じゃなくて?
「更に別の原因があると考えているって事ですか?」
「ふ~ん…。まぁそうだな。ゴブリンが別の所で増えてるんなら分かるが、アリアが見つけた所で増えるのには違和感があってな」
あぁ、僕と同じ疑念を抱いているのか…。森の奥では餌になるだけなのに、なんでそこで増殖しているのか。
「違和感も理解してくれている感じだな。まぁ少し脱線したが、1人でも多くの協力が欲しい状況って事だ」
そうですか…でも僕はGランクなんで…。
「ところで、お前さんは薬草採取以外を受けないみたいだが、なんでだ?」
「えっと…それは、僕はGランクなんで、それ以外にできる事が無いと言いますか…」
バルさんが僕をじーーーーっと見ている…。
「お前、武術をたしなんでいるだろう?」
「多少は…」
「魔法の程度はわからんが、少なくともFランクの魔物に負ける様には見えんな」
「いやぁ…僕は臆病なもので…」
「Gランクの奴は、早くFランクに上がりたくて魔物と戦わせろと煩いのが普通なんだがな」
「上がりたいかどうかなんて人それぞれですよ…」
バルさんが『ふーん?あくまで白を切るんだ?』という目をしてる…気がします…。
「Gランクってな、実は結構いるんだよ」
「そうなんですか?」
「生活が成り立たないガキ共が薬草採取で生計を立ててるんだ。そんな奴らが無謀な事をしない為のガードが、本来の戦闘試験の目的だな」
「へーそうなんですね。良い仕組みだと思います」
やっぱり森の入口で採取しなくて良かったね。子供達の生活を脅かす所だったよ。
「本来の目的と違う使い方しておいて良く言うぜ…。Gランクのガキ共はな、ここ2週間ほど薬草採取してる場所でお前さんを見た事がないとさ。で、もう1度聞くぞ?薬草採取しか受けないのはなんでだ?」
うわぁ…やばい…。えっと、えっと…。
「…あ、穴場の様な所で採取してるので…。それで子供達には見つからなかったんじゃないですかね?」
「ほぉ…。ゴブリン種が森の奥では増殖できない事を実感しているトール君。ちなみにそれはどこらへんだ?」
「せ…折角僕だけが知っている穴場なので…公表したくありません!えっと…義務は無いですよね?」
「あぁ、義務は無いな。だがな、ギルドが把握していない穴場に魔物が出ない訳はないよな?ギルドが討伐してねぇんだから。魔物はどうしてるんだ?」
「えっと…逃げてますよ?」
「ほー、毎度毎度良く逃げれるもんだな。ちなみに、その話は普通にFランク狩りをするより危険な話になってるが、お前って憶病なんだっけか?」
ぐぅ…。なんだ、この真綿で首が締まって行く感覚は…。
「え…えぇ…臆病者ですよ…。危険性を自覚できてなかったみたいですね…」
「そうかそうか。危険性を知るきっかけになって良かったよ。って事は、Gランクで子供達と一緒に薬草採取するか、戦闘試験を受けるかって話になると思うがどうする?」
子供達と一緒になって、自然な速度で1日中薬草採取をするのは…メリット無いなぁ……。
「戦闘試験を受けても宜しいでしょうか?」
「そうか。エルマ、試験準備をしてやれ」
「承知致しました」
エルマさんはとても申し訳なさそうな表情をしている。おっさんは満面の笑みだ…。完全にしてやられたなぁ…。
これは参りました…。あぁ、この言葉はこういう時に使うのか…。
「ぎゃふん…」
…………。
………。
……。
そして僕は、訓練場に連れて来られていた。訓練場には、バルさんとエルマさん、あと闘技場の反対側に1人の若い戦士風の男が立っている。
「お前さんは色々と秘密にしたいみたいだからな。最低限の人数にしておいてやったぞ」
「別に秘密にしたい事なんて無いですけどね…。ありがとうございます…」
くぅ…ぶっちゃけ助かる…。
「で、何をすれば良いんですか?あの人と戦うんですか?」
「あぁ、あの新人冒険者を倒せば合格だ。シンプルだろ?」
「わかりました…さっさとやりましょう…」
「トールさん、すいません。トールさんが望まない事だって分かっているのに…カインの恩人なのに…」
「まぁ、大丈夫ですよ。見る限り危険は無さそうですし…サクッと終わらせてきますね」
「え?その…。本当にすいません…」
さて、やりますか。僕は闘技場の中心へと向かう。
相手は刃引きしたロングソードを抜き、すり足で僕に近づいてくる。
あぁ…なんて雑な重心移動だ……。
そんなんじゃ動きが丸分かりだし、迅速に反応できないだろう…。本当に初心者みたいだな。
戦闘試験はGランク同士を戦わせて勝った方がFランクって感じなのかな?
そして、バルさんが試合開始の声を上げる。
「はじめっ!」
開始と同時に動いたのは戦士風の男だった。相手は遠慮のない力加減で僕に剣を振り下ろす。
「はぁ…」
僕は思わず溜め息を付いてしまった…。
どの角度で振るのかバレバレだったので、既にそこからは移動している。そして、相手の軸足を足で払いつつ剣を奪い、倒れた相手の首元に剣の刃を添えた。
もちろん身体強化は使っていない。そんな事をしたら…相手の身体がバラバラになってしまう…。
「これで良いですか?」
「あぁ、合格だ。これでFランクだな。という事で、明日のゴブリン掃討戦も参加してもらえるか?」
「分かりました…。Fランクは雑魚狩りで、相手の数を減らす担当でしたね。了解です」
バルさんは笑顔で頷いている。ぬぅ…。
「エルマ、手続きをしてやれ」
「…………。」
「おい、どうした?」
「え?あっ、すいません。……何でしたでしょうか?」
「はぁ…。明日のゴブリン掃討作戦にトールも参加するから、登録手続きをしておいてやれ」
「明日の登録手続きですね。承知致しました」
「えっと…。では、明日の準備をしたいので、今日は失礼しても大丈夫でしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ。明日は城壁の開門時間までに北門に集合してくれ」
「了解です。エルマさん。と言う事で今日の薬草採取はキャンセルでお願いします」
「承知致しました」
「それでは…」
ポーションとか毒消しとか、本来は冒険者として必需品なものを買いに行かなきゃな…。持ってないと怪しいから…。実際には使わないけど……。
よし!ドミニクさんのお店に行こう!
そうして、僕は訓練場を後にした。
「さてと…。ロラン、大丈夫か?」
バルさんは、座り込んでいる戦闘試験の相手だった男に話しかける。
「…………。」
「くくくくっ…。言葉も出ねぇか」
「あれは…何なんですか?Fランクの戦闘試験だったんですよね?倒すつもりでと言うので、全力で行ったんですが…」
「まぁ、俺としても予想外だ。Gランクでもこういう奴がいるんだって、お前の伸びた鼻を少しでも削れればと思ったんだがな…」
「ははは…。根本からぽっきりですよ……」
「エルマ、あいつは何処から来たんだっけか?」
「申し訳ありません。詳細な事は分かっていないのですが…アクル王国の方から来た様です」
「そうか…。まぁ無理に詮索せずに、分かった事があったら教えてくれ」
「承知しました」
そんな中、ロランはまだ落ち込んでいる。
「はぁ…。基礎が根本的に違い過ぎて、勝てるイメージが全く湧かない…。修行をやり直さなきゃ…」
「薬の効果は絶大だったな。これで、新進気鋭の最年少Cランク冒険者ロラン君の未来も安泰だな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えっと…確かこの辺のはずなんだけど…」
僕は大通りから1本入った道を歩いていた。
「ドミニク商店…ドミニク商店…っと…。お、これかな?」
ドミニク商店は、一軒家2つ分くらいの大きさで、中は物で溢れていた。
「こんにちはー」
「いらっしゃい!あ、トールさん!」
僕に気付いたドミニクさんが近づいてくる。
「いやー、どうされているのか気になっていたんですよ!」
「なかなか来なくてすいませんでした」
「いえいえ、良いんです。無事に冒険者には成られたんですか?」
「はい。ずっと薬草採取してたんですけど、今日Fランクになったのでアイテムを買い揃えようかと思いまして」
「なるほど。ウチの店に来て頂いてありがとうございます。どういったレベルの物で揃えましょうか?」
「そうですね…。初心者お勧めパックみたいな感じで揃えられますか?」
「承知しました。じゃあ、下級ポーションに化膿止め、蛇系と蜘蛛系の毒消しに、緊急用で中級1本と…」
流石はプロですね!ここはドミニクさんにお任せしましょう。
「お待たせしました。FランクとEランクのクエストで行く所については、このセットで対応可能だと思います。後はクエスト毎に使った分を補充して貰えれば」
「おぉ!何て分かりやすい!えっと、お幾らですか?」
「全部合わせますと…。金貨1枚と銀貨21枚。あと銅貨6枚ですね。でも、サービスさせて頂くお約束でしたし、今回は切りよく金貨1枚にしましょう!」
えっと、12万1600円の所を10万円にしてくれた感じか。な…なんか悪いな…。
「あの…。もうちょっと高くても大丈夫ですよ?」
「いえいえ。大丈夫ですよ。その代わりと言っては何ですが…1つ教えて頂けないでしょうか?」
「はい。僕に分かる事なら何でも」
「ありがとうございます。実は…」
ドミニクさんの質問は…僕に分かる事だけど説明が難しい内容だった…。
「ゴブリンキングからアリアさんを助けた人が銀の仮面を付けていたと噂になってるんですけど…私を助けてくれた人と同一人物なんでしょうか?」
「えっと…確かに仮面を付けてたらしいですね…。ただ、僕はアリアさんが助けられる所を見てないので、同じ仮面の人かはわからないですね…」
「そうですか…。英雄的行動や仮面など…同じ人の様な気がするんですよね…」
「まぁ、可能性はありますよね…」
「もし拝見する機会があって、同一人物だったら…ドミニクが感謝していたとお伝え頂けないでしょうか?」
「あ…はい。分かりました…。でも、そんなに仮面の人が気になるんですか?」
「はい…。人の命を救ったのに、それを恩にも着せず…まるでそれが当たり前であるかの様な姿勢…。そして…あの美しくも激しい光!とてもじゃありませんが…忘れられません!!」
あー、この熱量…やばいなぁ……。
「そ…そうなんですね…。会えたら伝えておきます…」
「よろしくお願いします。可能であれば…何か彼の方の力になりたい…」
「了解です!では、金貨ここに置いておきますね。ではまた!」
「はい。ご購入ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
僕は逃げる様にドミニクさんの店を出て、宿への帰路に着いた。んー。英雄視?ファン心理?そんな感じですかね…。
伝えた事にする?会えなかった事にする?それとも…仮面を付けてドミニクさんに会ってあげる?
お世話になってて無下にもしづらいし…。
うーん…参ったなぁ…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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