旅立ち
「あ、勇者様!お帰りなさい!」
「あ…あぁ…。ただいま…」
隼人はダンジョンを出るとすぐに自分の部屋へと戻った。そこには隼人の所有物という扱いになっているモモがいて笑顔で勇者隼人を迎える。
しかし、隼人を見たモモの表情には即座に影が差した。
「勇者様…どうしたの?大丈夫?」
「ん?もちろんだ…。何故そんな事を聞く?」
「だって………。勇者様、お爺ちゃんが殺された時のパパと同じ目をしてる……」
そう言われた隼人は泣くのを堪えたくしゃくしゃの顔になった。
「はは…。あいつが父親って事はないな…。でも…俺は頼りにしてて…必要で…ゔ…ゔぅ……」
「勇者様、どうしたの?」
「龍彦が…龍彦が死んじまった…」
「う…そ……」
モモは、いつもお菓子をくれてモモの頭を優しく撫でてくれた龍彦の姿を思い出していた。
「先生は助けてくれなかったの?あ…学校のお勉強とは別で『じこせきにん』なんだっけ…」
「いや、助けに来るのが遅かった……あいつの責任だ!」
「そう…なんだ…」
モモには何が真実なのかはよく分からない。しかし、隼人に断言されてしまえばそれを受け入れるしかなかった。
「勇者様、これからどうするの?」
「とりあえず1人でじっくり考えたい…。ちょっと外に出てくる」
「うん。気をつけてね!」
隼人は荷物を置いて鎧を脱ぐと、動きやすい服装に着替えてから聖剣だけを持って自分の部屋を出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えっと、とりあえず学園へ来たけど死んだ奴のヒントとか有るかな?」
本名ミシェルこと『あーさん』は、一瞬にしてアクル王国から学術都市へと移動していた。そして、学園の廊下を歩きながら透のクラスメイトを探している。
「おや、あそこに見えるのは隼人ぼっちゃんじゃないか。透君と同タイミングで戻ってきたって事は今まで一緒にいたのかも知れないな。試しに隼人ぼっちゃんにでも聞いてみるか」
そう言うと、ミシェルは隼人の元へと歩み寄った。そして、上目使いで可愛い仕草をする。
「あのー。勇者様…ですよね?」
「なんだ?子供がこんな時間に出歩くのは危険だぞ?」
「心配してくれてありがとうございます!勇者様は優しいなぁ♪僕はミシェルって言います」
「そうか。俺は確かに勇者の隼人だが…俺に何の用だ?」
「えっと、えっと…。僕って聖教国でちょっと特別な立場なんです」
「あー、何処かで見た顔だと思ったら聖教国からの留学生か」
「はい。でも特別ってそういう意味じゃなくてゼノン教の中で特別な役割を持ってるんです!」
隼人の表情を見る限りでは、ミシェルの発言を子供の戯言だと思って信じていない様子だ。こんな子供の何が特別なのか?という目をミシェルに向けている。
「で?話の内容は何だ?」
「僕は蘇生アイテムを準備できたりしますよ?」
「何だと!?」
隼人は唐突な『蘇生アイテム』の一言に即座に反応した。しかし、その言葉を鵜呑みにする訳には行かない。
「何故そんな話をする?なんで俺が蘇生アイテムを欲しがってると思ったんだ?」
「だって、友達が死んじゃったんでしょ?」
ミシェルは『知ってるのが当たり前でしょ?』という雰囲気で首を傾げた。もちろん当たり前では無いのだが、隼人からするとミシェルが何でも知ってる様に感じてしまい畏怖の念を抱き始める。
「確かに龍彦の奴がな…」
「だよね〜」
(死んだのは新井龍彦だったのか。それなら利用できそうだな)
「本当に蘇生アイテムを準備できるのか?」
「だって聖教国だよ?癒しの最高峰と言えばゼノン聖教国でしょ?」
「それは確かに…」
別にそんな保証は何も無いのだが、世間一般では最高の治療を受けられるのはゼノン聖教国というのが常識だった。
「でも、流石に無料って訳には行かないよ?」
「チッ…。何が望みだ?金か?」
「お金なら腐るほど有るから大丈夫。そんなのよりお願いがあるんだ」
「何だ?もったいぶるなよ!」
「もぅ、怒らないでよ…。えっとね、勇者様にはライト先生より強くなって欲しいんだ。単純でしょ?」
隼人は顎に手を当てて考える。ミシェルの思惑が見えないし、それは言われるまでもない内容だった。
「俺は元からそのつもりだ。で、ライト先生より強くなったというのはどうやって証明すれば良い?」
「んー、覚悟が違うんだよなぁ…。まぁライト先生を殺せば強さの証明になるんじゃない?」
「なんだと…」
「できないの?なーんだ、やっぱりその程度の想いなのかぁ。じゃあこの話は無かったって事で」
一方的にそう言うと、ミシェルは不意に後ろを振り向いてそのまま歩き始めた。
「い、いや、ちょっと待て…」
「くくくく…。うそうそ!でも、友達を助けたいんでしょ?今の勇者様はまだまだ弱い。もっと本気で強くならないとライト先生には勝てないよ?甘えを捨てて頑張らないとダメなんじゃないかなぁ?」
「弱い…だと?そんなこと子供に言われる筋合いはない!」
隼人の言葉を聞いたミシェルは、おでこに手を当てて天を仰いだ。
「はぁ…。気にする所、そこ?まぁいいや。兎に角、ライト先生を殺したら蘇生アイテムをあげるよ。その為にも修行頑張ってね」
「チッ…。最初とは随分と喋り方が変わったもんだな…」
隼人がどうでも良い文句を言っていると、ミシェルの身体が輝き出して段々と光の粒子になっていく。ミシェルがこの場を去ろうとしてる事に隼人は気が付いた。
「ちょっと待て!約束は本当に…本当なんだろうな!?」
「しつこいなぁ…。信用できないならゼノン教の幹部に『ミシェル・バーマウンド』について聞いてみな。じゃあね。期待してるよ、坊っちゃん」
そう言い残したミシェルの姿はその場から完全に消えていた。全身が光の粒子となって霧散した感じだ。
「今のは光属性魔法…なのか?こんな事もできるのか…。俺もまだできない事をあんな子供が…」
ミシェルが自分以上の光属性使いである事を理解した隼人は悔しそうな顔をした。しかし、すぐに決意を込めた眼差しに変わると自分の部屋へ向かって歩き始めた。
そして、光となって消えたミシェルの姿は、アクル王国の宝物庫奥に設置されている玉座の上にあった。
「これだけ煽れば隼人ぼっちゃんも死に物狂いで修行してくれるよね?透君の事が大嫌いだとしてもプライド捨てて真面目に指導を受けてくれるはずさ。さて、どうなるか楽しみだな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「モモ、俺がこれからどうするか決めた」
「うん!勇者様が決めた事ならモモは何でもするよ!」
部屋に戻ってきた隼人は、決断した内容をモモへと伝えた。
「迷宮へ入る前に言った通り俺は修行の旅に出る!」
「そう…なんだ…」
「俺はもっと強くなる必要がある。だが、俺は知らない事が多過ぎるって事を実感した。もっと色々な物を自分の目で見る必要があると思うんだ!だから…俺は今日から旅に出る!」
モモはあまりにも急な展開に目を丸くした。隼人は『今日』と言った。今日はあと数時間で終わる。つまり『今すぐ』と言い換えても問題ない状況だ。
モモはそれなりに覚悟を決めていたつもりだったが、この速度感は流石に予想の範囲外だった。
「え?今日?他のみんなは?」
「行くのは俺1人だ。誰にも伝えずに行く。止められても面倒だからな」
「そっか…。うん!分かった!じゃあモモは勇者様を信じて待ってるね!みんなにはモモから勇者様の思いを伝えておくよ!」
「あぁ。みんなを心配させるのも悪いしな。モモありがとう」
「えへへ…」
勇者隼人様は、全然ミシェルの思惑通りには動いていなかった。と言うか、ミシェルの考えが甘い。
隼人は、ミシェルが思うよりも自分を客観視できていないし、無責任だし、想像力が足りていないのだ……。
それから隼人は、簡単に旅支度を済ませるとモモに幾許かのお金を渡した。そして、そのまま学術都市を後にする。
その背後に、隼人達の会話を盗み聞きしていたストーカークラスメイトが付いてきている事には気付かずに…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
ブクマして頂けたり、↓の☆で皆様の評価をお聞かせ頂けるととても嬉しいです!
あと、下にある『小説家になろう 勝手にランキング』をクリックして貰えると助かります!
ランキングサイトに移動しますが、そのサイトでの順位が上がるみたいです。よろしくお願いします!




