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薬草採取もどき

「み…水…」

「はい。水ですよ。二日酔いってやつですか?」


 カインさんは昨夜酔い潰れてしまい、今日は昼まで動けないでいた。僕との約束があったのに…。


「トールさん、ありがとう」

「トールで良いですよ。僕もカインって呼び捨てにしますね」

「あぁ、その方が俺は嬉しいな」


 えぇ。それではこれからは、そういう関係性で行かせてもらいますよ?


「了解。じゃあカイン…。もう昼だけど…で、行けるの?行けないの?」

「あ、うぁ…うん。い…行けるとも…」


 僕はちょっと怒ってる雰囲気を出してみた。

 こっそりと聖属性の解毒魔法を使ってあげれば楽にしてあげられる気もするけど、理由不明で治るのは違和感があるし、カインは反省するべきだから放っておこう。


「じゃあ、下でお昼ご飯を食べながら待ってるからね?カインはお昼どうするの?」

「いや、俺は食欲がないから昼は良いや…じゃあ30分くらいで下に行くな」

「うん、わかった。じゃあ後で」


 僕は下の酒場へと降りていく。そしてリルと一緒にご飯を食べながら待っていると、しばらくしてカインが降りてきた。


「頭痛とか大丈夫そう?」

「あぁ、予定を狂わせてしまって悪いな。じゃあ行こう」

「うん。まずは冒険者ギルドだよね?」

「そうだな。薬草採取なら常に依頼が出てるから先に採取しても良いんだが…ちゃんと本来の流れを知った方が良いから、今日はギルドから行こう」


 そして僕たちは、リルも連れて冒険者ギルドへと向かった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「これがクエストボードだ。今あるクエストが張り出されているから、ここで良い案件がないか探すんだ」

「なるほど。なんか…2種類の出され方がされてるんだね」


 僕達は冒険者ギルドへ到着し、カインからクエスト受注方法についてレクチャーを受けていた。


「あぁ。簡単に言うと早い物勝ちのものと、何人でも受けれるものだな」

「小さいチケットが何枚も置かれてる方が、何人でも受けられる奴かな?」

「その通り。何人でも受けられるクエストはそのチケットを、早い物勝ちのクエストはボードから依頼票を剥がして、受注窓口に持って行くんだ」

「なるほどね。で、薬草採取は何人でも受けられるやつだから、このチケットを持って行くと」

「そういう事だな」


 うんうん。クエストを受けるのは簡単そうだね!

 なんて余裕の表情をしていたら…突然後ろからガラの悪い男に声をかけられる。


「おい、てめぇ見ねぇ顔だな。その年で薬草採取クエストかよ。って事はGランクか?その年でGランクって終わってんなぁ。さっさと冒険者辞めちまえよ!何なら俺が辞めさせてやろうか?あ~ん?」


 うーわー。ルルスに続いてリッケルトでも絡まれた…。何でこの手の奴はどんな町にでもいるんだ…。


「えっと…辞めるかどうかなんて僕の勝手なんで、放っておいてもらえますか?」

「はぁ?『僕』だと!ギャハハハハハハハ!何処のお坊っちゃんだよ。てめぇみてぇなのが冒険者を名乗ってると邪魔なんだよ!」


 うーん…。困ったな…。力ずくで倒して目立ちたくもないしな…。そうやって迷っていたら、カインが反論してくれた。


「おい!貴様は何処の誰だ?俺からすればお前みたいなのが冒険者を名乗ってる方が迷惑だ!」

「あ?てめぇは関係ねぇだろ。まぁいい…俺はEランク冒険者のギエロだ。すぐにAランクまで上ってやるから覚えておきな!」

「トールは俺の恩人だ。無関係な訳が無いだろう。俺はDランク冒険者、宵の明光のカインだ。トールに文句があるなら先に俺に言え!」


 カインとギエロが睨み合っている…。この状況…どうすれば良いんだ…。


「クエストボードの前で揉めているのはあなた達ですか…。そこで揉めていると他の人に大迷惑です。外に行ってやってください!」

「あ、エルマちゃん…。いや、こいつらがね?」

「ギエロさん、これ以上続けるなら、罰則対象として上に報告しますよ?」

「く…。お前ら、今日はエルマちゃんに免じて許してやる。じゃあな」


 なんだか面倒臭いのに絡まれてしまったなぁ…。


「カイン、エルマさん。助けれくれてありがとう!」

「あぁ、いや、当然のことだ」

「むしろ、あんな無法を許してしまって申し訳ありません…」


「それにしても…なんで僕は絡まれやすいんだろう?」

「んー…言いたくはないが…風格とかか?」

「そうか…それは一朝一夕ではどうにもならないね…」

「とりあえず、クエストに行こうか…」


 そして、僕とカインは受注窓口に並んだ。エルマさんが『対応しますよ』って言ってくれたんだけど、周りからの印象が悪そうだし、普通の流れを経験しておきたかったので、今回は辞退させてもらいました。


 まぁ昼過ぎでそんなに混んでないので、僕達の番はすぐに来た。僕は受付嬢にチケットを2枚渡す。


「スズネ草とルルーフ花の根の採取ですね。ギルドカードの提示をお願いします」

「はい。お願いします」

「ありがとうございます。はい、問題ありません。これで受注登録は完了になります。気を付けて行ってらっしゃいませ」


 僕はギルドカードを受け取ると、列から離れてカインに話しかける。


「そう言えば、この採取対象の事を何も知らないんだけど…どうやったら調べられるのかな?」

「あー、本当はギルドの図書室とかで本を調べるのが普通かな?まぁ今日の所は俺が教えるよ」

「おぉ!ありがとう!じゃあさっそく行こうか」


 それから僕達は、町から出て魔物の森の入り口に来ていた。門を出るのは簡単で、ギルドカードを見せながら普通に歩いて出る事ができた。冒険者が多い町だから、そこら辺は上手くやっているみたいだ。

 森の入り口には、結構子供が多かった。


「それじゃあ…まずは対象を知る所からだな。ひとまず1本ずつ見つけよう」


 そしてカインは、地面を探しながら歩いている。木陰とかの日の当たりが弱い所を探してるっぽいな。


「っと、これだな。トール、来てくれ。これがスズネ草だ」


 スズネ草は、日本で言う所のペンペン草に似た感じだった。


「これは下級ポーションの材料になるんだ。採取する時のポイントだが、根から抜かずに、茎の途中を綺麗に切ってくれ」

「ふむふむ…ちなみにそれは何で?」

「スズネ草は、根が生きていれば茎の途中からでも再生してくる。また1か月もすれば採取可能になるんだ」

「なるほどね。刹那的じゃなくて、ちゃんと未来も考えて採取する事が大事なんだね」

「まぁそういう事だ。次にルルーフ花だな」


 カインは次にルルーフ花を探し始めた。今度は日の当たる草原の中を探している。さっきよりもずいぶんと時間がかかってるな…。


「えーっと…あった。これだ」


 カインの視線の先を見てみると、赤い花があった。ポピーみたいな感じかな。


「この花の根が中級ポーションの材料になる。スズネ草よりも少ないし、根ごと回収しなければならないので、こっちはなかなか見つからない」


 ふむふむ…なるほどね…。


「慣れないと大変だと思うが…まずはやってみるか?」

「うん。僕はこういうの得意だから行けると思うよ」


 現物が確認できたから、大丈夫かな。

 そして僕は、得意と言っておきながら、開幕からズルをする。


 半径50メートルくらいで、スズネ草とルルーフ花を対象に探知魔法を行う。そして、認知した物に対して念のため魔眼を使う。

 うん。スズネ草とルルーフ花だね。


 僕はテクテク歩きながら、近い所からスズネ草とルルーフ花を回収していった。


「ト…トール…?ちょっと待て!なんでそんなに簡単に見つかるんだ?」

「あー、だからこういうの得意なんだよ」

「いや…得意にも程があるだろ…」


 そう言えば、回収しすぎるのはマズイね…。他の人が回収する分が無くなっちゃう。


「カイン。スズネ草とルルーフ花はわかったよ。ありがとう。他に知っておいた方が良い事とかあるかな?」

「そうだな。この木に出来る実には殺菌作用があってな…」


 今日の所は、量を取るよりもカインに色々教えてもらう事にした。この後もカインから色々な薬草雑学を聞いて、夕方前には町への帰路に着きました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 冒険者ギルドに戻ると、依頼達成窓口にエルマさんがいたので、そこに並ぶ事にした。


「カイン、トールさん、お帰りなさい!」

「ただいまです。えっと、薬草採取の達成報告になります」


 そして僕は、今日取った分のスズネ草4束とルルーフ花3株をテーブルに置いた。


「ありがとうございます!確認しますので、少々お待ちください」


 エルマさんが納品物の確認を始める。1束の本数や、品質なんかを確認してるみたいだ。


「お待たせ致しました。本数、品質共に問題ありませんでした。では、スズネ草が1束銅貨5枚、ルルーフ花が1株銀貨1枚で、合わせて銀貨5枚となりますが宜しいでしょうか?」


「はい。問題ありません。宜しくお願いします」

「お支払い方法に関しましては、現金と口座のどちらが宜しいですか?」


 ……ん?口座?


「えっと…僕は口座って持ってないんですけど…」

「あ、ご存知なかったのですね。すいません。ギルドカードを作ると、そのカード毎に口座も作成されます。ですので、トール様の口座はありますよ」


 おっと…ギルドカードはキャッシュカードも兼ねてるのか…。思いの他、重要なカードだった…。


「そうだったんですね…。じゃあ落としたり盗まれたりした場合って、口座のお金ってどうなるんですか?」

「本人証明手続きが必要なので、誰かに取られるという可能性は低いかと思います」

「それだと、日常で使いづらくないですか?」

「顔見知りのギルド職員であれば、簡易手続きとして本人証明が不要になります」


 なるほど…現代日本よりは不便だけど、それは比較するのが間違いか…。便利に引き出せる事よりも、安全を確保する事がこの世界では求められているんだね。


「また、詐欺行為による本人証明不備や職員の不正など、ギルド側の不手際によって負債が出た場合は、ギルドが補償する事になっております」


 本人証明不備って、偽装スキルとかを見破れなくて本人だと誤判断しちゃったとか、そういう事っぽいね…。


「なるほど。じゃあ口座に入れておいて貰えますか?」

「承知致しました。それでは以上で手続きは終了となります」

「ありがとうございました」


 僕は達成報告を終えてカウンターから離れた。ちなみに、提出したのは僕が回収した分で、カインが回収したのはカインが持っている。

 そのカインが話かけてきた


「トールなら俺よりは薬草採取で稼げそうだけど…それでもやっぱり少なくないか?ランク上げて魔物倒した方が良いと思うんだが…」

「心配してくれてありがとう。でもちょっとは蓄えあるから、しばらくは大丈夫だよ。もうちょっと経験してみてから考えたいと思う」

「そうか…了解だ。それじゃ、また何かあったら遠慮せずに声かけてくれ。またな!」

「うん。今日はありがとう。助かったよ」


 そして僕はカインと分かれた。

 僕は昨日とは別の宿に宿泊する予定です。酒場と一体になっている宿屋は落ち着かないのだ…。


 それから程なくして、僕は落ち着いた宿屋を発見した。素泊まり料金が銀貨5枚、僕の食事を付けると更に銀貨1枚、厩舎利用料は餌代込みで銀貨1枚。


 今日の収入で考えると赤字なので、カインが心配してくれるのもわかる。まぁ、稼ごうと思えば稼げるし、そんなに気にしないで行こう。


 1週間連泊すると1割引き、1か月連泊すると2割引きだったので、僕は1か月で契約する事にした。金貨1枚と銀貨68枚。日本換算で16万8千円くらいだね。


 日本に比べたら安い気もするけど、家を借りるのも考えておこう。そして、僕はご飯を食べたら早々にベットの中へと入っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「さて、今日も頑張って行きますか!」


 僕とリルは魔物の森の入り口にいた。早朝から起きて、また薬草採取クエストを受けてきたのだ。

 そして、早朝すぎて僕の他には人影がない…。


「入口で採取すると、他の人の分がなくなって困る事になるし……奥へ行こう」


 僕は森の奥へと入っていった。中心近くまで来ると、良い感じの広場があったので、探索魔法を使ってみる。


「うん。いっぱいあるね。じゃあ数日分回収しておこう」


 僕は30分くらいで大量のスズネ草とルルーフ花を回収していた。たぶん、スズネ草は200束、ルルーフ花は100株くらいある。

 アイテムボックスは、とっくに時間停止が可能なので、腐らせる心配はない。


「よし!これでやっと本当の目的ができる!」


 僕の本当の目的は、魔法スキルアップを兼ねて森の魔物と戦ってみる事だった。と言うのも、水、時空、無の属性ばかり使っているので、他の属性が成長しなくなっていたのだ。

 しかし、好き勝手に戦いまくって色々と目立つのは避けたい…。そこで、薬草採取をしている事にして、その時間で修行をしようと考えていた。

 つまり、薬草採取はアリバイ工作だった。


 僕は土属性と風属性で空を飛ぶ。魔物の森のこんなに奥には、そうそう人はやって来ない。見られる可能性は低いと思う。


「お、ゴブリンの集団を発見!」


 そして、聖属性の結界で僕はゴブリンを覆う(・・・・・・・)。前にも言ったが…聖属性が上げ辛いんだ…。怪我しないし、怪我しても自己再生するし…。


 ギッ!ギギッ!


 ゴブリンは結界に閉じ込められる形となり、外に出ようと暴れている。


「悪いけど、逃がさないよ」


 僕は結界の中で火魔法を発動させた。結界の中が灼熱に包まれる。そして炎が収まった後、そこにゴブリンの姿は無く、地面に小さな魔石が落ちているだけだった。


「回収したい素材は無いし、討伐報酬を貰うつもりも無いから討伐証明部位も不要だし…ゴブリンは焼き尽くさせてもらうよ」


 こうして、発見したゴブリン種は全て燃やす事になった。


「それにしても、何でこんな奥にゴブリンがいるんだろう?他の魔物の餌になりそうだけど…」


 何故か大量にいるゴブリン種は、大半がFランクからCランクだった。この辺の他の魔物はBランクが多いので、ゴブリンが増殖できる場所ではない。


「あ、ミノタウロス発見!」


 ピュン…………。


 僕は空から、光魔法でミノタウロスを真っ二つにした。これで、置いてけぼりになっている5属性を全て使う事になる。


「あ、ワイバーンだ!」


 ピュン…………。


 よし。夕方までこれを続けよう。


…………。

………。

……。


「ただいまです。これが今日の採取した薬草になります」


 僕は夕方になってリッケルトへと帰って来ていた。カウンターテーブルの上には、スズネ草20束とルルーフ花10株が置かれている。


「はい。問題ありません。全部合わせて銀貨20枚になります」

「了解です。口座に入れておいてください」

「承知致しました。それにしても…1日でこんなに集めるなんて凄いですね」

「ははは。1日中頑張ってましたから」

「そうなんですね。お疲れ様です」

「ありがとうございます!それでは…」


 これで1日中薬草採取をしていたと誤解してくれるはず!しばらくはこれを続ける感じかな…。

 明日も早いし、今日はご飯食べたら早く寝よう。


 あ、でも…全然構ってあげられなくて拗ねてる狼さんがいるので、ちょっと遊んでから寝る事にしよう!

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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