希望
「喰らぇえ!シャイニングバーストォォォオオ!」
九嶋の背後では隼人が聖剣デュランダルを振り下ろした。聖剣からは閃光が迸り隼人の前方を放射状に消し飛ばす。
足元の円盤は削れ、壁には大穴が空き、光に包まれたフェニックスは跡形もなく消え去っていた。
「ふぅ。終わったな。みんなありがとう」
「隼人くん!龍彦君が!!」
隼人が一息吐いた所で九嶋の叫び声が響いた。その顔は何とも絶望的な表情をしている。迫真の演技だ…。
「ん?どうしたんだ?」
「龍彦くんがマグマの中に!だから…だから私がやるって言ったのに!!」
「なっ…。そんな馬鹿な!!」
真っ青になった隼人が即座に九嶋の元へと駆け寄る。つまり龍彦が落ちた場所へと。
下を覗き込むが人影らしきものは見当たらない。
「龍彦!!」
龍彦を呼ぶ隼人。しかし、残念ながら応じる声は聞こえてこない。
「龍彦…。そんな…嘘だろ…」
「え、龍彦くんが…死んだって言うの?そんなはずは…」
全員が驚愕している中、特に隼人と菊川が狼狽えていた。もちろん九嶋も驚愕している。内心の喜びなどおくびにも出さない。
その時、不意に絶望的な鳴き声が響いた。
キィィーーーエッ!!
空を飛ぶ炎の塊。残念ながら勇者パーティに悲しんでいる暇は無かった。
「馬鹿な!今の一撃でも倒せないっていうのか?全て消し飛ばしたんだぞ!?」
「じゃあ、やっぱりコアなんて無かったんじゃない…」
「隼人くん!いったん逃げよう!これ以上被害を広げるの?龍彦君もいないんだよ?」
龍彦がいない。龍彦がいない?何故だ?子供の頃からずっと一緒にいた。そんな龍彦がいない?
隼人は混乱していた。ただただ立ち尽くすばかりだ。
『このままでは全滅する』。全員がそう思った時、扉をぶち破って黒いアリコーンが現れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ここからライト視点になります。
「これは暑いな…コクヨク大丈夫か?」
「ブルルル…」(問題ありません!)
少し強がってる気もするけど本当に平気っぽい。タフだなぁ…。あの飛んでるのは…フェニックス?あ、隼人達がいるね。
「聖女パーティと賢者パーティは撤退してたみたいだったが、勇者パーティは逃げずに戦ってたみたいだな。回収してくるからみんなは黒翼車の中で待っててくれ」
「ふむ、そう言えばここは馬車の中じゃったな。快適過ぎてすっかり忘れとったわ」
「マスター。付いて行っちゃダメっすか?暑さは別に平気っす」
「そうなのか?まぁ別に構わないが」
「リルは待ってる!暑いのや!!」
リルは寒いのは得意なんだけど暑いのは苦手みたいなんだよね。という事で、俺とマロンは黒翼車から降りるとマグマの上に浮いてる円盤へと飛び移った。
「やっと見つけた。お前達の相手はフェニ「先生助けて!あいつ何度倒しても復活するの!カケラも残さずに消し飛ばしても復活したの!」
九嶋が有無を言わせない勢いで話しかけてきた。やっぱり苦戦していたみたいだ。
消し飛ばしても復活…。ふーん、なるほど…。
「魔力探知が未熟だな。根本を間違えてる」
そう言うと、俺は円盤の縁に立って下を見下ろした。そして、マグマに手の平を向けると唐突に光魔法を放つ。
マグマに大穴が開いた。しかし、当然の事ながら周辺のマグマが流れ込んで穴はすぐに塞がる。
「何やってるの?」
「だから、フェニックスを倒したんだ」
すると、飛んでいたフェニックスは真っ逆様に墜落した。地面に叩きつけられるのと同時に火の粉となって霧散する。
「えっ…どうゆう事?」
「お前達が戦っていたのは分身だ。本体はマグマの中に潜んでいた。いま俺の魔法で消し飛ばしたんだ…が、確かに凄いな。それでも復活しようとしている」
「え!?また出てくるの?」
「いや。流石に分身を復活させるのとは訳が違うみたいだ。この調子だと復活まで1年くらい掛かりそうだからひとまず倒したものと考えて大丈夫だろう」
直接は見てないけど、魔力を見る限りでは本体も鳥の姿をしていて分身の10倍くらいの強さだった。本体が復活するまでは分身を出すこともできないみたいだね。
それにしても流石は不死鳥。完全に消滅させるには『虚無』を使うしか無さそうだ。
すると、いつもは冷静な菊川が珍しく大声を上げた。
「完全に殺してよ!そいつが…龍彦くんを…」
「龍彦?そう言えば居ないな。いったいどうしたんだ?」
確かに龍彦の姿が見当たらない。探知魔法を使ってみてもそれらしい姿が見つからない。
そうして俺が周りの様子を探っていると俺の事を睨みながら隼人が近付いてきた。そのまま俺の胸ぐらに掴みかかる。
「おせーよ!お前が…お前が遅いせいで龍彦が…」
「落ち着け。ちゃんと説明しろ」
即座に投げ飛ばしてしまいそうになったけど様子がおかしい原因が気になったのでどうにか思いとどまった。
しかし、俺の頭の横を通り過ぎて後ろから腕が伸びる。
「マロンデコピーン!説明しよう。マロンデコピンとはご主人様に無礼を働く者へのお仕置き技なのだ」
「いっでぇええ!」
俺の後ろでジャンプしたマロンが隼人にデコピンをした…。常人なら頭が砕けてそうな音がしたんだが…。
「てめぇ!何しやがる!」
「何があったのか知らないっすけど、冒険者なら自己責任っすよ。ご主人様に助ける責任なんて無いっす」
「お前に関係ないだろ!」
「関係あるっす。大事な人が濡れ衣を着せられてるのを黙って見てられないっす」
正直な所とても嬉しい。でも、俺はいま先生だから…。
「マロンありがとう。だが、俺は彼等の教師なんだ。冒険者としての責任は無くても教師としての責任はある」
「そうなんすか…」
でも、隼人も菊川も落ち着いて話せそうにないな。誰かいないか…。と見渡した所で九嶋と目があった。
「全てを見てたのは私だけなので…私から説明させて下さい」
「そうか。ぜひ頼む」
そして、九嶋はこの部屋に入ってから何があったのか話し始めた。
…………。
………。
……。
「それで龍彦君がフェニックスの攻撃で吹き飛んでしまって…私が掴んで助けようとしたんですけど間に合わなくて…。マグマに落ちてしまったんです…」
「そんな事があったのか…」
甘かった。ゲートのスクロールを渡しておけば何か起きても逃げられると高を括っていた。そもそも逃げてくれないとは…。
それと、龍彦が死んだと言われた時は嫌な汗が溢れたけど、すぐにここが異世界である事を思い出した。この世界にはアレがある。
「全てを諦めるのはまだ早い」
「何だ?何か希望があるのか?龍彦が死んでいない可能性が?」
「いや、それは分からない。そうではなくて蘇生アイテムで復活させられないかと思ってな」
さっきまで暗かった隼人の瞳に光が戻った…気がする。
「さすがはファンタジーだな。何でもする。それを俺に譲ってくれないか?」
「残念ながら俺も持っていない。アクル王国が保有してるかも知れないんだが何か聞いてないか?」
「ちっ…使えない…。アクル王国がか………聞いた事がないな」
別に隼人に使って貰う為に生きてる訳じゃないんだけどな…。それよりも、やっぱり隼人も聞いた事がなかったか。
ミクがイザベラ王女に持ち掛けられてた帰還方法からすると持ってないとおかしいんだけど、奴等は平気で嘘を吐くからなぁ…。
「アクル王国が持ってる可能性は低いんじゃない?」
「九嶋、どうしてそう思ったんだ?」
「だって、もし持ってたなら国王が死んだ時に使ったんじゃないかな?」
んー。どうだろう?国が所有してればそうかも知れないけど、イザベラ王女の個人持ちだったら父親を見捨てる可能性もある気がする…。
「ご主人様。とりあえずダンジョンの入り口に戻らないっすか?もしかしたら倉庫に目的の物が有るかも知れないっす」
「なるほど。禁書庫か」
アンフェルが管理してる禁書庫には、マロンが千年間回収し続けたアイテムが格納されています。
もしかしたら、その中には蘇生アイテムが有るかも知れません。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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