迷宮の主
「よし、開いたぞ!」
「よっ!田中くんの力持ち!」
「立花さん…別に俺の力で無理矢理開けられた訳じゃないよ…」
聖女パーティでは1番力のある田中が扉を開ける役割になっていた。今までは全く動く気配が無かったのだが、今回は少し押すだけで簡単に開ける事ができた。
そして、開いた扉の先には竹林の風景が広がっている。
「立花さん。何が出るか分からないから油断しない方がいい」
「うん、仁科さん。ごめんごめん。じゃあ行ってみようか」
5人は警戒しながら竹林へと入って行った。
全方位の見晴らしが悪いので何処から襲われるか分からない。その為、前衛に田中・仁科、真ん中に白鳥、後衛に立花・佐藤と、白鳥を守る形で前に進んだ。
「ヤバい気配がする…」
「うん。私も感じる…多分何かに見られてる…」
仁科と立花はとても嫌な気配を感じていた。それは初めての感覚…。自分達が獲物として観測されている視線なのだとは気付いていなかった。
そして、それは突然目の前に現れた。
「きゃっ!え?白い…虎?」
「待って、何か口に咥えてない?」
白虎に気付けなかった事で仁科が珍しく驚いていた。今まで、こんなに接近されるのを気付けなかった事が無いからだ。
そして、確かに白虎は口に何かを咥えている。それは『腕』の様に見えた。腕の端からは赤い液体が滴っている。
ドサッ…
「ぐっ…」
「田中君どうし…あっ…」
仁科が横にいる田中を見ると、田中は地面に膝を突いていた。そして田中の左腕は…肩から先が無くなっている。
一瞬にして聖女パーティに緊張が走った。
「アースウォール!麗奈!田中君の治療を!」
「うんっ!」
白鳥が結界を張った方が安全なのだが、回復に集中してもらう為に立花が壁を作った。
しかし、さっきの魔物を相手にどれだけ時間を稼げるのか…立花も全く自信がない。
「田中君への攻撃が全然分からなかった…。田中君は何か気付けた?」
「ぐっ…。いや…。腕が喰い千切られてる事に気付いたのは奴が目の前に現れてからだった…」
「私も気付けなかった…。風の結界にも反応無し…。アレは…何?」
「これは…逃げないとダメかも…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何だこれ。地下に海があんのか?」
「海水かは分かりませんけどね。端が見えません。もしかしたら地上の何処かへ移動させられたのかも…」
賢者パーティが扉を潜ると、そこは小さな島になっていた。その周りは一面水という状態だ。
そして島の真ん中にポツンと扉だけがある。どこでもドア状態なので時空属性によって別の場所に繋がっているのだと思われる。
「さて、何が出て来るのでしょうね」
『おぉ。やっと始めてのお客様ですか。この日まで千年も待ちましたよ』
「誰だ!?何処にいる?」
『はっはっはっはっ!随分と直球な質問ですね。まぁ良いでしょう。姿を見せましょう』
すると、目の前の水が渦を巻き、そこから大きな蛇の様なモノが姿を現した。いや、日本人である賢者パーティにはそれが何なのかすぐに分かった。
「龍…ですか」
『さて、千年待った甲斐があるのか…。精々私を楽しませて下さいね』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「熱っちぃな…」
「そうだな。それにしてもこんな所に棲息できる魔物なんているのか?」
勇者パーティの扉の先には溶岩の海が広がっていた。その溶岩の海には直径100メートルくらいの円形の台座が浮いている。
「台座の上に行けって事みたいだな」
「マジかよ。まぁ行くっきゃねーか」
「菊川さん。みんなに飛行魔法をお願いします」
「うん。分かった」
菊川はダンジョンに入る前の訓練で飛行魔法を覚えていた。透とは魔力量が違うので、制御不能になって壁へ突撃する様な事はない。透をF1カーだとすると、菊川の魔力はゴーカートみたいなものだ。
という事で、勇者パーティは菊川の飛行魔法によって台座の上へと移動した。
「熱気が直接来ねーから台座の上の方がまだマシだな」
「そうだな。かなり熱いがすぐに死ぬってレベルじゃない。しかし…魔物なんて何処にいるんだ?」
隼人は周りを見渡してみる。しかし台座の上はただ広いだけの空間で何も存在していなかった。すると…。
キィェエエエエーー!!
姿は見えないが何処からか何かの鳴き声が聞こえる。声の雰囲気からすると鳥っぽい感じだ。
「上か!?」
空を見上げるが上空には何も見えない。
すると、溶岩の一部がボコボコと泡立ち、そこから何かが飛び上がった。飛び上がった存在は全身が燃えている。
しかし、飛び上がった存在は燃えてる事を気にする素振りもなく大きな翼を広げた。その姿は火の鳥、フェニックスだ。
「隼人、これはやべぇ。逃げた方が良い!」
「龍彦、何を言ってるんだ。強いって事は良い経験値になるって事だろ?絶対に倒すぞ!」
「マジかよ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リル、みんなに会えないね…」
「ねー。何でだろー?」
僕は黒翼車を降りてから大きく伸びをした。
ダンジョン内を黒翼車で走り回ってみたけど全然クラスメイト達には会えなかった。
このダンジョン広すぎなんだよ…。しかも変動するから同じ所をぐるぐる回ってたりするし…。
「んー。何かヒントは…ん?いま、強力な魔力を感じた。急に繋がった感じと言うか、目覚めた感じと言うか…」
「トールの魔力感知凄いね!リルは全然分かんなかった!それはどっちなの?」
「それが1箇所じゃないんだ。感じたのは東西南北の四方向。それと…真下」
特に真下から感じる魔力が1番強いかな。
「リルは下にいるのがボスだと思う!」
「なんで?」
「ちょっかん!」
な…なるほど…。タマの事もあるし野生の感は侮れないな。まぁ魔力も1番強いし僕も正解だと思う。
とは言ってもどうやって向かおうかな。このダンジョンは真っ直ぐ進めば着くって訳じゃないから面倒なんだよね…。奈落迷宮みたいに直行の穴があったら良いのに。
……………。
そういえば『無ければ作れば良い』って、誰かが言ってた気がするな…。
「ト…トール?」
「リル、危ないから離れててね?」
岩とかの物理的な衝撃だとダンジョンが崩れるかも知れない。それに衝突する毎に勢いを無くして辿り着けない可能性がある。ここは貫通効果のある光魔法かな。
僕は手加減なしの光魔法を地面に向けて放った。つまり、魔力を感じさせる原因に向かって。
ドンッドンッドンッ…ジュアァァァァァ…。
光魔法は各層を貫きながらどんどん進んでいく。
そろそろ魔力の原因に当たるな?と、思った瞬間、光魔法が弾かれて霧散するのを感じた。
「え、防御された?手加減無しなのに??リル、急いで向かうよ。黒翼車に乗って」
「うん!」
「コクヨク、穴に沿って下に直進して」
「はっ。承知致しました」
僕等を乗せた黒翼車は空を飛びながらどんどん下に進んでいく。黒翼車の中は水平なのに窓の外を見ると垂直なのが変な感じだ。
「ま……魔王様……」
「あぁ、到着したみたいだね。ありがとう。リルはココで待ってて」
「えー!」
凄いな。コクヨクが怯えてる。確かにここまで近付くと感じる魔力が尋常じゃない。
僕は空中で停車してる黒翼車から出ると飛行魔法で相手に近付いた。リルが怒ってるけど、リルは空が飛べないから今日の所は我慢でお願いします!
本音を言うと、もし戦闘になった場合にリルを庇える自信がありません。戦闘になる前にコミュニケーションが取れないか試してみるつもりだけどね。
『全く乱暴者ですね…。本当は4体の腹心を倒した者だけが此処に来れるのですよ?』
「あ、そうなんですか?それはごめんなさい…」
怒られちゃいました…。ショートカットしちゃ駄目だったみたいです…。でも、言葉が通じる。コミュニケーションが取れそうだ。
「えっと、僕は高杉透と言います。貴方は?」
『ふむふむ。先程の魔法…今代の魔王ですね?私の名はリヴァイアサン。神話の時代より生きる古代竜の一体です』
僕の目の前には全長数百メートルはある巨大なドラゴンの姿があった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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