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キング

「トールさん…。そろそろFランクになりませんか?」


 薬草採取クエストの受注に来たんだけど…、エルマさんから戦闘試験を持ちかけられた…。


 偽装薬草採取を初めてから、かれこれ2週間が経っている。毎日飽きもせず薬草採取をしている(事になっている)ので、気長に待っていたエルマさんも危機感が湧いて来たみたいだ…。

 エルマさんの危機感は正解で、正直な所…ずっとGランクでも良いかなと思い始めていた…。


「えっと、もうちょっと様子を見たいなと思ってまして…」

「そうですか…。トールさんが薬草採取しかしてないのは勿体ない気がしてしまいまして…。余計な事を言ってしまい申し訳ありません」

「また今度、気が向いたら受けますね…」

「承知しました。行ってらっしゃいませ」


 エルマさん、期待に応えられずごめんね…。


 さて、今日は狩りに行く前に武器屋に行く予定なんだ!実は朝イチで出発する必要性が無くなったんだよね。

 アクル王国に貰ったロングソードをぶら下げたままだったので、今日はカインに紹介された武器屋さんに行ってみたいと思ってます。


「えっと、確かここだったな…。すいませーん」


 僕はカインが紹介してくれた店に入った。


「おぅ。誰だ?見ない顔だな」

「カインに勧められて来ました。トールと言います」

「あぁ、カインか。あの悪ガキが俺の店を紹介する様になるとはな。で、お前が…」


 店主は僕をジロジロと見てる…。カイン…いったい何をやったんだ?なんて思ったんだけど…それは冤罪でした…。


「お前、アクル王国のやつか?」

「え!ち…違いますけど…。何でそう思ったんですか?」


 店主は僕の腰に差されたロングソードを指差す。


「その剣、アクル王国のだろ?しかも騎士とかが使ってるやつだ」


 マジで?そんな事がわかるの?


「実は貰い物なんですけど…そんな事がわかるんですか?」

「見る奴が見ればな。鉄の叩き方や柄の作りに特徴がある」


 あーぶーなー!そんな身ばれヒントを持ち歩いていたのか…もっと早くに武器を替えるべきだった…。


「えっと…この武器を替えようと思いまして…」

「ん?そうなのか?個人的にアクル王国は嫌いだが、それは良い武器だと思うぞ」

「剣って使い慣れてなくて…」

「ふーん。じゃあ何にする?槍か?斧か?」


 斧は使った事がありません。槍は少し触った事があるけど、ちょっとピンと来ないな…。


「そうだなぁ…刀とかあるとベストなんだけど…」

「刀か…ある事にはあるんだが…」

「えっ?本当ですか?是非見せて欲しいです!」

「ちょっと待っててくれ」


 店主さんは店の奥へと入って行った。しばらくすると1本の刀を持って帰ってくる。


「実はな…俺が打った刀なんだが、まだまだ修行中なんだ。目的は剣と似てるくせに工程や道具が全然違ってな。試行錯誤した結果、やっと及第点だと判断した刀なんだが…。」


 僕は刀を受け取り、鞘から抜いてみる。


「…うん。悪くないと思います」

「お!そうか?お前は刀を使った事があるのか?」

「多少はって感じですが…」


「よっしゃ!それなら是非使ってみてくれよ!そして使い心地を教えてくれねぇか?」

「はい。使った感想はお伝えしますね。これはお幾らですか?」

「いや、代金は受け取れねぇ。俺の中では、まだ売り物に至ってねぇんだ」

「わかりました…。それじゃあ、満足の行く1本が作れたら、その時は僕に売ってください」

「おぉ、嬉しい事言ってくれるな!わかった、約束だぜ?」


『ご主人様!ちょっと良いっすか?』

(ん?バス、どうした?)

『刀って使ってる人が少ないので、目立つ気がするっす』

(ナイス気付きだバス…)


「えっと、刀とは別にこのショートソードもください」

「ん?何でだ?」

「えっと…大き目の魔物を解体する時とかに、刀使うの勿体ないので…」

「まぁ、買ってくれるなら俺はありがたいが…。それは金貨2枚だ」

「はい。じゃあこれ。ありがとうございます!」


 僕は金貨2枚を店主に手渡した。


「毎度あり!それじゃ刀の感想、楽しみにしてるぜ?」


 んー。良い買い物ができました!

 ではそろそろ、いつも通り魔物の森に行きましょうかね。そうして僕は、自分が宿泊している宿(・・・・・・・)に戻って来た。


 そう…僕は気付いてしまったのだ…。毎日1000人近い冒険者がギルドカードを見せながら素通りしているだけなのを、門衛がイチイチ覚えている訳がないと…。

 僕は自分の部屋でゲートを開いた。そして潜ると…森の中心地に到着!という訳だ…。


 それじゃあさっそく狩りを始めますか!と思ったのだが…、何だかいつもとは違う雰囲気に気が付いた。なんだろう…。音が聞こえる…。


 …キンッ!ガキンッ!


 剣戟の音の様だ。誰か来てるのかな?珍しい。

 見られる可能性があるので僕の修行は一旦中止として、音の原因が気になるな。もしかしたら普通に狩りをしてるのかもしれないけど…ひとまず行ってみよう。


 僕は音のする方向を探ってみる。あと、もしかしたら顔を見られる可能性もあるので、移動しながら愚者の仮面を付けて漆黒のマントを羽織った。

 あ!髪の色も変えておこう!


 そうして音の原因に辿り着いてみると、冒険者と魔物が戦っていた。魔物は…ゴブリンキングか。


 ゴブリンキングは単体だとBランクなのだが、Cランクのゴブリンジェネラルを筆頭に部下を大量に引き連れている。

 こいつも100体くらい引き連れていた。


 それに対して、戦っているのは女性冒険者が1人。防御に徹してどうにか耐えているが、そんなに長くは持ちそうになかった。

 どうも…ゴブリンキングに弄ばれている様に感じる。


 これは…助けた方が良いかな?うーん…。

 本人に聞いてみよう。僕っぽくない喋り方を意識して…。


「そこの女冒険者。助けはいるか?」


 僕は姿を現さずに、声だけで聴いてみた。


「…え?誰かいるんですか?すいません!是非お願いします!」

「承知した」


 僕はゴブリンキングと女冒険者の間に割って入る。


 グギャァ!ギャッ!ギャッ!


 どうやらゴブリンキングは遊びを邪魔されて怒ってるっぽい。横に控えていたゴブリンジェネラルが、僕を排除しようと攻撃を仕掛けてきた。


 あまり魔法を使ってる所は見られたくないなぁ…。僕はゴブリンジェネラルの攻撃を避けながら、女冒険者に向かって叫んだ。


「こいつらは俺がしばらく引き受けておく。お前は邪魔だから先に逃げろ!」

「そ…そんな…。無茶です!そういう訳には行きません!」


 責任感が強いのは素晴らしいんだけど…今はちょっと困るなぁ。


「良いから逃げろ。邪魔だ。ギルドに戻って状況を伝えろ!」

「う…分かりました。ギルドに戻って助けを呼んできます!それまでどうか…死なないでください!」


 そして、女冒険者は踵を返すとリッケルトに向かって走り出す。女冒険者を逃がすまいとゴブリンキングの部下が動くが…当然ながら僕が通さない。テレポートで移動しては刀で切り飛ばしていく。

 うん。切れ味も悪くないね!


「さて…ある程度の所までは逃げてくれたかな?それじゃ、そろそろゴブリンキングを倒してしまおう」


 ゴブリンキングは僕に凄く怒っている。

 そう言えば、ゴブリンって人間の女を捕まえて繁殖するんだっけ?僕は恋敵だった訳だね。


 僕は右手を手刀の形にして、空に向かって伸ばす。


「まぁ、とりあえずさよならだ」


 僕が手を振り下ろすと、光の斬撃が僕の指先からゴブリンキングに向かって飛んでいく。


 ピュイン……。ズルッ…ズルズル……。ズドン…。


 ゴブリンキングは何もできずに左右に両断されていた。


 ギャッ…ギャギャ?


 配下のゴブリン種達は、目の前で起きた事が信じられない様子だ。しかし、段々と現実を受け入れる個体が出てきて、その場から逃走を始めた。


「あぁ、逃がさないよ?」


 僕は、瞬間移動して逃げ出すゴブリンの前に出ると、光の斬撃を飛ばす。瞬間移動して斬撃、瞬間移動して斬撃、瞬間移動して斬撃…。


 僕はゴブリン達を取り囲む様に外周を縦横無尽に瞬間移動し、内側に向かって斬撃を飛ばす。数分後…立っているゴブリン種は存在しなかった…。


「今日はもう中止かなぁ。逃げた人がどうなったか気になるし、様子を見に行ってみよう…」


 僕はゲートを開いて宿に戻ると、装備や髪の毛を元に戻した。そして、お風呂に入ってさっぱりしてから冒険者ギルドへと向かった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ギルドに着いてみると、結構な騒ぎになっていた。

 えっと…エルマさんはいないかなぁ…。あ、いた!僕はエルマさんへと近づいて行く。


「エルマさん。何か騒がしいですけど、いったい何があったんですか?」

「あ、トールさん。どうやらゴブリンキングが出たみたいなんです」

「ゴブリンキングはそんなに危険なんですか?」

「そうですね…。単体ではBランクなんですが、問題は繁殖力と組織力になります。こちらも組織で当たらないといけない存在ですね」


 なるほど…。危険指定な存在だったんだな…。


「あの騒いでいる女性はいったい?」

「Cランク冒険者のアリアさんで、ゴブリンキングを発見した人です。最近のゴブリン増加に関する調査依頼を対応してる際中に発見したみたいなんですけど…」


 エルマさんが何だか言いづらそうにしている。


「どうやら身代わりになってくれた人がいて、逃げる事が出来たみたいなんです。その恩人を救いに行く為に部隊を編成して欲しいと訴えられているのですが…残念ながらギルドとしては難しい所でして…」


 アリアさんは、管理職っぽいギルド職員に詰め寄っていた。


「何で駄目なのよ!速く助けに行かないとあの人が犠牲になってしまうわ!」

「もちろん救える命があるのなら我々も助けたい!しかし、準備ができていない状態で向かっても犠牲を増やすだけだ!」

「それじゃあ見殺しにしろって言うの?」

「もう既にゴブリンキングと遭遇してから結構な時間が経っている…。正直な所を言えば、逃げれているか、既に手遅れか…どちらかの結論は出ていると思う…。効果の見込みが薄い事に、大きなリスクを負って向かわせる事はできない!」

「そんな…」


 理屈で言えばギルド職員の言っている事が正しいんだろうな。1人を救って10人が死んでたら本末転倒だ。でも、アリアさんとしても、責任感的に折れづらい所だよね…。


 って、原因の僕が言うのも何だけど…。

 え?これって、名乗り出ないと駄目な感じ?


「そもそも、アリアでも勝てなかったんだろう?いま出払っている上位冒険者に声を掛けられなければ無理だ」

「じゃあギルドはどうするつもりなんですか?」

「今日、明日で討伐隊を編成して、明後日に討伐へ向かう。アリアもそこで力を発揮してくれ。その恩人がまだ生きているなら、それが最も救える可能性が高い道だと思うぞ」

「ぐ…くぅ…」


 ギルド職員…結構説得が上手いな…。

 ゴブリンの残党も多いだろうし、掃討作戦はこのまま進めて貰った方が良さそうな気がする。って事で、黙ってる事にしようかな…。

 それと、1つ気になる事がある。


「エルマさん。アリアさんの強さって、リッケルト支部の中ではどの辺に位置してるんですか?」

「そうですね…。20位から25位くらいだと思いますよ」


「え?Cランクでそんなに上なんですか?」

「現在のリッケルト支部所属のランク比率は、Aランクが4人、Bランクが9人、Cランクが25人、DからGランクが1000人以上という感じです。アリアさんはCランクの中でも強い方なのでそれくらいですね」


 Cランク以上ってそんなに少なかったのか…。


「Aランクがいるだけでも凄い支部なんですよ?大抵の町では、Bランクさえいないのが普通です」


 なるほど…そう考えるとカインは結構凄いんだな…。

 エルマさんとそんな話をしていると、さっきの管理職っぽいギルド職員が大声で宣言した。


「緊急クエストを発令する!明後日のゴブリンキング討伐に参加してくれる者は参加登録をしてくれ!敵は集団でFランクまでいるので、雑魚狩りも必要だ。参加条件はFランク以上になるので宜しく頼む!」


 なるほど…僕はGランクなので。参加しなくても良さそうです…。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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